「日本の課題」カテゴリーアーカイブ

日本経済はどうなる?日本流の発展とは~その2~

シェーデ教授は「日本は確かに米国に比べ極端なほどに遅い変化でした。しかし遅いことは停滞を意味しない。日本企業は時間をかけながら着実に変化を重ね、ここに再興した」と言う。この軌跡を「舞の海作戦」と称している。小柄ながら機敏な動きで多彩な技を繰り出し、巨漢の小錦や曙の向こうを張った人気力士を言うが、かっての日本は企業の多角化による規模拡大を目指したが、そこから、他がマネできない中核的な技術を磨いて勝負する戦略に改めたという。具体的には、アジアのライバルの台頭で優位性を失った消費者向け製品や普及品から、サプライチェーン上流へと軸足を移してきた。高度で複雑な技術が要る部品や素材、半導体製造装置や工作機械などの”生産財“の多くで日本製品は圧倒的なシェアを占める。このような面が消費者には見えず、なかなか評価されずにいるが、常にスポットライトを浴びないと気が済まない米国人と違って、静かに物事を支配していくやり方は日本人の性格にも合っており、今後に期待できると言う。さらに「この遅さこそ、倒産や失業による社会の大混乱を避けながら、日本企業が復活することを可能にした知恵だった」とも言う。

米国ではコロナのパンデミックで、その初期の2020年春、1か月で2000万人分もの雇用が失われ、治安が日々悪化していく緊張感に襲われたそうだ。そのころ日本で増えた失業者は6万人だった。しかし米国の回復は早く、約2年で雇用者数はコロナ前の水準を取り戻し成長産業へと労働力が移っている。米国は”食うか食われるか”の厳しい世界で、日本人には合わないのでは言う。「AIや消費者向けサービスでは、日本は米中に比べ遅れを取っているが、例えば工場の自動化やロボット工学という分野では日本は世界最先端におり、米国はそこまで強くない。すべてを持っている国などない」とも。

とかく足らざる点を指摘するのに熱心になりがちなメディアだが、弱みは別の強みと分かちがたく結びついた代償なのではないかと冷静に見つめてみたいと当記事の江渕崇記者は締めている。

時同じく、致知9月号で、東洋思想研究家田口佳史氏とJFEホールディングス名誉顧問の籔土文夫氏の「2050年の日本を考える」との対談記事が掲載されている。結論的には、志教育の必要性を説かれている。日本は、知的資源立国で、優れた思想、哲学がこれだけ蓄積している国は世界広しと言えども他にはない。戦前までは、幼年教育でも仁義礼智の四徳教育が行われていたが、戦後GHQの介入でできなくなってしまった。大谷が外国選手を超える大記録を打ち立てているのは、小さいころからの家族の志教育、花巻東高校の佐々木監督の専門能力面、精神面での指導が大きく寄与しているという。明治維新での若者の改革精神とその志も目を見張るものがある。しかし、今や外国留学も中国や韓国に比べて大きく差をつけられている。

総裁選でも、解雇規制の緩和なども議論されているが、いかに日本の良き文化を守りながら、“世界をリードできる日本”にするか、これからの日本を背負う若者の志教育、少子化問題と合わせて具体的な議論が求められる。政治による日本独自の方向性にも期待したい。

日本経済はどうなる?日本流の発展とは~その1~

自民党総裁選や立憲党首選がマスコミを賑わせている。「日本を世界のてっぺんに押し上げる」、「世界をリードする日本」、「所得倍増で新しい日本」など、スローガンは立派だが、今の日本の現状をどう変えていくか、具体的な施策、道筋は見えない。

いろんな指標が示すが、過去の日本の栄光が今や昔物語となっている。世界企業価値ランキングでは、1989年には、1位がNTT,10位以内に金融業が5行、10位から20位の中に製造業が11位のトヨタはじめ6社が入っている。それが、2024年にはトヨタが39位で、20位までに米国企業が17社という状況に一変している。

大学世界ランキングでは、2016年の閣議で「今後10年間に世界ランキング100位以内に10校目標とする」と決定されている。が、2016年時点と2024年の100校以内を見ると、中国2校→7校、香港2校→5校、韓国2校→3校、日本2校→2校となっており、目標は2年後とは言え、閣議目標達成は絶望的だ。GDPは長らく2位を維持していたが今は4位、一人当たりGDPは38位。平均年収の低さも問題で、新卒の平均年収が、スイス約900万円のところ日本は300万円。韓国にも負けている。池上彰氏によると、アニメーターの給料も中国約50万円、日本は約35万円で、アニメの世界も中国の下請け化も必至と言う。脱炭素、EV化の遅れも指摘され、テスラやGAFAの動きから、トヨタもいずれはアメリカ、中国の下請け化となることが危惧されている。このような状況の中で「日本を世界のてっぺんに!」と言われても・・・。

8月27日朝日新聞夕刊の記事に目が留まった。カリフォルニア大学サンディエゴ校のウリケ・シェーデ教授の「日本経済は失われていなかった」との主張記事だ

「食うか食われるか」の厳しい米国文化と違って、社会の安定を大事にする日本の経済は時間はかかっているが、着実に成長している、との論調だ。

詳細は「日本経済はどうなる?日本流の発展はあるのか?~その2~」に続く。

人への投資・後追いの日本企業(朝日新聞)

少し古い記事ですが、今年1月13日の朝日新聞朝刊の連載記事「資本主義NEXT価値ある企業とは」が目に留まった。リード文は

工場や機械、店舗のような目に見えるものより、働き手のスキルなど目に見えないものに投資する方が企業価値を高められる。そんな考え方が広がり、欧米企業は人への投資を競い合う。「人を大事にする」はずだった日本企業は、後れを取り戻せるのか。

「人的資本経営」と呼ばれる潮流の中、人的資本に関する上場企業の開示情報を調べ尽くした経営者がいる。人材関連サービスの「Unipos」の田中弦社長だ。3月期決算の有価証券報告書を約5千社分分析したそうだ。その結果は「一部に優れた開示をした企業がある一方、サボっていた企業が多い。二極化が進んだ」と。女性の管理職比率に、男性の育児休暇取得率、男女間の賃金格差の3情報のほか、人材戦略やその目標などの開示が上場企業に義務付けられたのが2023年。分析の結果、3情報の開示で済ませた企業が大半で、充実した開示が出来たのは、6段階の独自格付の結果での上位評価が約5%に過ぎなかったと言う。

田中社長が高く評価するのが丸井グループだ。丸井は、小売りや金融にとどまらず今では、IT,物流、住宅などのビジネスに幅を広げている。丸井の考え方は、「企業価値と人的資本の関係は氷山のようなもの。見えやすい財務データとは違って“見えない資本”として人的資本がある。水面下に隠れているが、人的資本の分厚さこそが企業価値を生む源泉」とのことだ。青井社長は、「人財のポテンシャルを全開に出来る組織やチームをいかにつくるかが、資本主義の要」と言う。その考え方に沿って、社員のポテンシャルアップにいろんな施策をこうじている。一例をあげる。重要な経営課題について月に一度話し合う「中期経営推進会議」。幹部に限定していたメンバーを、希望する社員にも広げた。毎回1000人近くが手を上げ、論文審査を通過した約300名が参加する。新規事業や、昇進試験、職種をまたぐ移動も希望者を募る。自ら手を挙げた経験がある社員が8割を超えると言う。失敗を許容する活動として「挑戦する文化」作りにも力を注ぐ。新事業立ち上げなどの挑戦を打席数と数え、会社で5000回の目標を掲げて推進している。成果として、祖業の小売りや金融にとどまらず、IT,物流、住宅など幅広いビジネスを立ち上げ、今はPBR目標に届いていないが、将来的に5倍に引き上げたいと言う。

その他にも、新薬を生み出す力が企業価値を大きく左右する「アステラス製薬」や、人口減で経営環境が厳しい地方銀行「北国フィナンシャルホールディングス」の企業へのコンサル事業に活路を見出すための賃金体系の見直しなど、人材の活性化を目指す具体的な諸施策を実施する企業が増えつつある。

大学でも、「人的資本など会計上の数字では表せない”見えない資本“への先行投資が、長期的には高い確率で企業価値を高める」とデータで示した研究結果も出ている。人件費を1割増やすとPBRが7年後には3%増える”正の相関”を東証主要型株で観察した結果だそうだ。

日清食品ホールディングスでも、2021年から取り組みを強化し、「女性の育児短時間勤務を増やすと1年後にPBRが上がる」などの関係を多く見つけたと言う。「どんな具体策が”エンゲージメント”と企業価値を高めるかの分析も独自に始めているそうだ。

前述の田中社長「人口減が進む日本では、人に関する戦略の優劣が企業価値に直結する」、さらに「労働市場が明らかな売手市場になれば、人材戦略を語れる会社とそうでない会社には大きな差がつくだろう」と警鐘を鳴らす。

日本のGDPは、ドイツに抜かれ4位になり、いずれインドにも抜かれると言われている。人口減が急速に進む日本の将来を考えると、欧米にも遅れをとっている「人への投資」を生産性向上の施策として、真剣に考えるべきではないだろうか。