「日本の課題2013(2)」カテゴリーアーカイブ

考える力を深める!

安倍政権が力を入れている“教育再生”。道徳を教科化する話題やら、大学改革、義務教育改革など連日マスコミを賑わしている。「致知2013.11」に「考える力を深めれば知識は知恵に変わる」と題した東京大学大学院理学系研究科教授上田正仁氏の記事が掲載されている。そのリード文には「原発事故や金融危機に象徴されるように、私たちの目前には、これまでのマニュアルでは対応できない問題が山積している。この時代を生き抜くカギは私たちの“自ら考え、創造する力”を鍛えることだと上田教授は説く」とある。

東大生が大学院や社会に進んだ途端、挫折してしまうケースの多さに、その解決策は長年の自分自身の課題だったと上田氏は言う。物心がついてからずっと、「答えが決まっている問題を如何に効率よく早く解けるか」で評価され、「成績が良い事=優秀」との物差しを人生成功の物差しであるような錯覚に陥ってきた学生たち。大学院や社会に出た途端、答えの出ない問題に直面して戸惑いを覚えるのも致し方ない。しかし、「自分で課題を見つけて自分で考え、解決していく」これがビジネスでは成功するための基本ルールとなる。

上田氏は、その力をつけるためには「問題を見つける力」「解く力」「諦めない人間力」が必要と言う。これらの力をつけるためには、根気よく「何は分からないかが分からない」状態から「何が分からないかが明確になる」レベルに高めるため徹底的な調査を薦める。既に分かっていることを調査するのではなく、「何が分かっていないか」を意識しながら調査することがポイントと言う。「解く力」は、自分自身が考え創造した問題だから答えはどこにもなく、自ら編み出さねばならなくなる。1直線に答えに向かって進むのはまず不可能で、一見関係のなさそうな方向に好奇心の赴くまま寄り道をしながら進めることがポイントと指摘する(いいアイディアはトイレや風呂で見つかる?)。いずれにしても、失敗をしてもへこたれず、何度も粘り強く試行錯誤を繰り返すだけの執念や人間力が問われる。

この問題に関して、30年前のチャレンジを思い出す。鉄鋼では「チャージ編成」や「スケジューリング」など、高度な(?)アルゴリズムで答えを出す問題がある。しかし、本来変数の方が方程式の数より多く、答えは複数存在する筈なのに、システム屋が独断で一つの答えを出す不思議な世界が存在した。答から逆に問題を定義しているのではないか?日立システム開発研究所のご支援を頂きながら、「業務の論理(問題定義論理)」と「解法の論理」、「政策の論理(複数解が出た場合しかるべきユーザー側責任者に選択・決定してもらう)」と言う3つの論理に分類し、それぞれの論理を分離して解決する方策を検討した。最初新人に「業務の論理」を定義させることでやらせたが、「先に答え(解法)を考えてから問題を定義する」習慣はどうしてもぬぐえず、現場を経験させつつ、何度もやり直させながらかなりの期間を経てやっと定義できるようになった。「業務の論理」は日立に開発して頂いた知識工学言語でユーザーにも理解できるものとし、「解法の論理」は巡回セールスマン問題など世の中にあるアルゴリズムを選択した(室蘭工業大学にお世話になった)。今もスケジューリング問題などで動いているのだろうか?大学の恩師に勧められ、国際学会に発表した懐かしい思い出も蘇るが、上田先生の言われる「考える力=問題定義能力」は、これからますます進むグローバルな競争時代に向けて、課題がますます顕在化してくることが懸念される。企業においても、この課題を直視し、如何に自律型人材(not指示待ち人材)を育てるかに注力してほしい。

我ら団塊世代、老・病・死に笑いを!

11日大学の同窓会(40~44年電気卒)があり、高千穂大学人間学部教授小向敦子氏の講演があった。44年卒が最も若く(私も含めて)全員前期高齢者と言う集団40名を前に、年齢不詳だが、うら若き女性が「老・病・死と笑い」とのテーマでどんな話を聞かせて頂けるのか興味があって参加した(その後の東京駅見学会で普段見られないものが見られるのも興味があったが)。

小向氏はイリノイ大学大学院で博士号を取得されている才媛で、老年学に関する本も多数出版されている方だ(今年出版された「セラピューティックと老年学」を格安で購入した)。ギネスにも登録されている世界に冠たる最長寿命国となり、「早すぎる死」よりはむしろ、簡単には死ねないことが懸念材料となっている団塊世代に対する提言とも言うべき内容だった。確かに、100歳を超える人が5万人を超えている時代、年間死亡者が110万人から2040年頃には170万人(50%超増)になる時代(大量死時代)、こんな時代を想像すると若い人たちはぞっとするに違いない。さらに偉大なるIPS細胞の出現によって、10年以内に20歳若返り、白髪・禿も絶滅し、老化現象が止まり、K柳T子さまのように見た目年を取らない老人となっていく。今でも海外ではギャグと捉えられる「私は長生きなんかしたくない。80ぐらいでいい」の時代、還暦や古希はまだはなたれ小僧の世界が、海外に先駆けて早々に来ている日本。

団塊世代は激しい競争社内の中で「猛烈社員」と言われ、時間を惜しまず働いてきた世代。この世代が、突然退職によって、まったく経験したことのない時間が有り余る世界に突入し「スケジュールに余白があると落ち着かない」心理状態に陥る。以前なら退職したら早々に死が来たが、今はなかなか死が来ない(というか、年金頼りで「あんたなんかそう簡単に死ねるもんですか」と「死ね!」より怖い脅し文句で死なせてくれない)。死後の世界も、「3人寄れば病気、5人寄ればお墓の話」と言う墓も、無尽蔵に作るわけにもいかず(自然破壊につながる)、火葬も地球温暖化のために既にヨーロッパなどで普及している超低温で冷やしたり(プロメッション)、高温でボイルしたり(レゾメーション)して灰にして肥料に使う形態が10年もすれば日本でも普及すると言う。

このような社会全体“鬱状態”から脱皮するために、小向氏は“病”にしても、“死”にしても”ユーモアの精神“を取り入れることが、自分のためにも、自分を見守ってくれる人たちにとっても有効と提言する。「ユーモア発信はサービス精神」、”病“の時でも、施設に入っても、痛がったり、怖がったりしている場合ではなく、面白いことを企てるのに忙しく、笑わせることで人気者になれる。「苦痛は全ての思想よりも深く、笑いは全ての苦痛よりも尊い(エルバート・ハーバード)」、「人間だけが笑う動物。笑いは人を人たらしめる(アリストテレス)、死をも笑いで飾る(林家三平臨終前の奥さんが『自分の名前分かる?』「田村正和」、『お父さんしっかり』「しっかりするから小遣いくれ」)。

現代の危機、「敬老から嫌老・棄老へ」「どんどん話の通じない老人になっていく、でも死なない(森村誠一)」、だからこそ、笑いを!小向氏曰く「ボケて最後に死ぬ。ではなく、死ぬ最期にボケをかますことで“老い甲斐”果たせる」、「老化が美貌(不細工)と能力(無能)を劣化させても、否そうさせるからこそなれる“面白い人”」、「お金がなく、病気(新3高:高血壓、高血糖、高血脂)になって、臥床してもなれるのが一緒にいて”楽しい人“」。

複雑な気分で、“苦笑い”を発しながら聞いていたが、なぜか終わった後、少しだが爽やかな気持ちになれたのはなぜだろう?

日本の良さを日本人以上に守り続けるアメリカ人

以前当ブログで紹介(http://jasipa.jp/blog-entry/7238)した「小布施」の酒屋(枡一市村酒造)を立て直し、小布施を元気にしたセーラ・マリ・カミングスさんが、服部栄養専門学校校長の服部幸應氏との対談記事で「致知2013/11号」に登場している。テーマは「食で開く日本の未来」だ。

日本に来てから22年(現在45歳)。2004年に株式会社文化事業部を設立。そのホームページに下記のような文章がある(http://www.bunji.jp/)。

“”土壁、瓦、茅葺き、木造……。日本の村や町には、風土を生かしたすばらしい職人の技術と、その技術に支えられた人々の暮らしと文化がありました。その、なつかしい風景が次々と姿を消していく今。ともし火が消えてしまう前にできることをしよう。そう考えて2004年に「(株)文化事業部」と、「(株)修景事業」を立ち上げました。「(株)文化事業部」はアタマとカラダを使って暮らしと文化を考える会社。「(株)修景事業」は古民家・町並みの再生を中心にした職人技術を継承する会社。

対談記事の中でも、カミングス氏は「長野オリンピックの前の信州では、ものすごいスピードで道が拡幅されたり、何百年も生きてきた素敵な松が伐採されたり、素敵な蔵が半日で撤去されるのを見て本当に泣いて泣いて・・・。これまでに出合った素敵な日本がなくなってしまうのは、これからの日本の人にとっても大きな損失だと思う。(中略)日本の伝統文化が一番凝縮されているのは農村なんです。せめて自分達に身近な小さな山、小さな環境にあるカエルが帰ってくる小池、これを守ることから始めたいと思うんです。農業や食を通じて「心の帰りたい場所」を実現したい。」と。

服部氏は「日本人が忘れ、廃れていくものをもう一度見直して、光を当てる役割を見事に果たしてくださっています。小布施の文化と環境を甦らせて、地域の方々の「帰る場所」を取り戻されたのですから」と褒めたたえている。カミングス氏は、ウィークエンド・ファーマーとして、2㌶ぐらいの土地に野菜を作ったり、リンゴやハーブやベリーをつくったり、名古屋コーチンも飼っている。いずれは牛やヤギも飼いたいと言う。「食育」を主張され、行動されている服部氏は、農業人口の激減と高齢化、そして自給率の低下の問題を挙げる。今何らかの対策をしないと農業技術の継承も出来ず、自給率の低下を招き、食の安全を脅かすと警告する。

我々日本人自身が日本の良さを、あらためて見直し、それを守っていく気概を持たねばと強く思う。日本の良さを実感するための旅、そんな旅をしたいと思う。