「全員経営」のすすめ

PHP Business Review「松下幸之助塾7・8月号が昨日届いた。5.6月号に関してはその一部を5月3日(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/5/3)、5月5日(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/5/5)に紹介した。今回の特集は「全員経営の凄み」。そのリード文を紹介しておく。

「‘全員経営’――この言葉が近年マスコミ上に頻出し、多くの企業の課題として問われている。その背景には、‘全員経営’ではない経営、すなわちトップの経営判断だけに頼る経営ではこのグローバル化の時代、スピードに劣り、とても乗り切れないからという危機感がうかがえる。そしてまたそれは一人ひとりのビジネスパーソンの尊厳を考える上でも、必然となってきたようだ。社員全員が目標を共有しつつ、経営者感覚を持ち、機能すれば、いったいどれだけ高度な経営ができるのであろう。一流経営者たちが求める‘全員経営’のための哲学と方法を探る。」

成功事例として「ヤマダ電機」やブラジルのコングロマリット「セムコ社」が紹介され、大手外資系(シェル石油、ジョンソン&ジョンソン、フィリップスなど)のトップを歴任された経営のプロフェッショナル新将命(あたらしまさみ)氏が「全員経営を根づかせるために必要な仕組みつくりとは」を提言されている。新将命氏は「経営の教科書」などの本も出版されており、私もこの本を読んで同氏に興味を持ち、講演会でお話を伺ったが、経験に裏付けされて経営論に感銘を受けた。新氏の今回の提言の一部を下記に紹介する。

ワンマン経営では、ワンマンの能力以上の成長、発展は望めない。あるレベルまで大きくなった会社がそれ以上伸びない原因は、そのトップにある。その壁を突破するためには、社員の衆知を集めた全員経営が必要。その全員経営を実行するためのポイントは

  • ① 方向性
  • ② 関与
  • ③ フィードバック

この3つのキーワードを会社の中にしっかりと根づかせることと言う。筆者はいろんな会社から企業研修を依頼され、毎週のように幹部や部課長クラスの研修を実施されている。その中で頻繁に出てくる言葉が「疲労感」「疲弊感」そして「閉塞感」だそうだ。目先の売上高や利益の確保、新規顧客の開拓などで、朝から晩まで鞭を振り回され、部課長はそれに応えんと遮二無二働いている。部課長にこの3つを感じたことがあるかと聞くと、「強くまたはある程度感じる」と答えたのが90%で、「全く感じない」は0%だったそうだ。

これを解決するためには、「方向性=理念+目標+戦略」を社員の納得性の元に作ることがまず重要と言える。トンネルの先に光が見えれば、今の疲れは我慢でき、頑張れる。部課に目標を与えるとき、一方的に与えるのではなく、目標設定に部下も参画させ、納得性のあるものにする。会社の理念や戦略を作る過程においても参加させることも意味がある。これが2番目のキーワード「関与」である。目標が決まれば、その結果が出たときに、きちんとフィードバックすること。目標の立てっぱなしは逆効果で、部下に対する無関心を表わし、部下のモチベーションを下げてしまう。この3つが、きちんと定着すれば、社員のやる気に火をつけられる可能性が大きくなり、経営に対する関心も惹起し、当事者意識も湧き上がる。「関与」によって部下のやる気は3倍になると筆者は言う。このような風土が出来れば、「自責の企業文化」(何か問題が起こった時、他者に責任を求めず、自分の責任で考える)の定着も可能となる。

松下電器は松下幸之助氏の「全員経営」の発想で大きくなった。新氏は、グローバル企業のトップを数社経験してきた中で、「全員経営」は、企業経営の普遍的な要諦であると言う。より大きく成長するためにも、「全員経営」は一考の価値あると思うがいかが・・・。

ホンダの哲学「自立、信頼、平等」

本田技術研究所でSRSエアバッグの開発、量産、市販に成功され、現在中央大学の客員教授をされている小林三郎氏が日経電子版に投稿されている記事に、ホンダの企業理念に基づく風土、文化の定着度の素晴らしさが掲載されている(http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK14027_U2A610C1000000/)。

ホンダのホームページにも見ることが出来るが、ホンダの基本理念として、下記「人間尊重」の考え方が記されている。

●自立
自立とは、既成概念にとらわれず自由に発想し、自らの信念にもとづき主体性をもって行動し、その結果について責任を持つことです。
●平等
平等とは、お互いに個人の違いを認め合い尊重することです。また、意欲のある人には個人属性(国籍、性別、学歴など)に関わりなく、等しく機会が与えられることでもあります。
●信頼
信頼とは、一人ひとりがお互いを認め合い、足らざるところを補い合い、誠意を尽くして自らの役割を果たすことから生まれます。ホンダは、ともに働く一人ひとりが常にお互いを信頼しあえる関係でありたいと考えます。

‘自立’の事例として、他業種との研究員の交換留学を実施した際、ホンダに来た他社の研究員は「指示が曖昧で何をやっていいか分からない」、他社に行ったホンダの研究員は「あれをやれ、これをやれとやたらと指示が細かくて仕事にならない」と。1週間でこの制度は廃止になったとか。上司の指示通りやって失敗した際の言い訳に「上司の指示通りやったため」と言うと、怒鳴られる。「俺が死ねといったら、お前は死ぬのか」と。要は常に自分で考え、自分で判断せよと言うことだ。フラットな組織で、役員といえども、社員が集まるワイガヤ(3日3晩の合宿討議)に参加し、みんなと議論を戦わせる風土があるから、言えることなのだ。

そう言えば、何かの記事を読んだ記憶があるが、青山にあるホンダの本社ビルの各フロアの窓には、幅約1.5mのバルコニーを巡らせてある。これは、創業者本田宗一郎氏の考え方で、「もし、大地震で窓ガラスが割れ、地上にでも落下したら…、そんな危険な事態が起きた時、割れ落ちたガラスの受け皿になり、地上の歩行者の安全を確保する」ために作ったバルコニーなのだ。またフロアごとに3ヵ所の避難階段があるそうだ。どこで火災が発生しても、ふた方向以上の避難路の確保のためだとか。また、車の運転中の見通しを考えて、ビルの角を丸くし、ビル自体を奥へひっこめている。

「人間尊重」の理念を徹底的に追及する姿勢を見ることが出来る。元社員の記事だけに、本田イズムの素晴らしさを実感できる。

巨人原監督騒動が日経1面コラム「春秋」に!???

驚いた!1個人の話が、まだ決着したわけではないのに、今朝の日経1面のコラム“春秋”に、週刊文春ですっぱ抜かれた巨人軍原監督の不倫問題が取りあげられている。不倫問題というより、もみ消しのための1億円が反社会的勢力に1個人からわたったことを追求している。しかし、球団およびご本人は、渡した事実は認めながら、反社会的勢力との報道は間違いと、週刊文春を訴えると言っている最中の記事である。

ネットでは、週刊文春の記事をきっかけに、いろんな憶測が飛び回っていると言う。1億円という大金を、ゆすられて支払う、そしてそのことを警察にも、球団に報告もしないという、原監督の世間知らずを責める投稿もあるが、あくまで、1個人の話である。

日経の”春秋“というと、朝日新聞の”天声人語“と同様、社会的に大きな影響力のあるコラムである。世の中は、政治・経済も混とんとし、課題も目白押しである。そのような中での今回の記事である。日本の国民的人気スポーツ、プロ野球の発展を阻害する組織的事件であれば(大相撲のような)分かるが、1個人の話と思える。プロ野球人の反社会的勢力との関係に問題があるとの問題指摘ならわかるが、そうも思われない。

コラムニスト、ブロガーにとって、読んでくれているお客様に、如何にいいメッセージを伝えるか、そのためのテーマ探しはほんとに難しい。私もブログのテーマ探しには苦労している。日経の“春秋”の愛読者として、いつも知識の豊富さ、時宜を得たテーマに感心させられている。あえて今回の記事のメッセージ性が分からず、指摘させて頂いた。もっと深い意味が隠れているとしたら、お許し願いたい。

ちなみに、私はアンチ巨人、大の阪神ファンだ。

冲中一郎