「日本の歴史・文化」カテゴリーアーカイブ

100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その1)

昨年末(12.21)にフォレスト出版から標題の本が出版された。著者はこれまでにも何度か紹介している感動プロデューサー平野秀展氏。本の出版も10数冊に達し、企業からの講演依頼も多いそうだ(トヨタ、武田薬品、パナソニック、リコー、マイクロソフトなど一流企業多数)。平野氏に関しては「本気を出したのはいつ?(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/3/21)」など多数のブログ記事を掲載した。

プロローグの一部を紹介する。

人は、感動で動きます
どんなに辛い事や、消えてしまいそうなことがあったとしても
一つの感動体験でもう一度前を向いて
歩き出そうと思うことが出来ます
人として生きる喜びを味わい
困難をも乗り越える感動が持つ力は
きっとあなたの人生というステージを
明るく照らすスポットライトになるでしょう

平野氏は「満足」と言う言葉に反応せず、「感動」を追求すべしと説く。昨年9月の皆さんの記憶に新しい東京オリンピック招致の際のプレゼンを引き合いに出し、その構成の素晴らしさが世界を驚かせたとも言う。とかくオーバーアクションの多い欧米人に比し、奥ゆかしさを維持しながらも日本人でもあそこまで外国人を感動させうることを証明した。物質的要求が強い時代は、モノを持つことで満足していた。しかしいまは「心が揺り動かされる」ことで納得したり、共感したり、感動したりしてモノを買いたくなる時代だ。モノの品質や性能を事細かく説明して、お客さまを説得しようと思ってもなかなか買ってくれない。「企業の営業はビジネスアーティスト」と平野氏は言う。オリンピック招致のプレゼン練習を指導したニック・バーリー氏が「リハーサル、練習、リハーサル、練習、さらにリハーサル、練習」を招致委員に要求したそうだ。表情・姿勢から、喋り方まで、現地でも1週間以上、本番リハーサルを行った(顔の表情の重要性に関してはhttp://jasipa.jp/blog-entry/9175)を参照ください)。まさに俳優と同じだ。

自分が感動できる人間でないと、他人を感動させることは出来ない。最近も「感動型人材の育成」に力を入れている企業も増えてきたと聞く。今回の平野氏の本は、コミュニケーション力、プレゼンテーション力にも当然通じる、100万人の心を揺さぶる方法論だ。逐次何回かに分けて説明させていただきたい。

日本の文化の特殊性(中欧旅行で感ずること)

「日本の文化 本当は何がすごいのか」(有鵬社刊、田中英道著、2013.4.1)と言う本が出版されている。その中に「島国と大陸という異なる自然環境のもとでは、人間観も異なる。大移動と侵略が繰り返された大陸では、人間観の根底には、争いに備えねばならないと言う感覚、覚悟がある。一方で、自然に恵まれ、狩猟、採集、漁労だけで共同生活を営むことが出来た日本では、“争わない”生き方が形成された」とある。大陸の「争い」の文化と「人間性にあふれた幸福な」日本の文化の違いを説いている。「争い」の中では、キリスト教や儒教で道徳を説く必要があったが、日本ではその必要性はなく、日本文化の根幹は神道の自然信仰、「自然を受け入れる」との思想となった。東日本大震災の際、日本人が見せた秩序正しい行動、忍耐強さは西洋人に感動を与えた。その根底にある思想、自然を受け入れるという自然信仰は、世界の中心的思想になりうる。これまで、自然を支配する事しか考えていなかったヨーロッパ人に、東日本大震災における日本人の行動が「自然を受け入れ、信じる」ことの重要性を気付かせたと田中氏は言う。

今回の中欧の旅で訪れた諸国(チェコ・スロバキア・ハンガリー・オーストリア)の歴史をひも解いて見ると、まさに侵略と大移動の歴史である。各国で伝統的な王宮や、教会が目立つが、その姿も侵略の歴史を物語っている。例えばブダペストでは13世紀にモンゴルにより侵略され、当時の王(ベーラ4世)が防御のために街を石の城壁で囲み、自らの王宮もブダの一番上の丘に据えた。そして、マーチャーシュ教会(ロマネスク様式)もキリスト教徒のために建立した。が16世紀にオスマントルコに侵略され、マーチャーシュ教会はイスラム教徒用のモスクに改築された。その後、ハブスブルグ家の支配になって再び教会に戻り、バロック様式の装飾が施された。

侵略、大移動により、ケルト人、ゲルマン人から始まり、スラブ人、ローマ人、ユダヤ人、ドイツ人などが入り交ざり、多言語国家になっている。まさに民族闘争、宗教戦争の連続で国境自体がたびたび変わる。皇帝、国王もどこから来るかわからない。来るとその権力を誇示するために、財力を思い切り使って施設を作り、財宝を取り寄せる。領土を広がるための政略結婚も当たり前(マリーアントワネットも意に沿わないフランスのルイ16世と結婚させられる)。まさに田中氏の言うように「争い」に備えることが第一義の文化と言う実感を覚える。それに比して、日本の歴史を考えると、同じ民族同士の争いで、他国からの侵略はない。民族大移動もなく、地域の自然を受け入れ、愛でる文化は自然と養われたとの説は納得性が出てくる。武士道、茶道、華道など、「道」を探求し、日本独自の文化を形成できたのも分かる気がする。

田中氏の言うように、日本の良さに気付いた大陸文化の国々に、日本独自の「人間性にあふれた幸福な」文化を広めることが、真のグローバル化の目的かも知れない。

強く生きる力が湧いてくる「感動する日本史」

白駒妃登美さんが2冊目の本を先月出版された。「感動する日本史~日本人は逆境をどう生きたか」(中経出版。2013.3.21)で、18人の歴史上の人のエピソードが紹介されている。1冊目の「人生に悩んだら日本史に聞こう」(http://jasipa.jp/blog-entry/7303)、ご講演のお話(http://jasipa.jp/blog-entry/8227)、「致知」に掲載の記事の紹介(http://blog.jolls.jp/jasipa/nsd/date/2012/2/13)など、これまでにも当ブログで白駒さんを紹介させて頂いている。歴史上の人物の生き方を、自分の生き方の参考にされ、その生き方を多くの人に伝えて元気を与えておられる白駒さんの活動に頭が下がる。FBでも多くの人に感動を与えておられる様子が伺える。

吉田松陰や正岡子規など有名な歴史上の人物が、悩み、傷つき、打ちひしがれた時、彼らはその逆境にどう対峙したのか、そしてそれをどう乗り切ったのか、ポイントを絞って非常に分かりやすく書かれている。戦後生まれの世代には、このような視点での教育はなかったため、すべての話が非常に新鮮で、「日本人の美質」をあらためて感じるとともに、「日本人としての誇り」を取り戻し、強く生きる力が湧いてくるのを感じる。安倍政権の「教育再生実行会議」で「道徳の教科化」が言われている。このような話を「道徳の教科化」に組み入れることをぜひお願いしたい。

実際、白駒さんは、「義に生きた敗軍の将」として本の中で紹介されている筑後柳川藩の藩祖立花宗茂について地元の小学校で話をされたそうだ。立花宗茂は、関ケ原の戦いで、秀吉の恩に報いるため西軍についた。そして立花家取りつぶし、宗茂は牢人の身となったが、それまでの武勇と共に「立花の義」を貫いた宗茂を家康も評価し、関ケ原から4年後に復権、20年後には柳川藩主に返り咲いた。領民の喜びは格別のものだったそうだ。この話を聞いた小学生の感想文を披露されている。「裏切らない、恨まないことの生き方に感銘」「宗茂のように心優しく、強く生きる」「損得ではなく、自分が胸を張れる生き方を選ぶ」と。白駒さんは「過去の怨みは水に流し、受けた恩は心に刻んで必ずやその恩に報いること。優しさを貫くためにほんとの強さを身につけること。自分の心の声に耳を傾け、いつも自分が胸を張って生きられる道を選択すること。それらが‘天に愛される人間の条件’であることを、子供たちは、その素晴らしい感性で掴んでくれた」と言う。

「いつでも最善を尽くした人々に苦境で折れない心を学ぶ」として吉田松陰、黒田官兵衛、上杉鷹山を。「自らの役割を見定めた人々に目的を遂げる志を学ぶ」としてエジソンも一目置いた真珠の御木本幸吉、スルガ銀行の始祖岡野喜太郎、台湾に人生を捧げた八田与一、想像を絶する凄惨で過酷な状況の中で周囲の人に愛と勇気を与え人生を全うされた長崎の医師永井隆を。「現状を大胆に受け容れた人々に執着の手放し方を学ぶ」として正岡子規、高杉晋作、立花宗茂、高橋紹運を。「時流に逆らわず生きた人々にしなやかな強さを学ぶ」として「鹿鳴館の貴婦人」大山捨松、山岡鉄舟、島津斉彬、加賀前田家まつの4女豪姫を。「次世代に想いを伝えた人々に危機を乗り越える希望を学ぶ』として、細川幽斎、「Boys, beAmbitious」のクラーク、盲目でヘレンケラーにも影響を与えた国学者塙保己一を紹介されている。

白駒さんご本人も、3年近く前の事、完治していたと思っていた子宮頸がんが肺に転移し、「この状況で助かった人は見たことがない」との主治医の言葉を聞いて、半ば覚悟を決めていた時、正岡子規が力を与えてくれたと言う。「生かされている“今”を平然と生きること」がほんとうの覚悟と言い、実際にその死生観で、病床においても不思議なほどの明るさで病人とは思えない精力的な文筆活動を続けた。白駒さんは「過去を悔い、未来に不安を抱いても仕方ない、ただ今を自分らしく平然と生きる」と決めてから夜もぐっすり眠れるようになり、がん細胞も消えてしまったとの事。

グローバル化の時代、「日本人の誇り」を取り戻し、自信を持って世界に羽ばたく、そんな人材を育成するためにも、「博多の歴女」白駒さんの話は貴重だと思う。