「働き甲斐のある会社」に変貌させた人事施策とは?

GPTWジャパンが実施している「日本でいちばん働きがいのある会社」ランキングで毎年上位(最近4年間はすべて一桁)にランクされるサイバーエージェント。しかし、該社も、2000年「市場最年少社長による株式上場」と話題になった頃は、中途入社の社員と生え抜きの社員の対立や、ネガティブな考えの連鎖、大量退職(3割超)などの悩み・問題を抱えていた。そんな会社を数年で「働き甲斐のある会社」に変化させた秘策について、取締役人事部長の曽山哲人氏が、「PHP Business Review松下幸之助塾2013年7・8月号」に「挑戦と安心をセットで考えろ!-人事部が起こすイノベーションとは」のタイトルで寄稿している。

ビジョンつくり

離職率30%と言う状態が3年続く試練の時、1泊2日の役員合宿を実施、寝食を忘れて議論を実施(歴史的な合宿)。そこで決まった「21世紀を代表する会社を創る」との企業ビジョンと共に、サイバーエージェントの価値観を明文化した「maxims」(20ページほどの名刺より小さな冊子)と行動規範をまとめた「Mission Statement」を作成、全社員に配布した。「Maxims」の一部を下記する。

・オールウェイズ・ポジティブ、ネバーギブアップ
・行動者の方がかっこいい
・挑戦した結果の敗者には、セカンドチャンスを
・常にチャレンジ。常に成長

風通しの良い「打てば響く」組織つくり

●「懇親会費用支援制度」:社員間、社員と役員の距離を縮め、社員1人ひとりの思いが伝わる風土創りを推進するための制度。曽山氏はランチや飲み会で月100人前後の社員と接点を持つと言う。他の役員もしかり。

●トピックスメール&ベストピ:社員一人一人が「自分は職場で役に立っている」、「必要とされている」との自己肯定感を高めることを目的に、受注したり、プロジェクトを成功させたりしたときに先輩や、マネージャーがそのトピックを部署内にメールで配信し、情報を共有して皆で褒め合う。業績を上げた仲間に対して「おめでとう」を伝えるお祝いメールも飛び交い、部署内にポジティブな空気を生み出していると言う。さらに、トピックスメールの中から藤田社長がベストトピックスメール(ベストピ)を選んで発表する。社長が自ら褒めることで社内に褒める文化の定着が進んでいる。

挑戦と安心をセットにした日本的経営

挑戦だけでは疲弊し、安心だけでは成長しない。このバランスをとるために、「実力主義型の終身雇用制度」を採用。「安心」を支える制度として、「退職金制度」「毎年・休んでファイブ(有給とは別に5日間の特別休暇付与)」、「2駅ルール(http://jasipa.jp/blog-entry/6680)、「どこでもルール(既未婚、持ち家・借家関係なく6年目以上の社員に毎月5万円の家賃補助)」などの制度がある。

「挑戦」に関しては、年功序列なしの実力主義制度。「ジギョつく(1年に1回行われる新規事業プランコンテスト)」の参加資格は内定者から経営幹部まで、優勝者には100万円と子会社の社長ポストを付与する。この制度で生まれた新人社員の社長が40名とか。「CAJJプログラム(サイバーエージェント事業&人材育成)」で事業やプロジェクトの昇格・降格・撤退のルールを明確化し、挑戦者の失敗を救い、挑戦意欲を消さないようにしている。

経営者の率先垂範制度

●「あした会議」:経営幹部による新規事業コンペ。多忙な中でチームを編成し新事業を検討し、それを持ち寄って1泊2日の合宿に臨む。毎回藤田社長以下へとへとになる位の死闘だとか。しかし、さすが経営陣、いいアイデアがたくさん出て成功している事業も多いそうだ。

●「CA8(サイバーエージェントの8人)」:独自の取締役交代制度。役員の定員8名とし、原則2年に1度1~3名が入れ替わる。社員の目標となり、、役員にも危機感が出て、双方で緊張感のある運営ができていると言う。

すべての人事制度は流行らないと意味がない!

人事がいくら制度を作っても、社員が白けて、本来の目的が遂行できなければ失敗。マッサージ店のクーポン券を配ったことがあるが「忙しくて行けない」と社員が猛反発で失敗。「ジギョつく」も「忙しいのに」と不評だったのを、社員全員をその気にさせる工夫を施し、今の盛況につながったとか。人事も現場を知り、現場と経営陣の橋渡し役を果たしながら、ビジョンに沿った施策を企画実行していく。今では人事に大きな権限を付与しているそうだ。それだけ人事は、現場にも、経営からも信頼される存在になっているのだろう。

数年で、ここまで変わる!変われる!組織・風土改革に挑戦する意義あると思うが如何?

第15回JASIPA経営者サロン実施(27日)

事前にご案内(http://jasipa.jp/blog-entry/8824)しましたが、今回は初めて外部講師を招いてのサロンでした。「今ある”人財”を活かそう!!~ポジティブ心理学をビジネスに利用する~」というテーマで、NPO法人ワーク&ライフ・デザイン研究所代表理事 落合美由紀様にお願いしました。落合様は花王、ロータス、IBM各社のSEとして活躍されたが、企業の宿命とも言える「早期戦力化」のための育成が主体になり、「長期視点の人材育成」が出来ないことに限界を感じ、NPO法人を昨年12月に設立された。同じころ「ポジティブサイコロジー研修スクール」に出会ったことも大きなきっかけになったと言われる。「100歳まで現役ワーカー(生涯現役)」の信念も起業を後押ししたそうだ。二部では、講演補佐として来られた中川さんと共に参加者全員(12名)と活発な意見交換があった。

第一部の講演では、ポジティブ心理学の効用について縷々説明があった。1998年米国の心理学者マーティン・セリグマン教授が提唱した新しい心理学(http://www.youtube.com/watch?v=PDIPdI_OEEk)で、精神病疾患を持つ人ではなく、一般の人のモチベーションを挙げる研究だそうだ。最初に参加者にちょっとしたワークを課された。

「最近の出来事で、“良かったこと”、“感謝していること”、“楽しかった事”を思い出し書き出す。そして、3つの良いことについて二人ペアで話し合う。その際。上記3つの事をいろいろ思い出せるよう、批判や否定をせず質問をする。

良いことに焦点を当てた会話は、皆さんを楽しくさせ、笑いも出たり、コミュニケーションが弾んでいた。講師曰く「人間関係を良くするためのコミュニケーション力をつける一つの方法として効果が高い」と。参加者も実感できたと思う。

ある保険会社の採用で、意欲や動機をテストするASQテストを実施し、楽観度の高い人を採用した結果、個人向けマーケットシェアを飛躍的に伸ばしたとの事例があるそうだ。ポジティブな考え方をしている人は、多少能力が低くても、研修やOJTを通じて能力を挙げ、成果を出すことが出来る。

ポジティブ心理学は、強みにフォーカスする。ドラッガーの言う「人も組織も成長するには弱みの克服ではなく強みの強化だ」の考え方と一致する。知識労働者の生産性の低さが問題にされているが、人の内発的動機のきっかけを与えるポジティブ心理学は使いようによっては生産性UPに寄与できるのではなかろうか。

二部の意見交換会では、ポジティブ心理学に対する関心を惹起したのか、落合氏に対する質問攻めになった。落合氏が、ある大学からの依頼で、学生を相手にポジティブ心理学のコンサルを実施された。3日間のコースだったが、最初依頼した教授も「受講しても単位ももらえず、3日間どの程度の学生が最後まで残るか心配だ」と言われたが、受講した17名全員が最後までついてきてくれたそうだ。まさに3日間コースの価値を体感できたのだろう。

あっという間の2時間だったが、参加者は一様にポジティブ心理学に興味津々。JASIPA事務所で会員企業から希望者を募り、研修コースを設けてはとの提案もあった。

落合さん、中川さん、ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

感動や行動を促す源とは?

メルマガなどのインターネット記事で、幸運や感動に出会う源の話があった。一つは、脳科学者茂木健一郎氏の「偶然の幸運は、楽観的な人に訪れる(President Online)」(http://president.jp/articles/-/9758?utm_source=0625)。もう一つは、以前時々ブログにもUPした感動プロデューサー平野秀典氏のメルマガ「腑に落とす感動」(6月25日)。

茂木氏は、「人間の脳は、もともと楽観的に出来ている。楽観的なくらいがちょうどよく、そのような状態で初めて十全に機能する」と言う。「あとどのくらい生きるか」とか、「宝くじに当たる確率は?」などの質問にどう見ても楽観的な答えが返ってくることが多い。それだけ脳はずうずうしい。それは生きる上で必要だから「脳内の楽観回路」は進化してきたそうだ。不確実性に満ちた世の中で不安や恐怖に捉われ悲観的になっていたのでは、行動することが出来ない(フロージングと言う)。行動しなければ、思わぬ発見や、偶然の幸運(セレンディビティ)に出会うこともできない。成功するために大切なのは、「根拠のない自信」と、「それを裏付ける努力」と茂木氏は言う。自信を持つのに根拠などいらない。出来ると最初から分かっているのならば、あえてチャレンジする意味もない。すべてのイノベーションの出発は「できる」という「根拠のない自信」を持つ点にある。感情や気分を生み出す脳の古い部位は、理性を司る脳の新しい部位よりも、むしろ先を行く。まずは感情が生れて、それを理性が整理し、追随する。楽観的に行動してこそ人生は面白くなる。

一方平野氏は「知っているだけで腑に落としている人が少ないから、夢や願望を実現している人が少ない」と言う。「頭」よりも「心」よりももっと深い「腑」に落とした時に生まれる感動こそが人生を変える作用点になる。知っていることと腹落ちすることの違いは、自分の感覚から検証してみた結果、「知る」は「好奇心」が刺激されますが「腑に落ちる」は「感情」が刺激される。知ったら実践してみる。すると、知と体験が調和して何らかの感情が生まれる。 嬉しいや楽しい、ワクワクやウキウキ、といった理屈を超えたプラスの感情が、知と体験が調和していることを教えてくれ、「生きている実感」を味わうことが出来る。そこから、感動という感情が生まれ、人生の満喫度がプラス方向へ向き始めると平野氏は言う。「感動こそ、人生を創る土台」というのが感動プロデューサー平野氏の主張だ。

インターネットの普及で知を獲得する機会は大幅に増えた。知識過剰気味の中で、知を行動に移すことが感動に繋がり、幸せにつながるとの両氏の主張には耳を傾ける価値があると思う。知は行動が伴って初めて花開く可能性が出てくる。

冲中一郎