ホンダの哲学「自立、信頼、平等」

本田技術研究所でSRSエアバッグの開発、量産、市販に成功され、現在中央大学の客員教授をされている小林三郎氏が日経電子版に投稿されている記事に、ホンダの企業理念に基づく風土、文化の定着度の素晴らしさが掲載されている(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK14027_U2A610C1000000/)。

ホンダのホームページにも見ることが出来るが、ホンダの基本理念として、下記「人間尊重」の考え方が記されている。

●自立
自立とは、既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性をもって行動し、その結果について責任を持つことです。
●平等
平等とは、お互いに個人の違いを認め合い尊重することです。また、意欲のある人には個人属性(国籍、性別、学歴など)に関わりなく、等しく機会が与えられることでもあります。
●信頼
信頼とは、一人ひとりがお互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます。ホンダは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます。

‘自立’の事例として、他業種との研究員の交換留学を実施した際、ホンダに来た他社の研究員は「指示が曖昧で何をやっていいか分からない」、他社に行ったホンダの研究員は「あれをやれ、これをやれとやたらと指示が細かくて仕事にならない」と。1週間でこの制度は廃止になったとか。上司の指示通りやって失敗した際の言い訳に「上司の指示通りやったため」と言うと、怒鳴られる。「俺が死ねといったら、お前は死ぬのか」と。要は常に自分で考え、自分で判断せよと言うことだ。フラットな組織で、役員といえども、社員が集まるワイガヤ(3日3晩の合宿討議)に参加し、みんなと議論を戦わせる風土があるから、言えることなのだ。

そう言えば、何かの記事を読んだ記憶があるが、青山にあるホンダの本社ビルの各フロアの窓には、幅約1.5mのバルコニーを巡らせてある。これは、創業者本田宗一郎氏の考え方で、「もし、大地震で窓ガラスが割れ、地上にでも落下したら…、そんな危険な事態が起きた時、割れ落ちたガラスの受け皿になり、地上の歩行者の安全を確保する」ために作ったバルコニーなのだ。またフロアごとに3ヵ所の避難階段があるそうだ。どこで火災が発生しても、ふた方向以上の避難路の確保のためだとか。また、車の運転中の見通しを考えて、ビルの角を丸くし、ビル自体を奥へひっこめている。

「人間尊重」の理念を徹底的に追及する姿勢を見ることが出来る。元社員の記事だけに、本田イズムの素晴らしさを実感できる。

巨人原監督騒動が日経1面コラム「春秋」に!???

驚いた!1個人の話が、まだ決着したわけではないのに、今朝の日経1面のコラム“春秋”に、週刊文春ですっぱ抜かれた巨人軍原監督の不倫問題が取りあげられている。不倫問題というより、もみ消しのための1億円が反社会的勢力に1個人からわたったことを追求している。しかし、球団およびご本人は、渡した事実は認めながら、反社会的勢力との報道は間違いと、週刊文春を訴えると言っている最中の記事である。

ネットでは、週刊文春の記事をきっかけに、いろんな憶測が飛び回っていると言う。1億円という大金を、ゆすられて支払う、そしてそのことを警察にも、球団に報告もしないという、原監督の世間知らずを責める投稿もあるが、あくまで、1個人の話である。

日経の”春秋“というと、朝日新聞の”天声人語“と同様、社会的に大きな影響力のあるコラムである。世の中は、政治・経済も混とんとし、課題も目白押しである。そのような中での今回の記事である。日本の国民的人気スポーツ、プロ野球の発展を阻害する組織的事件であれば(大相撲のような)分かるが、1個人の話と思える。プロ野球人の反社会的勢力との関係に問題があるとの問題指摘ならわかるが、そうも思われない。

コラムニスト、ブロガーにとって、読んでくれているお客様に、如何にいいメッセージを伝えるか、そのためのテーマ探しはほんとに難しい。私もブログのテーマ探しには苦労している。日経の“春秋”の愛読者として、いつも知識の豊富さ、時宜を得たテーマに感心させられている。あえて今回の記事のメッセージ性が分からず、指摘させて頂いた。もっと深い意味が隠れているとしたら、お許し願いたい。

ちなみに、私はアンチ巨人、大の阪神ファンだ。

福岡市“禁酒令”は妥当か?

5月21日福岡市長が市職員に対し、1か月間の外での飲酒禁止令を発令した。市職員による飲酒関連の事件多発に伴う処置だ。この処置に対して、いろんな意見が出ている。昨日の朝日新聞15面「オピニオン耕論」で、当の福岡市高島市長と弁護士平田氏、漫画「島耕作」で有名な弘兼氏の3人が「禁酒令は妥当か」のテーマに対して意見を述べている。平田氏は「自由を縛るのは人権侵害」、弘兼氏は「一律に職員を叱るのは疑問」とある。

私が入社後配属されたのが地方の製鉄所。どこの製鉄所も同じだったと思うが、「社員の交通三悪は厳罰、交通違反も処罰」と厳しく、飲酒運転、速度超過、無免許運転の三悪は、部単位の共同責任として、部長以下管理職が共同責任を負い通勤時門立ち(たしか1週間ほど)を強制させられた。この趣旨は、「製鉄所は地域との共生を謳い、地域に迷惑を与える行為を厳に慎む」とするものであった。「交通違反も、重大事故の芽」と、近隣の警察署に定期的にヒアリングし、社員の交通違反に目を光らせていた。交通違反を起こせば、構内への車乗り入れ禁止となる(何キロにもなる構内の移動に車が使えないのは仕事の効率にも大きな影響あり)。

構内で、自部門以外でも死亡災害が発生すると、製鉄所全体が喪に服し、1カ月外部での飲酒は禁止となる。

大きな組織で、絶対起こしてはいけない事故に対して、何らかの牽制を働かせるのは当たり前と思う。事実、上記のような対策を講じても、交通違反はなくならないが、明らかに減ることは確かである。死亡災害も、発生時徹底的に原因分析を行い、その結果を多くの前で発表することにより、絶対起こさない決意を行う。これも昔に比べると格段に減っている。私も実は、新人時代に3悪ではないがスピード違反を起こした。その時、部長はじめ周囲の人に多大な迷惑をかけ(「新人のくせに何だ。やめさせろ!」との声も聞こえた)、今後は絶対違反をしないと決意し、実際その後交通違反はしていない。

福岡市の場合、2006年に職員の飲酒事故で3児が死亡すると言う悲惨な事故の記憶が真新しい中で、連続して発生した飲酒に伴う傷害事件などが発生し、今回の禁酒令に至ったと思う。平田氏は勤務時間外も縛るのは人権侵害と言うが、時間内は「市民に対して思いやりの心で接し」、時間外は「何をやっても自由」ということは現実的ではないと思う。人間、そんなに器用ではないし、交通違反でも、「自分はつかまらないから速度を少々出してもいいのだ」と自分のリスクに対して希望的観測で動くのが常である。組織が規律を守ることに緩んでいる場合、多少勤務時間外においても規制をかけるのは仕方がないことと思う。高島市長の今回の禁酒令を平田氏は「人気取り」と言うが、一般企業でこのような事故が立て続けに起こった場合、地域住民に対する申し訳なさでもっと厳しい措置をとるのが一般的と思う。トップが「なぜこんな対策を打たねばならないか」メッセージを丁寧に発信しながら、1カ月を職員みんなが共同責任と考え、みんなで反省をする期間とすることは、市民サービスを仕事とする市職員にとって大いに意義あるものと考える。

冲中一郎