今年も都会の暑さを避けて信濃路へ

 


4日の各新聞にJR東日本の“大人の休日倶楽部”の1面全面広告が掲載されていました。われら団塊世代の憧れの女優「吉永小百合」が登場する皆さんご存知の広告だ。新聞広告は国認定の「森林セラピー基地」の一つ、ブナ林で有名な長野県飯山市の“なべくら高原”が舞台だ。

今年も都会の暑さを避けて、7月末から8月にかけて2泊3日で長野県斑尾(まだらお)高原を基地に、北志賀高原周辺を散策してきた。
1日目にまず訪れたのが、吉永小百合がブナの木の森でヨガのポーズをする“なべくら高原”だ。飯山線戸狩野沢温泉駅からバスで20分程度の所にある。ガイドが、整備された通路を通りながら野草や木の説明をしてくれる。“朴(ほう)の木”は葉に殺菌作用があり飛騨高山や木曽地方では餅を葉でくるんだ朴葉餅や、味噌を包んで焼いた朴葉味噌などで有名な木だ。サクラソウ科でガーデニングでも扱う”丘虎の尾“。長野県、飯山市の花でもある”ユキヤナギ“。蝶のアサギマダラが好む”ヒヨドリバナ“。高級楊枝に使われる”黒文字”の木。幹が百日紅(サルスベリ)に似ている“令法(りょうぶ)”。いよいよブナ林だ。幹回りが40cmでおよそ樹齢100年と言われるが、豪雪地帯の飯山で元気に空に向かって伸びている。幹に耳を当てると水の音が聞こえるくらい、水を大量に含み、そのため水害防止に役立つとも言われる。JR東日本の宣伝では、「一歩足を踏み入れれば、降り注ぐ光と音、木々の香り、清涼な空気。森のすべてが心と体を癒してくれます。この夏はあなたも深呼吸しながら森とひとつに」とある。まさにブナ林はそんな気分にさせられる。

天然湖では長野県で諏訪湖に次いで大きい野尻湖に寄り、観光船に乗った。天候が良ければ黒姫山などを臨める筈だがあいにくの天候でさして感慨はなかった。


2日目は、竜王山1770mのSORAテラスで朝食するために世界最大級166名乗りのゴンドラでSORAテラスへ。雲海に見立てた竜王名産マガリダケ(クマザサ)が入ったサクサクのパイで包んだクリーミーなスープ「雲海パイ包みスープ」が名物だ。SORAテラスから眺める雲海が有名で、見られる確率も60%以上というが、天気が良すぎたのか雲海とまではいかなかった。山頂の山野草ガーデンでは、幻の「ヒマラヤの青いケシ」をはじめとする可憐で希少な高山植物が咲き誇る。“ヒマラヤけし”は幻の花とか、天上の妖精とも言われ3000m以上の高度で、1週間程度しか花を咲かせない貴重な花らしい。ヒマラヤ虎の尾、カライトソウ、ヤナギラン、シモツケソウなどが咲いていた。


次に行ったのが東館山高山植物園。2000mの雲上のお花畑だ。ピークを過ぎたニッコウキスゲの群生、シャジクソウ、ヨツバヒョドリ、タカネビランジ(?)などが咲いていた。佐久市では1910年に初めて発見したことで天然記念物に指定されている“ヒカリゴケ”を見ることが出来た。狭い崖の間で確かに光っていた(写真はボケていますが)。ここは長野オリンピックでアルペンスキーの場所だったとのことだが、ロープウェイに沿って滑り降りることを考えるとぞっとした。


志賀高原の鏡池から丸池までもガイド付きで散策した。ここでは“ギボウシとオニユリ(?)”や“ヤナギラン”の群生や”モウセンゴケ“、”トリアショウマ“などが見られた。”アザミ“もあちこちで見られた。


3日目は2300mの横手山に、珍しいスカイレータ(歩く歩道)とリフトで登った。天気が良ければ、北アルプスや富士山・佐渡島など360度の眺望がのぞめ、雲海・夕陽も観ることができるそうだ。もっとも高いところにあるパン屋さんのある山頂ヒュッテには宿泊もできる。帰りは最も高い(2172m)ところにある国道292号線渋峠を通って軽井沢に向かった。
暑さを避けての信濃路行きだったが、東京もこの時期には珍しく涼しかったようだ。

経営理念も”Simple is Best”!

「最強のシンプル思考(最高の結果を出すためのたった一つのルール)」(ケン・シーガル著、大熊希美訳、日経BP社、2917.3.28発行)という本を書店で見た。世界で成功している企業の多くは、“とてもシンプルなミッション“から発展しているといい、スティーブ・ジョブズをはじめ、成功企業のリーダーたちが実践する「シンプル思考」の極意をこの本で説くとのことだ。
アップルのi-phoneの理念はよく知られているように「1000曲をポケットに」、アマゾンのミッションは「ワンクリック・アウェー(たった1回のクリックで)」だ。著者は、「ミッションを成し遂げるために人々を導き、会社の決断や行動を後押しするのは「企業文化」で、強い企業文化は、意思決定における判断をシンプル化し、会社の理念に共鳴する社員が集まり、職場が一致団結する」という。
時を同じくして、松下幸之助塾の雑誌「衆知2017/7-8号」で、堀場製作所の堀場厚社長と聖護院八つ橋総本店鈴鹿加奈子専務取締役との対談記事があった。テーマは「“おもしろおかしく”の理念が世界で戦える“強み”を生み出す」だ。これは堀場製作所創業者(社長の父)が定めた社是だが、最初のころはお客様から「芸能関係の企業じゃあるまいし」などと言われ、クレームの際も「おもしろおかしくやっているから」と皮肉られもしていたそうだ。今では、海外の取引会社からもこのフィロソフィーに惚れ込んで「堀場グループの中でオペレーションしたい」と言ってくれるほど海外でも理念が浸透しているそうだ。堀場社長はこれまで敵対的買収を仕掛けたことはないと言い切る。バッジをつける習慣のないイギリスの会社では幹部たちから「堀場のバッジをつけてほしい」と言われ社長自らつけてやったそうだ。海外では「Joy & Fun」と言う。日ごろから社長を筆頭に「おもしろおかしく」を社全体で実践している。2016年に稼働した大津市の新工場は、琵琶湖を一望できる素晴らしい眺めと、大型客船のデッキにいるような素敵なデザインだという。堀場社長曰く「この建物は、社員や協力会社の人たちのコミュニケーションを大事にしたいとの思いで設計。琵琶湖に面した部分を吹き抜け空間にし、緩やかな階段で上り下りできるようにして歩きながら会話しやすくした」と。コミュニケーションサポート補助制度(例えば宴会を開いたら2000円/人補助)も充実させ、「日本一宴会の多い会社」とも言われるとか。社員の声を業務に反映させるための海外拠点も含めた提案制度も毎年盛り上がるようだが、この制度の名前は遊び心で「ブラックジャック・プロジェクト」と命名されている。
いくつかの企業に伺い、講演させていただいているが、その際、「御社の企業理念をそらんじて言えますか?」と問いかけますが、反応が薄いように感じている。日常的に、社員自身が仕事の判断基準として使えるような企業ミッション・ステートメントとして、シンプルな表現考えてみるのも意味あるのではないだろうか?
これからの変化の時代、お客様の心をつかむことを重要と考えるなら、本田宗一郎氏の言葉「お客様の心に棲む」や、「造って喜び、売って喜び、買って喜ぶ」、私の講演で使っている「お客様の価値を感じて働く」などはいかがだろうか。

高プロ人材のフリーエージェント社会は到来するか?

7月16日の日経朝刊1面トップに「プロ人材 移籍制限歯止め~働き方 自由度高く~」と題した記事が目に留まった。前文に
企業と雇用契約を結ばずに働くフリーのプロフェッショナル人材らの労働環境改善に向け、公正取引委員会は独占禁止法を活用する力関係の差を背景に企業が転職制限をかけたり引き抜き防止協定を結んだりして人材を囲い込む恐れがあるためだ生産性の高いプロ人材が働きやすい環境を整備することは日本の国際競争力強化にも欠かせない。
とある。最近テレビで、ラグビートップリーグで、移籍選手が移籍元の了解がなければ移籍先で1年間の試合停止を余儀なくされるとの制度が問題視され、見直しを検討するとのニュースがあった。日本代表にもノミネートされるような選手が1年間試合停止となるのは、世界と戦う日本にとって大きな損失だとの認識だ。
日経の記事によると、フリーランスの人材は企業と対等な関係で仕事を受ける専門職で、日本で約1122万人いるという。この中で、専門性が高いプロ人材と呼ばれる人や独立した自営業・個人事業主らはほぼ3分の1の約390万人だそうだ。米国ではフリーランス全体で約5500万人に上り、日本は欧米などに比べて専門性を持った人材活用が遅れている。
このような課題に対して、今まで独占禁止法は、原材料(鉄鋼など)に限定していたのを、スポーツ選手も含めたプロ人材にも拡大適用し、プロ人材を囲い込むための不当な取引条件や、獲得競争による報酬上昇を回避するためのカルテル是正を行う。例えば、仕事を発注する条件として競合他社との取引を長期間制限したり、自社で使う人に仕事を発注しないよう同業他社に求めたりすれば「拘束条件取引」や「取引妨害」になる可能性がある。欧米ではすでに労働市場への独禁法適用は進んでいる。オランダでは医師の引き抜き防止協定もある。
「フリーエージェント社会の到来~組織に雇われない新しい生き方~」(ダイヤモンド社、ダニエル・ピンク著、池村千秋訳、2014.8発行)によると、米国では組織に忠実に使える「オーガニゼーション・マン(組織人間)」から、組織に縛られない「フリーエージェント」が労働者の新しいモデルになりつつあるという。既に教育の現場も変化し、18歳未満の子供の10人に一人が在宅教育を受けている事実もあり、プロフェッショナル性をより高度なものにするための教育制度も、徒弟制度などが復活したり、高校をスキップして大学に行くなど多様な選択ができるようになるとの予測や、キャリアの考え方や働き方、部下の監視を主体とする管理職の価値の低下、定年退職の考え方の変化などが起こるとピンク氏は主張する。
近い将来さらにグローバル競争が激化し、仕事の高付加価値化が進み、AIが仕事の質を変える中で、1企業内で市場が要請する高度化人材を揃えるのはかなり困難になるのだろう。日本でもすばらしいプロフェッショナル人材や、個人事業者が力を発揮しているが、その評価と流動性は米国などに比べて十分ではないように思われる。政府は骨太方針「人材投資」を掲げる。同時に人材への独禁法適用など、制度的な充実も図りながら、企業と連携しながら高度プロフェッショナル人材の育成、流動化の促進を図っていくことが求められている。

冲中一郎