逆境を克服して成功された方の経験談や、年齢を重ねても世のため、人のために頑張っておられる方のお話など、大いに刺激をもらっている人間学を学ぶ月刊誌「致知」。2016.12月号の特集テーマは「人を育てる」。以下に事例二つを紹介する。
まずは、人材教育家として自ら起業(シュリロゼ)し、女性向け自分磨きスクールや、大企業をはじめ数多くの企業での社員研修を通じて、これまで数万人を指導して来られた井垣利英さん。表題は「人は生きている間に生まれ変われる」。
プラス思考の人は、それなりの人に出合う。そして、その人の考え方に共鳴しつつ実行に移し、素晴らしい人生を歩んでいるのが井垣さんだ。フリーアナウンサー時代に、突然の父の死から父の経営していた名古屋の塾を継ぐために帰省。塾の在り方を追求する中で、船井総研の船井幸男氏、国際ジャーナリストの落合信彦氏と偶然会う事ができ、そのアドバイスを受けて、思い切って東京に出て30歳で起業。井垣氏の人材育成のポイントは「自分を信じてプラス思考で素直に行動」だ。「すべてに感謝をすることがプラス思考の前提」と言い、人は無意識のうちに1日約7万回もマイナス思考を繰り返している中でプラス思考に持っていくには相当な訓練が必要という。そのためには、日常生活の中で「ありがとう」をともかくたくさん言うこと。「ありがとう」は地球上で最もエネルギーの高い言葉だが、「ありがとう」というべき場で「すみません」とか「どうも」と言っている人が多い、と言われる(私も思い当たること多し)。「言い訳は敗北の前兆」「一人一人が世界で唯一の存在、その価値に気付いて自分を大切にしてほしい」、人を育てる熱き心をマッチの火ではなくバーナーの火と自ら言い切る。
もう一つ紹介する。福岡県北九州市内にガソリンスタンド3店舗を構える野口石油の野口義弘社長の話だ。タイトルが「愛は与えっぱなし」。設立以来20年、140名に及ぶ非行少年を雇用して来て、今では3店舗ともお菓子が途切れたことがないほど、お客様から差し入れを沢山いただき、地域の人たちから様々な恩恵を受けて成り立っていると言う。しかし、非行少年を立ち直らせる道は、そう簡単ではなかったと振り返る。「うちに来て何事もなく1回で更生できる子はこれまで一人もいなかった」、再び非行を犯して少年院や鑑別所に送られていく。しかし、野口社長は「どれだけ信じても騙され、裏切られる。それでも信じ続けた」と言う。彼らは一様に幼少期からの親からの愛情不足が非行の根底にある。だから、彼らと話をするときは嘘を言われてもずっと黙って聞く。絶対に茶々を入れずに目線を合わせて彼らの話を最後まで聞く。そして「見返りを期待せず、愛は与えっぱなし」の精神で接することで、再犯を繰り返しながらも「野口社長に申し訳ない」との気持ちが生れ、再犯1回目より2回目、2回目より3回目と反省の心が生れてくる。どんな場合でも「解雇はしない」というのも徹底している。会社のお金を持ち逃げしてもクビにはしない。会社に来なくなると電話ではなく、迎えに行く。奥様も次男も保護司をされているとの事だが、野口社長も「これからも非行少年の更生にこの身を捧げていく」との覚悟をされている。非行少年の更生の話だが、「人を育てる」ための基本が明示されている。
素読のすすめ(前稿つづき)
前稿(http://okinaka.jasipa.jp/archives/5712)で主に若者(子供含めて)に対する「素読のすすめ」を書きました。が、私のような高齢者に対する重要な情報を書き忘れていました。
最近もアクセルとブレーキを間違えて事故を起こす高齢者のニュースが毎日のように報じられ、認知症とともに大きな社会的問題となっています。この認知症にも「素読」は極めて大きな効果があることが、同じ記事に書かれているのです。
川島氏は「学習療法」と称して高齢者に対して美しい日本語を声を出して読ませるトレーニングを実施されている。その結果、認知症の進行が止まるだけではなく改善していくとの実証が得られているそうだ。普通は認知症の薬を処方されるが、それは進行速度を遅らせるだけ。「素読」をすることによって記憶容量が大きくなり、脳が可塑的変化を遂げるという劇的な変化を生む。高齢になるにつれ、一般的にゆっくりしゃべるようになるが、例えば1から120まで順番に数えさせると大学生であれば30秒を切るくらいだが、60代の人は50秒以上かかる。脳が衰えることで言葉のスピードも遅くなるのだ。脳の回転速度が遅くなれば判断も遅れ、次の行動も遅れることになる。オレオレ詐欺で相手のペースについていけず騙されるのもこのことが原因ともいえる。このことも、中身のある古典や名文をある程度の速さで素読し続けることで改善でき、お年寄りの脳にとっても効果が大きいと川島氏は言う。
70歳にもなると痴呆症は怖く、常に気になる病気だ。自覚症状がなく、他人に迷惑をかけることが、ガンなどの他の病気と違う。健康、とりわけ認知症に効果があると言われるもので出来ることは早速実行に移していきたい。
素読のすすめ
スマホ中毒の弊害と読書離れの悪影響に警鐘を鳴らし、素読の必要性を訴える脳科学者で、脳トレの先駆者川島隆太氏(東北大学加齢医学研究所所長)とテレビのコメンテータとしても有名な明治大学文学部教授斎藤孝氏との対談記事が「致知2016.12」に掲載されている。斎藤孝氏も数多くの素読の実践をベースに、その意義を伝え続けておられる(声に出して読みたい日本語)などの著書多数)。
川島氏はかねてから、きわめてプアなセンテンスでやり取りしているSNSに警鐘を鳴らされている。仙台市の7万人の子供たちの脳を7年間調べ続けているそうだが、スマホやSNSの利用と学力との関係が明らかになってきたという。すなわち、これらを使えば使うほど学力は低下するという。脳の中の学習した記憶が消え、例えばSNSを1時間やると、百点満点の5教科のテストで30点下がるとのこと。
一方で、読書は作者の脳みそ、すなわち考え方との対話と考えることができるが、目で追うだけではなく声に出す、手で書くということで、視覚、聴覚、運動情報を多く使うことになりより記憶に刻まれることになる。さらには、人間の前頭葉の中心、ちょうど眉間の上あたりに背内側前頭前野という高度なコミュニケーションを司る部分があり、お互いの気持ちが通じ合っている時には、その脳の揺らぎが同期することが今年初めて分かったそうだ。このことは、江戸時代の寺子屋での論語などの素読をベースにした教育法が、生徒たちの脳の同期を促し、一体感を生むものだったことにつながる。斎藤氏はNHKの「にほんごであそぼ」に携わったとき、幼児も含め、子供たちには難しい言葉の意味が分からなくても面白がって次々に覚える、敢えてこちらが説明を加えなくても言葉の奥行に自然と興味を持ってくれることにとても関心を抱いたという。
イギリスやフランスでも文豪の著書を学校教育で暗唱する教育がなされているが、明治維新の原動力にもなった日本の暗唱文化が失われていることに両氏は警鐘を鳴らす。さらには家庭でも親が本を読まず、子供と食事をするときも親がスマホをいじったり、テレビを見たりしている現状を嘆く。幼少時代、母親からの読み聞かせで童話を全部暗誦できるまでになった川島氏は「それが自分の読書の原点」といいつつ、家庭と学校双方が、再度読書と素読の重要性を認識し、若い人たちのスマホ中毒の蔓延を双方が力を合わせて防ぐことが重要と訴える。ちなみに斎藤氏は著書「親子で読もう実語教」、「子供と声に出して読みたい童子教」(共に致知出版社刊)などを出版されている。これらは江戸時代の子供たちが使っていた素読の教科書で、企業から市町村や学校への寄贈も相次いでいるそうだ。