いでよ、不正に「笛吹く人」

今日の日経17面のコラム「一目均衡」の記事のタイトルだ。「株主総会の季節が到来し、企業統治をめぐる議論が盛んだ。社外取締役の拡充や株式の持ち合い解消に加え、“見えざる経営者”と呼ばれる顧問や相談役の廃止を求める声が強まったのが今年の特徴だろうか」で始まる日経編集委員西條郁夫氏のコラムだ。
コラムの要旨は、「企業統治を強化すれば不正が防げるような言い方をされることがあるが実際はかなり難しい」とのオリックス宮内シニア・チェアマンの言葉を紹介しながら、「現時点で確認されているほぼ唯一の手立ては内部告発ではないか」との主張を展開している。実際に内部告発で明らかになった事件としては、エンロンや富士ゼロックスの会計操作など枚挙にいとまがない中で、最近の”シェア経済の旗手“として注目されるウーバー・テクノロジーのセクハラ事件を取り上げている。入社早々上司から性的誘いを受けた女性が人事部に訴えたが、逆に他部署への異動などの圧力がかかり、会社を見切り転職。その後、ウーバーでの体験をブログで世間に告発。それを契機に社内の乱脈文化が発覚し、創業者兼最高責任者が退任し、同社は再出発の道を歩み始めたそうだが、世間の圧力を受けるまで対応しなかったことで大きな打撃を受けることになった。
西條氏は「”内部告発の勧め“といえば陰湿な臭いもするが、不正の目を早い段階で摘み取ることが出来れば、企業が健全な姿に戻る可能性もそれだけ高まる」と主張する。今後雇用の流動性が高まれば、一つの会社にしがみつく必要もなくなり、思いきった告発もしやすくなりそうだ、とも。英語では「ホイッスル・ブローワー(笛を吹く人、警鐘者)」というらしい。
企業経営者としては、内部告発を受けるのを怖がるのではなく、社員に恥じることのない、公正・公平な企業運営に心がけることを第一義とし、日ごろから社員との信頼関係つくりに励み、フランクなコミュニケーションができる環境つくりが重要となる。

上記視点から考えると、加計問題における文科省や政府の対応に首をかしげざるを得ない。文科省から次々と出てくる文書に対して、”いいかげんな情報”と決めつけ、挙句の果ては告発した職員を”公務員法違反の可能性”と脅す体質は、ウーバーと全く似た文化を持っているのではと勘繰りたくなる(”ゲスの勘ぐり”???)。政府の言うように出回っている情報が”いいかげん”とすると、そんなニセ情報で日本の教育行政が行われていることになり、政府は大問題と捉えるべきだ。しかし、“文書は信用できない”と否定するだけで、“でたらめ情報に基づく教育行政問題”については説明がない。信じられない事が政治の世界で行われている!公平・公正な企業運営のためのガバナンスコードや内部告発者の保護法の遵守を求める政府自体が、こんな体たらくで日本はほんとに大丈夫だろうか?1強の驕り、傲慢を謙虚さに変えるのは選挙しかないが、選択肢のない中でも、熟考せねばならない。

アジサイの花の見ごろです(亀戸旧中川河川敷)

梅雨入りが宣言されて以降、皮肉にも雨が降らない日々が続いています。先般”江東区報”で近くの旧中川河川敷で10日”アジサイ祭り”が行われることを知り、翌11日にアジサイの花を見に行った。家内の母がお世話になっている老人ホームが目の前にあり、久しぶりに母(90歳)を誘っての散歩だ。

祭りをやるだけあって、今一番の見ごろだろうか、いろんな種類のアジサイの花が見事な咲きぶりを誇っていた。スカイツリーを望む川では、花見クルーズ船や、練習中のカヌー、家族で楽しむカヤックなどが行きかう。岸辺では、餌をやる老人のところに、スズメやハトが群がっている。時折大きな魚が跳ねる姿も。梅雨の合間のなんとものどかな風景だ。

楽しく介護予防!”シニア・リトミック”とは

高校時代の友人の娘さんが主催する「楽しく、介護予防!シニア・リトミック」に誘われ、家内と一緒に行ってきた(15日チェレステ松濤にて)。これからの高齢化社会に向けてスイスではすでに普及している”シニア・リトミック“を日本でもぜひ普及させたいと頑張っている仲間の皆さんの活動へのモニター参加だ。

“シニア・リトミック”という言葉は日本ではまだなじみがないことばだが、WHO本部のあるスイス(ジュネーブ)では、メディアでたびたび報道され、今では医療機関にまで取り入れられ、社会保険まで適用されているそうだ。もともと、スイスの音楽家エミール・ジヤック=ダルクローズ(1865-1950)が創案した音楽教育のエクササイズで、「音楽の源泉は感情にあり、感情は身体に宿る」ことで、感情と身体の躍動感の伴わない演奏は音楽的ではないとの考え方に基づくもの。このことから、“ダルクローズ・リトミック”とも呼ばれ、日本でも国際リトミック指導者連盟(F.I.E.R)の支部として1999年日本ジャック=ダルクローズ協会が設立されている。国際免許制度もあり、今回の講師となっていただいた中明佳代先生はこの国際資格を持っておられる(国立音楽大学の非常勤講師)。

今回、なぜ”シニア“の冠がついているか?ジュネーブで検証された実験で、リトミックが歩行バランスの改善に劇的な効果があり、転倒率の低下にも効果があったと報告されている。そのことを受けて、高齢化時代を迎えた国家的な課題でもある”介護予防“にもリトミックを取り入れたいとする音楽家の皆さん有志がその試みとして、今回シニアを対象としたモニター・レッスンを開催し、今後の普及の参考にしたいとのことだった。

シニア6名と中明先生他2名の主催者9名の小世帯で、スタジオの関係で1時間程度のレッスンだったが、「参加者のテンポに合わせたピアノ音楽を心地よく感じながら動く」という音楽と感情と身体とコネクションさせていくレッスンで、時間を感じさせない楽しいものとなった。例えば、

  • 室内をランダムに歩きながら、一定の間隔で相手を見つけ手を合わせ、決められた数の手をたきあう、一定の間隔を縮めながら繰り返す(相手を見つけたと思ったら他の人にとられてしまうなんて難しさを噛みしめる)
  • 膝を曲げて膝を1回たたいた後、膝を起こしながら手を3回打つ。これをやりながら自己紹介をしたり、歌を歌ったりする。

これらの行為を先生の音楽に合わせて行う。先生が我々の動作の速度に合わせて即興で弾いてくれるので、助かると同時に、満足感(自己肯定感)も得られる。不特定多数の方と、手をたたいたり、歌を一緒に歌ったりするため、あっという間に和やかな雰囲気になり、コミュニケーションも活性化する。

日本では、ますます高齢化人口が増える中、医療費問題が大きくクローズアップされてくる。私は、健康のため5年前からスポーツジムに通っているが、多くの高齢者の方が健康を維持するために通っている。各地ではラジオ体操なども盛んになってきている。このような中で、高齢者問題に立ち向かうために、ピアノの演奏技術を持つ専門家が自ら難しい資格を取りながら、いかに日本で普及させるか悩み、苦労している。以前、少子化問題に絡めて低体重児問題をアピールする福岡先生の話を紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/2077)。この問題も欧米では国家レベルで対策を進めているが、日本ではまだ具体的な動きはない。課題先進国の日本こそ、“シニア・リトミック”も含めて、高齢者の健康対策を世界に先駆けて体系的に進める方策を真剣に考えるべきと考える。高齢者問題も少子化問題も待ったなしだ。

冲中一郎