未来に向けての企業の挑戦が始まっている!

日経の連載「成長の未来図」を紹介してきたが、未来の成長に向けすでに企業で始まっている取り組みが、いろんなメディアで取り上げられている。

ファーストリテイリングは中途採用の年収を柳井会長兼社長の年収4億円を上回る最大10億円に引き上げる。日本企業の中途採用の平均年収の200倍超にあたり、国内では最高水準とみられる。衣料品は米アマゾン・ドット・コムなどIT(情報技術)大手との競争が激しくなっている。世界からデジタル人材を集めて衣料品の製造・販売が中心の収益構造を変え、新たな事業モデルを構築する。(1月16日日経朝刊)

日立全社員ジョブ型に~高度人材、内外から募る~」(1月10日日経朝刊)。記事の導入文は次の通り。「日立製作所は7月にも、事前に職務の内容を明確にし、それに沿う人材を起用する「ジョブ型雇用」を本体の全社員に広げる。管理職だけではなく、一般社員も加え、新たに国内2万人が対象になる。必要とするスキルは社外にも公表し、デジタル技術など専門性の高い人材を広く募る。」

日立本体では、11年からジョブ型導入の準備を進め、21年度は国内管理職には導入済み、今回の導入拡大で国内グループ会社を含め16万人の2割がジョブ型で働くことになり、今後子会社にも広げていくそうだ。賃金も基本的には職務に応じて決まり、需要が大きく高度な職務は高くなる。働き手にとってはスキルの向上が重要になる。従業員のスキル向上のために経営側は社員のリスキリングの場を拡充する。19年に3つの研修機関を統合した「日立アカデミー」を設立し人工知能などデジタル関連分野では100種類のメニューを用意している。

年功色の強い従来制度を脱し、変化への適応力を高める動きが日本の大手企業でも加速する。ジョブ型を巡っては、KDDIも2021年の管理職に続き22年4月に一般社員にも拡大する。ジョブ型は欧米では一般的な働き方で、日立も海外の買収企業含め、海外の21万人の大半はすでにジョブ型で働いている。

1月16日のNHKニュースでは、メルカリYahoo、NTTの働き方改革を紹介していた。テレワークが広がる中、IT業界では、国内であればどこで勤務してもいいよう、住む場所に関する制限をなくす動きが出始めている。働き方の自由度を高め、優秀な人材の獲得にもつなげるねらいだ。テレワークを原則としているメルカリは去年9月から、従業員およそ1800人を対象に、国内であれば住む場所や働く場所に制限を設けず、自由に選べる制度としている。NTTもテレワークを利用し、転勤制度をなくすとのことだ。

社員が意欲をもって働ける環境つくり、優秀な人材が集められる環境つくり、今後、上記のような動きが加速されることは間違いないと思われる。うかうかとしておれない!

男女平等が活力を生む(日経)

日経の連載「成長の未来図」の第8稿(1月9日)は、「アイスランド、09年の大転換“男女平等が生む活力”」のタイトルだ。日本は21年のジェンダーギャップ指数が156か国中120位と先進国では最下位だ。賃金格差は22.5%におよび、OECD平均12.5%より大きい。成長のためには女性の力を活かすことを考えねばならないとの視点で課題を考えている。

アイスランドの事例が紹介されている。2008年のリーマン・ショックの際、危険な投資にのめり込んだツケが回り、財政が破綻する危機に陥った。その原因が、男性中心の経営に起因し、コンプライアンスの意識を欠如させたと分析し、女性を積極的に登用する社会への転換を図った。19年に初の女性首相が誕生し、企業などに女性役員比率を4割以上にするよう求めた。その結果、11年以降のGDPの成長率は3.5%に高まった。09年ジェンダーギャップ指数でトップに躍り出た。世界で初めて男女の同一賃金を証明するよう義務付け、違反があれば罰金を科す。男女の賃金格差をリアルタイムに把握できるアプリも開発し(イケアやボーダーフォンなど世界かの有力企業から注文が相次ぐ)、意識の改革だけではなくデータで賃金差をなくすことに全力を挙げた。各種施策で優秀な女性が集まったとのことだ。スウェーデンのウブサラ大の奥山陽子助教授は「北欧のように女性の視点を現場に取り入れなければ、日本は再浮上できない」と訴える。特に創造性の高い研究開発分野での活躍を見込む。日本政策投資銀行の25年間に得た知見では特許資産の経済効果は男女混合チームの方が男性だけの場合より1.54倍に上がった。同行は「女性が加わることで多様性が高まり発想力が豊かになる。男性も刺激を受けてより成果を出そうとする」と指摘している。当記事は「男女平等を成長の原動力にする国が目立つ中、日本は女性を生かす社会を描けていない。賃金格差、子育て、積極的な登用などの課題に本気で取り生まなければ成長へのきっかけはつかめない。」と締める。

全日(8日)の第7稿は「”公益企業”米で増殖、還元優先は株主本位か?」がタイトルだ。米国でも長い間「企業にとって最も重要なのは株主利益」という考え方が強く、日本でもいまだに配当重視への偏りが目立つ。それが2019年8月に米経営者団体BRTが「企業の目的に関する声明」を出し「企業は顧客、従業員、取引先、地域社会、株主を平等に大切にすべきだ」などと主張してから流れが変わりつつあると言う。

これまで、「成長の未来図」の連載記事を紹介してきたが、「国や企業は変わる勇気を示せるか、覚悟が問われる」今、企業が稼いだ利益を人への投資をはじめ、将来の成長を促す積極的な投資に回すメカニズムを構築することの必要性を訴える。

当連載記事の冒頭、「資本主義が3度目の危機にぶつかっている。成長の鈍化が格差を広げ、人々の不満の高まりが民主主義の土台まで揺さぶり始めた。戦前の大恐慌期、戦後の冷戦期と度重なる危機を乗り越えてきた資本主義は、また輝きを取り戻せるのか。成長の未来図を描き直す時期に来ている。」とあったが、日本の将来に向けて重要な問題提起として、考えさせられた。岸田総理が主張する“分配と成長の新しい資本主義”の検討が始まり。今年の夏に具体的な実行計画が出せるとの事。参院選の後にした理由はともかく、次代を担う若者が将来に希望が持てる具体的な施策をぜひとも打ち出してほしい。

目指す明日は見えますか(日経)

前稿の日経朝刊1面「成長の未来図」記事の続きです。1月5日第4稿のタイトルは「動くか“社会エレベーター” 目指す明日は見えますか」だ。

社会エレベーター”とは、OECDが提唱した指標で、各国の所得格差の大きさや教育・雇用を通じ、最貧層から平均層に変わる確率を2018年に分析したもの。指標は最貧層に生まれた場合、1世代30年として平均所得に届くまで何世代かかるかを示す。

データ的には、中国やインドの7世代に対して日本はOECD平均(4.5世代)より良く4世代となっている。が、インドは「ITの巨人を征服するインド人」と言われて、昨年11月にツイッター社最高経営責任者についたパラグ・アグラワル氏に沸いた。地方の借家で育ち37歳で飛躍を遂げた。IT分野はカーストに規定がなく職業選択の制約を受けず、貧しくても秀でていれば競える。ユニコーン企業は21年11月時点で48社に上り日本(6社)を圧倒、年6万人超の人材が米国へ羽ばたく。地元メディアによるとグーグルCEOのスンダー・ピチャイ氏も冷蔵庫がない質素な家庭から上り詰めた。

一方、日本のエレベーターの動きは鈍い。低成長で賃金の伸びは低い。「大人になったとき親世代より経済状況がよくなっているか?」、ユネスコが21か国の15~24歳に尋ねた調査で日本の「はい」の割合は28%で最低。ドイツ(54%)や米国(43%)を大きく下回る。日本の問題は平等主義と指摘する。突出した能力を持つ人間を育てる気運に乏しく。一方で落ちこぼれる人を底上げする支援策も十分でない。自分が成長し暮らしが好転する希望がなければ格差を乗り越える意欲はしぼむ。北欧の施策が参考になると言う。北欧各国の国内総生産(GDP)に対する教育の財政支出は4%超、2.8%の日本との差は大きい。日本は能力を高めた人に報い、活かす発想も乏しい。「世界は人材育成の大競争時代に入った。一人一人の能力を最大限に生かす仕組みをどう作り出していくか。さびついたエレベーターを動かす一歩がそこから始まる」と記事は締める。

6日の第5稿は、「寡占が奪うダイナミズム、競争こそが野心の源泉」のタイトルだ。世界のトップ10%の企業がM&Aを重ねて右肩上がりで収益を伸ばす一方で、圧倒的多数の企業ではほぼゼロ成長が続く。日本でも同じ構造だ。競争が減ることで投資は細る。OECDによると00年から19年までの日本の研究開発投資の伸びは30%にとどまり、中国の13倍や、欧米の70%に大きく見劣りする。ケインズは「野心(アニマル・スピリット)が失われると資本主義は衰退する」と。「企業の野心を呼び覚ます土壌を作り直さなければ成長の未来は見えない」と締める。

7日の第6稿は、「高齢化の不安乗り越える。センテナリアンの挑戦」だ。

昨年6月に米ワシントン大で「今世紀中に人類の最長寿命が130歳まで延びる確率が13%」とした論文が発表された。センテリアンとは、1世紀を生き抜いた人々を示す言葉だ。「高齢化率が高い日本は、社会保障費の増大による財政、家計への圧迫という負の側面だけを見るのではなく、リモートワークや自動化の技術などを最大限駆使することで、元気で旺盛な高齢者の社会参加をどう促していくか、それ次第で未来の光景は大きく変わる」と締める。