2月23日の日経朝刊17面コラム「一目均衡」に「“ソーシャル”が不要になる日」のタイトルの記事が目に留まった。1月にインドで株式上場したナラヤナ・ヘルス病院グループのビジネスモデルがハーバード大の教材になっていることが書かれていた。「新興国の社会的、経済的な問題を起業家の発想で解決する」と言うのがその教材のテーマだ。当該病院はマザーテレサの主治医でもあったデビ・シェティ氏が2000年に設立し、業務の効率化により米国の3%強の料金で心臓手術をし、貧しい人にも健康になる機会をもたらしたそうだ。しかもシェティ氏は慈善家ではなく、あくまで経営者だと言う。「世界で最も深刻な問題は最大のビジネスの機会にもなる」とのプレートが執務室には飾られている。この事例を受けて、ウォール街に大量の人材を送り込んだハーバード大では、リーマンショックの反省を込めて、社会を敵に回す経営が如何にもろく、逆に社会への貢献にこそ収益の機会があることを教えていると言う。日本には近江商人の「三方よし」の理念や、渋沢栄一の「公益に心を用いんことを要とす」の心得など、社会との共存をよしとする風土があり、米国の新しい資本主義のお手本に日本企業が成る可能性を説いている。このコラム子(編集委員梶原誠氏)は、企業は社会に役立って当然となって、「ソーシャルビジネス」と言う言葉が陳腐化した時、新たな資本主義の形がより鮮明になるとし、期待感を表明している。
時同じくして、「ハーバードで一番人気の国・日本」と言う本がPHP新書として出版された(2016.1.29刊)。著者は佐藤智恵氏で以前当ブログでも紹介したが、「世界のエリートの失敗力」と言う本を出版された方だ(https://jasipa.jp/okinaka/archives/555)。今回は、上記ハーバード大学経営大学院の教授陣を直撃取材した結果、学生が2年間で学ぶ事例研修(議論形式)250本の中で日本の教材に対する学生の評価が高いと言う。上記コラムと同じく、2000年代前半の金融不祥事、2008年のリーマンショックを経て、欧米の金銭至上主義に対する反省から、日本に学ぶことの多さが見直されていると言う。年1回の研修旅行も、定員100名の日本への旅行がわずか数分で埋まってしまうほどの人気だそうだ。必修科目の事例ではトヨタ、楽天(社内英語公用語化)、ANA,ホンダ、JAL,アベノミクス。選択科目では、明治維新と岩崎弥太郎、トルーマン大統領の原爆投下といった歴史的な事例から、日本のIT企業であるグリーのアメリカ進出、「新幹線お掃除劇場」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/315)などの最新事例まで幅広く取り入れられている。日本でもあまり知られていない東日本大震災時の福島第二原子力発電所の事例も注目を浴びている。福島第二原発も、一つ間違えればメルトダウンを起こす恐れがあった中、増田所長と作業員のチームワークで、「冷やす」ための電源を喪失し、それをカバーするために200人総出で2日間不眠不休で重さ1トン(200m)のケーブルを9km引き直して辛うじてメルトダウンを回避できた。増田所長のリーダーシップ(混沌とした中での情報共有)を褒めたたえ、これを受講した学生は、社会に出て危機に遭遇した場合この事例を思い起こすことになるだろうと言う。
日本人が気付いていない日本の強みをハーバード大学の教授に聞くと、答えは下記だ。
- インフラ技術:電車の時間の正確さ、電車、バス、タクシーなどの新しさ、メンテナンスの行き届いた橋などのインフラ設備
- 人的資本:高い教育水準、分析的な特性、美意識・美的センス、人を大切にするマインドと改善の精神、環境意識と自然観、社会意識
しかし、日本が「快適な国」でありすぎるジレンマを指摘する教授もいる。グローバル化、イノベーションの創出、若者と女性の活用の3点で課題があると言い、「世界の人は日本をもっと知りたいと思っている。内向き志向を変え、もっと海外に出かけて日本の良さを拡げてほしい」と日本企業の熱烈なファンとして、熱いメッセージを送る。
日本人の良さが「グローバル化」の名のもと失われつつあるとの懸念を持つ方も多いと思われるが、世界は日本の良さを認め、それを見習いたいと思っているのだ。以前紹介した「コンシャスカンパニー」(https://jasipa.jp/okinaka/archives/1718)化の流れは、米国のこれまでの金銭至上主義からの脱皮の動きだ。折しも、美瑛の「哲学の木」が切り倒されたとの悲しいニュースがあった。日本の誇るべき特質を大事にしたいものだ。