致知出版社長講演「出逢いの人間学」

前掲の致知出版社主催の社内木鶏全国大会で講演された藤尾社長は「先哲に学び、人間力を磨き、日本を変える」情熱に燃えたぎっている方である。その情熱で「致知」を33年続けて来られたのであろう。初めて藤尾社長の講演を聞かせて頂いたが、迫力十分、説得力十分、知識満杯で、勉強になり、「人生の道しるべ」を得る貴重なものであった。その内容を十分伝えきるのは困難だが、一部エッセンスを書きとめておく。

  • 「人生の成功者」は、自分に与えられた縁に価値を見出す。「成功できない人」は、常にもっといい縁を求め続ける。
  • 米長将棋名人が、羽生さんなど若い人たちが台頭し、負けが込んできた。その時、負けた若い人たちの家庭を見て見たら、すべて「奥さんが主人を尊敬している」家庭であった。
  • 脳性マヒの山田康文君の「ごめんなさい、お母さん」(略)。究極の感謝。深謝の言葉で、お互いが感謝する気持ちを表せばそこに「真の心の交わり」が開けてくる。
  • もうひとつ、脳性マヒの木村ひろ子さんの話。父母を若くしてなくし、わずかに動く左足で米を研ぎ、墨をすって絵を描く。その絵を売って生計を立てていた。自分のためにだけ生きるなら芋虫も同じと、絵の収入から毎月身体の不自由な人のために寄付をした。そして言う「脳性マヒのお陰で生きると言うことの素晴らししさを知った」と。
  • 松下村塾〔吉田松陰〕:「感謝・感激・感動するという資質」がない人は成長できない。
  • 森信三(教育家):人間には現状維持はない。進歩か退歩しかない。
  • 平澤興(元京大総長):人生はにこにこ顔で生命(いのち)がけ。教育とは自ら火をつけること。生きるとは燃えること。
  • 平澤興:人の悪口しか言えぬ人は成長能力のない人であり、また人の短所しか見えない人は成長がとまった人。名人とは、どんな人でも長所を見つけられる人。

「成人の学」は二つの事からなる。一つは特性を養う「人間学」。もう一つは知識・技能を養う「時務学」。前者の人間学を日本の教育は疎かにしてきた。若い幕末の志士を育て、日本を変えるために、命がけで取り組んでおられる藤尾社長。「土手の桜」より「深山の桜」を目ざして、「深山の桜」(雑誌致知)をより魅力的なものにして多くの人がその獣道を踏みしめ立派な道に出来るよう頑張るとの決意も表明された。

感動の渦!社内木鶏大会

昨日ホテルニューオータニで、1200名の参加のもと、2回目の社内木鶏全国大会が開かれた。これは、人間学を学ぶ月刊誌を発行している「致知出版社」が昨年から開催している大会である。致知を教材にして、社長と社員が一体となって社員の人間力を高める活動を展開している企業の発表会である。この活動とは、社内で月1回、全員が致知のある記事に関して事前に書いてきた感想文を小グループに分かれて発表しあい、お互いに評価しあう1時間程度の場を言う。これを「社内木鶏会」と呼んでいる(「木鶏」の意味はhttp://jasipa.jp/blog-entry/6893を参照)。この会のポイントは「美点凝視」。すなわち、感想文を聞いて、発表者のいいところを見つけ褒めることだそうだ。

今回は、南は宮崎県から北は岩手県から、5社の発表があった。ある会社では、社長に権限が集中し、社員は社長の指示待ちとなり、結果的に仕事の効率が落ち業績悪化。これでは将来がないと悟った社長が一念発起、社員を信頼し社員に任せるために、社員の自立化をめざし「社内木鶏会」を始めた。しかし、社員の最初の反応は、今まで読んだこともない雑誌を読まされ、拒否反応が多数を占めたそうだ。社長の指示なので仕方なくやっているうちに、社長の意図も分かり、自らの人間的成長に気付き、目の色が変わっていったとか。他の会社も、同じような経緯で、社長の強い思いで実施し、成功をおさめられている。

社員代表の後に社長も発表し、最後は参加社員全員で決意表明をして終わるが、「社内木鶏会の」の効果(いずれも昨年始めた会社ばかりで2年もたっていない)として言われたことを列記する。

  • 社長が社員の才能に気付く(誰にでもいい所はある!)
  • 発表ないしはコメントしているうちにその質の向上に誰もが目を見張り、多面的な見方ができるようになることに驚く。
  • 管理職の人は、部下の良いところに気付き、謙虚な気持ちで部下と接触するようになる。
  • お客様に接する態度が変わり、お客様の心を早い段階でつかめるようになる。
  • 自分を支えてくれたすべての人、モノに感謝の気持ちが持てる。
  • 他人を慮るようになる。
  • 社長の思いが社員に伝わりやすくなる。

結果として、どの会社も業績が急回復したそうだ。まさに「企業は人なり」を実感した。現在では、急速に広がり、現時点全国で600社、19000人が取り組んでいるそうだ。

このような活動は、稲盛和夫氏、牛尾治朗氏、北尾吉孝氏、渡部昇一氏など著名な経営者、学者、思想家に加えて岡田武史氏、松岡修三氏、米長将棋名人など各界の方々からの支援を受けながら、「社員が変わる、企業が変わる、日本が変わる」との高邁な目標を持って33年間続けられている。5社の発表のあと、致知出版社の藤尾社長のほとばしる情熱とご見識のご披露があったが、またの機会に報告したい。会場は感動の渦だった。

金子みすずの世界

昨夜のNHK総合夜10時からの「歴史秘話ヒストリア」を見ました。例の「こだまでしょうか」の詩の作者「金子みすず(1903~1930)」がテーマでした。

小さい頃からの苦労の連続にもかかわらず、ある時は「魚」の気持ちになって、ある時は「雪」の気持ちになって、素直にいろんな視点で詠った言霊に、西条八十(青い山脈など作詞家)も天才と称賛!当時は「童謡詩人会」には与謝野晶子と金子みすずの二人だけしか女性はいなかったそうで、東京に出て行けば、もっと活躍の場があり、もっと有名な詩人になっていたと思われるが、故郷(山口県仙崎)に留まったそうだ。弟の熱意もあって、やっと昭和の最後(1984)になって全集が発行され瞬く間に「金子みすず」の名が広まった。この番組でもいろんな詩が紹介されましたが、「こだまでしょうか」の詩は、仕事を失い、遊郭で遊びまくる夫との確執で、離婚寸前の状態の中で生まれた詩だったとか。夫を変えたい、いつか変ってくれると信じて我慢していた頃、夫の厳しい言葉に、厳しい言葉で返さず、優しい言葉で返せば、いつかは優しい言葉が返ってくると思ったのでしょう。その心情が

「こころ」はだれにも見えないけれど 「こころづかい」は見える
「思い」は見えないけれど 「思いやり」はだれにでも見える

と言わせたのでしょう。最後は夫に追い詰められて(離婚後の娘の親権問題)自殺したその人生には、ほんとに涙します。

話は変わりますが、「致知2011.11号」の記事に「朗読を通して伝える金子みすずの言霊」があります。元三菱総研で現在はキャリアコンサルタント、玉川大学特任教授などをやられている永田清さんの投稿記事です。ある時軽い気持ちで参加した金子みすずの詩の朗読会で、詩の深さ、世界の広さに触れた感動を忘れることが出来ず、これまでの経営コーチングの技術を活かし、その詩を企業など組織内の活性化、さらに人々の生きがい作りに活用されています。今ではマスコミにも取り上げられ、自治体の生涯学習や老人ホームでも活動されているそうです。

やり方は、全員で、あるいはグループで何度も繰り返し朗読する(感情こめて、詩に合わせて手を広げたり、体をゆすったり・・・)。最初はぎこちなかった人もいつしか感情豊かに表現できるようになり、みすずさんの心情に同化して行くそうだ。同化した頃を見計らってそれぞれがいま感じることを率直に話し合います。終了後は参加者が「清々しい気分になり、明日への活力とやる気が漲ってくる」と口を揃えて話されるそうです(涙を流される方もいるとか)。みすずさんの豊かな生き方、心温まる人間関係、自然と人間との調和のようなことを感じ取られるから。永田さんはこれからも日本人の素晴らしさを見出していくお手伝いを続けたいとおっしゃっています。

冲中一郎