100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その3)

今回は、第三者(上司、部下、お客さま、家族、友人・・・)との間での共感、感動の作りかたのコツに関する平野氏の提案だ。

平野氏は「物語力(story)で感動を生み出せ」と言う。最近、企業戦略にしろ、経営理念にしろ、ストーリーで語れとの提案が数多く聴かれる。「ストーリーとしての競争戦略(楠木建著、東洋経済新報社、2010・5)」でも「優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」と。平野氏は「売れているものほど、“その商品が生まれるまでの思い、試行錯誤、商品化に至るまでのドラマ”といったストーリーが描かれていることが多いことに気付く」と言う。NHKのヒット番組「プロジェクトX」なども参考になる。各企業でも、プロジェクト紹介などを行うことが多いと思うが、第三者の記憶にはなかなか残らない。「プロジェクトX」とまでは行かなくとも、どんな苦労があって、それをいかに乗り越えてきたか、そしてお客様の信頼を得るための努力、結果としてお客さんからの評価をどうやって得たかなどを物語風に紹介すると、共感あるいは感動を与え、みんなの記憶にも留まり、プロジェクト管理の質向上にも役立つことになると思われる。

開発商品に関する説明に関しても、単に商品の機能、性能説明だけでは、お客さまだけではなく、同じ社内の営業とも共感を得にくい。「どんな思いでその商品のアイディアを思いついたのか?」「実現までにどんな試行錯誤があったのか?」「その商品を使うと、どんなハッピーエンドシーンが生れるのか?」、開発担当は“脚本家”、営業は“役者”、そして役者の魅力を最大化するための“演出家”、それぞれの役割を担いながら、その商品の魅力を物語風にまとめ、役者に演じ切らせる。

物語を考える際のキーワードは「二人称」。人は、自分の思いをより相手に伝えるために無意識に一人称、二人称、三人称を使い分けている。しかし、意識せずにいると一人称、三人称を使うことが多いが、「共感を持って感動的に伝わるのは“二人称”的表現が最もふさわしい場合が多い」と平野氏は言う。「大切な“あなた”へ向けて伝える何か」「大切な“あなた”のために創る何か」「大切な“あなた”をサポートするアイディア」。例えば、商品説明で「この商品の特徴は○○○です」というより、「お客さまがこの商品を使うと○○○を体験できます」と言った方が顧客にとっては聞きやすい。顧客や部下、後輩、友人、家族に対して“大切なあなた”と言う意識で発する言葉やメッセージは、人間すべてが持つ「共鳴装置」によって共振する。顧客に配る「営業レター」等でも“二人称”文言が顧客の心に刺さる。

「物語力」と「二人称」。相手との関係で感動を創りだすキーワードとして、常に意識しながら取り組む価値はありそうだ。

100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その2)

前回の記事(http://jasipa.jp/blog-entry/9271)で、「ビジネスアーティスト」と言う言葉を紹介した。P&Gの元グローバルマーケティング責任者のジム・ステンゲル氏も日本講演の際、「実績を上げているブランド企業には、必ずビジネスアーティストがいる」と言っていたそうだ。「他者へ影響を与え、感動を生み出し、技術を革新し、ビジネスを作品に昇華させるのがビジネスアーティスト」とも。具体的事例として、P&Gの主力製品であった紙オムツ「パンパース」の売り上げが低迷していた時、売上を3倍にしたというコマーシャルのエピソードが印象に残ったと言う。

吸水性、乾燥性に絶対の自信を持っていたP&Gは、その品質を前面に出した広告展開をしていた。その時、ビジネスアーティストは世界中のお母さんにインタビューした結果新しいコマーシャルを生み出した。それは、静かな讃美歌が流れる中、パンパースをつけた赤ちゃんがすやすや眠る映像がただ静かに流れる1本のCM.キャッチコピーは「赤ちゃんのアイデアに基づき、パンパースが作りました」。

このCMによって、世界中のお母さんたちは、P&Gが自分達と同じ価値観を持った企業だと共感した。吸水性や、乾燥性も大事だが、それ以上に赤ちゃんがすやすや眠れるかどうかが大切だったのだ(アップルのiPodの宣伝文句「1000曲をポケットに」(http://jasipa.jp/blog-entry/7415))も多くの人に共感を与え大ヒット)。

「人は説得されるよりは、共感したい」。そして、平野氏は「ビジネスアーティストになるために必要な才能は、人間であれば、もれなく標準装備されている」という。

純真無垢な子供のころ
笑ったり歩いたりしただけで、
まわりの人を感動させていた天然の表現力。
そこにいるというだけで、
まわりの人を幸せにしていた天然の共感力。

「感動したい人から、感動させる人へ」。そのシフトが、あなたの仕事と人生を、圧倒的な喜びと豊かさに満ちたレベルへと変えていく。あなたの中にある「標準装備を磨きだす」ことで誰にでも可能なこと。

商品を売り込むとき「こんなことも出来る、あんなことも出来る、性能はこんなに優れている」などと商品の説明に終始していませんか?「説得より、共感」を、そしてビジネスアーティストの意味を一度考えて見ませんか?

国立最蹴章高校サッカー決勝、こんなことが起こるんだ!(13日)

石川県星陵高校(本田の出身校)と冨山県富山第一の初の北陸勢対決となった今年の決勝(オリンピックに向けての改修のため、今回が国立での最後の試合)。今回の大会で無失点の星陵高校の勝利を多くの人が予想していたのではなかろうか?試合は、前半は完全に富山第一のペースだったが、ペナルティで1点星陵がリードする展開。やはり、星陵のディフェンスはすごい。後半は、星陵もペースを取り戻し、お互いに攻め合う展開に。そして星陵が後半25分1点取り2点差。これで、星陵の優勝間違いないな(星陵高校自身もそう思ったのだろう、主将と今日の唯一のポイントゲッター2人をOUT)と思っていたら、後半42分過ぎてから信じられないことが起きた。まず42分の富山第一が、星陵にとっては初の失点になる1点ゲット(2:1)。そして既にロスタイム3分も残すは1分となり、ここまでか、と思ったその瞬間、ペナルティエリア内で星陵の反則、これを監督の息子がきっちり決めて同点、延長戦に。10分X2の延長戦も攻め合いになったが、点が入らず、富山第一もペネルティキック戦専用ゴールキーパー(準決勝の四日市中央工戦ではPK戦でこのゴールキーパーの活躍で決勝に進むことが出来た)を準備しつつあった後半9分、富山第一の見事なゴールが生まれた。

放送でも紹介していたが、富山第一のメンバーはほとんどが県内選手で構成され、「人間性重視の教育」が有名で、ドンドン人が集まって来るとのことだ。大塚監督の息子大塚翔君がチームの精神的に大きなバックボーンとなっている。同点のPKもかなり緊張する場面だが堂々と決めていた。「諦めない心。最後までメンバーを信じていた」との大塚監督の言葉には胸に響くものがある。この信頼関係があれば、いつかは必ず花は開く、と信じつつ、日々頑張っていたのだろう。でないと、あと2分で同点に持ち込むことなど出来る筈もない。

久しぶりに、すばらしい感動をもらった。富山第一のみなさん、おめでとう、そしてありがとう。

冲中一郎