「経営改革4」カテゴリーアーカイブ

“VUCA”の時代に「LFP経営」を!

VUCA(ぶか)”とか「LFP経営」、初めて聞く言葉だったが、今日の時代に生き残るためには必要な考え方ではないかと興味を持った。先の読めない時代を勝ち取るための、桁違いに素早く、変化に柔軟な経営を言っている。これからの時代、JASIPAのような動きやすい中小企業こそが、やりかた次第で活躍できる時代かもしれない。以下で「LFP~企業が“並はずれた敏捷性”を手に入れる10の原則~」(シャレドア・ブエ/遠藤功共著、PHP研究所、2015.11刊)の本からLFP経営に関する要点を説明する。

欧米の経営者で話題となっている“VUCA”と言う言葉は、下記の頭文字からとったもの。

Volatility(不安定性),Complexity(複雑性)、Uncertainty(不確実性)、Ambiguity(曖昧模糊)

これまでも大きな環境変化はあったが、その影響は一時的、単発的であり、やがて新たな安定へと落ち着いていった。が今の状況は、経済もグローバル化が進み「安定が期待できない」、常にさまざまな変化に晒され不安定が常態化している、この状態を“VUCA”と呼んでいる。そして”VUCA”と言う環境に勝ち残るための経営コンセプトが「LFP(Light Footprint)」で、「足跡が残らないほど素早く身軽な経営」と言う意味だそうだ。VUCAに適応するためには「並はずれた敏捷性、柔軟性、創造性」、この3つの「組織能力」を手に入れねばならないと説く。LFP経営を当たり前として本能的に備えている企業としてグーグルやスマートフォンアプリを通じてタクシーやハイヤーを配車するサービスを手掛けるITベンチャーウーバーーテクノロジーズを挙げる。「まずはやってみる」が彼らの基本スタンスとした上で、LFP経営の4つの特長を挙げている。

中央集権と自律分散の両立:乱気流の経営では変化にさらされている現場が自ら状況を読み解き、迅速に行動することが必要。「大きな意思決定」以外は現場に権限を委譲し任せるべき。

協働共創;、目まぐるしく変化する乱気流の時代には、自前主義にこだわらず、異なる経営資源、能力を持つパートナーと連携し、迅速かつ効果的に対応する取り組みが求められる。尾^分。イノベーションのためには異業種連携も重要。

相互信頼:現場に権限委譲するにも、パートナーとの連携による迅速な対応にも、相互信頼が基本となる。

隠密潜行:並はずれた敏捷性、柔軟性、創造性を効果的に行うためには、「相手に気付かれない」ことも大切。競争相手が油断している時の攻撃こそ、効果大。

“VUCA”の時代に、どう向き合うか?大鑑巨砲では動きが取れないことも明白だ。これからの時代、JASIPAに集う中小IT企業の出番かも知れない。機動性はある。社長の一存で方向性は決まり、意思決定は早い。時代に応じた技術を素早く身に付け、それぞれの強みを持つ企業同志が、お客の要請に応じて柔軟に、機敏に連携して、お互いの資源を活用しあう。”相互信頼“に基づく”協働共創“、JASIPAの会員企業のこれからの生きる道が見えてくるのではなかろうか。

お客様の心をつかむ(「PHP松下幸之助塾」特集記事)

雑誌「PHP松下幸之助塾2015.11-12月号」の特集テーマが「お客様の心をつかむ」だ。そして、このテーマで登場されるのが下記4氏だ。

  • “携わる人々の「気」を集め感動を生み出す~日本初のクルーズトレーン「ななつ星in九州」がもたらした奇跡”(JR九州会長 唐池恒二氏)
  • “地域密着型の徹底が着実な成長に~半世紀を超えて地元住民に愛されるスーパー”平和堂社長夏原平和氏)
  • “商売とは長く愛され続けること~小さな電器店の脱「安売り」経営”(でんかの山口社長山口勉氏)
  • “「感動分岐点」が人と業績を動かす”(浜松フラワーパーク理事長塚本こなみ氏)

この方がたすべて、私が過去に感動し当ブログで紹介した方々だったので、驚くと同時に喜びを感じた。

タイトルにある「気」とは、“ななつ星”のすみずみまで染み込んでいるもので、そのエネルギーが感動に変換され見る人の心を揺さぶるものだと唐池氏は言う。その気を染み込ませるために、この車両つくりに関わった数千人の社員や職員さんが「お客様を喜ばせるためにやるんだ」という気持ちを込め、想像以上の手間をかけて作り上げたものだ。例えば、乗り込むクルー(乗務員)は一般から公募したが、JAL国際線に17年間乗っていたサービスのプロ、超一流ホテルのコンシェルジュなどを外部から13名、そして社員13名を加えて、徹底的にサービス研修をしたという。最高峰のプロ集団が、湯布院の旅館で布団の上げ下ろしを練習し、東京ディズニーランドで「サービスとは何ぞや」を学び、ななつ星らしいオリジナルなサービスを創りだすと言う研修だ。まさに人を含めて「世界一の豪華列車」を創り上げている(JR九州が元気だ!(http://okinaka.jasipa.jp/archives/284))。

近江商人の「三方よし」の精神も踏襲し、「買い手よし」、つまりお客さまにどうすれば喜んで貰えるか、ずっと工夫を重ねてきた「平和堂」。昭和36年に今のポイントカードの先駆け「ハトの謝恩券」や、「芸能ショー」などの当時では画期的なイベントも実施した。お客さまに喜んで貰えるサービス追求姿勢は生半可なものではない。心のこもった挨拶(なじみの客には名前で呼ぶなど)、また来たくなるサービス(レジ掛にトレーナーを配置して教育)、そして従業員自らの発想での手書きPOPや、行事の飾りつけで「はずむ心のお買いもの」を目指す。最近は。これまで支えてくれた高齢者の方々に対して恩返しをするために「平和堂ホーム・サポートサービス」(日常生活の困りごとサポート)を始めている。そして創業時からのこのような理念を従業員に徹底して百年起業を目指して「平和堂経営者育成塾」を開始した(中国暴動で破壊された平和堂(http://okinaka.jasipa.jp/archives/383))。

今年創業50周年を迎えた「でんかのヤマグチ」。20年前、町田市に押し寄せた家電量販店が契機になり「脱安売り」経営に脱皮した。それも社員を守るため、それまでのお客様の数を3分の一に減らし、絞ったお客さまへのサービスを3倍にする。その結果、お客様の幸せが社員の幸せになったと言う。店の規模もこれ以上増やすつもりはないとのこと。それは現在のお客さまへのサービスレベルを落とさないため(「さらば安売り」でんかのヤマグチ山口社長の連載記事始まる(http://okinaka.jasipa.jp/archives/387))。

「足利フラワーパーク」の藤の移植を成功させ、浜松フラワーパークに「ここしかなくて、何処にも負けないもの」として数十万球のチューリップと1300本の桜を組み合わせた世界一美しい「桜とチューリップの園」を作り、入園者を飛躍的に増やすことに成功した塚本氏。お客さまに「わぁーきれい」と言ってもらえるパーク。そのためには「そこそこ美しい」ではダメ。圧倒的に美しくなければいけない。経営に損益分岐点があるように、人の心には「感動の分岐点」があるそれを超えたら涙するくらいの感動を覚える(感動分岐点を超えた時人も経営も変わる!(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1583))。

共通するのは、「お客様視点でものを考えること」、そして「それを実現するためのプロセスに妥協がない」ということ。さらに、「その理念を関係者全員が共有できること」。参考にしてほしい。

小倉昌男「経営学」に学ぶ

日経13面の日経Bizアカデミー「経営書を読む」欄に、この7月3回(7、14,21日)にわたって、ヤマト運輸で宅急便を立ち上げた小倉昌男氏の名著「経営学」(日経BP社刊)に関して、入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール准教授)が解説している。国と戦い、“宅配便”市場を作った小倉昌男氏の創造性がどのように発揮されたか、非常に興味深い解説だ。

1回目(7日)は、「経営とは自分の頭で考えるもの」との小倉氏の発言を受けて本書の神髄は「学習の経営学」にあると入山氏は言う。新しい知見は、近くの知だけではなく、自分とは関係ない事を幅広く探索し、学ばねばならない(知の探索“(エクスプロレーション)と言う理論)。いろんなセミナーや講演から得た知見を試行錯誤しながらヤマトの経営に反映させた様子が「経営学」に記されている。”知の探索“とは、自分から離れた遠い知と、今自分が持っている知を組み合わせること。その点、小倉氏は例えがうまかったと指摘する。宅急便ビジネスの営業活動を行う配達員に「寿司屋の職人であって欲しい」と言う。その心は(1)送り主の家や取次店に出向いてモノを受け取り(朝、魚河岸で仕入れ)、(2)それらを必要な形に梱包し(魚を必要な形にさばき)、(3)自社サービスや発注方法などをお客に説明し(お客が来ればネタの説明をし)、(4)世間話をしながらセールストークをして(世間話をしてお客の機嫌をうかがい)、(5)満足度を高めてリピート率を上げる、ということ。

2回目(14日)は、”知の探索“の事例として、宅配便ビジネスに乗り出した契機が、2つの異業種からの学びだったと本書を紹介している。一つは「吉野家の牛丼」。牛丼だけに絞ることで高収益を上げていることを知り、ヤマトも個人向け宅配便に絞り込むべきと考えた。もう一つは日本航空の「ジャルパック」。行先も時期も個人の嗜好はバラバラの中で、パッケージツアーとして商品化することで市場を拡大したことを知り、宅配便も同じように送り先もタイミングもバラバラの中で「買いやすさ」が認知されれば大きな市場になるとの確信を持った。入山氏は、トヨタ生産システムも、スーパーマーケットの仕組みにヒントを得、「TSUTAYA」は金融ビジネスモデルを見て確信を得たように、「異業種に学ぶ」ことが新しいビジネスを考える基本だと言う。

3回目(21日)が最も興味深かったが、小倉氏の第2の学習姿勢は「顧客から学ぶ・現場から学ぶ」ことで、この姿勢がすべてのビジネスで重要であり、さらに小倉氏の凄い所は「相手の立場に立って考える」ことで、この学習姿勢を高めている所だと言う。入山氏は、近年「プロソーシャル」と言う考え方が注目されており、そこでは「相手の立場にたって考える人の方が、クリエイティブな成果を生み出しやすい」との考え方を紹介している。小倉氏は「利益よりサービス」を理念とし、潜在需要の開拓を目論んだ。不在なら何度でも配達を試みることで、顧客の満足度を上げる「在宅時配達」に舵を切ったのも小倉氏だ。小倉氏は労働組合との関係においても、「組合の人達の求めるものは何か」を考え、それを制度などに反映させることで信頼関係を築いた。そのことで、現場からの情報を組合員から得られるようになり、顧客の要望を聞き取り元旦配達を開始し、年中無休の営業体制を組合員の反対もなく実施することになったそうだ。

詳しくは日経Bizアカデミーの記事(http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/career/article.aspx?id=MMACz9000001072015)を参照ください。