川崎での容疑者逃亡事件に想う

横浜地検川崎支部で起きた容疑者逃亡事件。周囲の方は眠れない日が続く2日間だったこととお察しする。これまでも類似事故も多くあったが、今回ほど、開いた口が塞がらない、組織の退廃はこんな形で現れるのだとほんとに呆れた。ストーカー殺人事件など防止できたはずの事件も多くあるように思えるが、こんな「緩んだ組織」を改革できない組織ではこれからも事件は減らないことが大いに懸念される。

仮の接見場との認識に有無

正規の接見場は、接見者と容疑者の間には仕切りがあり、絶対に容疑者が逃げられない構造になっている。今回の川崎支部の仮接見場は、普通の会議室と同じように見える。なのに、正規の会見室と同じ体制で臨んでいる。

仮の接見場を使う場合のルール・各人の役割の有無

警備体制のしっかりした正規の接見上ではなく、民間の会議室と同じような場所を使わざるを得ないとすれば、その場合の警備体制や、個々人の役割をもルール化したものがあると思うが、あったのだろうか?(全国の支部でも同じような接見場が多いと聞く)。今回でも、途中で容疑者が4回のトイレに行ったり(警察官が同行。これが下見だった?)、事務官が席を外したり、全くルールがない中での行動のように見える。警備体制が不十分との認識があれば、外からカギをかけることはだれが考えてもするリスク管理ではなかろうか。腰縄だけで、それをするりとすり抜けて逃走したのにも驚く。警察官はおかしいととっさに素早く行動できなかっただろうか?

驚くべき管理実態

おそらく、過去長い間このような管理方法で事故もなくやってこれていたのだろう。それがまた、危機感をなくしてしまっていたのではとも思える。特に最近は検察、警察関係の不祥事が目立つが、「自らの役割をどう考えて職務に取り組んでいるのか」疑問に思うことが多い。今回も、腰縄を持っていた警察官が「自分の役割=容疑者逃亡防止」と明確に分かっていたなら、そう簡単には逃亡できなかったのではと思える(自分の責任で対策を考えておれば)。

教訓とすべきは

今回の事件を他山の石としてみれば、ちょっとした「気の緩み」が「大きな事故」を引き起こす典型的な事象として説明できる。「リスクマネージメント」が組織的に出来ており、その上で各人が持ち場持ち場で考え、「チームワーク」で最終目的を達成する。「小さなリスク」を放置してると、今回のような「大きな危機」を招くことにもなる。昨日四日市の三菱マテリアルで爆発が起き5人死亡のニュースが流れた。水素が発生する可能性のある機器の傍に炎の発生する可能性のある機器を置いていたとの事。「外部だから大丈夫」「これまで何も起きてないから」と、社員の中からも疑問も出なかったのだろう。今日社長が「管理のまずさ」をお詫びしていたが、どこかに「気付かないリスク」が潜んでいないか、社員みんなが自由にモノ言える風土もその解決のためには重要と言える。

100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その1)

昨年末(12.21)にフォレスト出版から標題の本が出版された。著者はこれまでにも何度か紹介している感動プロデューサー平野秀展氏。本の出版も10数冊に達し、企業からの講演依頼も多いそうだ(トヨタ、武田薬品、パナソニック、リコー、マイクロソフトなど一流企業多数)。平野氏に関しては「本気を出したのはいつ?(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/3/21)」など多数のブログ記事を掲載した。

プロローグの一部を紹介する。

人は、感動で動きます
どんなに辛い事や、消えてしまいそうなことがあったとしても
一つの感動体験でもう一度前を向いて
歩き出そうと思うことが出来ます
人として生きる喜びを味わい
困難をも乗り越える感動が持つ力は
きっとあなたの人生というステージを
明るく照らすスポットライトになるでしょう

平野氏は「満足」と言う言葉に反応せず、「感動」を追求すべしと説く。昨年9月の皆さんの記憶に新しい東京オリンピック招致の際のプレゼンを引き合いに出し、その構成の素晴らしさが世界を驚かせたとも言う。とかくオーバーアクションの多い欧米人に比し、奥ゆかしさを維持しながらも日本人でもあそこまで外国人を感動させうることを証明した。物質的要求が強い時代は、モノを持つことで満足していた。しかしいまは「心が揺り動かされる」ことで納得したり、共感したり、感動したりしてモノを買いたくなる時代だ。モノの品質や性能を事細かく説明して、お客さまを説得しようと思ってもなかなか買ってくれない。「企業の営業はビジネスアーティスト」と平野氏は言う。オリンピック招致のプレゼン練習を指導したニック・バーリー氏が「リハーサル、練習、リハーサル、練習、さらにリハーサル、練習」を招致委員に要求したそうだ。表情・姿勢から、喋り方まで、現地でも1週間以上、本番リハーサルを行った(顔の表情の重要性に関してはhttp://jasipa.jp/blog-entry/9175)を参照ください)。まさに俳優と同じだ。

自分が感動できる人間でないと、他人を感動させることは出来ない。最近も「感動型人材の育成」に力を入れている企業も増えてきたと聞く。今回の平野氏の本は、コミュニケーション力、プレゼンテーション力にも当然通じる、100万人の心を揺さぶる方法論だ。逐次何回かに分けて説明させていただきたい。

日本の文化、自然を維持したのは外国人?

昨夜(2日)NHKで自然遺産が大好きダニエル・カールと文化遺産になった富士山に魅せられているパックンが、自分の好きな日本の世界遺産をプレゼンテーションする「世界遺産ドリーム対決」と言う番組を放映していた。

幕末,文明開化に憧れる日本人たちは伝統的な日本文化を軽んじ、日光の東照宮などは荒廃の危機に陥りました。それを救ったのは日本にやってきた外国人たちだったと言う。明治初期の外来の仏教を排する「廃仏毀釈」運動で、全国の寺院・仏像・地蔵が破壊されることになったが、フェノロサが政府に嘆願して奈良の法隆寺や、興福寺が残ったとも言う。フェノロサの配下にいた岡倉天心が、破壊された何百もの仏像の修復にあたったそうだ。当時奈良の五重塔も薪用として売り出され、その値は今の価値で2万円だったとか。

ハーバード大学の要請で屋久島を訪れた(1914)ウィルソンは、日本の四季が凝縮された屋久島の自然美に感動し、当時の屋久島の若い人たちに屋久島の自然を維持するよう懇願したと言う(最近当時の写真がハーバード大学で見つかった)。屋久島には大きな切り株(大阪城建設のために伐られた切り株にウィルソン株と命名されている。100メートル素潜りの記録を持つマイヨールがこよなく愛した世界遺産八丈島もある。

彼らは日本の美術・建築・自然の美しさに魅了され、日本人が気付いていないそのすぐれた価値を伝えた。彼らの日本文化への愛がなければ、日本の世界遺産は存在しなかったかもしれないのだ。以前当ブログで、伊勢神宮や、白川郷、桂離宮などを「パルテノン宮殿に匹敵する建築物」と評価したブルーノタウトの話をした(http://jasipa.jp/blog-entry/9085)。このブログでは「自社の強み、個人の強みを知るためには、積極的に外の世界と交流し、自社を、自分を“素直”に見つめ直すことが必須ではないかと思う。JASIPAなどの集まりに参加することで、他社との人脈を広げる機会を得ることも、その意味では大いに意味あることと思う。普段当たり前と思っていることが、意外とそうではなく、自分の強みだと分かれば、大きなエネルギーに変わり、大きな生きがいにもなる。」と締めくくった。フェノロサがいなければ、法隆寺や興福寺、仏像などが消えてしまっていたかも知れないと思うと、畏怖を感じる。

冲中一郎