SESよもやま話(JASIPA研修)

24日にJASIPA研修委員会とES委員会共催で、「SES契約業務について考えて見よう」との趣旨で、参加者によるフリーディスカッション形式の研修会が開催された。最初に、テーマに関する話題提供のために30分私の方から話をさせていただいた。JASIPAに集う企業は、中小(どちらかと言うと小)IT企業が多く、SES契約を主体としてお客様に技術者を常駐させる仕事の形態を主としていると聞く。しかし、日本のIT企業の将来を心配する声も多く聴かれ、SES業務に関して、「今のままで良いのか」と懸念する経営者も多いとの事で今回の研修会となった。当初は参加者がどの程度集まるか心配だったが、JASIPA理事の皆さんはじめ、15~16名の経営者の皆さんに参加して頂いた。

以前からJASIPAでは若い経営者を対象に「経営者サロン」を開催してきた。会員企業にお邪魔して、講演会も何度か実施させて頂いた。その際の私のテーマは「お客様の信頼を如何に勝ち取るか」と言う事だった。私も、SESあるいは派遣のような人月商売の生ぬるい環境下では人は育たないし、お客様にプロマネ力など実力を誇示できるのは、成果物を保証する”請負契約“しかないと考えてきた。しかし、”請負“は成功すれば大きな成果を生むが、失敗は多く、リスクは大きい。中小企業にとってはなかなか”請負“に踏み切れないし、仕事を受注するのも難しい。私の考え方を変えたのは、ソニックガーデン倉貫氏のJASIPA定期交流会での講演だった。”SES“”人月契約“でもお客さまからパートナーとして絶大なる信頼を勝ち取ることも可能であることを知った。その視点で見れば、他にもSES契約主体の仕事でお客様の信頼を勝ち取り、リーマンショックの時でも固定客からの受注を増やした企業(キューブシステムなど)もある。

日本のIT企業が、お客様の信頼を勝ち取り、かつ社員の成長を図るための仕事としてリスクの大きい”請負“を目指さずとも、”SES”でも仕事の仕方、させ方の工夫で目的を達成することは可能と考えることもできるのではなかろうか。SES業務では、客先常駐でも、チームで仕事をするケースが多いと思われるが、その際、お客さまからの要求も考慮しながら、部下に対し明確に納期、アウトプット内容、レベルの指示を行い、その目標達成に向けて指導すれば、請負と同じ緊張感で遂行できる。お客さまあるいは、上司からの指示が曖昧であれば、部下からも積極的に指示を明確にするよう要求、確認する。まさに「お客さまとの契約はSES、部下との関係は請負」ということだ。そんな風土を醸成することが、結局はお客様の信頼を得て、社員が成長できることにつながると言える。さらに、「頑張れば報われる世界」を実現するためには、営業として、社員の実力レベル、お客さまからの信頼レベルを常にウォッチしながら、お客様との単価交渉に臨まねばならない。これらの仕事の仕方は“請負”業務でも必須のことであり、このことが出来ていないことが、”請負“業務を全うできす、”請負“の失敗が多い大きな要因とも言える。まとめると、”SES”,”請負”と言う契約形態とは関係なく、どんな仕事でも、下記の事を常に念頭に置いての業務遂行が必要であり、また可能であるということだと考える。

  • お客さまから良きパートナーとして永続的な信頼を勝ち取ること
  • 社員・組織の提案力、開発力、技術力の成長が永続的に図れていること
  • 頑張れば報われる世界を作ること

当研修の後半では、「人月商売のメリット・デメリット」「10年後の仕事は」「JASIPAの今後」のテーマに関して3グループで議論して頂いた。JASIPA会員企業の皆様の忌憚のない意見交換から、将来のヒントを掴んで頂く場として、今回の試みに対する参加者の皆様の評価を得た。今後も続けて頂きたい。

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人類と地球の大問題~真の安全保障を考える~(丹羽宇一郎)

標題は今年1月にPHP新書として発刊された本の題名だ。伊藤忠商事社長、内閣府経済財政諮問会議議員、国際連合世界食糧計画(WFP)協会会長などを歴任、2010年には民間初の中国大使に就任。その間、世界各地を訪問して、気候変動や食糧、水、エネルギー問題の差し迫る実態を見聞した結果に基づいて、50年先の世界の未来、日本の将来に警告を発している。

冒頭で、「本書で、私は”50年後の世界“について考えたいと思う」、そして「食料にしろ、エネルギーにしろ、海外からの輸入なしには生きていけない日本は危機への耐性が最も低い国の一つと言える」と。さらに「近年日本の経済界は目前の事ばかりに目を向けて、50年、100年単位の射程で社会を考えることが失われてきたように感じる。地球温暖化にしても食糧危機にしても、やがては間違いなく自らに降りかかることである。未来を見据えて、社会がどうあるべきかを精査、検討したうえでメッセージを発信するのは、経済人の重要な役割ではないだろうか。経済人ばかりではない。政治家もメディアも有識者も、50年後の日本の姿について、国民にわかるように語ろうとしない。(中略)その結果、日本が将来に向かう姿は”海図なき航海“を続ける船そのものと言える。」とも。

地球温暖化は着実に進んでいる。台風や豪雨による自然災害は世界的に増えている。日本での熱中症患者も1994年から急増している。温室効果ガスの中でも7割を占めるCO2はなかなか分解せず、寿命は300~500年と言われている。メタンも16%を占め、CO2の約25倍の温室効果があると言われている。しかし寿命は12年強のため、やはり今後も含めて温暖化を促す影響は圧倒的にCO2が大きい。大気熱を吸収する森林、海、土壌ももはや限界にあるそうで、これらが、限界にきて熱を放出するようになれば大変なことになる。COP21で合意した温室効果ガス削減目標を各国で達成したとしても、上昇を2℃以下とする目標には届かないと言う。ニューズウェーク紙は昨年、今世紀末までに2℃を超えて上昇すれば現在の文明は立ちいかず、今の子どもたちが生きている間に東京、上海、ニューy-ク、ロンドンなどの沿岸都市は人が住めなくなると警告している、

水に関しては、温暖化による干ばつの影響もあり、現在のペースで水の消費が続けば2030年位は必要な淡水が40%不足し、今世紀半ばまでには、最悪の場合60ヶ国70億人、最善の場合でも8か国の20億人が水不足に直面することになると言う。水資源を最も多く利用しているのは農業用水(7割)で、世界の人口増加に伴い2007年から2050年までに世界の農業生産を世界全体で60%増やさなければならない。牛や、穀物などを育てるのに水が多量に必要になる。例えば牛肉1㎏に穀物11㎏と水20.6トン、小麦1㎏に水2トンなどのように。食糧を輸入に頼る日本で、全ての食料を自前で作ろうとすれば琵琶湖の2.7倍の水が必要になると言う。中国や米国の地下水も枯渇が懸念されている。

ほとんど輸入に頼っている日本のエネルギー問題も将来を考えれば大きな懸念材料だ。もともと石油、天然ガス、石炭、ウランなど可採年数は後50年~100年とも言われている。今から水や地熱を主体に再生エネルギー開発技術に本腰を入れなければならない理由だ。

ともかく現在72億の世界人口が2062年には100億人を超えると言う。それもアフリカやアジアの後進国で大幅に増えると言う。食糧や水、エネルギーなどの面で先進国と、後進国の格差がますます広がり、テロや戦争がますます頻発することが懸念されている。

「今どの国も戦争や紛争に労力を費やしている余裕はない。中でも自給自足では生きられない日本は、自由貿易を前提に“平和と友好の国”として、世界のあらゆる国と協調関係を結ぶ。それは未来を生き抜くための大前提である。」と丹羽氏は言う。14億人を抱える中国においても同じ問題を抱えている。日本は中国をはじめ米国と欧州と共同で「地球の生命線を守る国際フォーラム」の結成を提唱してはどうかと提言もしている。50年後、100年後の世代のためにも“目前させ良ければ”との考えを改め、将来の危機に関する議論をもっと沸騰させるべきではなかろうか。

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“深層対話力”で仕事の効率UP!

最近、囲碁の世界で「人工知能、トップ棋士破る」のニュースが連日報じられている。米グーグルが開発した「アルファ碁」と世界トップ級のプロ棋士、韓国のイ・セドル九段との対戦で「アルファ碁」が勝利とのニュースだ。チェスや将棋に続き、今まで一番難しいと言われていた碁で人工知能が勝ったから大騒ぎだ。カギとなったのは深層学習(ディープラーニング)とか。「人の脳内で進む情報処理を真似てデータに潜む特徴を自力で見出す」技術との説明がある。人間の直感をビッグデータを基に言い当てる、その精度が今回の囲碁で実現できたとなると影響力は大きいとも思える。「ロボットの脅威~人の仕事がなくなる日」(マーティン・フォード著、日本経済新聞社刊、2015,10など、世間もますます騒がしく成るだろう。我々人間も計算機に負けない実力をさらに磨かねばならない時代になる。

「仕事の技法」(田坂広志著、講談社新書、2016.1では、身につけば仕事力が圧倒的に高まる「対話の技法」について書かれている。仕事の根幹は「対話」であり、その対話には1種類あると言っている。

  • 表層対話:言葉のメッセージによる対話
  • 深層対話:言葉以外のメッセージによる対話

言葉以外のメッセージを如何につかむか、これが仕事力に飛躍的UPの根幹と言う。15日の日経朝刊1面「アジアひと未来」で「パパイア売りから420億円企業」との題でインドネシアのハイフラックスCEOオリビア・ラム女史が紹介されていた。マレーシアの村に孤児として生まれ、電気も水もない貧しい生活の中で、成績は優秀で進学し、商売を夢見ながら、路上でパパイアを売っていた。その時、客に声をかけ相手の望みを察する術を身に付け、その後ウェートレスや家庭教師で稼ぎ大学まで行ったとある。この術こそ、田坂氏の言う「深層対話力」ではないかと思う。

「深層対話力」は上司、同僚はもちろん、お客さまとの関係においてもより重要になる。これを身に付けるためには、「反省の習慣」が効果的と言う。商談の帰りに、「A部長の反応と心の動きは?」「B課長の質問にあの答えは正しかっただろうか」「C担当のあの質問の背景には、どんな思いや考えがあったのだろうか」・・・。たしかに、このような反省を習慣づければ、相手との対話をより注意深く行うようになり、深層を探るようになっていくのだろう。よく私も、「お客さまとの飲み会などで、お客様のグチなどにも注意せよ」と言っていたことを思い出すが、お客様の本音は正式な場での言葉だけでは知ることが出来ない。しかし、「深層対話」には、落とし穴もあると田坂氏は警告する。「相手に深い敬意を持って接する」ことをしなければ、相手を意のままに操ろうとしたり、無意識の傲慢さに陥りかねない。

「受託開発からサービス提供」型への脱皮を目指すIT企業にとって、お客様自身の悩みや課題を聞き出すことは非常に重要だ。その意味でも田坂氏の言う「深層対話力」を磨くために、「反省の習慣」を考えて見てはどうだろうか。

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