表題のような衝撃的な記事が昨日(2月28日)の日経朝刊17面のコラム(一目均衡)に掲載されている。日経編集委員西條郁夫氏の記事だ。世界有数のPR会社(米エデルマン社)が世界28か国で毎年実施する調査結果らしい。
その最新の結果では、「CEOは信頼できる」と答えた回答者はわずか18%と国別で日本はなんと最下位だった。1位はインドの70%で、米マイクロソフトやグーグルの現CEOはインド出身者というからうなずける。先進国は成熟した経済環境の中で総じて低い評価になっているそうだが、ビリから2番目のフランスの23%に比しても低い。なぜこんなに低いのか?
西條氏は、東芝などの不祥事発生があるが、米国に比して悪質とは言えず、そればかりが原因とはいえないと言う。この疑問に対して、調査会社の社長の仮説はこうだ。
「日本の経営トップが何を考え、何をしているのか、一般の社員や社会が目のあたりにする機会が諸外国に比べて少ない。このvisibility(可視性)の低さが信頼の低さにつながっているのではないか」
「可視性」の高さで傑出するのは日産自動車のカルロス・ゴーン氏。米国ではユナイテッド航空のオスカー・ムニョスCEOが有名で、愛嬌のある風貌で各地の空港を回り社員と交流し、その結果、現場のモラルが目に見えて向上し、定時就航率を大きく上昇させた。西條氏は言う。「政治への信頼も同じだが、CEOへの信頼が薄いと、経営陣がいくら改革の旗を振っても社員が呼応せず、停滞が長期化する恐れがある。今の日本企業はその落とし穴にはまってないだろうか」と問題提起している。
「社員ファースト」か、「顧客ファースト」か議論はあるが、多くのCEOが言う「社員が気持ちよく働けないようでは、顧客満足はない」ということは正しいと思っている。前職で、入社3年目の社員との昼食会を毎年開催した(30数回/年)が、社員から「社長は毎日会社では何をされているのですか」と何回か問われ、社員向け社長ブログを始め、社の方針、自分の考え方や、国内外のIR,講演会など諸行事を発信することにした。社長は雲の上の人で、日ごろ特別な事をしているのではとの思いだったのだろう。これではダメだと思い、各支社にも社員とのコミュニケーションのため出かけたが、もっとやり方があったのではと思う事しきりだ。経営陣と社員が気軽にコミュニケーションできる環境つくりは、明確な意思の元での粘り強い取り組みが必要ではなかろうか。当ブログでも、社員を大事にし、お客様を大事にする松下幸之助氏など有識者の考え方を紹介している。ぜひ参考にしていただきたい。
「組織・風土改革2017」カテゴリーアーカイブ
八芳園の危機を救った人
年間挙式披露宴組数がピーク時の3分の一にまで落ち込み経営危機に陥っていた八芳園に平成15年、ブライダル企業、婚礼システム販売会社を経て入社した井上義則氏(昭和45年生まれ、現八芳園取締役専務総支配人)。その後4年でⅤ字回復を成し遂げた、その軌跡と、困難を乗り越える要諦を語ったインタビュー記事が、「致知2017.3」に掲載されている。タイトルは「困難を乗り越えたとき、人は輝く」。
井上氏は、当時危機状態にあった八芳園から誘いの声がかかったとき、周囲の人百人中百人が「お前が行ったところで何も変わらない」と反対するなか、敢えて困難に飛び込んだ。しかも、生意気にも、オーナーに「肩書は要りません。2年で黒字化できなかったら切ってください」と宣言して入社したという。その頃、偶然日本ビクター社のVHSの開発をめぐる実話を基にした映画「日はまた昇る」を観たことで触発され、自分も自分の命を情熱的に燃やせるような仕事に取り組みたいと、一人で勝手に燃えたと笑う。
井上氏がやったことは、まさに「カスタマー・ファースト」。何もしなくてもそれなりにお客様は来てくれることで安心し、お客様の期待以上のものを提供できていない組織、いわゆる”大企業病“を克服するところから始めた。自分が率先してお客様と接する回数を増やし、やる気のある若手をサービスの責任者に抜擢しながら、多くの社員が同じボートに乗りはじめるように誘導した。お客様の要望を聞きながら、チームでお客様の願いを叶える”Team for Wedding”のスローガンが共有され実行されるようになった。「入院中のお父様にウェディング姿を見せたい」「生みの親にも見せたい」などに応えるために、部署を超えて組織が一つのチームになっていく。4年で挙式披露宴1000組を2000組にした後も、継続的に企業、社員の成長を期するために、ビジョン(日本人には心のふるさとを、海外の方には日本の文化を)やミッション(いつまでもあり続けること)も作り、それに向かってサービスを考え、組織を変革していく。
井上氏は言う。「リーダーとは、一隅を照らす人。火種や困難を見つけたら、そこに飛び込んで、変革して、皆を輝かせていく人」。自らも八芳園に身を投じたことでここまで自分の人生が変わるのかと納得感が強い。2020に向けて、八芳園のOMOTENASHIの精神、15000坪の日本庭園を武器に、観光事業への貢献、日本文化の発信に一層力を尽くしたいとも言う。「さらなる困難があるなら、僕はそこに飛び込んでいきたい」と意気込む井上氏の覚悟のほどに、自分の過去を振り返るとその足元にも及ばないことに気付かされる。「せめて、これからは」と思いつつ、と思いつつ、井上氏のその覚悟と実行力には頭が下がる。
人を大切にする経営(日本レーザー)
以前、「致知」の記事の紹介で「人を大切にする経営で見事再建!(日本レーザー)」とのタイトルで日本レーザーを紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/3075)。PHP出版の雑誌「衆知(旧松下幸之助塾)」2017.1-2月号にも、松下幸之助塾での講義録として、「責任はすべて社長にあり~信念と覚悟で実践する“社員を大切にする会社”~」のタイトルで日本レーザーが紹介されている。「致知」と「衆知」双方で掲載される会社が多いのは人間学と経営学に共通するものがあるということだろう
1994年に日本電子から子会社の「日本レーザー」に社長として出向し、就任2年目で債務超過の会社を黒字化。その後23年間、一切のリストラなしに黒字を達成し、維持し続けている。平成23年に「日本で一番大切にしたい会社大賞」の企業庁長官賞など、名誉ある表彰を軒並み受けている。その人とは、近藤宜之氏だ。前回のブログと重複するところもあるが、特に親会社からの独立も含めて、経営者と社員が当事者意識をもって一丸となるための各種施策を紹介する。
“子会社の社長は親会社から”という“子会社の社員のモチベーションの壁”を打ち破ると同時に、経営の独立独歩、独立自尊を達成するために一般的なIPOや自社株を他社に買い取ってもらうM&A,経営陣による買収MBOではなく、日本で初めてのMEBO(Management and Employee Buyout 経営陣と従業員による買収)の手法をとって親会社から独立した。しかも、ファンドは入れずに自己資本と銀行からの借り入れだけで日本レーザーを買収した。すでにある銀行からの借入金の補償問題などもあったが(前稿参照)、社員(正社員のみではなく嘱託社員も)から希望枠の4倍もの申し込みがあり、急遽資本金を増やして再登記したそうだ。
なぜ社員がこんなにも会社を信用して投資をしたか?近藤社長は、日ごろからの施策で社員のモチベーションが高まっていたからだという。社員の間で「会社から大切にされている」実感があったから。その施策とは?
まずは、社員のライフスタイルに応じた多様な雇用制度。1日4時間勤務のパート、6~7時間勤務の嘱託契約社員、8時間勤務の正社員。状況に応じて派遣社員から正社員にと移行可能となっている。また、病気の人には地位と待遇を維持し、闘病期間中もそれまでと同じ給料を払い続ける。60歳以上でも成長意欲のある人は嘱託社員としていつまでも働ける。女性が生き生きと働ける職場つくり、女性の育成にも注力している。該社では。妊娠・主産を理由に退職した人は1件もないという。女性の管理職比率は3割と高い。
これらの雇用制度を効果的に運用するためにも、社員一人一人の思いを知らなければならない。それには社長が社員と向き合うこと。社長室を作らず、社長がフロアを歩き回り、社員とさりげなく話を交わす。「今週の気付き」という施策がある。仕事で気付いたことや家庭での出来事など何でもいいので感じたことを毎週メールで送る。ルールは、“人の批判をしない”、“気付きで問題点が含まれている場合は解決策も併記する“こと。10年続けているが社員からのメールと社長、役員が返信したメール合わせて約6万通となり、社長のパソコンの社員別フォルダーに保存されているそうだ。
教育や人事評価制度にも力を入れている。社長自らが社員を教育することが重要と考え、毎週「社長塾」を開いて創業の志を伝えたり、毎月の全社会議で講義をしたりしておられる。人事評価制度は”透明性“と”納得性“を重視し、例えば評価制度では、上司と本人が決められた項目に関して評価をし、その差を納得できるまで時間をかけて説明する(年2~3回実施)。賃金制度では、粗利の3%を成果賞与として、案件別にチームで話し合い配分を決める。その際、案件の主体となる社員が上司の貢献度合いを決める権利を持ち、結果は公表する。この運用をスムースに行うために社員の一体感を醸成するための施策も重要で、社内ラウンジ(冷蔵庫に缶ビール)があり、就業後社員が集う場として活用している。社員の誕生日には社長直筆のカードとギフトを送る。
“言いたいことが言える社風”もモチベーションのために重要と言う。言いたいことが言えるかどうかは社長次第。社長が変わらねばと、ムッとすることもあるが、3秒おいて落ち着くように努力しているそうだ。“日々の経営は、社長にとってまさに修業の場”とも。
まさに信念と覚悟で築きあげた風土、そして23年間黒字を維持するという結果が、その成果を示している。社員を大切にしないと公言する社長はいないと思うが、建前として大切にすると言いつつ、苦境に陥ると社員よりも業績重視となって、社員を切り捨てる経営者もいる。「社員が気持ちよく働ける会社」、「精神爽奮(爽やかに奮い立つ)」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/20)を具現化することで、社員の能力UPを図ることが経営の基本とも言えるのではないだろうか。今話題の「働き方改革」にも役立つ話と考える。