表題は7月22日朝日新聞夕刊の記事タイトルだ。その後に「社員つなげば会社は変わる」とあり、さらに記事冒頭の「創業138年。企業の経営者や役職員の見学が絶えない老舗がある」に目が留まった。
社員の平均年齢は46.7歳と高め。創業家出身の5代目社長、田中離有氏がDXを積極艇に進めた結果数年で企業文化が大きく変わったことで注目を集め、そのノウハウを学ぼうと企業人が次々にやってくる。見学に来る企業は、規模も業種も様々。不祥事が露見した大企業の役職員が足を運ぶこともあるそうだ。
その会社は、1986年金物問屋として創業した「カクイチ」。長野市に本社を置き、従業員は約270人。年商250億円の中小企業だが、見学の受け入れは年に100件を超すそうだ。
カクイチは先代社長時代、樹脂ホースメーカーとして日米でトップの生産量を誇り、さらには、鉄骨ガレージの製造・販売・施工を主力事業に育て、ミネラルウオ―ターの製造販売にも参入、軽井沢でのホテル事業にも乗り出している。現社長もガレージの屋根を活用した太陽光発電事業を立ち上げるなど多角的新規事業の育成にも積極的だ。しかし、その反面、全国への展開も進むとともに、組織の縦割化が進み、横のつながりが懸念事項となった。「現場で何が起こってないいるかわから。社長は孤独だ」との思いにもかられていた。2018年に組織風土の大改革にかじを切る決意をした。その視座を与えてくれたのが、太陽光発電事業の成功体験だった。農家などに設置したガレージや倉庫の屋根に太陽光パネルを設置し、売電する分散ネットワーク型の電力システムの構築だ。太陽光パネルの設置実績は全国で17300棟。
この事業にヒントを得て、「世の中は中央集権型から自律分散型に移行している」との思いを深め、「中央集権で計画を立ててもうまくいく時代ではない。会社の組織も経営者ががちがちな計画を立てる中央集権型から分散ネットワーク型に変える」との覚悟を決めたそうだ。そして2018年にパートを含む全社員にiPhoneを配り、同僚の良い点を評価して感謝を伝えあうウェブサービス「UNIPOS」を導入。社内のSNSとしてビジネスチャット「Siack」を使い始めた。「正しいよりも面白い」をモットーに形式的な業務報告より雑談を奨励。経営会議で協議した重要な情報をSlackでオープンにするなど工夫を凝らして利用を促すと、多くの社員が使い倒すようになった。部門を超えて情報にアクセスできるようになると、接点がなかった社員同士がSlackで交流を始めた。他部門の社員の活動を「面白い」と評価したり、ためになる現場の情報を積極的に発信したり、社員同士のやり取りを楽しみに見るのが社長の日課になっている。「言われたことだけやっていればいい」という上意下達の企業文化や中央集権型の組織は壊れ、次第に自律分散型の組織に変わっていったという。「現場の情報を与え続け、人と人をつなげれば、現場が自ら判断するようになる」と社長は言う。
このような風土の中で、意思決定の速度も各段に早くなり成長事業が増えてきたそうだ。その一つがアクアソリューション事業だそうだ。直径1マイクロメートル未満の超微細な気泡の発生装置を開発し国内外の農業への導入が図られていると言う。「大企業以上に人出不足の影響を受ける中小企業にとって、個々の社員が主体的に能力を発揮して働ける組織づくりは大きな経営課題であり、カクイチはそのためのヒントが詰まっている。」と当記事は締めている。
国内企業の多くはDX推進に取り組んでいるものの、実際のビジネスモデルや組織の本格的な変革には至っていないと言われている。今のままでは2025年以降、最大毎年12兆円の経済損失が生じるという「2025年の崖」問題が言われている。国際経営開発研究所(IMD)発表の世界デジタル競争力ランキングでは、日本は63か国中27位と、米国(1位)、韓国(8位)、中国(16位)などに遅れをとっている。特にデジタル技術のビジネスへの展開(ビジネスアジリティ)や、デジタル技術を活用する人材の項目に関して最下位と評価されている。
経営者を先頭に、事業部門、情報部門が一体となって、DXを推進し、企業価値を高めるかが日本企業にとって喫緊の課題となっている。