「組織・風土改革2015」カテゴリーアーカイブ

業績=顧客支持率!?

なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか?」(武田哲男著、PHP研究所刊、2015.8)を読んだ。著者武田氏は、1969年の東京オリンピック以降、海外から注目された「サービス」「日本流おもてなし」の課題に直面し、以来、顧客満足の研究と共にライフワークとされてきた方だ。今でもサービス・CS分野のパイオニアとして、企業規模・業種・業態を問わず多くの企業活動に幅広く参画されているそうだ。

コスト競争→業績悪化→コストカット→品質劣化→顧客クレーム→ブランド失墜→さらなる業績悪化の負のスパイラルに陥る企業が増えている。表面上(企業理念など)は、「顧客第一」と謳っていても、顧客に向かい合うことなく、内向きのコストダウン(東南アジアの労働者依存など)や効率化を行い、苦しんでいる。

武田氏は、本当の意味の“成果主義”においては、売上・利益が低迷ないしは下降線をたどっている原因を「お客さまのご満足が得られない経営、商品・サービス」と捉え、「どのようにお客様の満足に到達するか」について反省し、議論し、新たな施策を講じることと言う。これが役員会をはじめとする各部門・部署の考え方、取り組み方、進め方でなければならない。大切なことは「業績=顧客の支持率」であり、どれだけの顧客に満足して頂けるか、それがどれほどの数字に結びつくかといった取り組みこそ、良い成果主義の姿と主張される。さらに「顧客に支持される優れた戦略は、現場力を高め、顧客の指示を得ること(派遣社員も含めて)」、トップの戦略だけでは上手くいかず、現場力こそが顧客第一、顧客中心、顧客重点、顧客本位主義を具現化する機能であり、役割であり、本質だとも。本当に顧客を大切にしているか、トップを、筆頭に組織を挙げて心からそういった気持ちで取り組んでいるかどうかが重要。その際、「日本流のおもてなし文化」は武器となる。日本に世界で一番老舗が多く存在するのは、全企業の99.7%を占める中小企業に「顧客の為によい仕事をする」「社会に貢献する」と言う考え方を持ち、「おもてなし文化」を徹底している経営者が多いことに起因していると思える。武田氏は、企業支援の際、一般的な「顧客満足度調査」ではなく、「不満足度調査」を行うと言う。満足度調査ではほとんどの企業が80点なのに、それで満足してしまう企業は衰退の道を歩むことが多い。「不満足度調査」の目的は、顧客の意識下に潜んでいる潜在ニーズを知るために顧客の不満、困っていることを知ること

上記本には、ANA,TOTO,帝国ホテルなどに加えて、新聞販売店やクリーニング店など小規模店も含めて23の事例が紹介されている。随時紹介していきたいと思っている。11月にあるIT企業の役員にご馳走になった。10数年あまり成長出来なかったのに、今年急激に成長し、株価、配当も大幅にUPした。これまで赤字案件乱発で業績が思わしくない時期が続いていた事業部が、今は最大の業績を上げるようになったという。その主因は、良いお客さまからの信頼を得ることを重点的に推進し、リピート客として仕事が急増していることだそうだ。リピート客だから、人間関係も築け、赤字案件は皆無になったと言う。武田氏の言う「業績=顧客支持率」を各企業はもっと真剣に考えるべきと強く思う。

11人の会社を6000人の一流企業に成長させたその秘訣とは?

その企業は、日立キャピタル。その立役者は、花房正義氏。「致知2015.9」に「誠こそすべての礎」と題した花房氏とTACT高井法博会計事務所代表社員高井法博氏との対談記事があり、その中で80歳になられる今でも「花房塾」と称し、各企業での講演などで全国を飛び回っておられる。岡山出身の花房氏の人生は、期待された跡継ぎを放棄して、画家を目指して東京に出てきたのがスタートだ。しかし、東京では美術学校にも入れず、仕方なく東京経済大学に入学。そこで出合った、経営学の大家「山城章先生」によって花房氏の人生は大きく開くことになった(山城先生は今は故人だが、今でも名だたる企業が参画している「経営道フォーラム」などを実施している「山城経営研究所」の発起人として花房氏は活躍された)。

大学卒業と同時に、創立間のない「日立家庭電気販売」に入社、月賦販売が始まり作られた「月賦販売」に異動、社員は社長含めて11人だった。その会社が「日立クレジット」になり、さらに「日立キャピタル」になった。その会社を牽引し、好業績で日立に貢献してきたことで、後日日立本体の取締役にも抜擢されている。

山城先生の教えに基づき、いろんな施策を実施してこられた。理念の明確化とその理念の実践のための行動指針策定、そして「人を愛して人を活かしていく企業」を目指すことなどだ。日立キャピタルで掲げた企業理念は「健全経営・人間尊重・社会責任」。行動指針で実体経済に基づいたクレジットビジネスに徹するなどを掲げ、サラ金など目先の利益を追求する単なる金融はやらず、徹底したサービスに特化することで、債権内容が高く評価されダブルAの格付けをもらったそうだ。

花房氏の人を大切にする経営に興味を持った。「人を育てる楽しみをもっと意識せよ」と経営者によく言われるとの事だが、人を育てるにはまず、基本をしっかり根付かせることが大事で、その上で自由に働いてもらうことが大事と花房氏は言う。「自由・自己責任・自助努力」の3つの言葉を言い続け、決められたことや、上から言われたことだけをやると言うのではなく、自分自身で考えて行動すべしと言うことを徹底された。さらに、リーダーの条件として「改革者・人間愛・自己規律」を挙げられる。

成長する企業と言うのは、煎じ詰めると、社員もお客さまもすべて、人を愛し、人を活かす企業だと思うんです」との花房氏の言葉は、11人の会社を6000人の一流企業に育て上げ、日立本体からもその業績を高く評価された人の言葉として、大きな重みをもって強い共感を覚える。

「革新生むアドビの赤い箱」(日経)

今朝の日経朝刊6面の「GLOBAL EYE」の記事に目が止まった。その冒頭に

組織としてイノベーションを生み出す力をいかに高めるかは、世界中の企業が直面する共通課題の一つだ。

とあり、米ソフト大手のアドビシステムズのユニークな取り組みを紹介している。「アイデアが浮かんだら引っ張りだすこと」と書かれた赤い箱が「キックボックス社内プロジェクト」に参加した人に配られる。箱の中には、アイデアを煮詰める6つのステップが書かれた手引きとチョコレート、スターバックスのギフトカード、そして1000ドル分のプリベイドクレジットカードが入っている。1000ドルの使い道は自由。報告や精算の義務なし。社員であれば誰でも参加可能。

箱を受け取った社員は、まず外に出て自分のアイデアや仮説を検証する。ある人はウェブサイトを開設し、ある人は友人や知人にインタビューして潜在需要を探る。裏付けデータが集まれば経営幹部に説明し、一人でも支持が得られれば次のステップに行ける。これまで1000個の赤い箱が社員の手に渡り、3個のアイデアが製品化されたと言う。

生みの親の副社長は「我々の最大の資産は1万2000人の社員。その眠れる創造力を引き出すために、アイデアとやる気のある社員全てにチャンスを与えた」と言う。そして、1000個に3個と効率が悪いように見えるが、専門の部署で多額の投資をしても成功か確約されているわけではない。それよりも失敗を恐れず、何度でも挑戦できる風土を創ることの方が重要と。キックボックスの成果を人事評価に一切反映しない点にもその本気度が出ている。

このキックボックスプログラムは、今春から外部に無償で提供されているらしい。誰でも自由に改良を加えながら使えると言う。既に数千件がダウンロードされ、世界中から問い合わせも多数来ているそうだ。「イノベーター」を育てるアドビの試みは変革を目指す日本の企業にとっても示唆に富んでいる、と記事を締めている。

我々も、持続的なイノベーション風土創りにもっと気を遣いたい。