6月2日朝日新聞の声欄に16歳の女高校生が投稿していた。表題は「スマホのない時代だったらなあ」。小学5年の時、オーストラリアへ家族と旅行した時には、いろんな人にレストランやお店までの道を聞くなど、現地の人とのコミュニケーヨンを楽しめた。が今年行ったときは、すべてスマホで調べることが出来たが、何か物足りなさが残ったという。現地の人との対話が恋しくなり、私たちから大切なことを奪っているのではとの疑問が沸き、スマホのない時代に生まれてきたかったと締めている。
表題の「スマホが学力を破壊する」というのは、本の題名だ(集英社新書、2018.3.21刊、川島隆太著)。著者はニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者で、現在は東北大学加齢医学研究所所長をされている。仙台市の市立中学校の生徒を対象(2万2390名)にした調査結果に基づいて「スマホの長時間使用は子供たちの学力や脳に悪影響を及ぼす」との警告を発している。特に自宅での勉強の合間に動画を見るというマルチタスクは、どちらにも集中できず、学力、認知機能、記憶力などの低下を招くと論じる論文が多いそうだ。また、人の脳で最も大切な前頭前野は、人と直接会って話をすると大いに働くことが脳活動計測で分かっている。文章を手書きで書くことも、パソコンなどで書くより前頭前野はたくさん働くという。スマホを使いこなす子供は、対面型のリアルコミュニケーションの機会が減り、前頭前野を使う頻度も減る。そのため、脳が健全に発達せず、学力が低下するという。
もう一冊、「子どもがネットに壊される~いまの科学が証明した子育てへの影響の真実~」(メアリー・エイケン著、小林啓倫訳、2018.4.11刊、ダイヤモンド社)でも警告している。ここでは、若者のソーシャルメディアの行き過ぎた使用がメンタルヘルスの問題を引き起こす可能性を指摘する。また、赤ちゃんにとっては、親とのアイコンタクトが健全な愛着の心を生み、他人との交流ができる個人への成長を助けると言う。授乳するときに片手でスマホや携帯電話に夢中になり、赤ちゃんと目を合わせる機会を減らすことなどに警鐘を発している。
6月4日の日経朝刊、池上彰の“大岡山通信”では、就活中の学生や働き始めた若者へのアドバイスとして、組織や社会で生きていくための人間関係の重要性を説いている。そのためには、SNSや電子メールでの対話も便利だが、直接相手の顔を見ながら話をすることが大切だと言っている。
電車に乗ると、7~8割の人がスマホに集中している姿に異様な感じを覚えることが多い。“歩きスマホ”を警告する駅の放送も多く聞かれるようになったが、大人たちがスマホに没頭する姿が子供に与える影響も大きいのではないかと危惧する。スマホを使えない(使わない?)1老人の戯言ですめばいいのだが、少子高齢化を迎える次代を担う若者の成長に影響を与えるとなると問題は大きい。国としても何らかの対策を打たねばならないとも思うが、やはり我々大人が規範を子供に見せることも重要ではないだろうか。