“最高の仕事ができる幸せな職場”とは!

最高の仕事ができる幸せな職場」というタイトルの本が目についた(ロン・フリードマン著、月沢李歌子訳、日経BP社、2015.11)。常々、会社と言うものは社員が付加価値源泉であり、社員が気持ちよく仕事が出来る職場つくりが経営者にとって重要な使命と思っている私にとって、手に取らざるを得ない題名だ。

従業員が幸せであれば、生産性や創造性に優れ、質の高い顧客サービスが提供できるということがある研究によって明らかになっていると言う。そしてそのような職場にするヒントが説明されている。その中で、ある種共感を覚えたり、興味を覚えた事項を列記する。

失敗を奨励する:このことは当ブログでも何度か書いているが、研究事例が面白い。病院での調査結果だ。「同僚と良い関係にある看護婦は失敗が少ないか?」とのテーマだ。常識的には「協調性の高い職場で有れば、看護婦はより仕事に集中でき、失敗も少ない」ということだが、結果は逆だった。なぜ?仲間との絆が強くなると失敗が増えるのではなく、失敗の報告が増えるのだ。失敗を報告した際に厳しく咎められれば誰も失敗を認めない。だが、失敗が学習の過程とみなされるなら失敗を隠す必要がない。失敗から多くを学べる風土を創り、他者の失敗からも多くを学べる協調性の高い職場つくりが大事という事。

遊びが問題解決を容易にする:難しい問題に取り組んだり、創造的な解決策を探ったりする時に頑張りすぎるのは良くない。先進的な会社では遊びの空間を設けているところもある。

モノより経験の方が価値がある:中国人の縛買いがモノ(商品)から、コトに移ったと報じられている。当書では、さまざまな商品やサービスと幸福感の研究に基づいて、「経験(旅行や気球に乗るなど)の提供は、同額の商品(テレビやスーツなど)の提供よりも人に対してより大きな幸福感を与える」ことが分かったと言う。モノは一人で使うことが多いが、経験は他者と関わることで視野が広がり、幸福感を増幅させる可能性が高く、企業でもモノより経験に予算を使った方がいいと説く。

小さな変化が、幸福感の維持に大きく影響する:人間は幸福な状態を維持するのが苦手。昇進も時間が経てばすぐあたりまえになってしまう。それを克服するには、楽しい喜びを、小さくても何度もあるようにする。月に一度の40ドルの花束よりも、毎週末に10ドルの花束を買って帰る方が幸福感を長引かせることが出来る。年末の一度のボーナスよりも年4回に分けて出す方が効果的と言う。

職場内コミュニティが形成される種をまく:重要な出来事(婚約、誕生日、昇進など)を皆で祝うような行事でグループの絆を強くすると、グループ員のストレスが減り、仕事の生産性も上がる。

効果的な称賛の方法:いいことをすればすぐ褒める(年に1回の表彰タイミングではなく)。人ではなく行為を褒める。公の場で褒める。

今朝の朝日新聞10面のコラム「経済気象台」に、「自分が働いている会社を信頼していると答えた日本人は4割で、主要28か国で最低」とあり、「日本経済の潜在力を上げるには、具体的な成長戦略に加えて、組織の改造も必要」と訴えている。上記のような考え方も参考にしながら「最高の仕事ができる幸せな職場」を目指してほしい。

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フィデューシャリーの時代!?

今朝の日経17面のコラム「大機小機」で「フィデューシャリーの時代」という聞きなれないタイトルが目に入った。記事によると「最近、運用会社や大手金融グループが“フィデューシャリー・デューティ宣言”を発するようになった。」とある。敢えてわかりやすく訳すと「お客様の期待・信任に応える責任・義務」ということらしい。金融庁が2014年に「金融行政方針」でキーワードとして使ったことから最近各金融機関で上記宣言を発するようになった。調べてみると、株式会社三菱UFJ フィナンシャル・グループはつい先日の5月16日に「資産運用分野におけるMUFG フィデューシャリー・デューティー基本方針」を発表している。みずほ、住友など信託銀行関係も企業理念などで発表している。

記事によると、金融庁は、行政方針において「運用会社は投資信託の製造において“お客様のためになる商品”より“系列の親会社が販売しやすく手数料を稼ぎやすい親会社のためになる商品をつくっていなかったか」と問いかけ、「金融商品の開発・販売・運用・管理に関し、真に顧客のために行動しているかを検証し、自主的に改善するしくみの構築」を促している。コラム子は、最近の不正問題の多さに、政治家や企業も社会や市民、投資家の信任で成り立っている点を考慮すれば同概念の徹底の重要性がもっと強調されるべきだと論じている。

金融業界は、金融庁があらためて問題指摘しなければならないほど、内向きの企業運営になっていたのかと驚かされる。一般企業においては、上場会社の90%は「お客様第一」のスローガンを企業理念や基本方針に以前から掲げていると言われている(実際の行動に移しているのはそのうち10%とも言われているが)。

それにしても、もっと深い意味があるのか、難しい言葉を使うものだ。調べてみると「英米法において信認を受けた者が履行すべき義務を指す。この概念は英米法においては信託受託者以外にも弁護士・医師・会計士などその専門的能力と裁量権をもって他者のために働く者にまで拡張されている。」とある。これから、この言葉を聞く機会も増えてくるのだろう。

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気仙沼で東京出身の20代の女性が“未来の老舗作り”!!(御手洗瑞子)

東京大学を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ブータン政府の初代首相フェローとして産業育成に従事(2010~)し、2012年に「気仙沼ニッティング」社を立ち上げた(27歳)、新進気鋭の女性社長御手洗瑞子さんが、「PHP松下幸之助塾2016.3-4」に紹介されている。

ブータンに赴任中、東日本大震災の被災地の映像にショックを受け、「日本のために働きたい」と2012年に帰国、復興支援に携わった。「被災した方々が自分で稼ぎ、自分の足で立つことのできる仕事を生みだして”誇り“を取り戻すことが必要」との感じを抱いた。その時、ブータン時代から親交のあった糸井重里さんから「気仙沼で編み物の会社をやりたいんだけど、社長やんない?」と誘われたそうだ。東京出身で気仙沼の事など分からず、編み物も得意なわけではなく悩んだが、「誰かがやらなきやならないんだ」と準備を始める。やると決めれば、「お客さまと編み手双方が幸せであること」との志をしっかり心に持って、自立できる企業を作るためには「お客さまに満足いただけるクォーリティを重視」、そしてそのために「編み手が常に成長し続けるために、常にステップアップできる環境を作る」ことを徹底的に追及する。気仙沼を「被災地」ではなく、最高品質の編み物の生産地という憧れを持たれる土地に変える

抽選販売のノルディックセーター(税込19万4400円)、オーダーメイドのカーディガン(税込15万1200円)には注文殺到。レディメイドのエチュードも人気商品で、在庫も少なく、作れば売り上げも上がるが、これは編み手が最初に手掛ける商品で、習得すればより高度なものにチャレンジしてもらうため、むやみには作らない。「気仙沼以外にも支部を作っては」との話もあるが、「編み物の盛んな東北の街、気仙沼」とのストーリーをぶれさせないことに注力するために保留している。今は気仙沼ニッティングを永続的な事業にするために、編み手さんたちとしっかり哲学を共有し、浸透させていく、そして品質基準も徹底したい、そのためには拠点は一つの方がいいと。

まだ発足して2年半、まだ始まったばかりだが、このような事業を一つの契機にして、長い年月をかけて気仙沼に根づく事業を追求し続けたいと御手洗氏は言う。気仙沼ニッティングを「未来の老舗」にしたいと、”お客さまの嬉しさと、働く人の誇り“を軸にして、これからも挑戦を続けていくと語る。

まだ30歳そこそこで、マッキンゼー、ブータン、気仙沼と、それぞれ強い志を持って突き進むそのエネルギーに驚かされる。「私は、新たな一歩を踏み出す時に、今いる状況を守りたいと思ったり、拘泥することはない。知らない土地に行くのもためらいはない。」と言い切る。バングラディシュで幾多の困難を克服してマザーハウスを立ち上げられた山口絵理子氏もそうだが、私など足元にも及ばない女性企業家は多い。「女性活躍社会」とのスローガンが掲げられているが、御手洗さんのような人がもっと働きやすい環境を整備してあげることも重要ではなかろうか。

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冲中一郎