「志教育」に力点を置いた才教学園(松本市)

戦後の教育の荒廃、誇るべき日本人の気質の衰退などを嘆き、教育による日本復興を目的に学校を立ち上げたり、学習塾を全国展開されている方がいる。以前にも、日本人の誇りを徹底的に教育して問題児を立ち直らせている天草の勇志国際高等学校(http://jasipa.jp/blog-entry/7931)や、日本人の矜持を育む蒲郡の海陽学園(http://jasipa.jp/blog-entry/7196)を紹介したが、他にもあった。「致知2013.9号」に、才教学園(平成17年設立)の山田昌俊理事長と、名古屋市を発祥に全国116か所の学習塾を展開する名学館グループ代表の佐藤剛司氏との対談記事が掲載されている(タイトル「教育こそ日本尾未来をひらく」)。

山田氏は「世のため、人のために尽くす高い志を持った人を育てる」事を理念に開校の20年前から自分の理想とする学校を作りたいと思い続け、その間、高校の教員、学習塾開設、イギリスの日本人学校開校などを行い、周囲の反対(地方に義務教育の小中学校を作っても経営は成り立たない)もあったが、平成17年に松本市に才教学園を立ち上げた。今では、小中で498名の児童がおり、子供たちの元気な声が溢れ、皆が「学校が大好き」と言ってくれると喜ぶ。

佐藤氏は、小さい頃家庭環境に恵まれず、悪がきのリーダー的存在だったが、小学校の教師や中学の部活の先生の鉄拳制裁を受けながら、「お前は変われる。辛くてもそれを変えるのは君自身」と自分を認めて勇気づけてくれた言葉が今の自分を作ってくれたと言う。一時サラリーマンをやっていた時、松下幸之助氏の語録などをむさぶり読み、世のため人のためだとか生きていく上での大義名分の必要性を感じた時、天啓のように閃いたのが「教育」だったと言う。そして、小さな塾を開きながら、地元の経営のピンチに陥った個人塾を救済しながら規模を増やしていったそうだ。本も出版されているが、特別な道徳教育をいているわけではなく、塾として教えられる道徳は授業よりも日常の態度、指導者の率先垂範にあると考え、自らがあいさつし、整理整頓を心掛け、他者や社会、国家に貢献できるプロ教育者の育成に尽力されていると言う。

山田氏は、勉強と人間性、この両方を如何に育てるかに腐心されている。人格教育については「才」「夢」「役割」この三つが絡み合い融合することで「志」が育まれる。その三つを自身で気付かせ、引き出すことが才教教育の特徴だと言う。その気付きを促すために「感動を体験する」「自分発見」「夢を描く」「役割への気付き」「自立心と責任感」の五つのプロセスを設けている。学校行事に夢中で取組んだり、問題が解けたときの感動の毎日の積み重ね、教師が子どもの才を発見したり、毎朝10分間の「先達に学ぶ発表会」で夢を描く参考にしたり、具体的な行動につなげている。このプロセスの原点は「感動」だと言う。知識は伝承できても感動は伝承できない。感動できる人間に悪い人はいないし、感動こそが人人間たる証だと。

このような話は、家庭での教育や、企業での人材育成にも参考になる。山田氏は「日本の子供たちが人の顔色ばかり窺って屈託なく笑わなくなっているのがとても気になる」とイギリスでの経験に基づいて問題指摘されている。夢や理想を語る大人が少なくなったのではとも指摘されている。普段からの教育環境にも留意しながら、人間的な強さを持ち、才のある人材育成にみんなが取り組む必要がありそうだ。

「個人通信」で自分を売り込む!

先週、日経の「ビジネス書ランキング」にランキングされていた「顧客と最高の信頼関係を作る営業ツール(蒲池崇著、フォレスト出版)」のタイトルに目を引かれ買って読んだ。著者は、船井総合研究所に入社後、社員教育会社を経て27歳で起業し、日本唯一の個人通信(個人版ニュースレター)の作成・コンサルティング会社の代表を務める。「お客さまはどこから買うかではなく、誰から買うかだ」を信条に、船井総合研究所時代から、教育会社を通じて、日々の出来事から自分の人となりを紙面にして、お客さまから選ばれる存在になる「個人通信メソッド」を確立し、トップセールスの地位を得たそうだ。そのメソッドのノウハウを開陳したのが本書だ。ちょっと期待した内容とは違ったが、読んでみて、お客さまとの関係創り、そして「自分を売り込む(Sell Yourself)」ためのツールとしては確かに面白いかもしれないと思った。

蒲池氏は、人間関係に関する心理学の法則「ザイアンスの法則」を示し、「個人通信」の意義を説明する。「ザイアンスの法則」とは、

  • 第1の法則:人は知らない相手には攻撃的、冷淡な対応をする。
  • 第2の法則:人は相手に会えば会うほど好意を持つようになる。
  • 第3の法則:人は相手の人間的側面を知った時に、より強く相手に好意を持つようになる。

特に、第3の法則の重要性を説く。商品ではなく、自分の“ひとがら”を知ってもらう。

個人通信は、タイトル(個人名で‘○○通信’)、メインコラム、サブコラム(編集後記)、発行者プロフィールの4部構成。メインコラムに何を書くか?書いてはならないのが、売り込み、うそ、ライバル他社、宗教・政治・下ネタなどを挙げる。蒲池氏の作成代行は1500を超えるというが、「メインコラム」のネタ探しの相談が多いと言う。確かに、読者の心に届き、人柄をアピールでき信頼してもらえるネタを意識せねばならないが、意識しすぎると、なかなか思いつかない。しかし、プライベートなこと、仕事上の事で、インタビューしていけば必ず見つかる。

私見だが、「お客様の視点でものを考える」「日常的に問題認識を持ってものを見る」「感動経験を増やす(春夏連覇の沖縄興南高校の「1分間スピーチ」http://jasipa.jp/blog-entry/6187」)など、ブログも同じ(ブログは読者が特定できない)だが、「個人通信」も1回/月発行とは言え、考える習慣付けや、自らの学習に必ず役に立つものと思う。全てのお客さま(潜在客も含めて)と対面で対話することは不可能と思うが、「個人通信」で接点を持ちながら、久しぶりにお会いする時の話題提供にもなり、たしかにやりよう(内容)次第では強力な営業ツールになるかもしれない。

「カスタマー・エクスペリエンス」を掲げる企業が・・・

「日経情報ストラテジー」の戸川尚樹記者の記事に目が止まった(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20130726/494505/?mle)。「カスタマー・エクスペリエンス」と言う言葉が注目を浴び、日本IBMや日本オラクルなど、この言葉を掲げたソリューションを提供しているIT企業も増えてきたと言う。私の記憶では数年前に、野村総研の藤沼氏(現会長)が何かの講演でこの言葉を使われ、目新しさを感じたが、今回「日経情報ストラテジー」9月号で特集を組むほどにまで注目されるようになってきたようだ。

戸川記者は、カスタマー・エクスペリエンスを「商品・サービスの選定、購入、利用、サポートまでの経験を通じて顧客が感じる価値。小売業であれば、店に行き、出るまでの全体験に満足を与える経営手法」と定義する。野村総研などは、カスタマーエクスペリエンスの必要性について、「機能や性能の優れた商品やサービでも、単一企業による独占的な事業展開は難しく、直ぐに類似サービスが市場でひしめく結果となりがち。とかく価格だけが競争軸になりがち」と言う。要は、商品やサービスを購入したり、使用したりする際に顧客が受ける「心理的・感情的な価値」が重要になってくる。

既に米国スターバックスや、アップルなど成長企業では、カスタマー・エクスペリエンスにとり組むところが多いそうだ。「ここまでやるか」と言うサービスが、ネスレグループ(ネスレネスプレッソの取り組み)やドミノ・ピザジャパン(注文から配達までボーカロイド「初音ミク」が熱唱するサービス提供)に加えて、本、ワイン、自動車教習所、ファッション通販サイト、旅行サイト、車修理・・・などの分野でもカスタマー・エクスペリエンスを高めるための工夫を凝らし始めている。

日本IBMのサイトを見ると、製品に「IBM Customer Experience Suit」があり、説明に「IBM Customer Experience Suiteは、多彩で魅力的なWebエクスペリエンスを多様なチャネルを通じて提供し、顧客関係の促進と顧客セルフサービスの向上を図ります。」とある。ORACLEも昨年7月に「Customer Experience」製品群を発表している。

顧客満足度向上の重要性が言われる中、その施策を実行する企業から「なかなか成果が出ない」との声も聞かれる。顧客は「満足」だけでは当たり前で、より大きな「感動」や「感激」「感謝」を覚えるサービスを期待している。商品の選定からサポートに至る全体験の中で、顧客がわくわくするようなサービスとは何か?「Customer Experience」を勉強する価値はありそうだ。

冲中一郎