「稲盛和夫」カテゴリーアーカイブ

「幸せになれる法則」(岩崎一郎脳科学者)

致知11月号の特集は「幸福の条件」だ。非常に興味深い記事が多く掲載されているが、その中で「脳科学者が明らかにした“誰もが幸せになる法則”」に注目した。

岩崎先生は、歯磨きを毎日行うのと同じように、脳を鍛えること(脳磨き)を日々の生活習慣にして、幸せな人生を歩む方を増やしたいとの思いで、本を出し、また200社以上の企業に呼ばれて研修を実施されている。研修者からは「率先垂範と前向きな言葉が増えた」「人の”良い所“を探すようになった」「仲間との距離感が近くなった」など喜びの声が聞かれると言う。

脳は860億の脳細胞と、それらをつなぐ膨大な神経繊維からできている。すべての神経線維を繋ぎ合わせた長さは約50万km。そして脳が最も活性化するのは。この膨大なネットワークが協調的にスムーズに動いている時であり、それは幸せを感じている時の脳の状態であることが明らかになっていると言う。しかし、私たちの脳のネットワークは部分的にしか使われておらず、幸せな脳の状態の百分の一程度しか活性化していない。脳が最大限に活性化し、幸せを感じる状態にするためのトレーニングが「脳磨き」だと言われる。

6つの「脳磨き」の方法が紹介されている。

  • 感謝の気持ちを持つ:誰かに何かをしてもらった時に感謝する気持ちと言うより、“生きていること”への感謝など当たり前で些細なことにも感謝の気持ちを抱く事。
  • 前向きになる:①過去の経験で気持ちが前向きになったときのことを思う。②喜び、希望、誇りなどを感じる。③ポジティブな言葉がけをする。④楽しむ。⑤笑顔になる。⑥自分から元気に挨拶する。⑦小さくてもできたことに注目する。⑧⑦によってやる気を高める。⑨小さくても“成長”に目を向ける。⑩ネガティブな感情にも意味がある。
  • 仲間と心を一つにする。
  • 利他の心を持つ。脳は生まれつき利他である。利他の行動をした人はストレスを感じにくい。
  • マインドフルネスを実践する。座禅や瞑想は、無意識領域を整える。
  • AWE(オウ)体験をする。心ふるえる体験を言う。

岩崎氏は、稲盛和夫氏との出会い(盛和塾)をきっかけに、上記の研究に至ったそうだ。利益追求が前提となる経営者の立場にありながら、かくも純粋な考え方、生き方を貫いて大成されたことに感銘を受け、運命を変えたそうだ。

ともかく、人生は「心温まる、心を一つにできる人間関係を持ち続けられること」で、どんな環境に生まれ育とうと幸せで豊かな人生を送れると総括される。

追悼!稲盛和夫のすごさ!

稲盛和夫氏が今年8月24日享年90歳で亡くなられた。致知12月号の特集は「追討 稲盛和夫」だ。その巻頭言の一部を下記する。

”巨星墜つ“。その業績は巨星の名にふさわしい。京セラを開業、一代で1兆円を超す世界的な企業に育て上げた。さらに52歳の時に創業した第二電電はKDDIとなり、現在5兆円を超すマンモス企業となった。それだけに留まらない。2兆3千億円の負債を負って倒産した日本航空の再建を託され、会長に赴任したのは78歳の時である。就任1年目に1800億円の利益を出し、その翌年も2000億円の黒字を計上、就任後2年8か月で日本航空の再上場を果たした。しかし、経営者としての大業を称揚するだけでは、稲盛氏の真価に迫ることはできない。稲盛氏の非凡さは、みずからが真剣(ド真剣!)に仕事に打ち込む日々の中で体得した仕事哲学、人生哲学を著書や講演活動で余すことなく解き明かし、その言葉に多くの人が惹き付けられ、多大な影響を受けたという点にある。

今回の特集では、稲盛さんとの親交を通じて、その心を学び、活かし、その学びを他の人にも伝えたい方々の熱い言葉が並ぶ。京セラ、KDDI,日本航空の方々以外にも、永守日本電産会長、柳井ファーストリテイリング会長兼社長、門川京都市長、伊藤京都サンガFC社長など、そしてサッカーの岡田武史氏と元日ハム監督の栗山氏の対談もある。ほんとに多士済々、多くの方の、稲盛氏の経営哲学、人生哲学を実行に移し成功した体験談だ。

中でも、2013年10月2500名を超える参加者が集った大阪国際会議場での稲盛氏の講演録の中にある稲盛氏の人生哲学の出発点ともいえるエピソードに興味を持った。

稲盛氏の言葉で私にとって、もっとも印象的なのは、”利他の心”と”動機善なりや、私心なかりしか”だ。日本航空の再建を頼まれた時、航空業界は全く素人であり、高齢でもあったことから何度も何度も断られたそうだ。周囲も”晩節を汚すのでは”と心配してくれる友人も多かったそうだ。そんな状況下で、最後決断したのは「世のため、人のため役立つことをなすことが人間として最高の行為である」との人生観だったと言う。この人生観を得たのは経営の悩みに悩んでいた若い頃出会った安岡正篤の「立命の書“陰騭録(いんしつろく)”を読む」だそうだ。人はあらかじめ決められた運命に従って生きていく中で、善いことを思ったり、善いことを実行したりすることで、人生が良い方向に向かっていく「因果の法則」があるのではと思いつつ、あるときに出会った前述の本で、その考え方の正しさを確信された。400年ほど前、中国明の時代に書かれた本で、著者は袁了凡という若くして科挙に受かり、出世した人だ。彼が幼い頃出会った白髪の老人から、医者になりたいとの親子の意向に対して「彼は科挙の試験を受けて立派な高級官僚として出世する」と言われ「何歳で科挙に合格し、その後も何歳で高級長官とさり、結婚して子供は出来ず53歳で死ぬ運命にある」と言われた。まさにその通りの人生を歩み、地方の長官として赴任した土地で、とある禅師に会った。その禅師に彼は「私の人生は、白髪老人が言ったとおりの人生で何の迷いもなく心穏やかに53歳までの人生を過ごします」と言ったら、その禅師は「聡明な賢人と思ったら、大バカだった!」と烈火のごとく怒ったそうだ。その禅師曰く「確かに人には運命というものが備わっている。しかしその運命のままに生きるバカがいますか。運命というのは変えられるのです。“因果の法則”というものがあり、人生を運命のまま生きていく途中、善いことを思い、善いことを実行すれば運命は良い方向へと変わっていきます。逆に悪いことを思い、悪いことを実行すると運命は悪い方向に行く。この因果の法則というものが我々の人生は皆、厳然と備わっている。」と。彼は素直にこの話を信じ、奥様と一緒に善いことを思い、善いことを実行することに心がけた人生を歩み始めた。その結果、息子も生まれ70歳を過ぎても元気にしていたそうだ。

稲盛氏は、自らの人生哲学にこの本で確信を得て、その後の人生も、自ら打ち立てた経営・人生哲学に徹し、人生をド真剣に生きてこられた。その結果がすばらしい業績を残されたことにつながった。特に日本航空では、無償での貢献だ。すばらしい生き方と感服しつつ、わが身の生き方にいまさらながら反省しきりだ。黙祷!

JAL再生における稲盛氏の教え(植木社長語る)

前々稿から、稲盛氏関係のものが続くが、今回は「致知4月号」のJAL植木義晴社長のインタビュー記事「JAL再生一千日の闘い」から、稲盛氏の教えを紹介する。

植木氏は、まさにJAL経営破たんが決まった2010年1月19日の数日後に、機長(子会社の副社長兼)で操縦桿を握っていた氏に、再建の役割を担う執行役員運行本部長の打診があったそうだ。そして、稲盛氏の指導を直接受けることになる。そして昨年(2012)稲盛氏の推薦で社長を拝命された方である。よほど、稲盛氏のメガネに叶った方と思われる。その方が、言うには、

一人の優れたリーダーが指揮を執ることによって、人の意識がこれほどまでに変わるものなのかと言うのを実感した

と。「プライドの高いインテリ集団」「頭でっかちのインテリ集団」とも言う稲盛氏も心配した集団の意識をどうやって変えたのか?稲盛氏が名誉会長に着任されて(2010.2)から半年近くは、会議や、対話の中で鋭い指摘(今までになかった)を通じて、JALの生ぬるい風土・文化を気付かせる動きをされた(一般社員の中にも何の気負いもなく入って行かれたそうだ)。「月次実績が3か月後しか出てこないのを当たり前と思っていたのを有無を言わせず1ヵ月後に出るよう指示」「月次報告や、提案説明会などの本部長説明で、内容よりも責任を持って遂行せんとする心意気が感じられなければ、聞く耳を持たない。私と刺し違えるくらいの気迫のないものは去れ」・・・。そして6か月後から、稲盛フィロソフィーの教育を始めた。6月に17回平日の18時から22時頃まで役員・部長相手に直接講義や、DVDの聴講を実施した。そして1年目から目覚ましい業績回復を実現したが、その頃には、植木氏と言えども運航本部にいたとき本部の予算を意識したこともない集団が、ヘッドセットの修理代や雑巾一枚の価格まで、最も予算に詳しい本部長が育っていた。決算を発表しても無関心だった客室乗務員も、決算資料を我先に受け取る姿に変わっていた(決算資料なども情報漏えいのリスクを考えて社員には配布していなかったが、稲盛氏の「社員の心を一つにする力を考えると、リスクは無視せよ」との指示で公開することにしたそうだ)。

破たん後1年後には稲盛氏の教えに基づき、社内委員会で作成したJALフィロソフィー手帳を全社員に配布し、各部署で毎朝唱和するとともに教育カリキュラムにも取り入れ徹底を図った(JALフィロソフィーの概要はホームページhttp://www.jal.com/ja/outline/corporate/conduct.html参照)。その中で特に植木社長の心に響くフィロソフィーは

  • 人間として何が正しいかで物事を判断せよ
  • 人生の方程式「人生・仕事の成果=考え方X熱意X能力」:熱意、能力に関してはJALの社員は全員合格。考え方、人間性、人格の重要性を改めて認識。

さらには

  • 謙虚にして奢らず。さらに努力を

この3月末に稲盛氏は取締役を退き、以降経営には直接タッチしないと新聞では報じている。これからがJALにとっての正念場と植木社長は気を引き締め、渾身満力、全身全霊の努力を宣言されている。