「利他の心」を経営指針として

主要格付け会社から国内銀行トップの評価を得ている「静岡銀行」。「利他の心」は、頭取を平成17年(当時52歳)から続けておられる中西勝則氏の信念でもある。製造業にしろ、サービス業にせよ、事業を営む者に共通する精神であると思うが、銀行はとかく「雨が降ると傘を取り上げる」と揶揄されがちな業界と言われていた。しかし、経済成長と共に企業の成長をサポートしておればいい時代はとっくに終わり、低成長時代を迎え産業構造が変化する中、淘汰されていく企業への対応が不可欠となってきた。そして雇用を確保し、地域の発展・繁栄に寄与することが一大使命になってきたとの認識である。就任当時「金融とは他を利することによってこそ成り立つ仕事である」と言っても腑に落ちず、怪訝な顔をする行員が多数だったと言う。しかし、粘り強く言い続けることによって、利他の心に基づく行動があちこちで表れているとのこと。

他にも自らの気持ちを律する際には「足るを知る」、行動を律する際には稲盛氏の「動機善なりや、私心なかりしか」なども心の拠り所にされている。倉田百三や中村天風などの読書体験から得たものを心の支えや経営指針にしておられる。しかし、何事も消極的な姿勢では目の前の困難に立ち向かう事はできない。積極的に臨めば打つ手は無限に存在するのだと中西氏は言う。中西氏がそのことを指し示してくれた詩として実業家の故滝口長太郎氏の残された詩を紹介されている。

すばらしい名画よりも/とてもすてきな宝石よりも/もっともっと大切なものを/私は持っている/どんな時でも/どんな苦しい場合でも/愚痴は言わない/参ったと泣き言を言わない/何か方法はないだろうか/何か方法はあるはずだ/周囲を見回してみよう/いろんな角度から眺めてみよう/人の知恵も借りてみよう/必ず何とかなるものである/なぜなら打つ手は常に/無限であるからだ

「サンクスカード」が普及しているそうだ。同僚・友人・家族からもそうだが、もっとも嬉しいのはお客様から頂く「ありがとう」の言葉だと思う。他人に感謝の心を、そして他人から感謝の心を!これが普遍的な幸せの原理、そして事業成功の原理でもある。(「致知2012.2号より」

付加価値UPが生きる道!

「致知2012.2号」に町田市の「でんかのヤマグチ」の社長が投稿されている。創業30数年を迎えた平成8年、地元に大型量販店が進出するとの話が入ってきた。あっという間に近隣に6店舗も出来、売上が年30%も近くも落ちることが予測され、3~4年で借金は2億円以上に膨れ上がったそうだ。生きるか死ぬかの瀬戸際で、社長が決断したのは、まさに逆転の発想、10年間で粗利率を10%UPし、35%にすることだった。当時大型量販店は平均15%、地元の電気屋が25%程度だったとか。「そんなことできる筈がない」との周囲の声が多かったが社長は「それ以外に生きる道はない」と決断した。

商品を「安売り」ではなく、「高売り」すること。そのためには、商圏をこれまでの3分の一まで絞り込み(行き届いたサービスの限界)、50代からの富裕高齢者層に絞り込んだ。お客を訪問する回数を増やし、家電の使い方などの指導はもちろんだが、本業とは無関係な買い物のお手伝いや、留守中の植木の水やり、郵便物や新聞を数日預かったり、無償で行ったそうだ。

会社のモットーは「お客様に呼ばれたらすぐに飛んでいく」「お客様のかゆいところに手が届くサービス」「たった1個の電球の取り換えでも飛んでいく」。これを1万200世帯のお客に、50名で頑張っているそうだ。良い評判が広がり、目標の粗利率35%は8年で達成できたとか。2億円以上の借金も3年前に完済されたそうだ。

社長曰く「大型量販店の進出がなければ、いまだ安売り競争をやって悲惨な目にあっていたかも知れない。人間はトコトン追い詰められ、地べたを這いずり回るような思いで必死になって取り組むことで道が開ける」と。

もう一つ事例を紹介する。2月19日日経の「日曜に考える」の記事から。中国で最も安定的な成長軌道に乗った小売チェーンはどこか?イオンでも、セブン&アイでもなく滋賀県彦根市の平和堂だ。1990年代初めに滋賀県と友好関係にあった湖南省から同省長沙市への出店要請があった。社内では猛反対を受けたが当時の会長は「内陸部もいずれ成長する」として決断。しかも、スーパーしか経験がないのに、「日本企業なのでブランド品など品質の高い商品を求めるニーズが高かった」ため、ローレックス、シャネルなどを扱う百貨店形式での出店を決断。既存3店に加え、中国各地から出店要請が来ていると言う。これも将来のマーケットを読んだ高付加価値商売への転換の事例であろう。

「安売り競争」に甘んじていると、ますます夢はなくなる(どん底に沈み込む)。マーケットを読み、お客との対話を通して、お客の期待する付加価値で他社をしのぐ優位性を発揮するにはどうすればいいか、真剣に考えたい。

大学の入試改革、教育改革議論に期待!

東京大学の「5年後に秋入学に全面移行」の提言を契機に、国際人育成のための教育議論が活発化してきた。今朝の朝日新聞の「オピニオン(17面)」では、「時期変えるだけで国際人は育たぬ、入試改革の方が先」と題した京都大学松本紘総長のインタビュー記事が掲載されている。松本総長は、昨年当ブログでも紹介しました(http://jasipa.jp/blog-entry/6857)が、「綾の会」を毎年東京で開催され(昨年が20回目)、人と人の絆を広めるきっかけを作られている(昨年は水谷八重子さんも来られました)。学生時代から私も非常にお世話になり、今でも気さくにお付き合いしていただける尊敬する先輩です。

日本経済が世界の中で存在感を低下させている主な原因は、いわゆるグローバル人材が育っていないことにある。グローバル人材とは、英語でコミュニケーションできるだけではなく、日本の歴史や文化を国際舞台で伝えられるような幅ひろい教養を身につけた人材だ。真に創造的な仕事が出来るようになるには、基礎的な知識の集積が不可欠。現在の入試のような限られた少数科目の点数競争ではダメで、複雑な問題にぶつかっても解決策をみつけだせるような柔軟で強靭な思考力こそ必要だ。自分に自信を持って、何かにチャレンジした経験を持ち、意欲のある人が必要だ。

そのために高校と連携して、受験科目に力を入れるだけではなく、実験や発明、芸術、スポーツ、ボランティア活動なども含め、多様な活動をさせているかどうかも評価する。大学と高校で「こんな人材を育てたい」という目標を共有化し、その活動を評価し、入試にも反映する。連携高校の選定には多くの議論を呼ぶだろうが、これ位の改革をやらないと、点数偏重の教育から脱皮は出きないし、チャレンジ精神に富んだ創造性の高い生徒は育たないとかなり意欲的だ。

さらには、5年間全寮制の大学院の創設を2013年度に実施するそうだ。20人程度に絞り、次代のリーダー育成のために、研究だけではなく幅ひろい教養も身に着け、海外留学経験を積ませ、国内企業や官庁で自ら立案したプロジェクト経験も積ませると言う。ほぼすべての授業は英語で、恐らく海外留学生も今以上に受け入れるものと思う。

現在、日本の人口当たりの研究者数やGDPあたりの科学技術研究費は世界1,2位を争っているが、人材の質の低下に歯止めがかからない。今やまったなしの改革が求められている。今回の記事で京大総長の覚悟を感じた。松本総長を知る人は、この記事を読んで本気度に大きな期待を持たれたと思う。東大の「秋入学」を契機とした主要12大学の協議会が発足し、その中で入試改革や、教養教育の在り方など、大学教育が抱える様々な問題を議論したいと言われている。早期改革実行を期待したい。

冲中一郎