「明珍」カテゴリーアーカイブ

870年続く姫路の鍛冶屋「明珍」

PHP Business Review 松下幸之助塾(2012年7・8月号)に、「老舗に学ぶ永続繁盛の秘訣(大阪商業大学大学院特別教授前川洋一郎氏)」という記事がある。今回6回目であるが、その中に私の故郷姫路の「明珍」が紹介されている。もともと姫路藩お抱えの甲冑師で、足利尊氏、伊達正宗、豊臣秀吉など有名武将の甲冑の多くは明珍作と言われているらしい。創業は1141年とも言われ、そこから数えると870年、口伝によれば1000年以上続く老舗とも言われている。なぜこんなに長い間続けてこられたのか?

この間、大きな危機が4回あったと言う。一回目は明治維新。突然武士がいなくなり、甲冑が不要となった。ここで鉄の鍛錬技術を活かして火箸屋に転向し、「天下の明珍火箸」を生み出した。2回目は太平洋戦争。金属類回収命令が出て、鍛冶屋から鉄がなくなってしまった。この危機には、借家、土地を売って凌ぐ。3回目は家庭の燃料革命。石油やガスに変わり、火鉢と火箸は不要となってしまった。この時は火箸を4本集めて風鈴を創ることにした。冬の商品から夏の商品への転換だった。21世紀に入り、エアコン完備の密閉住宅の普及で、今度は風鈴の需要に限界が見えてきた。そのため、今は新たにチタンを使ったが楽器やスティック、花器などの商品レンジを拡大している。チタンの楽器、お鈴、明珍火箸を使った楽器、明潤琴を演奏するコンサートやイベントが、この1年好評とか。最もいまでも明珍火箸を使った風鈴は人気商品でもある(ちょっと高価だが、音の良さは一度聞くと忘れられない!)。年間3個しか作らないそうであるが、セイコーと共同で機械式複雑腕時計を創り、厚さ0.2mmの鉄の輪を組み込み、火箸風鈴と同じ音色で時を知らせる。ちなみのこの時計の価格は3465万円。

今は52代明珍宗理(むねみち)氏が家を守っている。世の中の流れを汲みとり、お客のニーズをくみ取って、商品開発、新工法開発を進める。そしてみすから市場開拓していく。職人のハングリー精神と商人のチャレンジ精神を代々引き継いでいく。それも千数百度の鉄を約1キロの槌で打つ鍛錬技術をベースにした展開である。宗理氏は「職人の奥義、心得」を次のように言う。

  • 職人としての反骨精神。職人だからやれないことはない。
  • 質素真面目が大切。
  • 日々の工夫改善こそ大事
  • お世話になった人への恩義に感謝
  • あせらず、じっくりと毎日こつこつと
  • 本業専心

870年続いた老舗の52代が言う言葉には重みがある。