ビジネスパーソンに”リベラルアーツ”が必須!?

11月27日の日経の全面広告で、不識庵主催「“不識塾”特別シンポジウム2017」の内容が掲載されていた。テーマは「なぜ企業トップはリベラルアーツを学ぶのか」。不識塾とは、政府委員も務められた経済学者中谷巌氏が2010年に下記理念に基づいて設立された研修塾だ。
「哲学、歴史、文化、宗教、倫理などリベラルアーツ教育を通じて、確固たる歴史観と大局観を養い、以って自身のアイデンティティを確立するとともに、日本の立ち位置を正しく世界に示し、グローバルな場において尊敬される真のグローバル経営者を育成することを目指します。」
中谷氏は、「日本人は日本を含めて外国の歴史も宗教も不勉強で外国人との雑談についていけない。交渉時には雑談を通じて相手との信頼関係を得ることが重要だが、日本人は苦手。これでは真のグローバル人材としては失格。戦後実学志向でリベラルアーツ教育は軽視されてきたが最近企業でもリベラルアーツ教育の重要性が認識され始めた。」と言う。
12月18日の日経朝刊の連載コラム「池上彰の大岡山通信」でも「いま、日本の大学では、学生の教養や考える力を重んじる“リベラルアーツ”教育が注目されている」とあり、池上彰氏も「ニュースを教材に、背景にある歴史を振り返り、先人の知恵、民族や宗教を知り、多様性を受け入れる中で未来を見通す力を養う」ために大学での講義をされていると言う。最近のトランプ大統領のエルサレム首都宣言に関して、エルサレムがユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であり、宗教や歴史に対する教養が少しでもあれば今回の宣言がいかに危険なものであるか分かる筈」と非難している(大統領再選への思惑で、影響力の大きいユダヤ系人脈の支援が欠かせないことから踏み切ったとの見方もあるが)。
不識塾で講師を務められている社会学者橋爪大三郎氏の「世界トップが学ぶ 世界は四大文明でできている」(NHK出版新書、2017.10発刊)を読んだ。
宗教とは?文明とは?宗教成立以前は人類はコミュニティごとにバラバラだった。その後、普遍性のある宗教が誕生し、バラバラだった各共同体が一つの神様のもとにまとまり、共通の価値観が出来あがった。その結果横のつながりが飛躍的に拡大した。世界にはキリスト教文明圏をはじめとする4つの文明圏が存在し、世界を動かしている。4つの文明圏は世界人口73億人のうち63億人で形成していると言う。キリスト教25億人、イスラム教15億人、ヒンドゥー教10億人、儒教13億人。「文明」とは、多様性を統合し、大きなまとまりを作り出すもの。宗教がなければ人種や民族がバラバラになったことを考えると、宗教によって「人々が同じように考え、同じように行動する」ことで世界の平和に寄与しているとも言える。4大文明間では戦いも起こるが、少数民族が乱立する世界では、全く統制が聞かないことを考えると宗教の効果がわかるような気がする。一神教・多神教の違い、聖典の重み、神に対する忠誠心、カースト制(ヒンドゥー教)の意味合い、儒教と中国共産党との関係などこの歳になって初めて触れる知識に愕然とした。 “リベラルアーツ”にもっと関心を持つべきだったと反省している。

「マチ工場のオンナ」(NHKドラマ

32歳の専業主婦が、父の残した町工場の社長に!
経験ゼロの社長業に、主婦目線の現実処理能力と決断力で奮闘する、サバイバルヒューマンドラマ!
NHKのドラマのインターネットでの紹介文言です。11月24日から毎週金曜日の夜10時から連続7回放映されている人間ドラマだ。主題歌は松田聖子さんの「新しい明日」。2代目社長にNHK初主演の内山理名さん。父は舘ひろしさん。愛知県の町工場ダイヤ精機社長の諏訪貴子氏をモデルにしたドラマだ。

ストーリー(これもインターネットでの番組紹介文から)。
「専業主婦の有元光(内山理名)は、夫・大(永井大)と息子の3人暮らし。ある日、過労で倒れた父・泰造(舘ひろし)の様子を見にいくと、医師からガンで余命4日と告げられる。幼くして亡くなった兄の代わりに光を社長にしようと育ててきた泰造に反発、専業主婦となった光。病床の父を前にしても、自分の気持ちを素直に伝えられない。しかし光は、町工場を守ろうとする父の思いを知り、ついに社長を継ぐと決意。その言葉を聞いて、泰造は息絶える。
社長になると宣言した光に次々試練がやってくる。頼るつもりでいた夫は単身赴任で渡米。光をお飾り社長として見る幹部社員の勝俣(竹中直人)や純三(柳沢慎吾)たちは、光がやることに猛反発。取引先の銀行からは、女性と軽くあしらわれ、別の工場との合併を迫られる。光にとって、町工場を守ることは、亡くなった父・泰造と交わした約束。果たして、光は、町工場を立て直すことができるのか?」

期せずして、数日前に届いた「致知2018.1」に「かくして危機を乗り越えてきた」とのタイトルで、同じように32歳で倒産の危機にあった日本電鍍工業社長に突然就任された伊藤麻実氏と諏訪貴子氏の対談記事があった。
年商3億円、従業員30数名の中小企業(日本電鍍は年商9億円、従業員70名)とはいえ、32歳の専業主婦が突然社長として再建に取り組み、見事に再建を果たし、今では全国各地で年間100回の講演や雑誌の取材で大忙しとのこと。
ドラマにもあるように、父の突然の死に、一時取引先のエンジニアとして勤めた経験はあるにしても、結婚して専業主婦だった諏訪さんがなぜ倒産寸前の会社を経営者として救うことができたのか?だれもが不思議に思うのではないだろうか?伊藤さんも同じだが、共通しているのは“信念と覚悟”のように思われる。著名な経営者の本には全く興味はなく(おそらく差し迫った状況で、今なさねばならない具体的なことは本を見てもわからない、ということ?)、自分の信念(“社員と家族を守る”)を貫き通し、受けたからには退路を断ち、だめだったら、自己破産も覚悟する強い意志がすべての行動につながったものと思える。最初は施策をうつたびに社員から冷たい目で見られたが、“信念と覚悟”に基づく行動が次第に社員の共感を呼び、会社全体が意欲に満ちた元気な会社へと変貌していく。意識改革活動の中で整理整頓を率先垂範で推進し、社長就任1か月で不要なものが4トントラック一杯になったそうだ。その後は、いいことには積極的にチャレンジする風土つくり、そして次には、作られた風土をいかに維持・継続していくかの活動を展開する。社長就任時、不興を買った銀行に半年で黒字化と宣言したが、わずか3か月で数千万円の赤字を黒字にすることをやってのけた。
高度成長の後期に創業された経営者がいまバトンタッチを迎える時期でこれから事業継承のピークになる。諏訪氏は、このドラマが少しでも経営者のモチベーションやヒントになればと言う。このドラマは諏訪氏の著作「町工場の娘」(日経BP社、2014/11/14刊)がベースとなっており、これまで2回の放映を見たが、かなり事実に基づき演じられている感がした。8日夜10時第3回が放映される。3回以降で、どう再建したかが演じられる。期待したい。