“問いかける”ことこそコミュニケーションの基本

人の話を聞く姿はすさまじかった」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1929)松下幸之助のことをHISの澤田社長が述べた記事だ。松下幸之助は、「相手に問いかけて」「相手の答えを真剣に聞く」姿勢で社員に対した。それが社員との絆を深めることになり、幸之助信奉者やファンを増やすことにつながったとも言われている。

問いかける技術~確かな人間関係と優れた組織をつくる~」(エドガー・H・シャイン著、金井壽宏監訳、原賀真紀子訳、英治出版、2014/12)をつまみ読みした。コミュニケーションで大事なのは「話す」ことより「問いかける」ことと言う。人間関係を築く3つのポイントとして下記を挙げる。

  • 自分から一方的に話すのを控える
  • 「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
  • 傾聴し、相手を認める努力をする

とかく自分がしゃべることに一生懸命になりやすい。相手に質問するのも上手ではない。ましてや、謙虚な姿勢で聞くとなるとさらに難しい。コミュニケーション・アナリスト上野 陽子氏の「説得の効果増! 聞き上手になる5つのトレーニング」の記事がPRESIDENT Onlineに掲載されていた(http://president.jp/articles/-/15094)。「プレゼンでも営業でも、あらゆる場面で“話を聞く”ことが、説得の切り札の一枚となるもの。しかし、本当に相手の話を理解しようとすることは、かなりの神経と体力すらも消耗する作業かもしれない。だから、努力が必要」と言う。相手が話しやすくなるように聞く作業として、下記のような動作をあげる。

  1. うなずく:相手に同意を示すことで、相手は話を進めやすくなる。
  2. 相づちを打つ:相手の意見を受け入れ、話を促す。
  3. 相手を見る:話を聞いている姿勢を示す。
  4. 質問をする:真剣に理解する姿勢を示し、さらに話を掘り下げる。
  5. メモを取る:相手の意見を真剣に受け止める姿勢を見せる。

そして、「さらに踏み込むなら、わからない点を確認したり、「こういうことですね。なるほど」と話を要約したりするといい。話はさらに広がるし、真剣に話を聞く姿勢が示せるようになる。そして、相手の話の腰を折らずに、関連する内容やエピソードを提示することで、相手もさらに話を展開しやすくなる。」とも。「問いかける技術」にも通じる話だ。

「聞き上手」がコミュニケーション成立の必須条件で、信頼関係を作るためにも、一方的にしゃべることをまずは控えることから始めてはいかがだろうか?

がん患者の駆け込み寺「がん哲学外来」って知っていますか?

22日の各新聞朝刊に元ワイルドワンズ加瀬邦彦氏の訃報が報じられた。グループサンウンズ華やかなりし時代の我々団塊世代の青春の歌「想い出の渚」をYouTubeで聞きながら加瀬氏を偲んだ。加瀬氏は喉頭がんで声が出なくなったそうだが、悲しいことに自殺の可能性が報じられている。「つんく」も喉頭がんで声が出なくなったが、生きる為に声を失う決断(がん切除手術)をしたと言う。この年になると、同僚や同級生ががんで亡くなることが目立つ。ガンの告知を受けた時の気持ちを思うと惨憺たる気持ちに襲われる。さぞかし、声を生きがいにしてきた加瀬氏とつんく氏も多いに悩まれたことと思うが、生きることへの決断は二人で違った。

「致知2015.5」に「“がん哲学”が日本の医療を変える」とのタイトルで一般社団法人がん哲学外来理事長(順天堂大学医学部教授)樋野興夫氏のインタビュー記事がある。そのリード文は

いまや国民の二人に一人が罹るといわれるがん。突然の宣告に直面した患者の多くは、生きる意義を見失い、悩み苦しんでいるという。そんな患者たちの駆け込み寺となっているのが、樋野興夫教授が提唱する「がん哲学外来」だ。

とある。「がん哲学外来」は2008年に開設し、今では全国に70か所の拠点がある。

患者の多くはがんと宣告されたことで鬱的になる人が多く、自殺未遂を起こす人が3人に一人はいるそうだ。樋野教授は、「日本の医療は医療者中心で患者視点からは遠い」との問題意識から、がんを宣告されることで、生きることの根源的な意味を考えようとしている患者さんが最も必要としていることは何かと考え、患者さんとの対話の必要性に思い当たり、「がん哲学外来」の創設に至ったそうだ。樋野教授は個人面談の形で患者に対しておられるが、他の拠点では、患者が中心となってお茶を飲みながら語り合う自主的な運営となっているとの事。

樋野教授は、大学浪人時代に出合った尊敬する人から、「自分の専門外の本を、寝る前に30分読む習慣を身に付けよ」と教わり、薦められた東京大学初代総長南原繁や新渡戸稲造、内村鑑三などの書物を読み漁った。そして彼らが説く「人間いかに生きるべきか」という思索の中に入っていったことが、自分自身を形成したと言う。「人生における邂逅の三大法則は、よい先生、良い友、そしてよい読書」とも。そして、患者の心を読みながら、これらの著名な方々の発する言葉を“言葉の処方箋”として薬の代わりに出されている。例えば、ガン治療後職場復帰したが、もとの重要な仕事に戻れず辛さを吐露する患者に、内村鑑三の「人生の目的は品性を完成するにあり」の言葉に基づいて

人生の目的は仕事の成功でも世間の賞賛、ましてやお金持ちになることでもない。それよりも今自分の目の前にあることに一所懸命取り組むこと、そして人に喜んでもらうことによって品性が磨かれていく。だから耐えることで品性が生れ、品性を磨くことによって本当の希望が生れる

と患者に伝えている。そんな言葉が100程度あるそうだ。家族ともどもほとんどの方が涙を流されるという。

「がん哲学外来」の各拠点には、1日70名くらいの方が来られると言う。がんに罹り、心身ともに疲れ切った時には、「がん哲学外来」を活用して自分を見つめ直し、これからの生き方に思いを馳せることにしては如何だろうか?加瀬邦彦氏に合掌!

感じる力が生きる力に!

前稿で、“共感力”について“コミュニケーションを良くし、対人関係をより良いものにするカギは「共感」にある”と言い、そして共感力を磨くために“考えるな、感じろ”と言う言葉も紹介した。

“感じる”と言うことに関して「致知2015.5」に共感できる言葉が掲載されている。会津出身で一昨年のNHK大河ドラマ主人公新島八重に関する著作や講演で有名なエッセイスト大石邦子氏と文筆家の石川真理子氏との対談記事「この人生を凛として生きる」の中の一節だ。対談を締める言葉としての石川氏の発言だ。

私も日々の暮らしの中で心掛けているのは、毎日小さな感動を積み重ねることです。毎日をただ何となく過ごしてしまうと、同じような日々が流れていくだけになってしまいますが、自分の目に映る世界を、心を以て眺めてみると、世の中は感動に溢れていることに気付きます。そうすると、生きていることそのものが感動だと思えるようになりますね。「平凡な人生」など、実はひとつもなくて、生きる上では誰もが苦しみ、悲しみを抱えているわけですが、感動する心がある限り「生きていることは喜び」だと思えるのではないでしょうか。

22歳で交通事故に遭われ半身不随となられた大石氏が壮絶な煩悶、苦悩の生活を乗り越えられ、「トイレに行けた、寝返りが打てるなんて、普通の人からすれば何でもない事だと思いますが、あがき続けた人間にとっては本当に嬉しい事なんです。そういう感動は今も続いていて、動きの鈍い左手で何かが持てたとか、今までできなかった事が出来るようになったりするんですよ。」との言葉の後の石川氏の言葉だ。大石氏は、心の制御ができず病院でも当り散らしながら自殺をも考えたことがあるほど心が荒れていた。変わられた直接のきっかけは看護婦の愛情だったそうだが、その後は両親、友人、とりわけ勤めていた出光石油の出光佐三氏から注がれる愛情に対する感謝の気持ちが生きる力を与えてくれたと言う。福島の震災事故にも思いを馳せながら「絶望は乗り越えれば力になる」と説得力を以て力強く話される。大石氏は

人間は生きてみなけりゃ分からない。苦しみはそれぞれで、みんなそれぞれ苦しみを喜びに変えて、生きる力に変えている。そういう風に人間は創られているのでしょうね。

と。死の淵を彷徨いながら、生きる力を得て70歳を超えられた大石氏の発言だけに迫力がある。