京セラのコンパ部屋

PRESIDENT2013.3.18号の特集は「直伝!‘人を育てる、人を動かす’バイブル 稲盛和夫の叱り方」だ。新聞でこのタイトルを見て買ってきた。JAL再生の過程において、官僚体質からの脱皮を進める稲盛氏周辺とJAL役員との確執を経ながら、意識改革が進むプロセスが書かれている。いろんな施策によって、稲盛氏の施策が浸透していくプロセスが面白い。それにしても、稲盛氏の指導を受けた著名な企業や経営者の多さに驚く。KDDI小野寺会長(何度も問われた「動機善なりや、私心なかりしか」)、ワタベウェディング渡部相談役(叱られ続けて40年、日本一になりました)、京セラ川村会長(減益決算時、迷いが消えた「理念を大切に」の一言)、平和堂夏原社長(暴動被害35億円!中国人に説いた「利他の心」)、中国ハイアール帳CEO(中国式アメーバ経営で、世界一の家電メーカーに)などなどの記事があり、稲盛氏の指導の重み、すごさを感じる。

その中で「無気力社員の8割をも戦力化するコンパ部屋」との京セラに関する記事がある。京セラでは、社員同士の飲み会を「コンパ」と言い、昔も今も変わらず重要視されている。京セラ本社(伏見区)ビルの12階に居酒屋の座敷のような100畳敷の和室がある。これがコンパルームだ。京セラのコンパはこの「和室」で鍋を囲むのが基本。食事の材料は社員食堂運営会社が割安で提供し、費用は全額個人負担。だいたい一人2000~3000円程度。幹部曰く「各組織が同じ目標に向かって、みんなの気持ちを一つにする行為がコンパです。普段の会議ではどうしても形式的な話に追われてしまう。お酒が入ると、人は本音で話しますから、腹を割って意見を交わす事が出来る」と。大半の工場にも畳敷きのンパルームがあり、八日市工場では昨年1年間に350回のコンパが実施されたそうだ。コンパでは圧倒的に仕事の話が多いが、病気や出張以外で欠席する社員はまずいない。上司と部下の意思疎通に使われたり、組織の壁を乗り越えるための交流、決起集会などに使われる。稲盛氏は「ただ面白おかしく、ただ酒をくらって己を忘れてしまうような、酒に飲まれるような酒は下の下」と言い、氏のフィロソフィーの中の「人生・仕事の結果=考え方x熱意x能力」(http://jasipa.jp/blog-entry/6637)の「考え方」をプラスの方向に向かわせて、「熱意」を引き出す役割が「コンパ」だという。

JALの再生に向けた活動の中でも、稲盛氏と役員が酌み交わす「コンパ」を実施したそうだ。最初は反発があったそうだが、川崎の安いホテルで、部屋の椅子とテーブルをどかして借りてきた畳を敷き詰め、夜8時から明け方4時まで延々と「コンパ」を実施したとか(そのホテルはいまは倒産してないそうだ)。特に大企業で、社長含む役員と一般社員が親しく話をする機会はまずないのではないだろうか(私が最初に入社した会社ではそんな場は想像だにできない)。どんな規模の会社でもやろうと思えば出来ることを京セラが示しているのではないだろうか。

来客リピート率80%の栃木県サトーカメラの流儀は?

「PHP Business Review松下幸之助塾2013.3・4月号」特集‘商いの原点’の中の記事の紹介だ。記事のリード文「全国チェーンによる市場寡占が進みがちな業界にあって、独自の商売観に徹して、県内カメラ販売15年連続ナンバー1、カメラ専門店業界売上15年北関東ナンバー1、写真品質コンテスト15年連続優秀賞受賞と、実績を伸ばす栃木県のサトーカメラ。その成功は、一つにはアナログからデジタルへという大転換に適応し、地域に密着して顧客の心をとらえたこと、そして二つには、社員に商売の醍醐味を教え込んだところにある。鋭い感性を武器にこの20年、同店のマーケティングを牽引してきた佐藤勝人専務にその商売哲学を聞く」。利益率は40%と言う。

「モノを買う喜び」では、ネットが勝る世の中。サトーカメラは、何のためにカメラを買うかを追求した結果、企業理念は

地域のありとあらゆる人々に想い出を写真に撮る喜び、みんなで写真を見る幸せ、後世に写真を残す感動を提供します

マニア的に自分でカメラを使いこなしている人はせいぜい2,3割。残りの7,8割の人は何をどうしていいのか分からず悩んでいる。この人たちの手助けをしたいと考えた。メーカ主導型の展示・販売をやめ、店内はお客様の撮った写真や、お客様が知りたい情報を書いたPOPなどで壁は一杯。携帯電話のカメラで撮った高画質のプリントを、最適なペーパーと最高機種の焼き付けマシンで、Sサイズなんと1枚10円で提供。お客様がプリントする機械の前には、アソシエイト(スタッフ)が寄り添い話しかける。そのそばのソファにはカメラの手入れをするお客様が・・・。1店舗に1日平均約300人のお客様が来られる。1990年にクレジットカード付きのポイントカードを日本で最初に導入したが、「お客様に本当に還元すべきはサービスだ」と、カード会社の撤退に合わせて廃止。顧客管理が出来なくなると不安視する人もいたが、アソシエイト1人が300人位の名前を覚え、以前より積極的に会話をするようになり全く問題なし。お客さまとの行事も昔は、事前に準備し、お客様に事前にお知らせしてと言う風に準備にかなり時間をかけたが、SNSを活用して『こんなイベントをやります』と書き込むとすぐにその日のうちにお客様が来てくれる。

モノに満ち足りたお客様が何を求められているのか?店がリードしてお客様を巻き込むと言うより、お客様自らが主役になって情報交換しながらくつろぐ空間を用意する。サトーカメラの各店舗では夕方になると近所の常連さんたちが店にたまって、写真を見せあったり、アソシエイトとおしゃべりしながら何時間も平気で店にいる。

価格競争の「ネット販売」に対して、「店頭販売」の付加価値サービスとは?と言う問いの答えがサトーカメラの事例にあると思う。佐藤専務の頭にあるのは、生産性や効率追求の企業の論理ではなく、お客様のためとの強い思いだ。

はみだす人がイノベーションをおこす?!

今朝の日経の6面「活かす企業人」にクレディセゾン人事部長の武田雅子氏が投稿している。カード事業も厳しく、常にイノベーションが求められている状況の中での採用方法が面白い。求める人材像は、「常にクライアントオリエンティッドで活躍できる人。ルールの中でレールに乗る人ではなく、自分たちのやり方や過去の慣習、業界の常識をも超えて働ける人」という。そのような人材の見極め方がユニークだ。

入社希望者に、自分がどういうタイプかを設問に答えながらネット上で自己診断する「夢中力診断」を受けてもらう。これは社内で活躍している人を分析して「兄貴・姉御系」「切り込み隊長系」「異才オーラ系」「インテリガテン系」「こだわり職人系」「何とかします系」「メンバー思い系」の7タイプに分けているもの。こういう多様な個性を持つ夢中人が集まって熱く議論を戦わせたときにイノベーションと言う化学反応が起きるので、「夢中になれる力=夢中力」を重視しているとのことだ。選考の際、5人程でのグループワークを実施し、集団の中で主体的に動けるか、全体を意識出来ているかを見る。さらに最終面接では「自分が過去に成長したと思ったのはいつ?」と質問をし、自ら限界を決めず、目標の為には自分を変えられることを知っている人かどうか確認する。その行動に再現性があるかも含めて。

該社では、新人の80%が女性で、係長以上の役職者の約半数が女性とか。以前も紹介したがクレディセゾン林野宏社長が、昨年末にまた本を出版されている。「BQ~次代を生き抜く新しい能力」(プレジデント社、2012.12)で、この熾烈な競争の中で勝ち残るビジネスパーソンに必要なスキルは「BQ(Business Quotient)=ビジネス感度」と言う、従来からの主張を本にされたものだ(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2011/6/2)。

時代時代に応じた会社が必要とする人材を定義する方策として、上記のような分類は非常に面白い。命名が楽しい。会社が求めている人材像をみんなで話題にしながら、己を知り、自分を変える目標つくりも出来る。「事業は人なり」と言いつつ、どんな人を求めているのか、社員に分かりやすく言っている会社は少ないのではなかろうか。

冲中一郎