クロネコヤマトの「個を生かす」仕事論

標記題名の本(副題“伸び続ける集団”の「発想・行動・信念」)(瀬戸薫著、三笠書房、2013.4)がある。著者はヤマトホールディングの元社長で現会長。これまでも、クロネコヤマトに関しては、その経営手法に興味があり、当ブログでも何度か取り上げた(例.「‘クロネコヤマト‘のDNA」(http://jasipa.jp/blog-entry/7953)。単なる運送業者から宅急便を基盤とするサービス業へと生まれ変わらせたのは小倉昌男氏だ。その小倉氏が会長を退いたのは1995年(亡くなられたのが2005年)。だが、その後も、小倉氏の理念を引き継ぎながらヤマトは進化を続け、新しい商品を出しながら成長を続けている。時代の変化にも柔軟に対応できる強い「組織の力」「集団の力」はどうやって作られたのか?

瀬戸氏は「サービスの質を向上させる。新しいサービスを生み出す。より広くご利用いただくための方法を考える。当社では、これを全員が行っている」と。こうした集団を維持しているからこそ”今”に繋がる成長があると言う。なぜ維持できているのか?

「 普通の社員が最高の仕事をする」会社

理念を明確にし、それを掲げるだけではなく、個々の社員に浸透させる事ができて初めて社員の気持ちを結びつける要となる。ヤマトの理念は「世のため人のためになることをする」ということ。小倉昌男氏の言う「サービスが先、利益は後」との原則に則った理念だ。「お客さまのため、社会のため」で意思統一できる会社組織ほど強固なものはない。自分自身の存在価値、「やっていてよかった」という究極の満足感が味わえることが、究極の仕事の目的であり、企業が成長する原動力と瀬戸氏は主張する。そして「普通の社員が最高の仕事をする」会社を目指す。

「お客さまだけではなく社員も満足する」仕組み

理念に沿って「お客様のため」に行動している人を抽出するための制度が「満足バンク」。「いいことをした」人を見つけたらそれを社員が申告する。評価は点数に換算され(褒めた人にもポイント付与)、ポイント数に応じて、「ダイヤモンド」~「銅」の4段階で評価し、その結果を公表する。

「感動ムービー」で常に理念を思い起こさせる

社員の感動体験をムービー化して、社員が何度も見れる社員研修用の映像を準備。例えば「雪深いおばあさんの所に送られた荷物を、必死になって届けたとき、涙をためながら三つ指をついてお礼を言われた感動体験。このような事例を脳裏にしっかりと焼き付け、仕事の先に「喜んでくれるお客様がいる」と言う事実を繰り返し認識させる。

すべての人間がそれぞれの個性で「考える文化」作り

ヤマトの求める人材は、実務能力でも、人間的魅力でもなく「お客様のため」「世のため、人のため」を真っ先に考えているかどうかだと言う。そして人の上に立つ人間ほど「考える事」を何よりも要求される。ヤマトでは、社員が自由に提案できる場として「次世代リーダー塾」や、本社の経営陣が各地域の拠点に出向き新事業の提案を受ける「グループエリア戦略ミーティング」など様々な会議、ミーティングを設けている。年間150回程度開催しているそうだ。すべての会議・ミーティングでは、社員と経営トップが直接意見を交わせる。この場でも、トップダウンの指示ではなく、自ら考えるように指導するのが原則だ。優秀な人材がいなくなっても、すぐ新しい人材が飛躍する。ほんとうに強い集団とは、臨機応変に変化が出来る組織だと瀬戸氏は主張する。

トルストイも言ったという「人間の最高の幸福は、人のために働くことである」は、私も真実だと思う。昨年来、JASIPA会員企業や、古巣から声をかけて頂き「お客様の価値を感じて働く企業へ」とのタイトルで何度かお話しさせて頂いているが、「お客様第一」といいながら、会社の風土・文化として根づいている企業は数少ない。根づかせるためには、経営トップの強い信念のもと、社員目線で常日頃からの継続的な努力を行うことが必要と思うが、如何だろうか?これからの厳しい競争社会で「お客様のため」との精神風土の根づき具合が、大きな差別化要因となること必至と思うが・・・。

「きちり」のおもてなし経営とは!

大阪を中心に関西圏で展開していた「きちり」が東京にもすでに数多くの店舗を展開しているとは知らなかった(2006年に進出)。私の住んでいる亀戸のアトレにある「いしがまやハンバーグ」、2012年に開業した「丸の内タニタ食堂」も「きちり」が運営している。「PHP Business Review松下幸之助塾2013年7・8月号」特集「哲学ある人づくり」に「きちり」の平川社長の「直接対話でトップの”熱“を伝える~すべては理念の浸透とDNA継承のため~」との記事に注目した。

記事のリード文を紹介する。「景気変動の影響を受けやすく、浮き沈みの激しい外食産業。その中で右肩上がりの成長を続ける‘きちり’は、店舗の雰囲気、料理のおいしさもさることながら、笑顔いっぱいのスタッフによる‘感動のおもてなし’が伝説のように語られ、それを目当てに店を訪れる新規客やリピーターが絶えない。‘カジュアルダイニング’というコンセプトもファンの支持を集め、着々と店舗を増やし続けているのだ」(直営店関西43店舗、関東23店舗)。

「きちり」の企業理念

きちりは、「大好きが一杯」と言う気持ちを自分のまわりの人達に表現することで
人にふれあい、人に感謝し、人に感動する
それによって、一人でも多くの人達に癒し、豊かさ、明日への活力を提案、提供し続ける集団でありたい

企業精神

「きちりを大好きで一杯にしたい」
家族、恋人、友人、お客さま、社長、パートナー、お取引業者様、誰でもいい、自分の周りにいる人達を大好きになろう。そして大好きに思っている人達から愛されるべき人間になろう。
顔を見たら‘ニコッ’とされるような愛すべき人間になろう。
そしたら、みんなすごく幸せな人間になれると思う。
大好きが一杯な人達と一緒に、仕事が出来たらすごく楽しいと思う。
大好きが一杯で溢れている店を、みんなと一緒に創っていきたい。
そして、「きちり」が沢山の人達から‘ニコッ’と微笑みかけられるような存在になりたい。

創業したての頃は、トップダウンによる指導を徹底し、「強面(こわもて)タイプ」で社員からは「怖い社長」と恐れられていたと自ら言う。自分の姿を見ると社員は直立不動になったそうだ。そんな社長が、自分の結婚のお祝いに社員から新婚旅行をプレゼントされたり、サプライズパーティーを開いてくれたりしたのをきっかけに、社員に対する感謝の念と愛情が湧きあがり、「大好き」というフレーズが頭に浮かんだと言う。強面のイメージとは程遠いフレーズを気恥ずかしさを覚えながら社員に提示した時、何の違和感もなく受け入れてくれた。これで、きちりの進むべき方向性が決まり、「外食産業の新しいスタンダードを創造する」というビジョンに邁進していくことが出来たと言う。

大好きだからおいしい料理を提供する、大好きだから店をすみずみまできれいにする、大好きだから同僚たちと快く協力し合う、大好きだから取引業者ともよい関係を作る、大好きだから最高の「おもてない」をお客様に提供する。

この理念に基づいた「人づくり」のための施策を下記に紹介する。

全店舗巡回の社長ミーティングを実施(2013年3月までに9回実施)

各店舗の社員は全員参加、パートナーも希望者は参加、お茶とお菓子を用意しての「ティパーティー形式」で行う。時には「ワールドカフェ方式」を採用。理念を腹の底まで得心してもらうには、対面対話が必須。

コーチングの導入

「自分で考えて主体的に行動できる人間」の育成を目標に、店舗マネージャー、エリアマネージャー、統括マネージャーに「コーチング」を学んでもらい、配下のスタッフの育成に役立てた。

「社長塾」の開催

中堅社員や中途採用者に対する理念教育、マネ―ジメント理論、リーダーシップ論教育、プロジェクト実践教育などを実施。

「新卒ダイニングRookies」(2012.4~12)期間限定開店

新人育成のため、新卒者9人に入社後すぐに1軒の店の運営を任せた。若い社員が育ちにくい理由の一つは「失敗をさせない上司」と平川社長は言う。上司が部下が転ぶ前に支え続けることが部下の成長を妨げている。思い切って失敗できる環境をあえて作ったのがこの制度。事前に決めてなくても自然にリ―ダーになる者が現れる。

アルバイトへの就活支援

パートナーは大学生の比率が多いため、就職活動の支援(面接ノウハウや業界知識伝授など)を行っている。就職してきちりを卒業する人のために、リッツカールトンで「卒業式」を毎年開催。「MVP」「ホスピタリティ賞」などで労をねぎらう。パートナーの皆さんはこの「卒業式」を目標に出来るだけ長く頑張ってくれる。

正直、私は「きちり」の存在を初めて知った。一度行ってみたいと思う。やはり外食産業は客が気分よく過ごせる雰囲気が重要で、「大好きが一杯」その気分を味わえる期待感を持って行きたい。

酷暑の東京脱出!奥志賀高原へ

梅雨が例年よりかなり早くあけた途端、いきなり連日酷暑の先週、東京を脱出し、奥志賀高原に行って来た。1500mの高地にある「ホテルグランフェニックス奥志賀」で周辺を散歩などしながらゆったりとした時を楽しみました。下界より約10度近く気温は低い。小沢征爾氏の別荘が近くにある縁で小沢氏が設計アドバイスをした「森の音楽堂」があり、毎年夏にはコンサートが開かれているそうだ(3~4枚目)。

夜、「石の湯のゲンジボタル」を観に、ホテルのマイクロバス(30分程度)で行った。ホタル生息地としては最も高い標高(1600m)で、寿命も長く、明滅周期も長く、国の天然記念物に指定されているそうだ(大きさも1.5cmほどある)。我々が行った時は、今年最高の数のお出ましだったようだ(インターネットの記録による)。小さい頃田舎で見たホタルより光の点が大きく、河原の林に飛び交うホタルの光の美しさ、多さにみとれてしまった。しかし、突然の雷雨で退散せざるを得なかったのが残念(インターネットによると雷雨が晴れた後はさらに多くのホタルがでたそうだ)。

奥志賀渓谷にも連れて行ってもらった。豊かなブナ・ミズナラの原生林に囲まれた、清らかな雑魚川(イワナが雑魚のようにとれたのが名前の謂れ)の渓流沿いの小路を1Km強歩いた。結構アップダウンがあったが、ふわふわの土の上を歩く快適なトレッキングだった。この川の岩は、1500万年前海底から隆起した緑色凝灰岩(グリーンタフ)が形成する国内でも稀有なものらしい。川の水は14度、手を長くつけておけない冷たさだ。滝は三段滝とハーモニカ滝。独特な色の岩がグリーンタフ。ほんとに爽やかな奥志賀渓谷巡りだった。

最後は、志賀高原の蓮沼に寄った。白とピンクの蓮が、咲きほこっていた。ニッコウキスゲやウツボグサなど、いろんな花が沼の周辺を彩っていた。セイヨウオダマキが信州大学志賀自然教育園で優雅な花びらを咲かせていたた。

帰り、上野駅で降り立った時、突然現実に引き戻された。