「伊那食品工業」カテゴリーアーカイブ

“おもてなし”の哲学が組織を強くする(リッツカールトン)

世界最高峰のホスピタリティでお客さまを迎える「ザ・リッツ・カールトン・ホテル」元日本支社長高野登氏の講演会の内容が「PHP松下幸之助塾2015.3-4」に掲載されている。高野氏は「ものがあふれる現代社会では、“おもてなし”による人と人のつながりが企業を変革し、業績を生み出している。この言葉は今やサービス業だけのものではない。あらゆる企業にとって、社員が生きがいと働き甲斐を持ち、組織全体が成長するためのキーワードになっている」と言う。トップは社員の生きがいと働き甲斐を考え、社員は現場で成長し、組織に貢献する、こういう循環を「善の循環」と呼び、こんな理想的な会社が実在し、そんな会社をいくつも知っていると。高野氏が紹介する企業がすべて私のブログで紹介した企業であることが嬉しい。

まず、長野県の中央タクシーhttp://okinaka.jasipa.jp/archives/39)。お客様へのサービスを徹底的に差別化し、日本でもっとも「ありがとう」が飛び交う会社(お客様に対しても、お客様からも、そして社員同士でも)とも言えるそうだ。高野氏が言うには、普通はタクシーの運転手に「あなたの使命は?」と問うと、「お客さまを安全に、迅速に、目的地まで届けること」と答えるが、中央タクシーの運転手は「お客様の人生に命がけで向き合う事」と言うらしい。

次は、やはり長野県の伊那食品工業http://okinaka.jasipa.jp/archives/350)。50年近く増収増益を続けている驚異的な会社。トイレを含む職場環境の維持改善を通じて、経営者の哲学を隅々まで行きわたらせ、社員の自信や誇りを生み出している。何よりもすごいのは、採用十数名に対し8000人以上の応募があり、不採用になった人全員に手書きの手紙を送ると言う。こうして伊那食品工業ファンが増えていく。「PHP松下幸之助塾2015.1-2」にはトヨタ自動車社長と伊那食品工業社長の対談がある。お互いに尊敬しあう間柄で、経営に関する哲学について議論を交わされている。

最後はネッツトヨタ南国http://okinaka.jasipa.jp/archives/2557)。「あなただから買いたい」との人とのつながりが、幾多の危機を救い増収増益を継続している。

高野氏が言う“おもてなし”の原点は、聖徳太子の17条憲法の第一条「和を以て貴しと為す」にあると言う。”和“とは、馴れ合いではなく、一人一人が尊重し合い、相手を慈しみ、支え合うと言う精神。「何を以て何を為すか」、その原点をリッツカールトンの哲学とし、「人との出会いへの感謝を以て、その人の心に活き活きわくわくした思いを届けることを為す」と定めたそうだ。そしてドアマンや、ウェイターまで、この哲学を徹底し、行動につなげてきたと言う。組織の変革は、まずトップダウンで始まり(哲学・企業理念)、ボトムアップで完成する。トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも成し得ない。「社員が生きがいと働き甲斐を持つ会社とは何か?」真剣に考えて見たい。

「幸せの創造」をビジネスの使命として経営する会社

長野県伊那市に、寒天商材でシェア約80%を誇る企業がある。伊那食品工業だ。従業員400数十名の企業で、年間1万通ものファンレターが届き、新卒の就職希望者は毎年2000名を超えると言う。寒天製造と言う成熟産業にありながら、新技術を開発し、新市場を開拓し続け、48年にわたり増収増益を続けている奇跡に近い会社だ。(「BEソーシャル!社員と顧客に愛される5つのシフト(斉藤徹著、日本経済新聞社)」より)

早速ホームページを調べてみた。堀越会長の挨拶に「”社員1人ひとりのハピネス(幸)の総和こそ、企業価値であると確信する今日この頃です。」とある。企業理念は5ページにわてって、二宮尊徳の考え方なども含めて詳しく書かれている。社是は「いい会社をつくりましょう~たくましく、そしてやさしく」。続いて「いい会社」とはとの説明文がある。

単に経営上の数字が良いというだけでなく、会社をとりまくすべての人々が、日常会話の中で 「 いい会社だね 」 と言ってくださるような会社の事です。「 いい会社 」 は自分たちを含め、すべての人々をハッピーにします。そこに 「 いい会社 」 を作る真の意味があるのです。そして二宮尊徳の言葉を紹介している。

道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である

そして「凡事継続」のタイトルで

  • ■当社の一日は毎朝の庭掃除から始まります。
  • ■その前の通勤時は、道路を右折して会社には入ってこないようにしています。会社の前の道は片側 1車線の道路で、右折で待っていると、後続車が詰まってしまい、渋滞の元になってしまうからです。 そのため、一度通り過ぎてから、大廻して左折で入るよう心がけています。また、たとえばスーパーの駐車場に車を止めるときはなるべく離れたところに止めるようにしています。そうすれば、近い場所には妊婦やお年寄りの方の駐車スペースができるのです。

とあります。

カンブリア宮殿やクローズアップ現代などテレビ番組や、各種新聞、ラジオなどにも頻繁に取り上げられ、見学者もひっきりなしだと言う。

斉藤徹氏は、「ソーシャルメディアの時代」に生き残るのは、社員にも、顧客にも、あらゆる生活者に共感と信頼を持たれる企業のみだろうと言う。昨年フェースブックのユーザ数が10億人を超え、利用者一人あたりの投稿量は年2倍のペースで増加している。そして生活者のオープンな投稿が社会を、企業を透明にする源になり、霧が晴れるように開かれていくと予言する。考えさせられるテーマだ。