「働き方改革」カテゴリーアーカイブ

働き方改革から働きがい改革へ!

「致知2022.7号」の特集のテーマは「これでいいのか」だ。記事の中で気になったのは、「日本人の働きかたはこれでいいのか」との対談記事だ。

いまや日本の世界競争力は31位、熱意をもって働く日本人はわずか5%に過ぎない状況の中、日本経済は「失われた30年」と久しく言われながら、停滞しきっている状況だ。日本の経済成長率は昭和後半の30年間が6.6%だったのに対し、平成の30年間は1.3%と、経済成長は止まり、給料は下がり、希望が持てない状況が続いている。なぜこのような状況になっているか、この状況を克服するためにはどうすればいいか、京セラとJALで稲盛氏の側近として長年仕えた太田嘉仁氏(日本航空元会長補佐)と、パーパス経営など企業経営に詳しい名和高司氏(一橋大学ビジネススクール客員教授)の対談記事だ。

稲盛氏の「働くことは、人間にとって、もっとも深淵かつ崇高で、大きな価値と意味を持った行為です。労働には、欲望に打ち勝ち、心を磨き、人間性を作っていくと言う効果がある」との主張に沿って、政府の進める「働きかた改革」に疑問を呈する。労働は自分の時間を切り売りするとの労働観ではなく、労働を通して何かを達成する、そのために志(パーパス)を持つことの大切さを訴える。名和氏は、政府の打ち出した「働き方改革」は、「ゆとり教育」の職場バージョンだと危惧する。さらに、自分の仕事を天職と思った人の生産性は2~3割違い、創造性は一桁以上違ってくると言う。”やらされ仕事“じゃなく、”やりたい仕事“に如何にするか?”働き方改革”はその動きを止めてしまっている。これを”働きがい改革“に転換させねばならない。大田氏も、JALでの成功体験に基づいて、「やらされ意識で仕方なく働いていては、絶対に成長できません。自分で進んで楽しみながら働くからこそ、やりがいを感じ成果も上がる」と言う。

稲盛氏の成功方程式「人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力」を名和氏は「パーパス(志)xパッションxポテンシャル」と置き換え、パーパスの重要性を訴える。そして、このパーパスを社員一人一人の心に刻み込むまで、リーダーが説き続けることが不可欠と言う。そして、パーパスを形になるまで実践するために、リーダーが率先して行動しなければならないと。リーダーの日々の言動から本気さ、真剣度が 滲み出て、社員に伝わることで、一体的にパーパス経営が出来、社員の働きがいにつながっていく。

厚労省が労働時間短縮のみを目指していることを稲盛氏も問題視している。パーパスにより成果物を明確化し、その達成に向けて熱意をもって取り組み、生産性を上げて効率的に成果を実現する。その過程で能力(ポテンシャル)向上も図れる。この循環を目指すことが、結果的に労働者の働きがい、生きがいにつながり、労働時間短縮にもつながる。経営者が先頭に立って、この循環を推し進める気概がなければ、日本経済の失われた30年から脱することは不可能だとの両氏の提言に納得する。

経営経験のある私としても、反省することばかりだ。

八ヶ岳の麓のスーパーがユニークな取り組みで大繁盛!

豊かな山梨県八ヶ岳の麓にあるスーパー「ひまわり市場」は、地元の人のみならず、県外からも大勢の人が詰めかけ、客足が途絶えることのない人気店だ。もともと赤字続きで倒産寸前だったという同店を、ユニークな取り組みと、愛にあふれた経営で再生に導いた那波秀和社長に、その改革の軌跡と共に、皆を笑顔にする経営のヒントを語っていただいた。

これは、「致知」11月号に掲載の記事「すべての人を笑顔にする経営を目指して」のリード文だ。甲府の魚市場に勤めていた時、ひまわり市場の先代社長に会い、誘われるままに32歳の時転職、すぐ店長を命じられた。が、先代社長は業績好調の別事業に集中し、スーパー事業は赤字でもいいとの雰囲気で、社員はやる気もなく、若造の言うことも聞かないような状態だった。そのうち、好調だった事業もうまくいかず、倒産の危機にも直面。安売りなど必死に対策をいろいろうつが上手くいかず、お客様に商品の価値をきちんと伝え買っていただくにはどうすればいいか、高級食材を扱う成城石井のバイヤーに教えを請いに飛んで行った。そして、現在の好調を支える“ユニークな取り組み“に辿り着いた。

店長自らの”マイクパフォーマンス“だ。「今ちょうどカツオの刺身が出ました!」「いま取り立ての枝豆入りました!」など朝から夕方まで時間があれば、マイクでお客様に情報を提供している。以前は懇意な問屋に仕入れを任せていたため、品ぞろえが偏っていたが、仕入れ先を広げ多様な商品を揃えたことから、お客様に他のスーパーでも見る”ポップ“で商品紹介していた(他と違って、例えば台湾が好きな社員が仕入れたバナナには「台湾が好きすぎて台湾へ旅行に行ってしまった」のような、背景にある物語を伝えることを意識)。がポップはそこを通ったお客さましか見ないことから、多くの人に情報を伝えるためにマイクパフォーマンスを考えたそうだ。

マイクパフォーマンスは、商品の魅力を伝えるだけではなく、それを仕入れた社員についてもありったけの美辞麗句で持ち上げる。毎朝朝礼でも社長の思いをぶつけるが、「この食材なら山梨で一番の目利きになろう」とか、社員がマイクパフォーマンスに応えようとし、自発的に本当に良いものを仕入れてくれるようになったと言う。マイクでは嘘はつけないため、品質を重視する風土も出来上がる。

結果として業績が上向き、ボーナスも出せるようになり、働きかたもブラックイメージから、完全週休2日制や育休制度、住宅手当も出せるようになり、繁忙期以外は8~9時間で家に帰れるようになった。那波さんは「社員が楽しく活き活き働ける環境を作れば、お客さんも満足して、自然と売り上げも上がって、頑張った分を社員に返せば、さらに一生懸命に働いてくれるようになる」と言う。さらに「会社と言う組織は、皆が仲間として信頼しあって働き、お客さんや取引先も含めて、皆が幸せになるために先人が考え出した仕組みだと思うんです。その会社が人を追い詰めるような存在になってしまってどうするんだ」と。

来年のNHKの大河ドラマに渋沢栄一が登場する。「論語と算盤」の精神がまさに、八ヶ岳の麓で花開いている。

働き方改革で“働きがい改革”を!

今、コロナ禍が吹き荒れる中で、テレワークが拡大している。これを契機に、多様な働き方改革を推進することは、日本の経済にとっても意味あることと思える。しかし、慣れない環境の中、今まで以上の成果を出せるかどうか、克服すべき課題も多いと思われる。
4月2日の日経社説で「離れても信頼高める働き方に」のタイトルの記事が目に留まった。
一つは「コミュニケーションの問題」。以心伝心で空気を読む日本的な手法は通用しない。簡潔な言葉で明確に伝える技術をみんなが身につけなければならない。在宅で一人で働く孤独感も克服せねばならない。会社で働くとき以上にチームとしての一体感をもって効率的に働ける環境つくりが必要となる。
顔を合わせる時間が減り、働きぶりを見ての人事評価は無理となる、在宅で働く人達の役割分担を明確にし、目標をはっきり設定する。そのための組織のリーダーのマネージメント能力も問われる。実績を重視し、結果をきちっと評価することで、チームみんなの納得性が得られモチベーションの向上につながる。このような課題を克服するためにデジタル技術の出番も多くなると思われる。記事では「テレワークを続けると無駄な会議や作業があぶりだされてくる。新型コロナ禍を業務の効率化や働き方改革の好機としたい」と締める。

3月24日の日経朝刊では「次は働きがい改革」とのタイトルで紙面半分以上を使った記事があった。当ブログでも、日本のエンゲージメント度(仕事に対する熱意)の低さに関する問題を提起した記事を何度か紹介した(例えば、”心の資本”を増強せよ! HTTPS://JASIPA.JP/OKINAKA/ARCHIVES/9256)。日経記事のリード文は
働きがいを意味する「エンゲージメント」を重視する日本企業が増えている。組織の「健康診断」を実施して職場風土を改善し、生産性アップや離職防止につなげる狙いだ。単なる働き方改革だけでは高めにくい。経団連が旗を振り三井住友銀行が全行で意識調査を始める。働きがい改革は、日本企業が競争力を取り戻す妙薬になるか。
三井住友銀行は今春にも国内約2万8千人の従業員を対象に職場への満足度や人間関係を毎月実名で調査し、分析する。各拠点ごとに「アンパサダー」と名付けた旗振り役の管理職を配置するなど、組織風土改革にかける思いは切実だ。ツールとしてはこれまで試行段階から使っているアトラエの「WEBOX」を使う。日本ユニシスも2013年からグループ約8000人の意識調査を始め、結果をもとにコミュニケーション改善に取り組んでいる。「エンゲージメント」に火をつけたのは経団連中西会長。1月下旬のフォーラムで「エンゲージメントがもっとも重要なテーマ」と位置付けた。従業員やそのチームのエンゲージメントを測定する手法は様々だ。過去に紹介した「日立製作所のハピネス計測技術の活用」や、ユニボスが提供する職場の仲間が互いに評価して報酬ポイントを送りあうピアボーナスなどもあるが、今回の記事では前出の「webox」と組織・人事コンサルティングのリンクアンドモチベーションが手掛ける「モチベーションクラウド」を使う企業も多いと言う。3月時点で両サービスを導入した企業・団体は1900に迫り18年比で6割増えたそうだ。両社によると大企業からの関心が高まっていると言う。
2017年のギャラップ調査で「熱意溢れる社員」の割合が日本は6%で世界139か国中132位という「やる気のなさ」が経営層に火をつけた。今年2月の調査でも、世界60か国の大規模調査「働きがいのある会社ランキング」でも、7000を超える企業の調査結果の中で日本企業の問題が提起された。低下傾向が42.5%、改善傾向が15.9%と取り組みが効果を出していないともいえる。記事では、長時間労働の是正などを進めた一方で、効率を重視するあまり、職場のコミュニケーションが減ったことなどが背景ではないかと指摘している。エンゲージメントの向上は、日本企業にとっては大きな課題であり、2020年代は「働き方改革」より「働きがい改革」が企業の競争力を左右しそうだと記事を締めている。

コロナ禍で大変な時期ではあるが、働き方改革と同時に”働きがい改革“にもトライしてみては如何だろうか?