教育の基本は「人づくり」(教育は感化なり!)

天草市の勇志国際高等学校を以前紹介(http://okinaka.jasipa.jp/archives/279)したが、熊本県内六校の校長を歴任し、次々と教育現場の改革を図り、生徒数の激減で廃校の危機にあった天草東高校の再建も行った現九州ルーテル学院大学客員教授大畑誠也氏が「致知2011.1」で「教育は感化なり」のインタビュー記事に登場されている。その考え方に大きな共感を覚えたので紹介する。

大畑氏の教育に対する思いは「21世紀の一番の課題は人間関係、そしてあらゆる人間関係の中で最も大切なのは親子関係」ということであり、「21世紀は人間関係を制する人がリーダーになっていく」と。この思いの原点は、東京での経験だ。校長に赴任して間もなく、東京へ校長会に行った時、ある駅に貼ってあった「学校の成績と、社会の成績はイコールではない」とのある企業の広告にものすごいショックを覚えた。教育者に突き付けられた問題、すなわち学校で成績優秀だった生徒が社会では通用しないと言う事。学校の成績もいい、当然社会に出ても優秀、そういう人間を作らなければ、教育者として給料をもらう資格はない。成績は手段であって目的ではなく、教育の一番の目的は「人間づくり」だと。

いずれ分校、廃校になる噂があるため、生徒に意欲も元気もなく、遅刻は多く、服装は乱れている、そんな天草東高校に校長として初めて赴任。一刻の猶予もない状態で、4つの目標(大きな声で挨拶、返事、校歌を歌う、1日1回図書館へ)を掲げ「答えは現場(生徒)にあり」との精神で生徒との接触を試みた。赴任後初めての始業式の挨拶で、4つの目標を読み上げ、「ええかっ!?」と言っても返事がない。そこで壇上から飛び降り一人一人に返事をもらいに行った。そして壇上に上がりもう一度返事を促すと大きな声で「はい!」と返ってきた。教育の基本は率先垂範、校長自らが大きな声で挨拶する。やがて登下校中、地域の人に挨拶する生徒も出てきた。「どうしようもない高校だったのが最近変わってきた」との評判も出始め、地域の人に褒められたことを全校集会で報告し「君たちはすばらしい」と褒める。すると子供たちは「挨拶って大事なんだ」と理解は深まる。「挨拶」はお互いに認め合う事でもあり、学校やクラスのチームとしての雰囲気もよくなり、お互いに切磋琢磨するし成績も上がる好循環を生む。

大畑氏は教育の究極の目標は「親に感謝、親を大事にする」ことだと言う。親と挨拶できない人間が、社会に出て行って誰と人間関係を作れるか?大畑氏が天草東高校時代から続けていることがある。卒業式の日、式の後3年生と保護者を教室に集め最後の授業をする。そこで、子どもたちがいまあるのはご両親のお蔭だと言うことを言って聞かせ、「心の底から親に迷惑や苦労を掛けたと思う者は隣のご両親の手を握って見ろ」というと、一人二人と繋いでいって、最後は全員が繋ぐ。そこで「18年間振り返って親にほんとにすまなかった、心から感謝すると思うものは、今一度強く手を握れ」と言うとあちこちから嗚咽が聞こえる。これが、親に感謝、親を大切にする最後の授業だ。

最後に大畑氏は、夏目漱石の言葉「教育は感化なり」の言葉を使いながら、子どもの魂に響く教育、魂に届く教育、魂を揺さぶる教育が出来れば、その教育者本人も自ずと自分の生き方、あり方を考えるようになると言う。教育者にせよ、会社の社長や上司にせよ、この感化力のある人がどれだけいるかが、次代の国、会社の盛衰を握っているのだと思うと締めている。

FBの致知出版社のページが古い記事を思い出させてくれる。以前読んだときと、今読むのとではまた共感度、感動力が違うように感ずる。時々過去の記事も読み返したい。

算盤製造会社を守り続ける女性社長!

算盤と言えば、電卓やコンピューターの発展によって商売にはならない業界と思っていたが、その算盤会社(創業大正9年)を創業者の死後30年社長として守り続けている女性社長がいる。その名は、藤本ともえさんで、会社の名前も「トモエ算盤」。創業者の父が社名を娘につけたそうだ(「致知2014.10」「第一線で活躍する女性」シリーズでの「苦境の中で守り続けた算盤が今人気再燃」と題した藤本氏へのインタビュー記事より)。

確かにきついマーケットだ。ピークの1980年には240万人いた算盤検定者数が一時は18万人まで落ち込み、ここ2~3年は22万人まで復調したがそれでもピークの10%にも満たない。そのような中で藤本氏が算盤にこだわるのは、算盤の効用が世界で認められ、子供たちの基礎的な計算力をつけるために必須との信念があるからだ。確かに「トモエ算盤」のホームページを見ると数多くの著名人が「算盤の効用」を説いておられる。脳の前頭前野は人間を人間たらしめ、思考や創造性を司っている中枢だが、算盤をすると前頭前野が刺激されるとも言われているそうだ。今では、算盤の製造・販売と言うより、その効用を普及させるソフト面に注力し、多彩な「算盤教室」に力を入れておられる。ご本人は、算盤会社を継ぐなどとは全く考えておらず、英語が好きで大学卒業後は高校で英語教師をやられていた。その特技を活かして「英語で算盤教室」を開いたところ、英語に対するニーズの高さもあって人気教室となっていると言う。他にも「運動しながら算盤教室」などアイデアを駆使しながら、子供達が楽しみながら覚えられる教室を展開されている。

最近、計算と言えば電卓など電子機器の世界だ。昔学習と言えば「読み」「書き」「そろばん」と言われ、我々世代も算盤を習いに行ったものだ。算盤があったせいで日本人の暗算能力に外国の人は驚いていると言う。算盤暗算競技のすさまじさには我々日本人も驚く。頭の中にイメージとして算盤を置き、指ではじきながらどんな大きな数字でも正確に計算できてしまう。そんな算盤が、コンピューターはなやかなりし今、世界でも注目されているそうだ。私も、ワープロ普及で漢字が書けなくなったことを実感している。コンピューターに頼り過ぎたために落ちた基礎能力を考え直すべき時期が来ているのかも知れない。

それにしても女性の活躍が目立つようになってきたのは、嬉しいことだ。

よいラガーメンよりも良い人間を育てる(帝京大学ラグビー部岩出監督)

滋賀県立八幡工業高校を7年連続花園出場に導き、その後、帝京大学ラグビー部監督に就任(平成8年)。平成22年に創部40周年にして初の全国大学選手権優勝。今年、史上初の5年連続制覇を実現した、帝京大学ラグビー部岩出雅之監督が「致知2014.10」のインタビュー記事に登場されている。優勝経験のなかった帝京大学を、様々な困難を経ながら育て上げてきた岩出氏の「リーダー哲学」は我々にも大いに参考になるものと思う。下記にその哲学を紹介する。

「ただ目の前の勝利だけ見ているのと、学生たちの未来まで見てあげているのとでは、彼らの将来はまるで違ってくる。学生時代というのは長い人生の中のたった4年間なので、そこで勝ったからと言って、後の人生で幸せになる保証があるわけではない。ですからいい学生生活を送るということは、単に勝ち負けではなく、目標に向かって成功も失敗も含めていい体験を積み重ねていくことが将来様々な力になっていくと思う。」

学生たち一人ひとりにしっかり心を配り、それに応じた導き方のできる指導者でなければならない。そのためにもこれまでのように指導者の考えとエネルギーばかりで引っ張るのではなく、彼らが主体性を持って行動していけるチームに転換していこうと考えた。その源は上級生の姿だ。上級生がよい手本になってチーム全体をよい方向へ導いていけるチームにしていこうと。具体的には、挨拶や掃除を4年生は率先してやる。自分のエネルギーを他者貢献に使うことで自己研鑽する姿を上級生が見せ、そこに刺激を受けた下級生たちも育っていく。そういうことが定着していったことで、優勝も、連覇も実現できたと思う。」

「指導者に努力や学習意欲のないチームには未来はない。指導者がこれぐらいでいいと考えたところで、学生たちの可能性を摘み、チームの歩みも止まる。だから指導者は成長し続けなければならないというのが僕の哲学だ。4年間がラグビーだけで終わるのではなく、指導者が未来をしっかり見据えて指導することで、社会に出て生きる力を育むことが出来ると思う。若い世代の可能性を大きく引き出す指導者でありたい。」

指導者に反発して傷害事件を起こし公式戦出場停止の処分を受けたり、単位不足で一人悩んで自殺した部員があったり、様々な経験の中から作り上げてこられた「岩出哲学」。時間がかかったとは言え、今では早稲田、明治も歯が立たない強豪校に育て上げた「岩出哲学」は、企業の職場での社員育成にも通じる話として受け止めたい