生物に学ぶイノベーション ~生物模倣技術の挑戦~

7月1日NHK「クローズアップ現代」で、「生物に学ぶイノベーション~生物模倣技術の挑戦」が放映された。

「軽く、かたい『アワビの貝殻』の構造をまねした新素材でつくる宇宙船、炭素繊維より軽く、強く、しなやかな『クモの糸』でつくる自動車のボディー、壁や天井を自在に移動する『ヤモリの足』の仕組みを取り入れた強力な粘着テープ。いま、厳しい生存競争の中で生物が進化させてきた機能を模倣する『バイオミメティクス(生物模倣技術)』により、革新的な技術が次々と生まれようとしている。電子顕微鏡やナノテクノロジーの進化により、生物の『神秘のメカニズム』を分子レベルで解明、再現できるようになってきたのだ。

次世代技術として期待される一方で、日本では昆虫学や動物学の研究者と工学系の技術者との連携が弱く、製品化の動きは欧米に大きく遅れを取っているのが現状だ。“生物のパワー”をどう技術開発に生かし、イノベーションにつなげていくのか。加速する企業や大学での研究の最前線を追い、可能性と課題を探る。」(NHK「クローズアップ現代」(生物に学ぶイノベーション~生物模倣技術の挑戦)2013年7月1日記事引用)

 アワビの貝殻は、厚さ1ミクロン以下の薄いセラミックスの板を軟らかい接着剤で貼り合わせた「積層構造」になっていて、厚さ1mmの中に薄い板が1000枚以上重ねられている。貝殻にヒビが入っても軟らかい接着層でヒビが止まり、薄板が1枚1枚少しずつ壊れるのでなかなか割れない。ハンマーで殴っても、車でひいても大丈夫!セラミックスの壊れやすい弱点が克服できる。しかもこの積層構造を作るのに高熱も不要。

蜘蛛の糸も鋼鉄の2~4倍の強度で、かつナイロンより柔軟性がある。日本のバイオベンチャー企業であるスパイバー社(山形県)は、バクテリアにクモの糸の組み換え遺伝子を注入し、培養したバクテリアにフィブロインを合成させることに成功、また、大手メーカーと共同して、この合成フィブロインを「タンパク質繊維」として合成する技術も開発し、蜘蛛の糸試作に成功した。普段使っている化学繊維は、石油から合成されるが、合成時二酸化炭素を出す。廃棄時もバクテリア分解できず地中に残ってしまう。その意味でも。蜘蛛の糸は軽くて、強くて、環境に優しい新繊維と言える。

ともかく、生き残ってきた動植物の摩訶不思議さは、同じNHKの「ダーウィンが来た」を見ても驚く。化石燃料に依存する現在の産業構造では、地球温暖化が避けられない状態になっており、またいずれ枯渇するもの。やっと産業界が「生物模倣技術」に注目し始めたことは、歓迎すべき事と言える。既に世界で実用化研究が始まっている。一歩先んじている日本のリーダーシップが期待されている。

「ネイチャーテック(http://j-net21.smrj.go.jp/develop/nature/archives.html)」に、動植物の模倣技術の紹介がされている。

「働き甲斐のある会社」に変貌させた人事施策とは?

GPTWジャパンが実施している「日本でいちばん働きがいのある会社」ランキングで毎年上位(最近4年間はすべて一桁)にランクされるサイバーエージェント。しかし、該社も、2000年「市場最年少社長による株式上場」と話題になった頃は、中途入社の社員と生え抜きの社員の対立や、ネガティブな考えの連鎖、大量退職(3割超)などの悩み・問題を抱えていた。そんな会社を数年で「働き甲斐のある会社」に変化させた秘策について、取締役人事部長の曽山哲人氏が、「PHP Business Review松下幸之助塾2013年7・8月号」に「挑戦と安心をセットで考えろ!-人事部が起こすイノベーションとは」のタイトルで寄稿している。

ビジョンつくり

離職率30%と言う状態が3年続く試練の時、1泊2日の役員合宿を実施、寝食を忘れて議論を実施(歴史的な合宿)。そこで決まった「21世紀を代表する会社を創る」との企業ビジョンと共に、サイバーエージェントの価値観を明文化した「maxims」(20ページほどの名刺より小さな冊子)と行動規範をまとめた「Mission Statement」を作成、全社員に配布した。「Maxims」の一部を下記する。

・オールウェイズ・ポジティブ、ネバーギブアップ
・行動者の方がかっこいい
・挑戦した結果の敗者には、セカンドチャンスを
・常にチャレンジ。常に成長

風通しの良い「打てば響く」組織つくり

●「懇親会費用支援制度」:社員間、社員と役員の距離を縮め、社員1人ひとりの思いが伝わる風土創りを推進するための制度。曽山氏はランチや飲み会で月100人前後の社員と接点を持つと言う。他の役員もしかり。

●トピックスメール&ベストピ:社員一人一人が「自分は職場で役に立っている」、「必要とされている」との自己肯定感を高めることを目的に、受注したり、プロジェクトを成功させたりしたときに先輩や、マネージャーがそのトピックを部署内にメールで配信し、情報を共有して皆で褒め合う。業績を上げた仲間に対して「おめでとう」を伝えるお祝いメールも飛び交い、部署内にポジティブな空気を生み出していると言う。さらに、トピックスメールの中から藤田社長がベストトピックスメール(ベストピ)を選んで発表する。社長が自ら褒めることで社内に褒める文化の定着が進んでいる。

挑戦と安心をセットにした日本的経営

挑戦だけでは疲弊し、安心だけでは成長しない。このバランスをとるために、「実力主義型の終身雇用制度」を採用。「安心」を支える制度として、「退職金制度」「毎年・休んでファイブ(有給とは別に5日間の特別休暇付与)」、「2駅ルール(http://jasipa.jp/blog-entry/6680)、「どこでもルール(既未婚、持ち家・借家関係なく6年目以上の社員に毎月5万円の家賃補助)」などの制度がある。

「挑戦」に関しては、年功序列なしの実力主義制度。「ジギョつく(1年に1回行われる新規事業プランコンテスト)」の参加資格は内定者から経営幹部まで、優勝者には100万円と子会社の社長ポストを付与する。この制度で生まれた新人社員の社長が40名とか。「CAJJプログラム(サイバーエージェント事業&人材育成)」で事業やプロジェクトの昇格・降格・撤退のルールを明確化し、挑戦者の失敗を救い、挑戦意欲を消さないようにしている。

経営者の率先垂範制度

●「あした会議」:経営幹部による新規事業コンペ。多忙な中でチームを編成し新事業を検討し、それを持ち寄って1泊2日の合宿に臨む。毎回藤田社長以下へとへとになる位の死闘だとか。しかし、さすが経営陣、いいアイデアがたくさん出て成功している事業も多いそうだ。

●「CA8(サイバーエージェントの8人)」:独自の取締役交代制度。役員の定員8名とし、原則2年に1度1~3名が入れ替わる。社員の目標となり、、役員にも危機感が出て、双方で緊張感のある運営ができていると言う。

すべての人事制度は流行らないと意味がない!

人事がいくら制度を作っても、社員が白けて、本来の目的が遂行できなければ失敗。マッサージ店のクーポン券を配ったことがあるが「忙しくて行けない」と社員が猛反発で失敗。「ジギョつく」も「忙しいのに」と不評だったのを、社員全員をその気にさせる工夫を施し、今の盛況につながったとか。人事も現場を知り、現場と経営陣の橋渡し役を果たしながら、ビジョンに沿った施策を企画実行していく。今では人事に大きな権限を付与しているそうだ。それだけ人事は、現場にも、経営からも信頼される存在になっているのだろう。

数年で、ここまで変わる!変われる!組織・風土改革に挑戦する意義あると思うが如何?

第15回JASIPA経営者サロン実施(27日)

事前にご案内(http://jasipa.jp/blog-entry/8824)しましたが、今回は初めて外部講師を招いてのサロンでした。「今ある”人財”を活かそう!!~ポジティブ心理学をビジネスに利用する~」というテーマで、NPO法人ワーク&ライフ・デザイン研究所代表理事 落合美由紀様にお願いしました。落合様は花王、ロータス、IBM各社のSEとして活躍されたが、企業の宿命とも言える「早期戦力化」のための育成が主体になり、「長期視点の人材育成」が出来ないことに限界を感じ、NPO法人を昨年12月に設立された。同じころ「ポジティブサイコロジー研修スクール」に出会ったことも大きなきっかけになったと言われる。「100歳まで現役ワーカー(生涯現役)」の信念も起業を後押ししたそうだ。二部では、講演補佐として来られた中川さんと共に参加者全員(12名)と活発な意見交換があった。

第一部の講演では、ポジティブ心理学の効用について縷々説明があった。1998年米国の心理学者マーティン・セリグマン教授が提唱した新しい心理学(http://www.youtube.com/watch?v=PDIPdI_OEEk)で、精神病疾患を持つ人ではなく、一般の人のモチベーションを挙げる研究だそうだ。最初に参加者にちょっとしたワークを課された。

「最近の出来事で、“良かったこと”、“感謝していること”、“楽しかった事”を思い出し書き出す。そして、3つの良いことについて二人ペアで話し合う。その際。上記3つの事をいろいろ思い出せるよう、批判や否定をせず質問をする。

良いことに焦点を当てた会話は、皆さんを楽しくさせ、笑いも出たり、コミュニケーションが弾んでいた。講師曰く「人間関係を良くするためのコミュニケーション力をつける一つの方法として効果が高い」と。参加者も実感できたと思う。

ある保険会社の採用で、意欲や動機をテストするASQテストを実施し、楽観度の高い人を採用した結果、個人向けマーケットシェアを飛躍的に伸ばしたとの事例があるそうだ。ポジティブな考え方をしている人は、多少能力が低くても、研修やOJTを通じて能力を挙げ、成果を出すことが出来る。

ポジティブ心理学は、強みにフォーカスする。ドラッガーの言う「人も組織も成長するには弱みの克服ではなく強みの強化だ」の考え方と一致する。知識労働者の生産性の低さが問題にされているが、人の内発的動機のきっかけを与えるポジティブ心理学は使いようによっては生産性UPに寄与できるのではなかろうか。

二部の意見交換会では、ポジティブ心理学に対する関心を惹起したのか、落合氏に対する質問攻めになった。落合氏が、ある大学からの依頼で、学生を相手にポジティブ心理学のコンサルを実施された。3日間のコースだったが、最初依頼した教授も「受講しても単位ももらえず、3日間どの程度の学生が最後まで残るか心配だ」と言われたが、受講した17名全員が最後までついてきてくれたそうだ。まさに3日間コースの価値を体感できたのだろう。

あっという間の2時間だったが、参加者は一様にポジティブ心理学に興味津々。JASIPA事務所で会員企業から希望者を募り、研修コースを設けてはとの提案もあった。

落合さん、中川さん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

冲中一郎