大阪を中心に関西圏で展開していた「きちり」が東京にもすでに数多くの店舗を展開しているとは知らなかった(2006年に進出)。私の住んでいる亀戸のアトレにある「いしがまやハンバーグ」、2012年に開業した「丸の内タニタ食堂」も「きちり」が運営している。「PHP Business Review松下幸之助塾2013年7・8月号」特集「哲学ある人づくり」に「きちり」の平川社長の「直接対話でトップの”熱“を伝える~すべては理念の浸透とDNA継承のため~」との記事に注目した。
記事のリード文を紹介する。「景気変動の影響を受けやすく、浮き沈みの激しい外食産業。その中で右肩上がりの成長を続ける‘きちり’は、店舗の雰囲気、料理のおいしさもさることながら、笑顔いっぱいのスタッフによる‘感動のおもてなし’が伝説のように語られ、それを目当てに店を訪れる新規客やリピーターが絶えない。‘カジュアルダイニング’というコンセプトもファンの支持を集め、着々と店舗を増やし続けているのだ」(直営店関西43店舗、関東23店舗)。
「きちり」の企業理念
きちりは、「大好きが一杯」と言う気持ちを自分のまわりの人達に表現することで
人にふれあい、人に感謝し、人に感動する
それによって、一人でも多くの人達に癒し、豊かさ、明日への活力を提案、提供し続ける集団でありたい
企業精神
「きちりを大好きで一杯にしたい」
家族、恋人、友人、お客さま、社長、パートナー、お取引業者様、誰でもいい、自分の周りにいる人達を大好きになろう。そして大好きに思っている人達から愛されるべき人間になろう。
顔を見たら‘ニコッ’とされるような愛すべき人間になろう。
そしたら、みんなすごく幸せな人間になれると思う。
大好きが一杯な人達と一緒に、仕事が出来たらすごく楽しいと思う。
大好きが一杯で溢れている店を、みんなと一緒に創っていきたい。
そして、「きちり」が沢山の人達から‘ニコッ’と微笑みかけられるような存在になりたい。
創業したての頃は、トップダウンによる指導を徹底し、「強面(こわもて)タイプ」で社員からは「怖い社長」と恐れられていたと自ら言う。自分の姿を見ると社員は直立不動になったそうだ。そんな社長が、自分の結婚のお祝いに社員から新婚旅行をプレゼントされたり、サプライズパーティーを開いてくれたりしたのをきっかけに、社員に対する感謝の念と愛情が湧きあがり、「大好き」というフレーズが頭に浮かんだと言う。強面のイメージとは程遠いフレーズを気恥ずかしさを覚えながら社員に提示した時、何の違和感もなく受け入れてくれた。これで、きちりの進むべき方向性が決まり、「外食産業の新しいスタンダードを創造する」というビジョンに邁進していくことが出来たと言う。
大好きだからおいしい料理を提供する、大好きだから店をすみずみまできれいにする、大好きだから同僚たちと快く協力し合う、大好きだから取引業者ともよい関係を作る、大好きだから最高の「おもてない」をお客様に提供する。
この理念に基づいた「人づくり」のための施策を下記に紹介する。
全店舗巡回の社長ミーティングを実施(2013年3月までに9回実施)
各店舗の社員は全員参加、パートナーも希望者は参加、お茶とお菓子を用意しての「ティパーティー形式」で行う。時には「ワールドカフェ方式」を採用。理念を腹の底まで得心してもらうには、対面対話が必須。
コーチングの導入
「自分で考えて主体的に行動できる人間」の育成を目標に、店舗マネージャー、エリアマネージャー、統括マネージャーに「コーチング」を学んでもらい、配下のスタッフの育成に役立てた。
「社長塾」の開催
中堅社員や中途採用者に対する理念教育、マネ―ジメント理論、リーダーシップ論教育、プロジェクト実践教育などを実施。
「新卒ダイニングRookies」(2012.4~12)期間限定開店
新人育成のため、新卒者9人に入社後すぐに1軒の店の運営を任せた。若い社員が育ちにくい理由の一つは「失敗をさせない上司」と平川社長は言う。上司が部下が転ぶ前に支え続けることが部下の成長を妨げている。思い切って失敗できる環境をあえて作ったのがこの制度。事前に決めてなくても自然にリ―ダーになる者が現れる。
アルバイトへの就活支援
パートナーは大学生の比率が多いため、就職活動の支援(面接ノウハウや業界知識伝授など)を行っている。就職してきちりを卒業する人のために、リッツカールトンで「卒業式」を毎年開催。「MVP」「ホスピタリティ賞」などで労をねぎらう。パートナーの皆さんはこの「卒業式」を目標に出来るだけ長く頑張ってくれる。
正直、私は「きちり」の存在を初めて知った。一度行ってみたいと思う。やはり外食産業は客が気分よく過ごせる雰囲気が重要で、「大好きが一杯」その気分を味わえる期待感を持って行きたい。