地方を元気にする日本再生策・里山資本主義とは?


4月18日の日経朝刊1面”春秋“に本屋大賞の話が書かれていた。これは、既存の文学賞と違って作家は選考に加わらず、書店員たちの「イチオシ」で決まるとの事だ。今年は479書店605人の投票を経て和田竜作「村上海賊の娘」が選ばれた。この作品は受賞後1週間で40万部ほど増刷されたとある。こんなに作家の懐を潤す賞はないと春秋子は書いている。

最近近くの本屋で、カバーに「新書大賞2014」と銘打たれている「里山資本主義」(藻谷浩介・NHK広島取材班共同著作・角川ONEテーマ21版、2013.7)を目にした。この大賞も大いに宣伝になるのだろう。昨年発売間もなく買って読み終わっていたが、経済成長一辺倒に乗るのではなく、地方の活性化に向けて里山の自然の活用や人間的な絆を深めながら、より人間的な生き方を追求している人達が数多くいることに何かしら日本の将来を占う何かを感じていたのを思い出し、もう一度読み直すことにした。

「デフレの正体」(角川ONEテーマ21)で議論を沸騰させた藻谷氏曰く「“里山資本主義”とはお金の循環がすべてを決するという前提で構築された“マネー資本主義”の経済システムの横に、こっそりとお金に依存しないサブシステムを再構築しておこうと言う考え方」と言う。東日本大震災でマネーなど何の助けにもならない世界を学んだ。金に依存した「アメリカ型資本主義」の盛衰の激しさ、直近ではリーマンショックあり、またアメリカの金融緩和で後進国を中心に世界がおかしくなる。日本の食料自給率は39%、食料さえも諸外国に依存し、お金が無ければ生きていけない。戦争はエネルギー問題が発火点になることが多い(第二次世界大戦もそうだった)が、これからは食料問題も引き金になる恐れが出てくる。“経済成長”のみを追っかけることの怖さ、不安定さを考えれば、安全保障の前にやるべきことがあるのではとの提案が「里山資本主義」だと言える。安全保障環境が厳しくなるにつれ「食料も資源も自給できない国の繁栄など、しょせんは砂上の楼閣ではないか」との不安がますます募る。

広島に転勤になったNHKの井上恭介氏は、そこで思いがけない出会いに恵まれた。田舎が抱える永遠の課題、過疎や高齢化というイメージの対極を行く「元気で陽気な田舎のおじさんたち」に出会い、目からぼろぼろうろこを落とされたと言う。これを契機にNHK広島で「里山資本主義」の番組を作ることとし、その推進役を藻谷さんにお願いしたそうだ(2012年正月のNHKスペシャル〝目指せ!ニッポン復活“など)。

中国地方の話が多くなるが、地方の物資を活用してエネルギー、食材を自ら賄う工夫で自立した地域の事例が満載だ。岡山県真庭市では廃れゆく一製材業が、木屑を利用したバイオマス発電所を建設し、2200世帯の電気を供給、また木屑をペレットにしてストーブなど熱源に利用する。はては、オーストリアで実現されている地震にも強く、耐火性もある建築材CLT(cross laminated timber直角に張り合わせた板)の試作も行っている。CLTはオーストリアだけではなくイタリア、ロンドンなどでも普及が始まり、9階建てのビルもこの建築材で建立されているそうだ。木造は2階建てまでしか建てられなかったオーストリアの法律が2000年にいち早く改正され、今は9階建てまで可能となっている。鉄筋コンクリートとは違って冬は暖かく、夏は涼しい住環境が可能となる(三木市の実験設備で7階建ての建物に阪神大震災の震度を与えたところ、見事耐えることが出来た)。

広島県庄原市のエコストーブも紹介されている。地元の食材を活かし、エコストーブを囲んで人の絆を創る。化石燃料資源に恵まれないオーストリアでは、原発をとっくの昔に封印し、国産エネルギーとして木質バイオマスエネルギー革命に奔走している。日本では多くの既得権益者とぶつかることからなかなか木材の利用が進まない現実にあるというが、木材利用先進国オーストリアに学んではどうだろうか。真庭市の製材業者は世界を駆け巡って木材活用の目を探していると言う。また真庭市などに海外からの見学者も多く、優秀な若者も職に就きたく来るそうだ。真庭市モデルを高知県など他県にも普及させる活動も展開している。

安倍総理は「美しい国日本の創生」「日本は瑞穂の国です」、「息を飲むほど美しい棚田の風景」など美しい言葉を述べている。美しい里山風景を守るためにも、日本のエネルギー自立に向けても、GDPには寄与できないが、木材利用のための規制緩和など、本来の日本の地方の資源力(人間のきずな力含めて)を活かし見直すことも必要ではなかろうか。日本の将来について考えさせられる本だ。

「地方を元気にする日本再生策・里山資本主義とは?」への2件のフィードバック

  1. 昨夜のNHK BSプレミアムまるごと知りたい!AtoZ「さあ行こう里山ワンダーランド」をたまたま見た。夜7時~9時関口宏の司会で里山の素晴らしさを紹介していた。上記本とダブるところも多かったが、里山を見直す機運が出てきたようだ。番組の紹介文(インターネット)を下記しておく。エネルギー、環境、雇用など、今、日本が抱える数々の問題を解決してくれる可能性がある場所として注目を集めているのが里山だ。その魅力満載の世界をお届けする!「里山」はかつて燃料や食糧調達のための大切な場所として、さらに自然と共存する貴重な緩衝地帯として守られてきた。しかしエネルギーや資源の輸入、急速な都市化、グローバル化のあおりで里山は荒廃しつつある。ところがこの里山が今、エネルギー、環境、雇用、地域など日本が抱える数々の問題を解決してくれる可能性がある場所として再び注目を集めている。近くの里山に思わず家族で出かけたくなる魅力満載の世界をお届けする!

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