「営業ノウハウ」カテゴリーアーカイブ

「真の口コミ営業」=アンバサダー・マーケティング

「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司法政大学大学院教授)としてメーカーズ・シャツ鎌倉を以前紹介した(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/entry/8437)。そのメーカーズ・シャツ鎌倉の貞永良雄社長が「PHP松下幸之助塾2015-6号」に登場している。その記事の中で、創業時[1993年]の苦労談を語りつつ、自分がものづくりに関わり、人付きあいの好きな奥様が販売を担当するスタイルを作ったことが成功の源だったと言われている。そして、社長曰く、妻に「きょうは5万円売ってよ」と頼むより、「いらっしゃるお客さんに親切にして、全員リピーターにしてほしい」とお願いする方が長い目で見れば効果的だ、と。最初は友人や知人ばかりだったのが、一度来店された方がお友達を連れてこられることが多く、徐々に売り上げが伸びていったそうだ。

アンバサダー・マーケティング=熱きファンを戦力に変える新戦略~」(ロブ・フュジェック著、土方奈美訳、日経BP社。2013・10)では、「アンバサダー」とは、ある会社を熱烈に応援し、見返りを求めずに、商品の魅力を広めてくれる人の事と定義している。値引きや特典を受け取ることを動機とする「ファン」や「フォロワー」と違って、「素晴らしい体験を伝えたい、他の人達を助けたい」との純粋な動機で推奨してくれる人だ。アメリカでは、靴のネット販売ザッポス、アマゾン・ドット・コム、レッドブル、ボディショップ、グーグル、スターバックスなどは広告に頼らず有力ブランドに育ったが、まさにこうした企業においては、アンバサダーこそがマーケティング戦略だったと言う。メーカーズ・シャツ鎌倉もアンバサダーによって成長を遂げたとも言える。

私も講演を時々頼まれることがある(テーマは「お客さま第一、既存客を大事に」)が、その際に、顧客を分類して、各分類ごとに対策を講じることの重要性を訴えている。顧客は、「潜在客」から、一度買ってくれると「顧客」、繰り返し買ってくれる「得意客」、さらに「支持客」、他の人に推奨してくれる「代弁者」、客を連れて来てくれる「パートナー」と進化する。恐らく「代弁者」「パートナー」レベルがアンバサダーと言える。

友人や同僚に、ある商品を勧めるのは責任が伴うため、よほど慎重になるものだ。アンバサダーを発掘する際の究極の質問は「当社を友人に強く薦めようと思いますか?」で、答えを0~10(強く薦める)の数字で答える、9もしくは10と答える客はアンバサダーと見ていいと著者は言う。

お客さまに真に喜んで頂ける商品を提供することが基本であることには変わりはない。顧客を固定客化するには、商品の価値と、売る人の人間性、会社の社会性などがモノを言い、「あの会社の商品なら友人、知人に安心して推奨できる」と思ってもらう事だ。「コンシャスカンパニー」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1718)そのものでもある。

顧客の期待値を下げるIT営業

昨年5月に諏訪良武氏の「サービスサイエンス」を紹介し、お客様の事前期待を把握し、そして期待を上回る実績を出すことによって、お客様を繋ぎとめることが出来ると言った(サービスに関する“事前期待”についてhttp://jasipa.jp/blog-entry/6387)。その中で、「お客様の期待はやればやるほどキリがなく高まっていく。サービス会社は常にサービスレベルを上げていかねばならないが、それでは会社はつぶれる」、だから「お客様の事前期待のマネージメントが必要」と紹介した。

10月16日のITproで次の表題の記事に目が止まった。『顧客の期待値を下げる“IT営業”、「満足の科学」のススメ(by 日経コンピュータ玄忠雄)http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20121012/429499/』。玄氏も、「顧客満足度を高める上で。顧客から期待が過剰に高まっている状態は危険だ」と言い、ネットコマースの斎藤氏(IT営業のコンサルタント)の「顧客の期待値をあらかじめ下げることこそ、IT営業の仕事だ」との発言を紹介している。もちろん、競合他社がいる進行中の商談で、顧客の期待値を下げる営業活動は実のところ難しい。まずは、自社が可能なことに正直になり、受注が欲しいがための安請負などをしないと言う姿勢が必要との主張である。

顧客企業の担当者に、自社の提案の欠点や自社では対応できない点など、過剰な期待を抑制するためのネガティブ情報を伝えることも重要。前向きな提案ばかりよりも、正直に、お客様のことを真剣に考えている心情を理解してもらえれば、提案者に対する信頼感も増すのではなかろうか。顧客の期待値を適正に保ち、これに応え続けることが顧客の満足を生み、信頼につながる。ユーザー企業との継続的な関係維持のため、改めて満足の仕組みを科学してみてはいかがかとの玄氏の提言である。

私も、過去SEを統括する役割を担っていたが、ほとんどのバースト案件は、売上を重視する営業が無理をしてとってきたものだった。結局受注時お客様にいいことを言って、結果失敗すれば、その顧客を失うばかりではなく、自社にも大きな打撃を与えることになる。玄氏の提言にあるように、「お客様の事前期待のマネージメント」に関して、科学してみることも重要ではなかろうか。

選ばれる営業、捨てられる営業

各種業界のバイヤー(購買部門)の声を基に現代の営業マンに求められる「営業力」を解説した「選ばれる営業、捨てられる営業」(勝見明著・日本経済新聞社)の本が8月に出版されている(TOPPOINT10月号より)。この本で言う「バイヤー」は、我々の言う「お客様」、それも「受注判断の出来るお客様」ととらえることが出来る。

勝見氏は次の5つの能力が求められていると言う。

  • ①顧客シミュレーション力:激変する事業環境の中で、バイヤーは複雑で高度な課題に直面している。そんな中で、バイヤーの立場となって考える「顧客シミュレーション力」がまず求められる。バイヤーの立場の人に力を貸すことが出来れば、バイヤーはお客の中で地位を高めることが出来、業者とより親密な関係に発展できる可能性が拓ける。バイヤーは顧客選択の責任を負っており、例えば業者が納期遅れを起こした時、社内で先頭に立って弁明をしなければならない立場にある。営業マンに対して、バイヤーは自社での立場を考え、その思いを共有してほしいと言う。「マニュアル通りに商品をただ紹介する営業マンが多い中、バイヤーの思いを知ろうとして、ストーリー立てして説明しようとする営業マンには、いろいろな内部事情もついつい話してしまう。」と打ち明ける。つまりは、相手に対する「思いやり」と「気配り」があれば顧客シミュレーション力も高まり、顧客シミュレーション力の高い営業マンに対しては心を開き、貴重な本音ベースの情報を提供してくれる。
  • ②社内調整力:営業マンは売るだけが仕事ではなく、売ったものをお客様の期待に添うように実行に移すことが重要だ。その実行に対する自信は、実行のための最善の体制を作るための社内調整力がベースとなる。バイヤーは商品を決める際に、この力も見ていると言う。この力は、営業マンの自分が背負っている商品に対する強い思い入れでわかるそうだ。
  • ③共感力:お客様の「よりよくありたい」との課題を共有し、相手の課題を自分のものとして感じ取ることが出来るようになることが、誰にも負けない熱意を生み出し、顧客を感動させる原動力となる。注文を逸しても、商品の問題にせず、お客様のニーズをしっかり理解できなかったことを反省し、次に活かすことも重要。
  • ④基本力:約束した時間を守る、相手の興味を引くプレゼンをする、など基本中の基本を確実に実行できる力。
  • ⑤情報力:市場の情報を収集し、それに付加価値をつけて発信する力。「お客様の役に立ちたい」との思いを仕事の中心に据えることによって、視野が広がり、感度の高い情報力が身に着く。

我々IT業界にも通用する話、特にIT業界の構造的問題とも言われる「顧客従属型(顧客から言われるままに仕事をする)」から脱皮し、「顧客パートナー型(顧客と一体となって提案・実行できる)」となるための考え方として大いに参考になるもと思う。