リーダーの自己観照

いつも紹介していますPHP Business Review「松下幸之助塾2021.11.12号」の特集テーマが「リーダーの自己観照」だ。冒頭記事に“松下幸之助が心がけた素直な心で自己観照”のテーマ説明記事がある。

松下幸之助は、失敗する経営者の特徴として、自分の適性や力を正しく認識していないことを挙げている。自己観照が必要なのだ。松下幸之助の言う自己観照とは、自分の心をいったん外に出し、その出した心で自分を見直してみることである。つまり、あたかも他人に接するような態度で、客観的に自分を観察することだ。そんなことができるのか。経営者あるいはリーダーなら、たとえ難しくても、しなければならないことだと言う。

本文では、松下氏が昭和39年に、それまで相当つぎ込み、実業化近しと思われていたコンピューター事業からの撤退を決断した時の話が載っている。当時松下含め7社が、コンピューター事業をやろうとしていたが、多すぎて共倒れになるとの判断だったが、当時は好ましくない批判に晒された。その後コンピューター事業は伸び悩んで再編が起こり、松下幸之助の判断は賢明だったとの評価を得たと言う。撤退判断と言う思い決断の時、まさに自分自身を客観的に見るため、意地になることなく素直な心で自己観照に努め、自分の判断の正しさを確信していたそうだ。

「自分の力とか適性が分からなければ、他社や人の言う事、することが気になる。他社がいいところにビルを借りたり、たくさんの人を採用して成長したりしたら、それをまねて大失敗することが往々にして起こる。」と松下幸之助は言う。「自分の事は自分は自分が一番知っている」とよく言うが、自分の考えや行いがはたして独善ではなく、道理にかなっているのかどうか、社会的に正しいかどうか、人情の機微に適したものかどうかを評価する段になると別。人間というのは、どうしても自分中心に、自己本位に物事を考えがちで、他人から見たらずいぶんおかしいことでも一生懸命に考え、それを正しいと信じている場合が多いのではなかろうかと記事編集者は指摘する。しかし、自己観照を自ら実施するのも限界がある。「みずから自己観照するということは、よほどの達人、名人ともならなければできない。けれども、自分というものはどんな格好をしているか、どんな長所や短所があるかということは、自分の友人なり、自分の先輩なりに観照してもらったならば、私は良くわかると思うんです」と松下幸之助氏はある講演会で言っている。

本田宗一郎氏には藤澤武夫氏という相棒、井深大氏には盛田昭夫氏という相棒がいたというのは、理想的な経営スタイルと思える。稲盛氏は、第二電電を起こす決断をしたとき、「動機善なりや、私心なかりしか」と自問自答したと聞く。経営者、リーダーは常に謙虚に自分を振り返り、素直に耳を貸す姿勢が、経営の安定化に必須と言う事だろう。

今回の号には、小林陽太郎氏や、齋藤孝氏などの記事もある。追々紹介したい。

プロを目指そう!

今日(10.23)の日経ビジネスオンラインメールに『「プロじゃなかった・・・」リストラで運転手になったミドルの重い一言(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20121019/238300/?mlp)』(by河合薫)というのがあった。中国へ進出した企業が現地の会社を管理するために、中国語がしゃべれる日本人社員を中国に派遣した。生産管理など仕事を教える仕事だったが、中国人社員は覚えも良く、日本語も含めてすぐ身に付けた。そのため、中国語がしゃべれる意味合いがなくなり日本に呼び戻されたが、席が無くリストラの運命に会い、生活のために運転手になった人の話。河合氏がそのタクシーに乗って聞いた話で、最後に運転手がポロリと「営業も、生産管理もプロじゃなかったので・・・」と言ったのが印象に残ったそうだ。河合氏曰く「グローバル化は、一部の人と企業にしか利益をもたらさない。グローバル化が進めば、中流層の仕事は低コストで雇えるアジアなどの外国人に奪われる。グローバリゼーションの名の下に始まった、労働のダンピング劇。求め続けられる人だけが生き残り、そうでない人は淘汰される。強い者が残り、弱い者が食い尽くされる。」と。

アジアへの進出の悲劇とでも言うのだろうか?日本国内のみの事業も厳しく、アジアに進出すれば、コスト競争で厳しい現実がある。となると、先進国での経験を活かして、プロフェッショナル性を磨くしかない。河合氏は「天才!成功する人々の法則(byマルコム・グッドウェル)」の「1万時間ものトレーニングの積み重ねが天才を生む(Ten Thousand hours is the magic numbers of greatness)」の言葉を紹介し、さらにパフォーマンス向上のための計画的努力を薦め、「1万時間に及ぶ計画的訓練(deliberate practice)」をすれば、誰もが秀でた能力を身に付けることが出来るとしたフロリダ州立大学のダーク・エリクソン教授の説も掲載している。1万時間というと10年近い時間軸となる。

「自分がどうありたい」との何らかの目標を持って、意志力(grit)で継続的に努力することによって、なくてはならない人材になる。グローバル化が必然の将来に向けて、特に若い人たちは、日本人の資質を活かしたプロになる道を今から目指してほしい。

お客様よりお客様の家づくりに熱心であろう

標記を基本理念として掲げ発展を続ける工務店が浜松にある。一条工務店だ。今朝の日経6面の“活かす企業人”に一条工務店宮地剛社長が「顧客のために考え抜く」熱い人材に”と題して求める人材像について述べられている。以前、“「おもてなし経営」を実践する都田建設(http://jasipa.jp/blog-entry/7041)”で紹介した都田建設も浜松だが、気風として浜松には「お客様のために」との気風があるのだろうか?

1978年創業の木造注文住宅メーカーで、2011年度の販売戸数が8596個で木造住宅メーカーでは全国2位の企業。グループ売上も2400億円以上。宮路社長は「株式公開もせず、宣伝活動にも注力してこなかったため、一般の方にはなじみが薄いかもしれない」と言われるが、その中でこの業績を上げられるのは、それなりの理由があるのだろう。

「お客様よりお客様の家づくりに熱心であろう」との理念のもと、「住まいの性能の差は、暮らしの差」と考え、家の性能を追い求め続けている。まずは、実現困難と言われた戸建て住宅の免震化に、普及可能な性能とコストで1999年に成功し、この「免震住宅」の受注実績は、主要住宅メーカーにおけるシェア8割強と圧倒的な地位を確保している。さらには、省エネ住宅としての断熱性能は国の基準値の約4倍。太陽光発電も、初期支出をゼロにし、搭載費用を入居後の発電による売電益で賄う「夢発電システム」を用意し、現在搭載率は88%強と業界トップ。この夢発電システムはさらに進化していると言う。

このように発展をし続けるための求める人材は、「自らのミッションに対し、しぶとくとことんやり抜く“熱い人”」と言う。「たとえお客様が“それでいい“とおっしゃっても、疑問が少しでもあればよしとせず、お客様の為に、納得でき、満足できるまで”考え抜く“人材とも言える」と。さらに続けて「当社では”とりあえず頑張る“というのは目標になりません。目標と期日はあくまで具体的かつ明確に定め、その実現に向け自ら行動する。そのための支援は決して惜しみません」と言う。そのため、入社歴などに応じた画一的な教育ではなく、個人ごとの習熟度に応じた「テーラーメイド型研修制度」を用意。ITを駆使して課題解決の進捗を個別にチェックするそうだ。自分で受けたいプログラムを選び、順番にこなす「スタンプラリー型」の制度もあるとか。

ジョンソン・エンド・ジョンソンなど外資系の経営に携わってこられた、新将命(あたらしまさみ)氏は「人の採用、不採用の決定時、心がけているのは、価値観が共有できそうな人か、もう一つは目に光があるかどうかが決め手」と言う。「目に光」とは、目を見れば熱き人材かどうか、問題意識を持ち、意欲がある人かどうかという事。「目は口ほどにものを言い」どころか「目は口よりもものを言い」だと言っています。

「お客様視点」で物事を考え、「お客様のため」を思って情熱を燃やし、妥協しない人材を求めるのは、IT業界でも同じである。

冲中一郎