ハーバード流ボス養成講座

日本経済出版社から標題の本が出版された。副題が「優れたリーダーの3要素」でリンダ・A・ヒル/ケント・ラインバック共著、有賀裕子訳で今年の1月発行された。(TOPPOINT2012.3号に紹介された要約版から)

優れたマネージャになる3要素とは「自分のマネージメント」「人脈のマネージメント」「チームのマネージメント」と言う。

まず「自分のマネージメント」。とかくマネジャーになって、部下に「これをやれ、あれをやれ」と権限を振りかざすやり方を是とするマネジャーが多い。しかし、これはすぐ自分の部署の仕事の効率面で破たんする(「俺の言うことを聞かないあいつが悪い」と言っても問題解決にはならない!)。部下に影響力を及ぼすためのカギは、上司としての権限ではなく、部下からの「信頼」である。信頼は、「マネジャーとしての手腕がある」「人徳がある」という二つの要素によって支えられており、これを得るためには、胸襟を開いて自分の手腕や人柄を示さなくてはならない。「人徳がある」というのは、「仕事に打ち込んでいる」「言行が一致している」「部下を公平に扱う」「じっくり話を聞く」「信頼して仕事を任せる」「慎重で口が堅い」などなどを言う。(私見で付け加えれば、「上司は自分に関心を持ってくれている」「自分の成長を見てくれている」も重要)

「人脈のマネージメント」。自分の成果を大きく、確実にするために、組織内外で如何に人脈を築き、それを活かして必要な支援、経営資源、情報を適切なタイミングで得られるかが重要となる。「業務面・戦略面・啓発面」それぞれの人脈作りが大切と説く。人脈においても、部下との信頼関係と同様、手腕と人徳が必要となる。「あなたと接するといつも得るものがある」と思われるかどうかだ。(私見:take&giveではなくgive&take。「利他の心」が人脈つくりの基本)

最後に「チームマネージメント」。「共通の目的とやりがいのあるゴールを掲げ、その実現に向けて互いの約束を交わして、共同で仕事をする人々の集まり、それがチームである。」約束を交わすとは、各自がチームの成果に貢献する責任を負い、仲間にもそれを求めると言う意味である。これがなかなか出来ていないのが現実であろう。ある仕事が終わって、達成感を味わえる仕事のやりかたになっているだろうか?最初に仕事の目的があり、その目的実現にための各自の役割が明確でないと、達成感はある筈がない。(浜松の都田建設を以前紹介したが、チームビルディングを目的として週1回昼休みにバーベキューをやるので有名。各自が自分達で役割分担をし、短い昼休み時間内に目的を達する練習だとか。http://jasipa.jp/blog-entry/7041

各企業とも、中間管理職層(課長職)の育成に力を注いでいる。社員の活力UPのカギを握る層である。上記を何らかの参考にし、自らの行動改革に活かしてほしい。

ネグロポンテの名前が懐かしい!

3月3日(土)の朝日新聞別冊「be」に「世界結ぶネット時代の先導者」として「MITメデアラボ」第4代所長となられた伊藤穣一氏の紹介があった。昨年4月250人を超す全世界の候補者の中から選ばれたそうだ。副所長も日本人の石井裕教授だ。

「MITメデイアラボ」は1985年にネグロポンテ氏が「人間とコンピュータの協調」をテーマに掲げ創設された。この頃はまだwindowsは出ておらず、MACが発売され、パソコン業界は多様なOSの中で熾烈な競争下にあった時代だった(と思う)。その中で、ユーザーインタフェースなどを題材にし、「目に装着した装置で目の動きを感知しながら、目の動きに沿ってパソコン画面を操作する」というような当時では非常に斬新な内容の本をネグロポンテ氏が出版され、早速購入して将来こんな世界が来るのかと、わくわくしながら読んだ記憶が蘇ってくる。このときから「ネグロポンテ」の名は頭の中に刻み込まれていた。

今では「MITメディアラボ」は世界最大のメディア研究拠点の一つ。これまでの成果としては、電子書籍を実現させた電子ペーパー「Eインク」やレゴブロックとコンピュータを組み合わせた「マインドストーム」など、様々な技術革新を生み出してきたそうだ。

伊藤氏(愛称はジョーイ)は、自らを「まるで落ち着きのない、何事にも集中できない人間にみえるでしょう」と言う。実際、70カ国以上でオープンな著作権運用に取り組む国際団体「クリエイティブ・コモンズ」の会長、デジタルガレージ共同創業者など30以上の肩書きを持ち、年の3分の2は世界を飛び回り、飛行機の移動距離は70万キロとか。アイディアを創出する環境としての「因習的なアプローチを排除し、境界線からはみ出すほどいい、すべてにおいてクレージーでオープンな実践を求める場」の責任者としては、もっともふさわしい人として選択された。

ラボ特別研究員の角川グループホールディングス会長角川歴彦会長は「21世紀に日本が遅れを取らないためにも、日本人が所長であることをうまく活かす環境をつくっていかないと」と話す。今後の伊藤氏、並びに「MITメディアラボ」の動向に注目したい。

エルピーダ更生法申請!

今週28日の各新聞の朝刊トップ記事に、エルピーダが会社更生法を申請し、事実上倒産したことが報じられた。NEC,日立、三菱電機のDRAM事業を統合し、テキサスインストルメントから招いた半導体専門家坂本社長の剛腕で、サムスンを超え世界一を目指すとしたが、残念ながら夢の実現は叶わなかった。半導体事業は、ともかくマーケットが頻繁に動く中で、商品が成熟する間もなく先に向けた投資を適切に実施出来なければ生き残れない、非常に厳しい業界と聞く。今回も、リーマンショックの痛手から立ち直れない状況の中で、サムスンはパソコン向けDRAMからスマホ用DRAMにいち早く切り替え(投資し)たが、資金繰りが厳しいエルピーダは、その切り替えに後れを取ってしまった(円高もあるが)。坂本社長は社長就任後、ともかく浮き沈みの激しい中、資金繰りに日々奔走されていたとか。やはり厳しい業界だ。

それにしても、世界に誇れる「日の丸技術」があらゆるところで苦境に立っている。日経の「日曜に考える(2012.2.12)」に「日の丸技術:復活の条件―オープンな若い感性が重要に」との記事が掲載されている。日本のデジタル事業を牽引してきたソニーやパナソニックはどうしたのか?ソニーで言えば平面ブラウン管の成功が薄型テレビへの移行を遅らせ、MD(ミニディスク)の事業が音楽ネット配信を阻んだ。「iモード」を守ろうとしたNTTドコモはスマートフォンに出遅れ、その機能を引き継ごうとして通信障害を起こしたと言う。フィンランドのノキアも、「ブラックベリー」のRIMも同じく、成功体験が変化を拒んだ。アメリカでは、以前はハイテク産業の中心はボストン周辺だったが、パソコン・インターネットの出現でシリコンバレーにその座を奪われた。部品から製品、サービスまで社内で手掛ける東海岸モデルは、一度成功するとそれを守ろうとする力が働くと言う。一方で、半導体や製品、ソフトなどを異なる企業が提供する西海岸モデルは、階層ごとに競争原理が働き、変化への対応がしやすいとカリフォルニア大学の教授は分析する。日本や、欧米で苦戦する企業はたしかに東海岸モデルと言える。そのような企業は終身雇用制など人材流動性が低いし、経営者には過去に成功した人が就き、過去のモデルを壊しにくい。アップルや、グーグル、フェイスブックなどは過去の成功資産にも上司にも気を使う必要がないらしい。

「日の丸技術」復活に向けて、ソニーの次期社長平井氏(51歳)に期待が集まっている。

冲中一郎