死が2人を分かつとき”残された側が映す夫婦仲”(朝日新聞)

古い記事を整理していると、朝日新聞昨年1月6日の“言葉季評”に穂村弘氏の記事が出てきた。「死が2人を分かつとき“残された側が映す夫婦仲”」のタイトルだ。

私も今年1月に喜寿を迎えた。両親が亡くなったのも喜寿の年なので、以前より死を意識するようになったのか、この記事が気になった。

「街なかで仲の良さそうな夫婦を見ることがある。微笑ましく羨ましい気持ちになる。大きな何かを達成した人々に見えるのだ。ただ、どちらかが車椅子というケースもある。夫か妻と思しきもう一人が細い腕で一生懸命押している。笑顔で話す二人は仲良し。でも現実は容赦なく襲いかかってくる。夫婦はどちらかが先に死ぬんだと当たり前のことを思う。その時、それまでの夫婦関係が反転して襲いかかってくることになる。つまり仲の良かった夫婦ほど残されたダメージが大きいのだ。」との文言の後に、先立たれた相棒を偲ぶ短歌の紹介に合わせて、残された人の心情を解説している。

終わりなき時に入らむに束の間の後前(あとさき)ありや有りて悲しむ(土屋文明)

:93歳で妻を亡くし、100歳まで生きた筆者。死を意味する”終わりなき時“に比して、束の間の年月なのになぜこんなにも悲しいか。仲の良さが分かる。

一方で複雑な心情の新聞投稿短歌も紹介されている。

遊び仲間皆未亡人私だけ家路急ぐを同情される(湊規矩子)

:あなたには旦那さんがいてお気の毒ね!

ほんとうはあなたは無呼吸症候群教えないまま隣でねむる(鈴木美紀子)

:夫婦で何が起こっているのか、まだ生きている夫婦の関係性が怖い。

われ死なば妻は絶対泣くだらうそれから笑ふ十日ほどして(岩間啓二)

:ずっと泣きっぱなしでは困るが、1週間や1ヵ月ではなく10日とは?

筆者穂村氏の父は91歳で亡くなられたそうだ。母は70歳半ばで亡くなられた後父はしばらく放心していたが、寂しさを紛らわすために、登山に興味を持ち、亡くなる3か月前まで山に言っていたそうだ。父の葬儀場から帰って遺影を母の遺影に横に並べたとき、写真の母の微笑みが大きくなったとの錯覚を覚えたそうだ。夫婦の仲の良さを息子(穂村氏)としても喜ばしいことだったのだろう。

「妻に先だたれた夫は生気を失いがちだが、その逆はむしろ元気になる」との通説もあるが、

皆さんはどう考えるか?私は、生きている間はお互いに信頼しあい、楽しく生きたいと思う。「私の方が先に亡くなるから」と妻には言っているが。最後に一句、

生きる間(ま)は、思いやりつつ、幸せに、過ごす家庭が、最高よ!

お粗末でした。

謝罪の心得 危機に備える(朝日新聞)

2月19日朝日新聞朝刊24面「ドキュメント24」の記事のタイトルだ。今まさに政治の世界の裏金問題が沸騰しているので、気になるタイトルだが、当記事はこの問題とは関係なく、企業不祥事の際の謝罪の話だ。

危機管理広報会社エイレックスの企業研修風景から始まっている。INPEX(旧国際石油開発帝石)の天然ガス基地で火災が起きたとの想定での緊急記者会見の模擬訓練だ。記者席にはアイレックスのコンサルタントたちがいる。「火災は想定外?」との質問に「全くの想定外」と答えた。会見者は、万全の対策をしていたとの自負からこのような回答をしたが、コンサルタントのコメントは「“想定外”との言葉は予見できなったとの意味で一人歩きの危険がある。二者択一の質問に安易に答えると、伝えたい事実が伝わらない恐れがある」とコメント。

何かあった際、企業の社長会見が逆の反発を招くことも多い。以前には会見の際「私は寝てないんだ」と発言しさらに大きな批判を招いたこともある。最近はSNSの普及もあり、以前は問題にならないようなことも企業のリスクになるため、以前より、会見を開く基準が下がっている。実際、アイレックス本社(東京・赤坂)では年間200社が謝罪訓練をするそうだ。都内のある金融機関は、10年以上練習を続けているそうだ。

帝国データバンクによると、22年度にコンプライアンス違反発覚による倒産が300件。粉飾決算や過積載、産地偽装などが多く、05年の調査開始以降で最多だそうだ。

「会見の練習で大切なのは問題の本質はどこか、だれに何を謝るのか、社内の認識を合わせること。頭の下げ方や想定問答ばかり考えても意味がありません」。

経済広報センターが実施した経団連加盟の主要社の調査結果では、定期的に緊急会見の練習をしている企業は2年前より約5ポイント増え4割に迫っていると言う。

いざという場での記者会見が、会社の評価を決めることも多いが、こんな会社があることは全く知らなかった。今、裏金問題の政治家も、国民に向けた正直な会見が必要ではなかろうか。

人への投資・後追いの日本企業(朝日新聞)

少し古い記事ですが、今年1月13日の朝日新聞朝刊の連載記事「資本主義NEXT価値ある企業とは」が目に留まった。リード文は

工場や機械、店舗のような目に見えるものより、働き手のスキルなど目に見えないものに投資する方が企業価値を高められる。そんな考え方が広がり、欧米企業は人への投資を競い合う。「人を大事にする」はずだった日本企業は、後れを取り戻せるのか。

「人的資本経営」と呼ばれる潮流の中、人的資本に関する上場企業の開示情報を調べ尽くした経営者がいる。人材関連サービスの「Unipos」の田中弦社長だ。3月期決算の有価証券報告書を約5千社分分析したそうだ。その結果は「一部に優れた開示をした企業がある一方、サボっていた企業が多い。二極化が進んだ」と。女性の管理職比率に、男性の育児休暇取得率、男女間の賃金格差の3情報のほか、人材戦略やその目標などの開示が上場企業に義務付けられたのが2023年。分析の結果、3情報の開示で済ませた企業が大半で、充実した開示が出来たのは、6段階の独自格付の結果での上位評価が約5%に過ぎなかったと言う。

田中社長が高く評価するのが丸井グループだ。丸井は、小売りや金融にとどまらず今では、IT,物流、住宅などのビジネスに幅を広げている。丸井の考え方は、「企業価値と人的資本の関係は氷山のようなもの。見えやすい財務データとは違って“見えない資本”として人的資本がある。水面下に隠れているが、人的資本の分厚さこそが企業価値を生む源泉」とのことだ。青井社長は、「人財のポテンシャルを全開に出来る組織やチームをいかにつくるかが、資本主義の要」と言う。その考え方に沿って、社員のポテンシャルアップにいろんな施策をこうじている。一例をあげる。重要な経営課題について月に一度話し合う「中期経営推進会議」。幹部に限定していたメンバーを、希望する社員にも広げた。毎回1000人近くが手を上げ、論文審査を通過した約300名が参加する。新規事業や、昇進試験、職種をまたぐ移動も希望者を募る。自ら手を挙げた経験がある社員が8割を超えると言う。失敗を許容する活動として「挑戦する文化」作りにも力を注ぐ。新事業立ち上げなどの挑戦を打席数と数え、会社で5000回の目標を掲げて推進している。成果として、祖業の小売りや金融にとどまらず、IT,物流、住宅など幅広いビジネスを立ち上げ、今はPBR目標に届いていないが、将来的に5倍に引き上げたいと言う。

その他にも、新薬を生み出す力が企業価値を大きく左右する「アステラス製薬」や、人口減で経営環境が厳しい地方銀行「北国フィナンシャルホールディングス」の企業へのコンサル事業に活路を見出すための賃金体系の見直しなど、人材の活性化を目指す具体的な諸施策を実施する企業が増えつつある。

大学でも、「人的資本など会計上の数字では表せない”見えない資本“への先行投資が、長期的には高い確率で企業価値を高める」とデータで示した研究結果も出ている。人件費を1割増やすとPBRが7年後には3%増える”正の相関”を東証主要型株で観察した結果だそうだ。

日清食品ホールディングスでも、2021年から取り組みを強化し、「女性の育児短時間勤務を増やすと1年後にPBRが上がる」などの関係を多く見つけたと言う。「どんな具体策が”エンゲージメント”と企業価値を高めるかの分析も独自に始めているそうだ。

前述の田中社長「人口減が進む日本では、人に関する戦略の優劣が企業価値に直結する」、さらに「労働市場が明らかな売手市場になれば、人材戦略を語れる会社とそうでない会社には大きな差がつくだろう」と警鐘を鳴らす。

日本のGDPは、ドイツに抜かれ4位になり、いずれインドにも抜かれると言われている。人口減が急速に進む日本の将来を考えると、欧米にも遅れをとっている「人への投資」を生産性向上の施策として、真剣に考えるべきではないだろうか。

冲中一郎