アフリカでの研修はいかが?

アメリカではグローバル人材育成のために、アフリカのような新興国に人を派遣する取り組みが注目を集めているそうだ。なぜ?これから多くの企業にとって市場となる新興国では、これまでのような先進国のやり方を押しつけて行く方法は通用せず、その国の文化や価値観を肌感覚で理解し、現地の人びとを巻き込みながら新たな価値を創っていくことが必要となる。それには「新興国の社会に深く根をおろしているNPOに入り込み、現地の人々と同じ目線で働く経験を社員に積ませるのが一番近道」ということらしい。日本でもそのような企業の人材育成に取り組んでいるNPO法人がある。クロスフィールド代表理事の小沼さんが「生産性新聞(日本生産性本部出版)2012.1.25号」に「日本をひらく」というコラムで上記のことを紹介されている。クロスフィールドでは、企業の人材を新興国のNPOへと派遣し、そこで数カ月に渡って本業のスキルを活かして現地の社会問題解決に挑むプログラムを提供している。先進国に留まって学ぶ「留学」と違って、途上国に留まって実際に職務にあたるため「留職」と呼んでいる。

朝日新聞の「仕事力」(2012.1.29)のコラムに、藤原和博氏(最新刊に「坂の上の坂」がある)の記事がある。アメリカの若者が選ぶ多様な体験を仲介するNPO組織であるティーチ・フォー・アメリカが人気を博しているそうだ。この組織は、大学を卒業して就職が内定した若い人を対象に、その企業の承諾を得て、2年間ほど最貧地帯の子どもたちを教えるプロジェクトに参加させてくれるそうだ。エリートたちに、多様性と一番厳しい現実を体験させて彼らの成長を促す(残念ながら日本では教員資格がないと海外でも教育につけないそうだ)。藤原氏は「目の前を歩いている先輩はもうあなたのロールモデルではない。親や先生が唱える安全便利な人生ではなく、自分自身が夢中になれることを選んでグッとくる場所に飛び込んでしまう。霧の中でも晴れるまで待たず、とりあえずゴルフボールを打ってしまえ!」と若者に呼びかける。

先述の小沼氏は「日本企業は既存ビジネスの延長線上だけではやっていけない。瑞々しい感性を持った若手が新興国の未知なる世界へと入り込み、時代を切り拓く変革の種を見つけることなくしては、日本の未来はない」と言い切る。一考する価値はあると思う。若者よ、頑張れ!

前向き3K(感動、感謝、感激)職場への改革

JUAS(日本情報システムユーザー協会)主催のセミナーが2月3日にあった。このタイトルのセミナーは昨年11月に引き続き2回目だ。IT業界は3K(きつい、きたない、苦しい)職場と云われ続け、学生の情報工学系志望者も激減している憂慮すべき事態が続いている。そんな中、危機感を持って、人材育成や社員のモチベーションUPや職場改善に努め、前向きな3K(感動、感謝、感激)の職場へ改革している企業も数多くある。その企業事例を紹介し、さらに多くの企業での取り組みを加速させることを狙ったセミナーである。

第1回はDICインフォメーションサービス、住友電工情報システム、東京海上日動システムズの事例紹介があった(私は参加できなかった)。第2回目の今回は、ベネッセグループのシンフォーム、ワークスアプリケーションズ、コベルコシステムの3社からの事例紹介があった。

どの会社も、事例を発表される方(リーダー)の熱い思い、信念と行動力が伝わり、このような職場改革は、経営者とタッグを組む強いリーダーがいたから改革が出来たのだとの感を強くした。シンフォームさんでは、社長の思いを受けて、トヨタ自動織機から転職された取締役が強いリーダーシップを発揮し、属人的になりがちな仕事の見える化を徹底的に図ってチームでの仕事に改革、各人のスキルを見える化した。さらにはコミュニケーションの活性化、創造性の発揮を目指したいろんなスペースを設けるなどの職場環境の改善を実施してきた(コクヨの支援を得ながら)。

ワークスさんは、急激に規模を増やしている(連結で2500名弱)中で、「働きがいのある会社(Great Place to Workが主催)」5年連続受賞、しかもここ3年は1位か2位と言う企業である。ワークスの最大の特徴は「採用」にある。経験・知識以上に、自分で考え、自分で解決出来る人を重視しているが、これは筆記試験や短時間の面接では不可能と判断。「問題解決能力発掘インターンシップ」を宝が眠っている第2新卒対象に6カ月単位で実施。課題を付与し、最終ゴール到達者を採用(第2新卒市場に各企業が注目し始めたので、2003年から新卒採用開始。その際は1カ月インターンシップとした)。ブランド力がないときだったので、目玉として採用内定者には「入社パス」(3~5年他社に勤めても採用を確約)を発行する制度を実施したところ、現在300人採用に対し、3000名が応募してくるとか。失敗を許容、成果よりもプロセスを重視する風土を徹底、退職しても3年以内なら復職可能な「カムバックパス」の交付(講演者もこの権利を活用した方)など、いろんな取り組みをされている。

コベルコシステムさんは、IBM出身の社長のもとで、経営・人財企画部のベテラン女性グループ長(講演者)がきめ細かい活動を推進。各分野でのプロフェッショナル認定制度、スキルの共有化、新人アドバイザー制度など社内報を最大限活用して人を紹介しつつ、動機付けを行っている。CS経営、人財経営に関して、そのスローガンを毎年社員応募で決定、「ありがとう数珠つなぎ」も2010.2以降32名の「ありがとう」を社内報に紹介している。(ちなみに2012CSスローガンは「感じよう!お客さまの声 超えよう!お客さまの期待」、人財は「技術・人間力・情熱あふれる人財で埋め尽くす」)

「働きやすい会社」ではなく、「働きがいのある会社」は、「企業の最大の資産は社員」との強い認識に基づき、日々社員の成長を期する施策を打っている。そして強力なリーダーがいる。このような事例を参考に魅力あるIT業界を目指して欲しい。

デンマークはなぜ福祉国家?

「政治不信2.0」(http://jasipa.jp/blog-entry/7233)でデンマークについて少し触れた。中・高校生が積極的に政治に関心を示し、国会議員選挙の投票率が1953年憲法制定以来80%を切ったことがないということに、日本の現状を考えると驚かざるを得ない。「なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか、どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか(ケンジ・ステファン・スズキ著、合同出版)」という長いタイトルの本の要約が「TOPPOINT(一読の価値ある新刊書紹介)」に掲載されている。著者は、青山学院大学中退後の1967年にデンマークに渡り、日本大使館に勤務、その後農場経営などをし、デンマーク国籍も習得された方である。

デンマークでは、出産費用に始まって葬儀代まで国家が負担する、いわゆる「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉政策がとられている。教育も、「教育とは国家を支える人材を育成する国家的事業「と考え、原則無料である。教育の成果は個人に恩恵をもたらすばかりではなく、社会を豊かにすると考えられているからだ。

デンマークでは80%以上が自分の国を愛していると答える。単に答えるだけではなく、自ら行動している。自国を愛するがゆえに高額な納税をし、徴兵制度を導入し、中・高校生から政党活動・政治活動に参加している。さらには食料の自給率、エネルギーの自給率向上も政府の支援ではなく自らの活動で高めている。今話題のエネルギーも2005年には欧州諸国では最高位の156%になり輸出もしている。1973年のオイルショック時までは外国の石油に100%依存していたのを市民が先駆けて風力発電を導入し、2000年ごろには風力発電を一大産業に育て上げた。現在電力の20%が風力発電で賄われ、その8割が個人か市民の共同所有という。日本では「国を愛している」と言っても「国を愛するがゆえに行動する」とまでは行かないところにデンマークと大きな隔たりがある。

もともと半島や島で構成されている国のせいもあり、中央集権国家体制が発展しなかったこともあるが、産業界と政治・行政との関係は薄く、談合や汚職も少なく、税金の使途も明確なことから、高額の納税でありながら、国と国民の信頼関係の構築につながっていると言える。

日本の現状を改革するためには、著者は国民全体の国政への関心を高めることから始めよという。そのためには、小学校から日本史や世界史の普遍的な歴史教育の強化を図り、特に中学・高校では近代史の歴史教育に力を入れる。そして政治家の政治運動は高校や大学でも行い、政党代表による政策討論会を行う。討論のテーマは国の現状を踏まえた改善策に重点を置く。他にも、地方分権の強化、公務員制度の改革、エネルギー事業の公共事業化などを提案している。これらを総合して、「あるべき国家の理念」を創るべし、国家を自分の利益のために利用して憚らない政治家、税金の無駄使いを何とも思わない官僚を許容している社会状況を変えるべしと主張する。

昨日、野田総理が慶應義塾大学で講演したというニュースが流れ、「社会保障と税の一体改革」に関して、学生からも質問を受けたと言う。学生から「我々も真剣に考えねばならないことを痛感した」との意見もでていたが、いいことだ。「政治不信」真っ只中の現状を放置せず、孫の時代につけを絶対廻さないことを念頭に、何をせねばならないか考え、行動せねば、日本は世界から取り残されることになる。

冲中一郎