「ガリガリ君」の赤城乳業の躍進の秘密!?

正社員330名で、2012年の売上が353億円。日本で一番売れているアイスキャンディ「ガリガリ君」で知られる赤城乳業が好調だ(6年連続増収)。売れているのは「ガリガリ君」だけではなく、話題性の高い「ドルチェTime」「濃厚旨ミルク」などの商品も同様だ。なぜ、たかがアイスキャンディでこんなにも好調なのだろうか?

多くの著作のある遠藤功氏が出された「言える化~「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密(潮出版社、2013.10.10)」からその秘密が伺える。その秘密は「人づくり」と「言える化」にある。

まず「人づくり」。赤城乳業では、人事政策として「安易に人を増やさない」施策を打ち出す。人が多すぎて過度な分業化が進み、「ぶら下がり社員」が増殖している大企業に比し、赤城乳業では若いうちから大きな責任を与えることによって、一人一人の能力を高め、筋肉質の組織を創ることを目指す。一人一人の裁量権がとても大きく、新入社員と言えども大きな仕事を任せる。「放置プレイ」と社内で呼ばれるほど任せたら口出ししない。本人がギブアップするまでギリギリまで追い込むが、本人が支援や協力を頼んできたときはもちろん助ける。「本当にヤバイと思ったから、大騒ぎした。そしたら、みんなが本気で助けてくれた」との言葉がそれを物語る。発売3日で販売休止となった「ガリガリ君リッチコーンポタージュ(通称コンポタ)」は、売れすぎて供給が間に合わなかったそうだが、これを生み出したのは入社3,5年目の若い二人。

社員が自由にものを言える風土創り、これを赤城乳業では「言える化」と言う。年齢や肩書に関係なく自由闊達にものが言える。井上社長は「組織の活性化、そして一人一人の持つ力を最大限に引き出すことにつながっている」と言う。「言える化」といってもそう簡単に実現できるものではない。一人一人の可能性を信じ、それぞれの考え方や意見をリスペクトする気持ちがお互いになければ、その土壌は出来ない。そしてベテランが、若い人の意見に耳を傾ける「聞ける化」がなければ「言える化」は出来ない。こうした社風は、お客さまをも驚かせる。お客さまとの会議で、若手社員が上司の常務に「それは違います」と反論するのを聞いて目を白黒させることもある。「言える化」の土壌を作る為の制度も充実させている。「失敗にめげない仕組み」として、挑戦に伴う失敗を通常の人事考課とは切り離して処理をする仕組みや、部下が上司を評価する仕組み、「学習する組織」へ脱皮する仕組みなどだ。教育体系の中に、入社同期で映画やミュージカルを鑑賞するというのがある。これはとかく部署が変わると薄れがちな同期の絆を再確認すると同時に、「感性を磨く」ことも目的とするのがユニークだ。

元気な企業は、いろんな工夫をしているが、赤城乳業も「人づくり」の大切さを物語る。

「100円のコーラを1000円で売る方法」とは

先般10月のJASIPA定期交流会で講演していただいた永井孝尚氏(元IBM,現オフィス代表・多摩大学大学院客員教授)氏の著作本(中経出版、2011.11)の題名だ。講演のテーマは「改めて、顧客中心主義について考えよう」。当日参加予定だったが、台風の関係で出られなかったが、日頃から「お客さま第一」を主張している私としては非常に興味あるテーマだった。と言うことで永井氏の著作本を読むことにした。以下、当該本と、JASIPAメルマガ(JASIPA★INSIGHT)に掲載の講演議事録を参考にする。

永井氏は「顧客中心主義」を提言する。その対極が「顧客絶対主義」。

  • 顧客絶対主義とは:「お客さまは神様」すべての要望に応え、価格勝負もかける。
  • 顧客中心主義とは:「お客さまは大切な人」、お客さまは自分の本当の問題を知らない。気付かない要望に応え、付加価値で勝負する。価格は高くてもお客様に「凄い!」と言わせる。

「顧客中心主義」の出発点は「バリュー・ポジション」の視点。「バリューポジション」とは”顧客が望んでいて“”競合他社が提供できない“”自社が提供できる“価値の事を言う。その「バリュー・ポジション」の出発点は、顧客で、顧客本人も気付いていない価値を見つけられるかどうかがポイントとなる。

標題の本では、会計ソフト専業の駒沢商会の商品企画部において、経理ソフトの改善を目論んで転勤してきた凄腕営業で有名な宮前久美が、最近転職してきた与田(永井氏そのもの)の主宰するマーケティング戦略などを学ぶ“与田スクール”で、「顧客中心主義」を学んでいく過程を物語風にまとめている。「うちの事業とは何か?」の問いに「お客さんのお役にたてる会計ソフトを開発して提供する事」と答え、「顧客の言うことは何でも引き受ける」と考える久美に、与田は「0点」の回答と返すところから始まる。そして、「経営者が本当にやりたいことは、会計システムで集まった情報を活用して、会社の財務状況を改善し、経営変革すること」とのコンセプトを打ち出すまでになり、さらに与田の指導を受けて、そのコンセプトを実行可能な戦略にまで持って行く過程を分かりやすく描いている。

この久美の変わっていく過程がまさに、縮む国内市場で消耗戦となって「高品質なのに低収益」という矛盾を生み出した「カスタマー・マイオピア(顧客近視眼)からの脱皮」に他ならないと、そして、その鍵は、「バリュー・ポジション」を徹底的に考えることと永井氏は言う。ちなみに、本のタイトルは、リッツカールトンのルームサービスで頼んだコーラが1035円だったが、今までの人生で最高においしいコーラだった(中身はスーパーで売るコーラと同じだが、最適な温度に冷やされ、ライムと氷がついてシルバーの盆に乗ったコーラがグラスで運ばれてきた)との逸話からつけられている。サービスと言う目に見えない価値を売る「バリューセリング」の典型的な例を表わしている(スーパーは「プロダクトセリング」でコスト競争の世界)。

日本のIT業界は、必ずしも顧客に信頼を得ていないと言われる。顧客の指示、あるいはいうままにシステム開発をする姿勢(顧客隷属型システム開発)から脱皮できていないと言うのが一般的な説となっている。今こそ、永井氏の言う「顧客中心主義」を徹底的に実行する能力を身に付けることが、IT業界の発展のためには必須と言えるのではないかと思う。

セブン&アイが目指す「オムニチャネル」戦略とは

12月2日にセブン&アイHLDGSが、カタログ通販のニッセンを買収することを発表した(日経12月3日朝刊)。その記事に「セブン&アイは“オムニチャネル”と呼ぶ戦略を推進する。いつでも買えるネットなどと国内1万7千もの実店舗を結び、欲しい商品を消費者それぞれの事情に適した形で販売。その一環でニッセンとはリアル、ネットの垣根なく連携していく」とある。

一方で「セブン&アイHLDGS.9兆円企業の秘密~世界最強オムニチャネルへの挑戦」(朝永久見雄著、日本経済新聞出版社刊、2013.9.2発行)と言う本も出版されている。この本には、「消費者がリアル店舗、スマホ、パソコン、テレビなどオムニ(全て)の環境で、継ぎ目なく(シームレス)買い物をする時代が到来しつつある。この“オムニチャネル”の時代において、セブン&アイ・ホールディングスは、オムニチャネルリテイラーとして世界最強になる潜在力を秘めている」とある。

私は恥ずかしながら、この言葉に初めて触れた。米国ネット界では一般的用語となっているらしい。長年にわたり国内小売セクタを代表するアナリストとして高い評価を受ける朝永氏は、国内で1万7000店以上の店舗を持ち、セブン‐イレブン・ジャパン、西武、セブン銀行、イトーヨーカ堂、赤ちゃん本舗など114社を抱える巨大流通グループが、その店舗網、顧客接点の量(頻度)と密度(距離)、商品の多様性、それを支える人材、物流を考えると、セブンネットショッピングを新たなプラットフォームとして各事業会社が一つに繋がることで、世界に類を見ない小売グループへ発展し、最終形では、日本の消費シェアを根こそぎ獲得する可能性を指摘する。

「オムニチャネル」の時代を、物語風に著している。大手商社に勤めるある独身女性(ちあき)が休日朝起きて、スマホにインストールしたセブンアプリを開き「自分の冷蔵庫」をクリック。ちあきの冷蔵庫にある材料で作れるメニューが出てきた。つくりたい料理をクリックし、人数を入れると不足材料が出てきて、注文。「3時間後にお願い」とクリックするときっちり3時間後に材料が届く。以前、その料理の時に同時にぶりの刺身を注文したことがあったが、注文の時に「ぶりはいかが?」と聞いてきた。届く45分前に調理された新鮮なものが届いた。スマホで注文するまでの時間は55秒。

朝永氏は「特に都市部では徒歩のお客さまが多く、“小売業の競争力は売り場面積に比例し、距離の4条に反比例する”」と言う。私も時々、自転車で5分位のイトーヨーカ堂に行くことがある。歩きはきついが、自転車でも坂があるときつくなる。インターネットでも注文することがあるが、これだけ近いとついつい実店舗に行ってしまう。しかし、年を取ると重いものや新鮮なものはインターネットでと使い分けができれば便利だ。イトーヨーカ堂のような実店舗が、ネットスーパーの商品加工拠点であったり、周辺のセブンイレブンへの商品供給拠点であれば、ますますイトーヨーカ堂の存在意義が広がっていく。

「オムニチャネル」戦略、リアルとネットの融合に注目したい。コンビニエンス事業、スーパーストア事業、百貨店事業、フードサービス事業、金融関連事業をシームレスにつなぐインフラづくり、IT業界の真価の発揮どころか。

冲中一郎