何事も成功するには人間力(テニス杉山愛ちゃん)!

「致知2016.1」に「一流選手を育てる親の共通項」とのタイトルでテニスの杉山愛選手の母親である杉山美紗子氏が投稿されている。杉山氏は2010年に早稲田大学大学院修士論文で「日本の若手トップアスリートにおける両親の教育方針に関する一考察」を書きあげ、翌年新潮社から「一流選手の親はどこが違うのか」と言う本も出版されている。この論文は、杉山愛のコーチ経験や、日本を代表するアスリート(錦織圭、石川遼、宮里藍)の両親へのインタビューを通じて様々な共通点をまとめあげたものだ。

まず必要なのは、「親の子どもに対する無二の愛、見返りを求めない愛情」、そして「その愛情を正しい方向に扱えること」と言う。子供はジュニアでトップクラスになるほどの活躍を見せた時、子どもの世界がドンドン拡がっていくのに対し、親にはそれに見合う情報量が不足し、親として何をすればいいのか分からなくなることが多くなる。それが親子間の亀裂になり、子どもの才能が潰されてしまう。そのため、親も子供に置いて行かれないよう学ばなければならないと指摘する。「今は抱きしめるとき、突き放すときということをきちんと理解して、いかに子どもとの距離感を取るかも親の学びだとも。

論をさらに展開して、トップアスリートとして成功する要因には、資質も当然あるが、世界と戦っていくためには、人を思いやる気持ちや、人に感謝できるという「人間力」も必須と言う。杉山氏が「娘が世界で戦えると確信した事象」を紹介している。17歳通信制高校に通っていた時の出来事。提出したレポートに先生のコメント「これはお前が書いたんじゃないだろう」。これに杉山愛は「この先生可哀そう。きっと何人もの人に裏切られてきたんだね」と。この時杉山氏は、その先生がどう評価しようと自分で書いたことに間違いはない中で、相手の立場に立ってきちんとコメントでき、大局的に問題ないことを無視できる判断力を感じ、この子はプロでやっていけると感じたそうだ。

どんな小さなこと(片付けや読書など)でも目標を決めて毎日コツコツと積み重ねていけることも、好不調の波がある世界で自分の頭を整理出来る行動を取るには必須の能力とも言う。「負けず嫌い」も、「あいつには負けたくない」と言っているうちはまだまだで、自分自身に対しての「負けず嫌い」が一流選手にとって大事な人間的資質とも言う。相手との比較が無いのでどこまでも伸びる可能性があるというわけだ。先日のNHK杯に続くグランプリファイナルでの羽生の世界最高得点でのダントツの優勝は、まさに「自分自身への挑戦」なくして達成できないことで、上記「自分自身に対する負けず嫌い」が納得できる。

杉山氏は育児に関して「子どもを育てる」ではなく、「子どもと育つ」と思って無我夢中でやってきたと言われる。自分が煎餅をしゃぶりながらテレビを見ている時に「勉強しなさい」「本を読みなさい」といくら言ったところで、まず子供は言うことを聞かない。親は子供にとってのリーダーで、そのリーダーシップ(「シップ」というのは「し続ける」と言う意味)をきちんと取るためにも、常に学び続けて自分を磨き続けることが大切だと言う。そう簡単なことではないが、「子どもと一緒に成長する事を楽しむ」と考え努力してほしいと締めくくる。

これまで、当ブログでも、甲子園での優勝校の監督の選手の育成策(http://okinaka.jasipa.jp/archives/13)などに関しても述べたが、その中でも「社会人になっても通用する人材育成」として「人間力養成」を謳う監督の多さが目立つ。企業においても、地域社会においても、人生を幸せに生きるためのキーワードは「人間力」ではないだろうか。

あなたは部下を信頼していますか?

米国の雑誌「フォーブス」の発行人リッチ・カールガード氏が本を出版されている。「グレートカンパニー(ダイヤモンド社、野津智子訳、2015.9)」だ。氏はアントレプレナーとして数多くの起業を成功させているベンチャー投資家だ。その氏が、企業が“成功し続ける”上で欠かせないもの、真に優れた企業(グレートカンパニー)が戦略や数字以上に重視するものについて書いている。変化の激しい時代にあって、成功し続ける会社を築くために必要なものは、次の3つ。

  • ・戦略的基盤:市場、顧客、競合他社、競争優位性、変革者
  • ・ハードエッジ:スピード、コスト、サプライチェーン、流通、資本効率
  • ・ソフトエッジ:信頼、知性、チーム、テイスト、ストーリー

多くの企業は「ハードエッジ」を重視しており、「ソフトエッジ」は無視されている。しかし、リッチ氏が多くの優れた企業を取材した結果、「成功し続ける優れた組織は、ハードエッジとソフトエッジの両方で卓越している」と自信を持って言えると主張する。そして、「現代の厳しくグローバルな経済において、ソフトエッジで卓越することは、ハードエッジで卓越するのと同じくらい(あるいはそれよりはるかに)重要になるだろう」と言う。そしてソフトエッジの5つの項目について解説している。各項目のキーワードを紹介する。

  1. 信頼:チーム全体の信頼を高めること。ヤフーのCEO,マリッサ・メイヤーの在宅勤務に関する話。「他の人とうまく仕事をするのに、互いに信頼し合うことは欠かせない。特に重要なのは、どこにいても、上司の目がなくても、社員は必ず仕事をやり遂げると信頼する事だ。わが社では、仕事はしたい所でしてもらっている。」行動科学者のエルンスト・フェールは「人々を信頼すると、その人たちはいっそう信頼のおける人にする。不正行為をさせまいとして制裁を加えると、人びとはかえって不正行為をする。」そして、リッチ氏は「信頼こそがイノベーションを生む」と。
  2. 知性:変化に対応し続けるための「知性」を育てる。「もっとも知性の豊かな人と言うのは、知能の高い人ではなく、“気概”の必要な状況に何度も自らを置く人だ。そうした勇気ある行動は順応に直結するため、学ぶ速度が高くなる。」「早く成功するために、頻繁に失敗せよ。失敗は本物の学習をするチャンスであり、私たちをもっと知性豊かにしてくれる。」すなわち、失敗から逃げるのではなく、果敢に挑戦する気概が知性を伸ばすと言っている。(当ブログで紹介した「オフィスはなわ」社長塙昭彦氏の「なんとかなるではなんともならない」http://okinaka.jasipa.jp/archives/3450の話に通じる)
  3. チーム:チームで仕事をする方が効率的と言う筆者は、10人前後の、情熱を持った人で構成するチームを推奨する。そして失敗を恐れないチームつくりでクリエイティブな成果が期待できる。
  4. テイスト:デザインでもなく、美学でもなく、製品と人を感情的に結び付け、人びとの最も深い部分に訴えかけるテイスト。例えばコカコーラの瓶、ソニーのウォークマン、Ipodなど。
  5. ストーリー:心に響く「ストーリー」の語り手になる。人々の心に響き、印象が残るのは言葉の羅列ではなく、物語であり、ストーリーだ。組織を活性化させるリーダーの役割も、目指すべき未来をストーリーで話せることが必須。新ブランドを世に出したり既存ブランドのイメージを高めたり、新人教育にも、ベテラン社員への活にも使われる。

“企業力”は“人財力”。信頼される人たちの集団こそが、時代の変化やグローバル化への変化などに対して、イノベーションを生みながら自らも成長し、企業も成長させる。まさに松下幸之助氏など多くの人が語る“全員経営”は信頼あってこその経営とも言える。

生命は利己的ではなく、本質は利他的のはず!

朝日新聞12月3日朝刊から、動的平衡理論で有名な生物学者で青山学院大学教授福岡伸一氏のコラムが始まった。最初のテーマは「生命の惜しみない利他性」だ。

「横浜みなとみらい駅で降りて、長いエスカレーターを上っていく。すると黒い大きな壁一面に端正な碑文が刻まれている。独語の詩とその和文。これはいいたい何だろう。」で始まるコラムだ(インターネットで調べると、クイーンズスクエア横浜のステーションコアにあるパブリックアートで“The Boundaries of the Limitlessというタイトルの作品だ)。

この詩は18世紀のドイツの詩人フリードリッヒ・フォン・シラーの詩で、壁面自体は米国の現代アート作家ジョセフ・コスースの作品とか。コラムで紹介された詩を下記する。

  • 樹木は、この溢れんばかりの過剰を、使うことも、享受する事も無く自然に還す
  • 動物はこの溢れる養分を、自由で、嬉嬉とした自らの運動に使用する

福岡氏は、上記詩の「過剰」にハッとする。「そのとおりだ。もし植物が、利己的に振る舞い、自分の生存に必要最小限の光合成しか行わなかったら、われら地球の生命にこうした多様性は生まれなかった」と言う。さらに「一次生産者としての植物が、太陽のエネルギーを過剰なまでに固定し、惜しみなく虫や鳥に与え、水と土を豊かにしてくれたからこそ今の私たちがある。生命の循環の核心をここまで過不足なくとらえた言葉を私は知らない。生命は利己的ではなく、本質的に利他的なのだその利他性を絶えず他の生命に手渡すことで、私たちは地球の上に共存している。動的平衡とは、この営みを指す言葉である。」と。

殆どの人が急ぎ足で通り過ぎるなか、碑文に心打たれる人も多いようだ。インターネットで調べると多くの記事が出てくる。その中には、「植物は無事芽吹くことができるよりはるかに膨大な種を実らせ、魚は成魚にまでならない卵を大量に生むが自然は産み出したものをただのごみにすることはなく、余った種や卵は他の生物に食べられたり、分解されてまた養分になったりすることで、次の生命の滋養となる。人間はその大量生産だけを真似ていますが、人間の創るものはいつも不完全で、使われなかったものはごみになってしまう。」と人間社会の不合理性を説く方もいる。

地球も人口がいずれ100億人を超え、食糧危機に陥ることが懸念されている。厳しい自然淘汰の世界を生き抜いてきた植物や、動物の知恵に学ぶことも多いと思うが・・・。

冲中一郎