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東日本大震災の時、「無私の経営力」を発揮した企業

11月に『日本型「無私」の経営力~震災復興胃に挑む七つの現場(グロービス大学院田久保善彦著、光文社新書)』と言う本が出版された。一過性の話ではなく、ストック情報として後世にも伝えたい話としてグロービス大学院在学中の生徒と一緒に取材を重ね本の出版に至ったそうだ。

搭載企業は下記7社(本の「はじめに」より)。

  • ヤマトホールディングス㈱:現地での物流支援活動や、荷物1個につき10円で合計140億円を超える寄付を実施(2011年度)。当ブログでも「クロネコヤマトのDNA」で紹介(http://jasipa.jp/blog-entry/7953)。
  • 富士フィルム㈱:津波で海水を被った写真を洗浄する技術の開発と、大規模な戦場ボランティア活動を実施。加えて関連会社が地域の除染活動に貢献。
  • 富士通㈱:被災地域へパソコンやクラウドシステムを提供し、NPOと連携したプロジェクトを展開。在宅医療システムを構築。
  • ㈱東邦銀行:被災直後から迅速に払い戻しを行い、他の金融機関との協力関係をいち早く構築。
  • ㈱みちのりホールディングス(岩手県北バスグループ、福島交通グループ):原発周辺地域から住民を移送し、ホテルを避難所として開放。観光を通じた復興を目指し、ボランティアツアーを実施。
  • ㈱八木澤商店:全社員の雇用を維持するとともに、「地域全体経営」を構想。
  • 一般財団法人KIBOW:産官学のリーダーが発足させて震災支援活動。被災地のトップや有志達を集めたイベントを数多く開催。「夜明け市場」など、被災地での新たな取り組みの発足につなげる。

『「利益より地域や顧客に対する愛情」(皆さんのお蔭で今がある。恩返しする時と)、リーダー又は現場の強い責任感・使命感(すべてを無くした方々にとって唯一の思い出としての写真を、写真の会社としての責務として取り戻すべき)、様々な形で発揮されたリーダーシップ、従業員の会社を思う心、企業理念の浸透、普段からの経営と現場の相互理解と信頼,自社が社会に提供している価値の理解など様々な要素が影響しあいながら、本当にすばらしい活動が各地でなされた』と著者は、あとがきで言う。著者が言う「無私の経営力」は、上記要素が日頃から備わっていることを言うのだろう。

東邦銀行では、本人確認なくても10万円以下の払い出しを可能とした。頭取の「“事故を起こさない”ことよりも“被災者の役にたつこと”を優先せよ」との指示があり、スムースに実施できたと言う。被災者との信頼関係も日頃から出来ていることもあり、残高以上の払い出しを受けた分もすべて回収できたと言う。銀行の真心が、被災者の心にも通じたのだと思う。すばらしい日本の美質と言え、後世にも言い伝えられる話だと思う。

このような社会貢献活動の結果、自分の会社の社会へ提供する真の価値・使命をあらためて認識(宅配便が社会に必須のインフラ、写真の持つ意義など)でき、従業員の会社に対する愛情・思いが強まり、CSR活動の重要性を会社としてもあらためて感じることとなったと言う。

儲かる会社のすごい仕掛け

小林製薬やサイバーエージェントのような儲かる会社には「社員が寝る間も惜しんでアイデアを考える仕組みがある」と言う。「NEWプロジェクトの作り方」(伊庭正康著、フォレスト出版)の要旨がTOPPOINT10月号に紹介されていた。

例えば小林製薬では年間40万件を超えるアイデアが社員から寄せられる。仮にその年のヒット製品が10個だとすると、99.9%は無駄なアイデアになる計算だ。99.9%のアイデアが捨て案になる現実の中で、社員たちが喜んでアイデアを出し続けているところがすごい。社員たちが喜んで知恵を出し合う、そんな「すごい仕掛け」があると言う。

最に紹介する仕掛けは、社内に「コミューン(共同体)」を作ること。人材スカウト業のレイスが行った仕掛けは、里親制度。入社3年目の社員を「里親」に認定し、その下に入社2年目の社員を「里兄、里姉」として置き、そして新人を「里子」としたバーチャルな家族をつくる。1:1のメンター制度ではなくコミューンにし、毎月1回は「里家家族会」を開く。費用は会社負担。「見守ってくれている感じがありがたい」と評判で、離職率が30%から2.7%に下がったそうだ。昔と違って、上司がしばしば変わる中で、だれが自分を見てくれているのか、だれに相談していいのか分からないような状況下に置かれることで元気を無くする社員も多いのではなかろうか。

儲かる会社は、新規顧客を増やし、既存客のリピート率を高めながらも安売りはしない、そんな「三律背反」するシナリオを実現させている。ある結婚式場では「お客様の希望をかなえたい」という気持ちを社員全員が持ち、「入院中のお母さんに病院で晴れ姿を見せるために病院で結婚式を挙げる」という判断は社員が行っても構わない制度にして、10年弱で挙式数を倍以上に増やした。リッツカールトンやサウスウェスト航空も同じく事前承認は必要ない。お客様が最も感動するサービスは、社員の自律的な行動から生まれる。お客様の感動が「三律背反」のシナリオを実現させる原動力となる。

他にも「危機感」は事実を見せて伝えよ、プロジェクトには本気のメンバーを選択せよ、コンテスト方式で全員を巻き込め、など成功企業の実例を紹介している。

企業理念や、経営方針が社員に行きわたると、儲かる仕掛け(顧客に喜んで貰える仕掛け?)はいろんなバリエーションを持って展開でき、成長スパイラルを現実のものと出来る。

‘クロネコヤマト’のDNA

「PHP Business Review 松下幸之助塾2012年9.10月号」の特集は「創業理念を継承する」である。そのトップにヤマトホールディングス会長の瀬戸薫氏の“生き続ける「ヤマトは我なり」のDNA-現場重視が自然な伝播・浸透を後押しする”の記事がある。

記事のリード文:昨年3月の大地震発生から数日間、各地の被災地には、無償で働くクロネコヤマトの社員たちの姿があった。気仙沼市や釜石市では、社員が市に申し出て救援物資の分類・管理や、避難所を回る配送ルートの作成を担い、社用車を使ったボランティア配送まで行っていた。情報が寸断されていたこの時期、これらの活動は、本社はもちろん支社にも上司にも相談されることなく現場の判断でなされていた。(中略)社員たちを自主的な活動へと動かしたのは、「ヤマトは我なり」のDNAだった。

「ヤマトは我なり」は1931年創業以来の歴史を持つ社訓3か条の一つとして掲げられている。一人で活動することの多いセールスドラーバーが、「自分自身=ヤマト」という意識を持って、常にお客様に喜んでもらえる行動を取れるようにするための哲学だ。宅急便を開発し、経営者としても高名な小倉昌男元会長は、現場での会議では利益のことは一度も口にした事はなく、「サービス第一」と「全員経営」の二つを言われた。「サービスが良ければ利益は結果としてついてくる」との論法だ。それを受けて瀬戸氏も「世のため人のため」を意思決定の基準とし、「エンドユーザーの立場にたって物事を考える」ということを口を酸っぱくして話していると言う。

約6万人いるセールスドライバーに、経営理念や方針を徹底するには、通達1本ではなく、経営者が現場に出て、現場第一線で働く人たちの悩みを聞き、あるいは6~8名の小集団活動を褒め、みんなと膝を突き合わせて議論することが必要だ。少子高齢化や過疎化が問題になる中で、一人暮らしの高齢者の安否確認をはじめ、多くのプロジェクトも地方で立ち上げている。セールスドライバー自ら考えて立ち上げたプロジェクトである。

論語の「子曰く、苟(いやしく)も仁に志せば、悪なきなり」の言葉にあるように、世のため人のために尽くそうと言う人であれば、心が悪に染まることはないとの確信のもとで、いろんな施策を打っている。「満足創造3か年計画」は、皆がお客様に対しても、社員同志でも、満足創造のために自主的に努力しようとすれば、社員たちのモラルも向上し、会社全体のレベルアップにつながるということで策定した。その中には「満足ポイント制度(社員同志)」や「ヤマトファン賞(お客から褒められた場合)」でポイントを貯め、ポイント数に応じてダイヤモンド、金、銀、銅の満足バッジが進呈され、上位者は表彰される。制度開始から1年以内に3万人以上がバッジを獲得したそうだ。「感動体験ムービー」を実際に経験した実話に基づいて作り、全社員対象に実施している「満足創造研修」で上映している。コールセンター宛に来たお客様からのお褒めの言葉は、すぐ登録され「ありがとうの見える化」も出来たそうだ。

瀬戸氏は最後に「日々の仕事の中で、こういうことが、実は「社訓」にマッチした行動なのだ」と社員が自然に納得してくれるような工夫が必要だと思う」と言う。これからのIT業界でも、マーケット規模が縮小する中で、顧客の信頼獲得競争がますます激しくなること必至である。「現場重視」「全員経営」に加えて、企業理念の現場への浸透のさせ方に学ぶべきことは多いのではないかと思う。