ハザードマップを信ずるな(「釜石の奇跡」の教訓)

当ブログでも2011.7に紹介した(http://jasipa.jp/blog-entry/6521)が、東日本大震災で、奇跡的に市内の小学生約3000人が助かった「釜石の奇跡」の指導者である、群馬大学片田敏孝教授の記事が、今朝の朝日新聞13面オピニオンにあった。東日本大震災を受けて、次の想定外を避けるため、南海トラフ巨大地震を始め、国や自治体による地震や津波の被害想定づくりが進んでいる。が、片田教授は「それを信じていいのか?」と言う。

片田教授(防災学)は、100年前の明治三陸大津波の被害(釜石では6500人のうち4000人が死亡)をニ度と起こさないために2004年から市民の防災に関する意識の向上ならびに行動をまずは釜石をモデルに実践してこられた方だ。3.11の地震直後、ハザードマップの浸水想定地域外の子供達も警報を待たずに自主的に逃げ始めた。大人に避難を促し、幼稚園児たちを連れ、高齢者を助けながら避難した。結果として、3階建ての小学校では、3階の窓に車が突っ込んでいる姿が残っているが、そのような状況下で全員無事だったことが奇跡と言われるゆえんである

片田氏は、防災だけではなく何かにつけて行政責任を言う日本の社会構造みたいなものに問題の根源があると言い、過度な行政依存体質から脱皮し、自分の命は自分で守る、自己責任意識の必要性を説く。当初は子供たちもハザードマップを見て「俺んちセーフ、お前んちアウト」と騒ぎになっていた。そこで「ほんとにセーフなのかな?」と問いかける。「次に来る地震も明治三陸地震と同じかな?」と話すと、子供たちは自ら考えるようになる。こうして、自分で判断し行動できる姿勢を育てていったそうだ(「姿勢の防災教育」)。日本の教育は「知識獲得型」で、避難勧告が出たら逃げてくださいと言われると、勧告が出なければ逃げなくて良いと受け取ってしまう。防災は「敵を知り、己を知り、己を律すること」と言う。「敵よりも知るべきは己。人は安易な方向に考えがちで、自分は大丈夫だ、この前は問題なかったと言い訳を考えてしまう。逃げようとしない自分を律して逃げる必要がある」と。

津波や地震だけではなく、鳥インフルエンザなどのパンデミック、隕石、交通事故などリスクはあらゆるところにある。すべてについてマニュアル化することは不可能だ。片田氏は、企業もマニュアル頼りでは、それを超える事態に対応できないと感じ始めたようで、企業からの講演依頼が増えていると言う。「自責の企業文化をつくれ」あるいは「リーダーは“自責”の風を吹かせろ」(松下幸之助塾2012.7/8号)という新将命氏(国際ビジネスブレイン社長)の経営論にも通ずる話とも思える。

第11回JASIPA経営者サロン実施(22日・大阪にて)

昨年4月から始めた「JASIPA経営者サロン」も11回目を迎え、初めてJASIPA関西(大阪)で開催することになった。大阪で初めてと言うこともあり、これまで最高の21名の参加者となった。場所はJASIPA関西支部杉本支部長のスキルインフォメーションズ㈱の会議室。杉本社長には第7回経営者サロンでわざわざ東京まで足をお運び頂き、「ポスト・ソフトハウス経営」をテーマに話をして頂いた(http://jasipa.jp/blog-entry/8145)。新大阪駅に近い場所に8階建ての自社ビルを持たれている。玄関を入ると、壁に飾られている表彰状が目に入った。その中で大阪市の橋本市長名での表彰状が目に留まった。今月13日付けの表彰状だった。大阪市では、企業等における男女共同参画推進に係る取り組みを推進するため、女性の活躍やワーク・ライフ・バランスなど、働く一人ひとりがきらきらと輝ける職場づくりに向けて取り組む市内の中小企業等を大阪市男女共同参画企業顕彰「大阪市きらめき企業賞」として表彰しているそうで、今年度はスキルインフォメーションズ㈱が選ばれた。後で聞くと、昨年はJASIPA理事会社の㈱プロアシストが表彰されたそうだ。JASIPA会員企業が輝いている。

いつもと違って今回のサロンは、私の方からまず、お話をさせて頂いた。テーマは、これまでもいろんな所で講演させて頂いた「お客様の価値を感じて働く企業へ」だ。これから日本のIT業界も、労働集約型からサービス提供型への構造変換を余儀なくされている厳しい状況下で、お客様からの信頼を確実にすることの重要性(既存顧客の大事さも含めて)と、社員の意識改革の必要性を中心に話させていただいた。キーワードは「顧客満足度」と「社員満足度」で、双方が成立することによって、企業は活性化するとの持論を展開させて頂いた。私のブログ記事の視点も同じだ。

その後、「顧客満足度を上げるためには」、「企業風土創りとは」、「尊敬されるリーダーになるためには」の3つのテーマを提起し、意見交換をした。初めてお会いする経営者の方々がほとんどだったせいもあり、少し遠慮されていた方もあられたが、「社員満足度調査は怖い面があるが、これを乗り越えなければ、いい社員を保持できない」のような意見が出たり、「お客様からよく‘ありがとう’と言われる」という方も複数おられ、相互に刺激を受ける場になったのではないかと思う。

その後、近くで懇親会を行った。当日の模様は、JASIPA関西のホームページでも紹介されている(http://jasipa-kansai.com/?p=1007)。

社会の雑巾となる人づくり(洛南高校)

進学校として有名な京都洛南高等学校の吹奏楽部の話だ。洛南高の吹奏楽部はこれまでに全日本吹奏楽コンクールで金賞を四度受賞した名門校でもある。その吹奏楽部顧問の池内毅彦氏が「致知2013.3」に表題のタイトルで投稿している。その人づくりの考え方が面白い。

部員のミーティングは「今日の7限目の授業の為クラブに遅れました。すみませんでした」と謝ることからはじまるそうだ。私たち大人も含めて、約束を守れなかった時に、素直に謝ることが出来ていないのではと池内氏は言う。「電車が遅れた」「前の会議が長引いた」のような言い訳を先にして自分を正当化しがちではないだろうか。待ってくれている人の気持ちを考えれば、何はさておいても、まずは謝ることが、相手の気持ちを思いやる人間になる基本だという池内氏の意見に共感できる。

「挨拶と掃除」も徹底させているそうだ。掃除の仕方でその人の人間性が分かる。もう少し手を伸ばしたら届くところに手を伸ばしているか?道路に落ちている犬の糞も嫌がらずに掃除しているか?誰も見ていなくても掃除が出来る、誰かに言われなくても自然と挨拶が出来る。そういう当たり前の事を当たり前に出来る人間になってほしい。そう願い、クラブの運営にあまり口出しせず(上級生も下級生に対して細かい指示しない)、自分が見本を見せる、次にやらせてみる。そうすることで、生徒たちの自主性や協調性を育んでいる。

演奏は一発勝負。息によって音を表現する息遣いの世界(「息」と言う漢字は自分の心と書く)である吹奏楽では、吹き手の精神状態が大きく影響する。そのため、緊張した状態でも平常心が保てるよう、挨拶や掃除に加えて、呼吸法や正座での精神統一などで、心を整える修業も行っている。人生のうちのわずか3年だが、どんな人と接しても、周囲から愛される人間になってほしいとの切なる思いが池内氏の考え方の基本となっている。池内氏が洛南の生徒だったとき、「自ら雑巾となり、社会を綺麗にする」と恩師から教わったそうだ。

前稿(http://jasipa.jp/blog-entry/8470)で小宮一慶氏の言葉を紹介した。「いくら意識改革を叫んでみても効果は薄い。まずはきちんとした挨拶の徹底などの行動が意識を変える」。「たかが挨拶、されど挨拶」「たかが掃除、されど掃除」ということだと思う。

冲中一郎