「顧客サービス2013」カテゴリーアーカイブ

「100円のコーラを1000円で売る方法」とは

先般10月のJASIPA定期交流会で講演していただいた永井孝尚氏(元IBM,現オフィス代表・多摩大学大学院客員教授)氏の著作本(中経出版、2011.11)の題名だ。講演のテーマは「改めて、顧客中心主義について考えよう」。当日参加予定だったが、台風の関係で出られなかったが、日頃から「お客さま第一」を主張している私としては非常に興味あるテーマだった。と言うことで永井氏の著作本を読むことにした。以下、当該本と、JASIPAメルマガ(JASIPA★INSIGHT)に掲載の講演議事録を参考にする。

永井氏は「顧客中心主義」を提言する。その対極が「顧客絶対主義」。

  • 顧客絶対主義とは:「お客さまは神様」すべての要望に応え、価格勝負もかける。
  • 顧客中心主義とは:「お客さまは大切な人」、お客さまは自分の本当の問題を知らない。気付かない要望に応え、付加価値で勝負する。価格は高くてもお客様に「凄い!」と言わせる。

「顧客中心主義」の出発点は「バリュー・ポジション」の視点。「バリューポジション」とは”顧客が望んでいて“”競合他社が提供できない“”自社が提供できる“価値の事を言う。その「バリュー・ポジション」の出発点は、顧客で、顧客本人も気付いていない価値を見つけられるかどうかがポイントとなる。

標題の本では、会計ソフト専業の駒沢商会の商品企画部において、経理ソフトの改善を目論んで転勤してきた凄腕営業で有名な宮前久美が、最近転職してきた与田(永井氏そのもの)の主宰するマーケティング戦略などを学ぶ“与田スクール”で、「顧客中心主義」を学んでいく過程を物語風にまとめている。「うちの事業とは何か?」の問いに「お客さんのお役にたてる会計ソフトを開発して提供する事」と答え、「顧客の言うことは何でも引き受ける」と考える久美に、与田は「0点」の回答と返すところから始まる。そして、「経営者が本当にやりたいことは、会計システムで集まった情報を活用して、会社の財務状況を改善し、経営変革すること」とのコンセプトを打ち出すまでになり、さらに与田の指導を受けて、そのコンセプトを実行可能な戦略にまで持って行く過程を分かりやすく描いている。

この久美の変わっていく過程がまさに、縮む国内市場で消耗戦となって「高品質なのに低収益」という矛盾を生み出した「カスタマー・マイオピア(顧客近視眼)からの脱皮」に他ならないと、そして、その鍵は、「バリュー・ポジション」を徹底的に考えることと永井氏は言う。ちなみに、本のタイトルは、リッツカールトンのルームサービスで頼んだコーラが1035円だったが、今までの人生で最高においしいコーラだった(中身はスーパーで売るコーラと同じだが、最適な温度に冷やされ、ライムと氷がついてシルバーの盆に乗ったコーラがグラスで運ばれてきた)との逸話からつけられている。サービスと言う目に見えない価値を売る「バリューセリング」の典型的な例を表わしている(スーパーは「プロダクトセリング」でコスト競争の世界)。

日本のIT業界は、必ずしも顧客に信頼を得ていないと言われる。顧客の指示、あるいはいうままにシステム開発をする姿勢(顧客隷属型システム開発)から脱皮できていないと言うのが一般的な説となっている。今こそ、永井氏の言う「顧客中心主義」を徹底的に実行する能力を身に付けることが、IT業界の発展のためには必須と言えるのではないかと思う。

12年連続顧客満足度ナンバーワンに輝く経営とは(ネッツトヨタ南国)

全国のトヨタ販売会社の中でのことだが、「四国の1販売会社が12年連続名誉ある地位を継続できる経営とは」何だろうか?創業者の横田英毅氏が「会社の目的は利益じゃない~誰もやらない“いちばん大切なことを大切にする経営”とは~」(あさ出版、2013.7.31)でその真髄を語る。

横田氏は、手っ取り早く量を求める手法よりは「質の良い会社を作って、その結果として量を増やしていく」ことが経営の在り方だと言う。特に中小企業は量を求めるより、質をまず高める経営をすすめる。そして、「一番大切なこと」を大切にすることと言う。「自分の一番大切なものを、どのように大切にしていますか?」に答えられる人は少ないのではと言う。大切とは思いながら具体的な行動を起こしていない。

それでは「大切なもの」とは何か?売り上げや、利益やシェアだろうか?多くの会社にとって一番大切なものは、経営理念に記されていることを実現することの筈だと言う。各社の企業理念には、「お客様のため」、「社員の幸福のため」、「地域社会のため」、などと書かれている。それをやればいいのだが、そうではないのが一般的ではないだろうか。横田氏が創業したネッツトヨタ南国では、「全社員を勝利者にする」ことの実現に向け、会社のすべての施策を考え実行していると言う。

会社のすべては、人が生み出す。人の質が、会社の質だ。経営者は社員全員が「自分は何のために働くのか」と言う目的(仕事を通じて自分を成長させる、まわりに認められて信頼される、社会や人々の役に立つ、など)を持ち、「この会社で一生懸命働くことが一番」と思ってくれるような会社にすればいい。人の「質」が大事だから創業当時から採用には力を入れている。1回5時間の面談を、3ヵ月の間に6回ほど実施。毎回違う社員が面談し、「人柄」「適正」「価値観」で判断し、一緒に働きたい人物か否か皆で考えるようにしている(中小企業だから出来る?)。

社員がやりがいを持って仕事が出来、それでお客さまに満足、感動して頂き、その姿を見てさらに働く意欲が出てくる、結果として業績もよくなる。そうした仕組みや循環を作ることこそ、大切だと横田氏は言う。12年連続で顧客満足度ナンバーワンを達成した方の経営論だから迫力がある。

退職してから、いろんな方の話を聞いたり、本を読んだりしているが、やはり「人を大事にする経営」が会社を発展させ、社員、お客さまを幸せに導くことになるとの信念がますます強固なものになってきた。今になって考えると、現役時代、やり残したことも多いが、これからも、いろんな事例をブログや講演を通じて、伝えていきたい。

「カスタマー・エクスペリエンス」を掲げる企業が・・・

「日経情報ストラテジー」の戸川尚樹記者の記事に目が止まった(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20130726/494505/?mle)。「カスタマー・エクスペリエンス」と言う言葉が注目を浴び、日本IBMや日本オラクルなど、この言葉を掲げたソリューションを提供しているIT企業も増えてきたと言う。私の記憶では数年前に、野村総研の藤沼氏(現会長)が何かの講演でこの言葉を使われ、目新しさを感じたが、今回「日経情報ストラテジー」9月号で特集を組むほどにまで注目されるようになってきたようだ。

戸川記者は、カスタマー・エクスペリエンスを「商品・サービスの選定、購入、利用、サポートまでの経験を通じて顧客が感じる価値。小売業であれば、店に行き、出るまでの全体験に満足を与える経営手法」と定義する。野村総研などは、カスタマーエクスペリエンスの必要性について、「機能や性能の優れた商品やサービでも、単一企業による独占的な事業展開は難しく、直ぐに類似サービスが市場でひしめく結果となりがち。とかく価格だけが競争軸になりがち」と言う。要は、商品やサービスを購入したり、使用したりする際に顧客が受ける「心理的・感情的な価値」が重要になってくる。

既に米国スターバックスや、アップルなど成長企業では、カスタマー・エクスペリエンスにとり組むところが多いそうだ。「ここまでやるか」と言うサービスが、ネスレグループ(ネスレネスプレッソの取り組み)やドミノ・ピザジャパン(注文から配達までボーカロイド「初音ミク」が熱唱するサービス提供)に加えて、本、ワイン、自動車教習所、ファッション通販サイト、旅行サイト、車修理・・・などの分野でもカスタマー・エクスペリエンスを高めるための工夫を凝らし始めている。

日本IBMのサイトを見ると、製品に「IBM Customer Experience Suit」があり、説明に「IBM Customer Experience Suiteは、多彩で魅力的なWebエクスペリエンスを多様なチャネルを通じて提供し、顧客関係の促進と顧客セルフサービスの向上を図ります。」とある。ORACLEも昨年7月に「Customer Experience」製品群を発表している。

顧客満足度向上の重要性が言われる中、その施策を実行する企業から「なかなか成果が出ない」との声も聞かれる。顧客は「満足」だけでは当たり前で、より大きな「感動」や「感激」「感謝」を覚えるサービスを期待している。商品の選定からサポートに至る全体験の中で、顧客がわくわくするようなサービスとは何か?「Customer Experience」を勉強する価値はありそうだ。