「日本の課題2014」カテゴリーアーカイブ

お産を控えた女性はダイエットに注意せよ!(福岡秀興早稲田大教授)

東京で定期的に集まっている高校同期の会が2日にあった。20名近く集まったが、今回は本を出版した友人が姫路から本のアピールに参加したり、いつもは忙しくて出られなかった福岡秀興君(東大医学博士、現在早稲田大学総合研究機構研究院教授、産婦人科学・分子生物学・分子栄養学)が出席してくれたりで、賑やかな会になった。同級生も福岡君には病気の時のアドバイスや医者の紹介などで何人かが救われたこともあり、ほんとに頭の下がる男として評判だ。彼とはほんとに久しぶりに会ったが、日本の将来を憂い、全国駆け廻って訴え続けていることがあると言う。今叫ばれている少子化問題以上に深刻な問題だそうだ。

低出生体重児(出生体重が2,500g未満の赤ちゃん)は、将来、高血圧、冠動脈疾患、2型糖尿病、脳梗塞、脂質異常症、血液凝固能の亢進、神経発達異常などの生活習慣病といわれている病気になる可能性が高い。そして、低出生体重児の比率が、OECD加盟国では日本はトップで、今ではほぼ10人に一人(9.6%:2012)が該当すると言われている。この数値は日本で生活習慣病が、今後著しく増加する事を予想させるものである。

英国サウザンプトン大学医学部の故デイヴィッド・バーカー教授は、約30年も前から「成人病胎児期(発症)起源説」を唱え、「胎内で成人病は始まっている ~母親の正しい食生活が子どもを未来の病気から守る」(デイヴィッド・バーカー著 福岡 秀興 監修・解説)が日本では出版されている。ちょっと過激なタイトルですが、著者が私たちに訴えようとしているのは、副題にある「母親の正しい食生活が子どもを未来の病気から守る」という点。胎児期子宮内で栄養不足が原因で小さく生まれた赤ちゃんは、少ない栄養でも生きぬいていける代謝系を持って生まれる。しかし、栄養豊富な現代生活の中ではその代謝系では適応出来なくなる (ミスマッチ)。その結果成人病のリスクがより高くなる、という考え方である(「成人病胎児期(発症)起源説」(バーカー説))。世界的には莫大な疫学調査が行われており、現在それを否定する報告はない事や、膨大な動物実験が重ねられてその分子機序が明らかとなってきており、かなりの説得力のある説であると、福岡君は言う。ヒトでも分子のレベルでそれが実証されつつある、との事である。日本では妊娠適齢期の女性の多くが、10代からのダイエットを経験しており、やせた状態で妊娠したり、巷では「小さく産んで大きく育てるのが良い」と言われていたり、妊娠中も体重増加の制限が一部では行なわれている現状を考えると、この本の内容はかなり衝撃的。しかし、そこで改めて気づくのは、妊娠する前でも、妊娠中でも、大切なのは「バランスのとれた必要で十分な食事」を常に心がける事の重要さである。この当たり前のことを軽視してきたために、生まれてくる赤ちゃんの将来にまで暗い影を落とすとしたら? 私たちの生活の基本である「食」について、改めて考え直さなければならない。実際若い女性の食事内容は多くが目を覆うばかりに劣悪であると報告されている。

今の状況で推移すると、日本はやがて成人病大国へと移行してしまう。との想いから、福岡君は、全国各地で、学会の特別講演や一般の方々を対象とした講演を通じて、このままでは日本民族の劣化へとつながっていくのではないかとする警鐘や、この新しいテーマの研究の重要性を訴え続けている。しかし、他国では対策に取り組んでいる問題でもあり、日本でも早急に「小さく産んで大きく育てる」事が良いのだとする考え方を改め、栄養の重要性を女性のみならず社会全体で共有して行かねばならない。その為には、低体重児の多く誕生する現状とその原因を正確に捉える研究・調査が必要と主張する。またその実現に向けては、政治家にことの重要性を認識してもらい、政治主導で早急に調査体制を築くことも行われることが先決だろう。JST(科学技術振興財団)からは今春その政策提言がなされたとの事である。着実に機運は広まり、福岡君と共に活動する仲間は増えているそうだ。(福岡君に関するインターネット記事,Babycom「胎内で将来の病気の原因が作られる」(http://www.babycom.gr.jp/kitchen/kodomo/kodomo1-1.html)などで補完した)

ほんとに経済成長至上主義でいいのだろうか?

バズーカ砲と言われる金融緩和で、株高・円安が続いている。一方で、生活実感として「生活が楽になった」人は少数派である。あまねく地方まで、経済成長実感を普及させるために「地方創生」を政府は最重要テーマとして進めている。2050年には世界人口は現在70億人が90億人を超えるとの予想も出ている。日本でも少子化問題が経済成長のネックとなるとして1億人を是が非でもキープするための施策が議論になっている。一方で、地球温暖化、食糧危機で、将来的な地球の崩壊を警告する報告書が出されている。

アメリカでは、1981年レーガン大統領のレーガノミクス政策により、豊かな中流層が中核になっていた社会が、その後30年間で富裕層との格差拡大で消滅し、医療や福祉の後退を招くことになった(2005年の調査で上位1%の富裕層が国の総所得の17%以上を受け取っていたとのデータがある)。日本でも小泉政権時代の構造改革、規制緩和策で格差が拡大、そして今、安倍政権のアベノミクスでさらなる格差拡大が問題視されている。まさに株高、円安は大企業、富裕層にとっては恵まれた環境になっているが、中小企業や、大半の国民はその恩恵にあずかれていない実態がある。アベノミクスによる第一の矢「金融緩和」のみに頼らざるを得ないことの限界でもあるが、本来の「需要喚起→企業成長→賃金上昇→需要増」という好循環を生むための「第3の矢」が中々でてこないため、国民の大半の生活が楽になるどころか苦しくなっている。

以前紹介した「里山資本主義」の中で、藻谷浩介氏は『日本の食料自給率は39%、食料さえも諸外国に依存し、お金が無ければ生きていけない。戦争はエネルギー問題が発火点になることが多い(第二次世界大戦もそうだった)が、これからは食料問題も引き金になる恐れが出てくる。“経済成長”のみを追っかけることの怖さ、不安定さを考えれば、安全保障の前にやるべきことがあるのではとの提案が「里山資本主義」だと言える。安全保障環境が厳しくなるにつれ「食料も資源も自給できない国の繁栄など、しょせんは砂上の楼閣ではないか」との不安がますます募るhttp://okinaka.jasipa.jp/archives/560』と言う。

経済学者で、小渕、細川、小泉政権で経済諮問会議などを通じて施策の片棒を担いだことを反省し「資本主義はなぜ自壊したか」(2008.11集英社)を著した中谷巌氏。その中で、現下の格差社会をもたらしたことなどを「懺悔」している。『一時日本を風靡した「改革なくして成長なし」は、一部成果もあったが、この20年間における貧困率の急激な上昇は日本社会に大きなひずみをもたらした救急難民や異常犯罪の増加もその「負の効果」に入るかもしれない「改革」は必要だが、その改革は人間を幸せにできなければ意味がない』と言っている。さらに『利潤追求を至上命題とするグローバル資本主義においては、子孫のために自然環境を守り、資源を節約しようといった話は所詮副次的なテーマにすぎない。グローバル資本主義は地球環境問題について責任を負わないばかりか、むしろ、環境破壊を加速する側に加担しているのだ』とも言っている。

福島第一原発の事故の総括もせず、原発の輸出に血道を上げる、財界の意見に押されて地球温暖化ガス削減目標の策定にしり込みする、世界で最もひどい国の財政状況を、将来世代のために改善せねばとの強い意思が見られない、などなど、すべて経済成長を最優先する考え方に基づくものだ。IPCCの報告にもあるように、「地球温暖化を抑制する施策は地球崩壊を防ぐためにまったなしの状況」だ。「足るを知る」豊かで幸せな社会もあるのではないだろうか?消費をあおって地球資源の枯渇を招くことがいいのだろうか?

消費税増税問題が引き金の「衆院総選挙」が急浮上してきた。「なぜいま」とも思うが、なかなかいい選択肢がない中、投票先に思案してしまうが、「1強多弱」の世界を何とかして、国民の声が反映されるような政治にしないと将来が心配になるのではとも考えてしまう。

日本はマーケティング後進国?

今朝の朝日新聞5面「波聞風問」に編集委員の加賀谷克彦氏が「マーケティング後進国~日本企業、より顧客目線で~」とのタイトルで記事を掲載されている。先週都内で開かれたマーケティングの世界大会で、マーケティングの権威である、米ノースウェスタン大学のフィリップ・コトラー教授による日本企業批評の厳しさを伝え、警告を発している。

「日本の企業は、消費者ニーズより自らの技術を重視しているようだ」とか「何かにとりつかれてように、いつも製品の改良に追われている。そこからイノベーションは生まれない」とのコトラー氏の発言だ。

大会のテーマは「21世紀型マーケティング」だったが、「日本はマーケティング後進国なのか?」という話題がたびたびなされたとの事だ。コトラー氏の定義は

企業の業績向上と顧客の満足の創造によって、人びとの生活の改善を目指す学問

と間口は広く、奥行きもある。日本では多くの企業が広告・宣伝・販売促進などの業務を言っているが、それでは十分ではない。専門家は

「日本の技術は優秀だ。だから1990年くらいまでは高機能、高性能だけで売れた。マーケティングは軽視され、その成功体験から抜け出せていない」「もう機能や性能だけで差別化するのは難しい。顧客が何を望んでいるかを踏まえ、新しい生活様式、感動も提案しなければいけない。でも顧客視点が欠けていたから出来なかった。」

と分析する。

大会では、顧客目線の成果例として、P&Gの紙おむつ「パンパース」とネスレ日本の「コーヒーマシンの企業への無償貸与」を挙げている。「パンパース」は最初「高い吸水性」を強調する宣伝を売ったが効果なく、そこで親のニーズを探った結果、「紙おむつをつけると赤ちゃんの眠りが深くなり、夜泣きが減る」と宣伝すると売り上げが増えた。ネスレ日本は、無償提供によってコーヒーを定期的に購入してもらうビジネスで成果を挙げた。マシン周りでのコミュニケーションの拡がり効果も評価を得たそうで、オフィス環境の変化を読み取ったマーケティングの成果と言う。

記事の最後に、一橋大学の神岡太郎教授の言葉を紹介している。

日本企業は、まず経営陣から、そして全社的に顧客ニーズを重く見る方向性を確認すべきだ」

前回、前々回に紹介した「コンシャスカンパニー」の一つ、ドッグフードのぺディグリーの事例も参考になる。最初は「水分を含んだ食品を缶に詰め、乾いた食品をバッグに入れて利益を出していただけ」のぺディグリーは世界でトップクラスのドッグフード企業だったが2004年頃業績は急降下、倒産も視野に入る位低迷していた。そこで自己分析を行い、自社の存在目的を見直した。2005年に「犬を愛する、犬のために存在する会社」と宣言し、犬や犬の幸福をすべての活動の中心に置いた。その後、強力なブランド力と安定した業績はもちろん、社員のモラルと愛社精神も大いに盛り上がり2009年には史上最高の利益を計上した。同社の犬に対する愛情の深さを犬の愛好家が認めた結果と言う。これも顧客視点の考え方で、自社の存在目的を見直した成果と言える。会社も社員も、今一度自らを見つめ直し、「顧客視点」の真の意味を見つけ出してほしい。