「死中活あり」に生き切るヒントが!

「致知2021.12号」のテーマが、東洋学の泰斗・安岡正篤師の”六中観”の中の一つの言葉「死中活あり」だ。「もう駄目だという状況の中にも必ず活路はある」との意だ。昨今のコロナ禍の時流に鑑み選ばれたそうだ。ちなみに“六中観”とは、他に、忙中閑あり、苦中楽あり、壺中天あり、意中人あり、腹中書あり とある、人物を修練するための方途を説いた言葉だ。

選ばれた記事は、実際の自分自身の事例や、過去の人物に学ぶ事例など、非常に参考になり、興味深く読ませてもらった。2~3記事を紹介する。

最初に紹介するのは、皆さん著作本を通じてご存知の方も多いと思われる田坂広志氏(現多摩大学大学院名誉教授、田坂塾塾長)の「いまを生きよ、今を生き切れ」だ。著書90冊余、内閣官房参与も経験された方だ。若いときから私も何冊か読ませて頂いた。

32歳の時、重い病を患い、医者から「もう長くは生きられない」との宣告を受け、恐怖と絶望の日々の中、両親の勧めで、ある禅寺に行った。何か不思議な治療法があるのではと期待していったが、ただひたすら畑仕事の献労の日々に心が折れる、しかし、自分より思い病と思われる人たちの言動や行動を見て、そして、何かはげましの言葉を期待していた禅師との対話で、苦しい胸の内を吐き出した自分に対して「命は長くないのか。だがな、一つだけ言っておく。人間死ぬまで命はあるんだよ!」、さらに「過去は無い。未来も無い。あるのは、永遠に続く、今だけだ、今を生きよ!今を生き切れ!」との言葉に、時間はかかったが、大きな気づきを得た。「ああ、この病で、明日死のうが、明後日死のうが、もう構わない!それが天の定めなら仕方ない。しかし、過去を悔いること、未来を憂えることで、今日というかけがいのない1日を失うことは、絶対にしない!今日という日を精一杯生き切ろう!」と。その後東京に戻り、仕事に復帰、今日を精一杯生き切ると思いを定め、全身全霊仕事に打ち込んだそうだ。体の奥から想像を超える生命力が沸き上がり、10年たつと病の症状も消え、自分の中に眠っていた様々な才能が開花していったという。その後のご活躍は推して知るべしのところだ。田坂氏が、人生の危機や逆境を好機に転じることが出来るのは、古今東西言われている「ポジティブな想念」を持つことという。

1908年キリスト教指導者の内村鑑三が日本の素晴らしさを世界に伝えるために、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の5人の「代表的日本人(致知出版社刊)」の人生や功績を英語で現した書がある。これについてグロービス経営大学院学長堀義人氏とJFEHD名誉顧問数土文夫氏の対談記事にも注目した。いずれも常軌を逸した苦境に陥りながら、私利私欲すべてそぎ落とし、藩民、国民のための志を貫いた日本人として誇るべき特質を発揮した人たちとして紹介されている。西郷隆盛の言葉「命もいらず、名もいらず、官位も金も要らない人ほど、扱いにくいことはない。しかし、そういう人でなければ、困難を共にして国家に大いなる貢献をすることはできない」。17歳で困窮極まる米沢藩主になった上杉鷹山、その日に神社に奉納した誓文の誓い「“文武の修練は定め通り怠りなく励むこと”、“民の父母となることを第一の務めとすること”、“次の言葉を日夜忘れぬこと。贅沢なければ危険なし、施して浪費せず”、“言行の不一致、賞罰の不公平、不実と無礼を犯さぬように慎むこと”。

昨今の政治家にも是非読んでほしい書だ。“どんな苦境に陥っても、1日1日高い志をもって生き切ることに活路は開ける”。堀氏は30歳代でこの本に遭遇し、感銘を受け、グロービス経営大学院では学生たちの必須の書物としているそうだ。私も読んでみようと思っている。