生命は利己的ではなく、本質は利他的のはず!

朝日新聞12月3日朝刊から、動的平衡理論で有名な生物学者で青山学院大学教授福岡伸一氏のコラムが始まった。最初のテーマは「生命の惜しみない利他性」だ。

「横浜みなとみらい駅で降りて、長いエスカレーターを上っていく。すると黒い大きな壁一面に端正な碑文が刻まれている。独語の詩とその和文。これはいいたい何だろう。」で始まるコラムだ(インターネットで調べると、クイーンズスクエア横浜のステーションコアにあるパブリックアートで“The Boundaries of the Limitlessというタイトルの作品だ)。

この詩は18世紀のドイツの詩人フリードリッヒ・フォン・シラーの詩で、壁面自体は米国の現代アート作家ジョセフ・コスースの作品とか。コラムで紹介された詩を下記する。

  • 樹木は、この溢れんばかりの過剰を、使うことも、享受する事も無く自然に還す
  • 動物はこの溢れる養分を、自由で、嬉嬉とした自らの運動に使用する

福岡氏は、上記詩の「過剰」にハッとする。「そのとおりだ。もし植物が、利己的に振る舞い、自分の生存に必要最小限の光合成しか行わなかったら、われら地球の生命にこうした多様性は生まれなかった」と言う。さらに「一次生産者としての植物が、太陽のエネルギーを過剰なまでに固定し、惜しみなく虫や鳥に与え、水と土を豊かにしてくれたからこそ今の私たちがある。生命の循環の核心をここまで過不足なくとらえた言葉を私は知らない。生命は利己的ではなく、本質的に利他的なのだその利他性を絶えず他の生命に手渡すことで、私たちは地球の上に共存している。動的平衡とは、この営みを指す言葉である。」と。

殆どの人が急ぎ足で通り過ぎるなか、碑文に心打たれる人も多いようだ。インターネットで調べると多くの記事が出てくる。その中には、「植物は無事芽吹くことができるよりはるかに膨大な種を実らせ、魚は成魚にまでならない卵を大量に生むが自然は産み出したものをただのごみにすることはなく、余った種や卵は他の生物に食べられたり、分解されてまた養分になったりすることで、次の生命の滋養となる。人間はその大量生産だけを真似ていますが、人間の創るものはいつも不完全で、使われなかったものはごみになってしまう。」と人間社会の不合理性を説く方もいる。

地球も人口がいずれ100億人を超え、食糧危機に陥ることが懸念されている。厳しい自然淘汰の世界を生き抜いてきた植物や、動物の知恵に学ぶことも多いと思うが・・・。

総合スーパー「成城石井」はなぜ元気なのか?

「イオン、イトーヨーカドー。食品から衣料品や住居関連用品などを幅広く扱う総合スーパー(GMS)が苦しんでいる。(中略)昨年の消費増税後、スーパーは二極化の様相を見せた。特徴を打ち出せないGMSが振るわない中、ライフコーポーレーションやヤオコーなど、首都圏を中心に展開する主要な食品スーパーは生鮮食品や惣菜に力を入れた結果、値上げの反動減をはね飛ばして業績を伸ばしている。そうした堅調な食品スーパーの中でも異色の存在が、「成城石井」だ。」で始まる東洋経済オンラインの記事(「成城石井は、なぜ「安くない」のに売れるのか」)に目が止まった(11月26日 http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20151126-00094092-toyo-bus_all&p=1 )。成城石井の特徴は、決して安いとはいえない高価格帯の商品を扱う高級スーパーなのに、突出した利益率を上げている。なぜ?

結論は、まさに前稿でも書いた「顧客支持率の高さ」(http://okinaka.jasipa.jp/archives/3980)だ。経営者から販売員まで口をそろえるのは「お客様のため」というキーワードだ。「お客さまにご満足いただく、お客さまに喜んでいただく。それだけを目指し、動いている。」特に創業の地、成城(東京都世田谷区)は都内でも屈指の高級住宅街であり、そこに住む人たちの食に対する興味や関心は高いものがあった。本物志向で、妥協はしない。「高くて良いもの」というだけでは不十分で、「いいものを適正価格で」が求められた。そのため品揃えと共に、お客さまの要望に沿える品質を確保するためのこだわりが随所に見られる

例えば、ワイン、外国生活経験者が多い成城で「ヨーロッパのワインの方がうまい」とのお客様の声を受け、船での定温輸送を徹底するために貿易会社を作って直輸入としたり、1日5000本以上売れるというプレミアムチーズケーキは一つ一つ手作りし常温でも保存できるのが人気となっている。こだわりの自家製ソーセージ(本場ドイツでも認められている)など自家製商品は2000点以上。こだわりは惣菜にも。他のスーパーでは外注しているが成城石井は自家製にこだわり、一流ホテルなどの料理人がこだわりの食材を使いすべて手作業で作る。生ハム、紅茶、コーヒー、オリーブオイル、ジャム、味噌、牛乳、豆腐、納豆、昆布、鰹節、ダシ、チーズケーキなどなど、有名なメーカーのものも置いてあるが、成城石井でしかお目にかかれない商品も多い。昨年10月に成城石井を子会社化したローソンの玉塚社長も、都市型生活のニーズを満たすモデルに目を見張る。

「高いから売れない」は勝手な思い込みにすぎないと言う。お客さまの期待は価格だけではなく、「この店に行けば買いたいものが必ずある」との安心感や信頼感も要素としては大きい。徹底した顧客優先の姿勢であり、コストは後からついてくるとの考え方だ(でなければワインやチーズの定温輸送のために貿易会社を作ったりはしないだろう)。そして品揃えやこだわりの品質に対して、価格は高くてもお客様の支持を得ている。昨今の成城石井の快進撃が、それを裏付けている。

業績=顧客支持率!?

なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか?」(武田哲男著、PHP研究所刊、2015.8)を読んだ。著者武田氏は、1969年の東京オリンピック以降、海外から注目された「サービス」「日本流おもてなし」の課題に直面し、以来、顧客満足の研究と共にライフワークとされてきた方だ。今でもサービス・CS分野のパイオニアとして、企業規模・業種・業態を問わず多くの企業活動に幅広く参画されているそうだ。

コスト競争→業績悪化→コストカット→品質劣化→顧客クレーム→ブランド失墜→さらなる業績悪化の負のスパイラルに陥る企業が増えている。表面上(企業理念など)は、「顧客第一」と謳っていても、顧客に向かい合うことなく、内向きのコストダウン(東南アジアの労働者依存など)や効率化を行い、苦しんでいる。

武田氏は、本当の意味の“成果主義”においては、売上・利益が低迷ないしは下降線をたどっている原因を「お客さまのご満足が得られない経営、商品・サービス」と捉え、「どのようにお客様の満足に到達するか」について反省し、議論し、新たな施策を講じることと言う。これが役員会をはじめとする各部門・部署の考え方、取り組み方、進め方でなければならない。大切なことは「業績=顧客の支持率」であり、どれだけの顧客に満足して頂けるか、それがどれほどの数字に結びつくかといった取り組みこそ、良い成果主義の姿と主張される。さらに「顧客に支持される優れた戦略は、現場力を高め、顧客の指示を得ること(派遣社員も含めて)」、トップの戦略だけでは上手くいかず、現場力こそが顧客第一、顧客中心、顧客重点、顧客本位主義を具現化する機能であり、役割であり、本質だとも。本当に顧客を大切にしているか、トップを、筆頭に組織を挙げて心からそういった気持ちで取り組んでいるかどうかが重要。その際、「日本流のおもてなし文化」は武器となる。日本に世界で一番老舗が多く存在するのは、全企業の99.7%を占める中小企業に「顧客の為によい仕事をする」「社会に貢献する」と言う考え方を持ち、「おもてなし文化」を徹底している経営者が多いことに起因していると思える。武田氏は、企業支援の際、一般的な「顧客満足度調査」ではなく、「不満足度調査」を行うと言う。満足度調査ではほとんどの企業が80点なのに、それで満足してしまう企業は衰退の道を歩むことが多い。「不満足度調査」の目的は、顧客の意識下に潜んでいる潜在ニーズを知るために顧客の不満、困っていることを知ること

上記本には、ANA,TOTO,帝国ホテルなどに加えて、新聞販売店やクリーニング店など小規模店も含めて23の事例が紹介されている。随時紹介していきたいと思っている。11月にあるIT企業の役員にご馳走になった。10数年あまり成長出来なかったのに、今年急激に成長し、株価、配当も大幅にUPした。これまで赤字案件乱発で業績が思わしくない時期が続いていた事業部が、今は最大の業績を上げるようになったという。その主因は、良いお客さまからの信頼を得ることを重点的に推進し、リピート客として仕事が急増していることだそうだ。リピート客だから、人間関係も築け、赤字案件は皆無になったと言う。武田氏の言う「業績=顧客支持率」を各企業はもっと真剣に考えるべきと強く思う。

冲中一郎