デンマークはなぜ福祉国家?

「政治不信2.0」(http://jasipa.jp/blog-entry/7233)でデンマークについて少し触れた。中・高校生が積極的に政治に関心を示し、国会議員選挙の投票率が1953年憲法制定以来80%を切ったことがないということに、日本の現状を考えると驚かざるを得ない。「なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか、どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか(ケンジ・ステファン・スズキ著、合同出版)」という長いタイトルの本の要約が「TOPPOINT(一読の価値ある新刊書紹介)」に掲載されている。著者は、青山学院大学中退後の1967年にデンマークに渡り、日本大使館に勤務、その後農場経営などをし、デンマーク国籍も習得された方である。

デンマークでは、出産費用に始まって葬儀代まで国家が負担する、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉政策がとられている。教育も、「教育とは国家を支える人材を育成する国家的事業「と考え、原則無料である。教育の成果は個人に恩恵をもたらすばかりではなく、社会を豊かにすると考えられているからだ。

デンマークでは80%以上が自分の国を愛していると答える。単に答えるだけではなく、自ら行動している。自国を愛するがゆえに高額な納税をし、徴兵制度を導入し、中・高校生から政党活動・政治活動に参加している。さらには食料の自給率、エネルギーの自給率向上も政府の支援ではなく自らの活動で高めている。今話題のエネルギーも2005年には欧州諸国では最高位の156%になり輸出もしている。1973年のオイルショック時までは外国の石油に100%依存していたのを市民が先駆けて風力発電を導入し、2000年ごろには風力発電を一大産業に育て上げた。現在電力の20%が風力発電で賄われ、その8割が個人か市民の共同所有という。日本では「国を愛している」と言っても「国を愛するがゆえに行動する」とまでは行かないところにデンマークと大きな隔たりがある。

もともと半島や島で構成されている国のせいもあり、中央集権国家体制が発展しなかったこともあるが、産業界と政治・行政との関係は薄く、談合や汚職も少なく、税金の使途も明確なことから、高額の納税でありながら、国と国民の信頼関係の構築につながっていると言える。

日本の現状を改革するためには、著者は国民全体の国政への関心を高めることから始めよという。そのためには、小学校から日本史や世界史の普遍的な歴史教育の強化を図り、特に中学・高校では近代史の歴史教育に力を入れる。そして政治家の政治運動は高校や大学でも行い、政党代表による政策討論会を行う。討論のテーマは国の現状を踏まえた改善策に重点を置く。他にも、地方分権の強化、公務員制度の改革、エネルギー事業の公共事業化などを提案している。これらを総合して、「あるべき国家の理念」を創るべし、国家を自分の利益のために利用して憚らない政治家、税金の無駄使いを何とも思わない官僚を許容している社会状況を変えるべしと主張する。

昨日、野田総理が慶應義塾大学で講演したというニュースが流れ、「社会保障と税の一体改革」に関して、学生からも質問を受けたと言う。学生から「我々も真剣に考えねばならないことを痛感した」との意見もでていたが、いいことだ。「政治不信」真っ只中の現状を放置せず、孫の時代につけを絶対廻さないことを念頭に、何をせねばならないか考え、行動せねば、日本は世界から取り残されることになる。

ソーシャルネットワークは世界を変える!?

先週27日日経ホールにて「NIKKEI安全づくりプロジェクト」シンポジウムがあった。基調講演として、早稲田大学大学院非常勤講師、一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事の津田大介氏が「ソーシャルネットワークはあなたの安全・安心をどう変えていくか」をテーマに語られた。私は津田氏をはじめて知ったが、SNS界では著名人で、皆さんもよく御存じの方だと思う。

著書に「Twitter社会論」や「情報の呼吸法」(共に朝日出版社)があり、今回の講演で興味がわいたため、帰りに後者の本を買って読んだ。東日本大震災では、24時間「情報ハブ」の必要性を感じ、いろんな情報を必要な人に即時性を持って届ける役割をボランティアで果たされたそうだ。この時痛感したのは、現在のマスメディアが如何に役立たないかという事。「○○では、水がなくて困っている」「水を届けた、次は△△がない」や「放射能レベルのデータが欲しい」など常に変化する必要情報を如何にタイミング良く必要な人に届けるかが、非常時には必須になる。非常時に得たい情報を呼び掛けると、即座に多くの情報が寄せられ、今回の地震でもソーシャルメディアで助けられた人が多くいると言う。東京直下型地震が4~5年以内に来るとの観測が広まっているが、このような手段になじんでおくことが必須かも知れない。

津田氏は、人が何か行動したいとき、後ろを押してくれるのがソーシャルメディアと言う。Twitter以前を「出る杭」に例え、ソーシャルメディアを「納豆」に例えた。すなわち、以前はやる気があって主体的に行動できる人達しか行動に移せなかったが、今は、誰か飛び出す人がいると、追いかける人たちが出てきて大きなムーブメントに成長すると言うのだ。従来つながらなかった人たちが自然につながり、ムーブメントが起きる。モルドバ、中国、タイ、チュニジアなどの革命をソーシャルメディア革命と呼んでいるが、彼は革命を起こしたのがソーシャルメディアではなく、人を動かし動員したのがソーシャルメディアと言う。津田氏は、自著『Twitter社会論』が出たときのことを話した記事がインターネットで紹介されている。発売前日に紀伊国屋のTwitterアカウントのツイートで入荷を知り、「買いに行く」とツイートしたところ、ブックファーストのTwitterアカウントも入荷したと反応。さらに、まわりのみんなが反応して買った。さらに、みんなで感想文をTwitterに書いてRTも飛び交い、今でいうソーシャル読書会状態となったという。

斉藤徹氏著作の「ソーシャルシフト」(日本経済新聞社)が出版されている。ソーシャルメディアが誘起するマーケティング、リーダーシップ、組織構造までおよぶパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」と呼んでいる。「マーケティング」は説得ではなく共感をめざし、「リーダーシップ」はオープンリーダーシップ(メンバーから献身と責任感を引き出す能力を持つ新しいリーダーシップ)へ、「組織構造」は営業やサービス部門だけではなくすべての部門で顧客との接点を持つものへと変化し、企業も顧客から「信頼できる友人」になるべきと言う。

私もFACE BOOKに参加しているが、具体的なメッセージのやり取りにより、以前に比ししっかりとした交友関係が広がり、また使い方次第では、多くの人と即時につながる中で何かのお役に立てるチャンスが広がることを予感している。ソーシャルネットワークを注視し、その効用についてさらに勉強したい。

観光立国日本を目指して

昨日新高輪ホテルで日経主催のWTTC(World Travel & Tourism Council)グローバルサミットプレシンポジウムがあった。4月に第12回グローバルサミットが初めて日本で開催される(東京と仙台)ためのプレシンポジウムという位置づけだった。小泉首相時代の2003年にツーリズムを21世紀最大の産業とすることを目標として、外国人の日本への招致を拡大するために「観光立国日本」を打ち上げた。観光の生産への波及効果を含めて53兆円(2009:GDPの10%近い)の経済効果を生んでいるそうだ。しかし、なかなか成果の伸びが思わしくなく、「どうやったら外国から観光客を呼び込めるか」をテーマに「世界が誇る日本の観光資源の強み」に関するパネルディスカッションが面白かった。

まず長野県の小布施を世界に紹介し、元気にしたセーラ・マリ・カミングス氏(現株式会社枡一市村酒造場代表取締役)の話は会場を沸かした。ペンシルバニア大学を出てすぐ来日。1年間留学のつもりで来たが、小布施の魅力に取り込まれ20年近く居ついてしまったそうだ。葛飾北斎の小布施にしかない肉筆画や、400年の歴史を誇る栗菓子に魅せられ、栗菓子を扱う小布施堂に入社しつつ、利き酒師の認定を受け、葛飾北斎とそのパトロンが飲んだという酒造会社の復興に尽力した。その会社が現在代表取締役を務める枡一市村酒造場だ。当初は4人しかいなかった蔵人も、今では若い人も増え、小布施の酒として世界にアピールできている。その後も、毎月ゾロ目の日に開催している小布施ッション、今年10周年を迎え、参加者8000人、ボランティア1500人を抱える小布施見にマラソン(今年は7月15日開催)など多彩な行事を実施している。外国人の参加も多いそうだ。また「小布施は農業が基盤」として、米つくりにも挑戦、無農薬野菜にも取り組んでいる。何かをやると言えば「ダメ」と言われるが、手を挙げなければ「タメ」(手を挙げずにやればいい)、「×」は横に倒せば「+」になると、ともかく苦しみながら前向きに挑戦してきた姿勢を「ギャグ」で表現。

テレビでおなじみの涌井雅之東京都市大学教授は言う。1980年以降心を豊かな方が、モノが豊かな方よりいい、ものを売る時代からライフスタイルを売る時代に変わってきている。1国で、こんなに豊かな景観を持っている国はない。感性を刺激するライフスタイルを求める世界のアクティブシニアは日本を好いている。

パネラーのANAの常務が、セーラさんの話に共感をし、機内のお酒に小布施の酒を採用したいと宣言するハプニングもあったが、強み、良さを知るには、外部の人を招き入れるのが最も手っ取り早いのかも知れない。価値観の違いを認め、差分から強み、弱みを知る。これは自分の会社の強み、弱みは他社との差分を認識できなければ分からないのと同じことと言える。自分の強みもいろんな人との付き合いの中で分かってくる。昨日はセーラさんの話を聞けて、大きな人生のヒントが得られたが、日本の産業が縮退必至の時、観光事業についても、日本人自ら日本の良さをアピールせねばと思う。

冲中一郎