100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その4)

川上ミネというピアニストがいる。昨年、日本スペイン交流400年事業公式ピアニストを務められた方だ。仙台藩主伊達正宗がその配下の支倉常長を正使として約180人による慶長遣欧使節団をスペインに送ってから400年。仙台藩が壊滅的な打撃を受けた慶長三陸地震[1611年]の2年後だった。偶然だが、昨年の交流400年事業は、東日本大震災の2年後、何か不思議なものを感じざるを得ない。川上さんは、昨年6月に日本とスペインの皇太子殿下御臨席のもと、マドリッド王立劇場で開催された記念音楽会で演奏され、10月の京都清水寺での記念ピアノリサイタルも開かれた。

川上さんは、三歳でピアノを始められ、高校卒業後すぐに一人でドイツに渡り、独学でミュンヘン国立音楽大学に入学。学費と生活費はアルバイトで賄いつつ、ピアノを勉強していたがある日突然腱鞘炎で腕が動かなくなる。悶々とした日々、発狂しそうな日々を送っていたが、何を思ったか突然マドリッドへ。到着した日にすべての財産とパスポートを強盗に盗まれたが、逆にそれをバネにマドリッド国立音楽大学院に入学。現在はマドリッドと京都を拠点に、世界各国で演奏、作曲、音楽制作を行っている。

そんな川上さんのピアノは、その場、その場の空気に合った音色を出す、その深い音色に感動する方が多いそうだ。その川上さんが「大事なのは日々感動することですね。楽しい、面白い、きれいだなと思う気持ちを、出来るだけ多く自分の中に作ることだと思います」と言う。「日常の些細なことに対して感動していると心も耳も開くと思うんですね」とも。確かに川上さんが幾多の苦難を乗り越えてこられたのも、些細なことにでも感動する「感動の心」が大きなエネルギーになったと言えるのではなかろうか。ピアノをやめようと何度も思ったことがあるが、心が震える音楽に出会うたびに「ああ。やっぱり音楽をやりたい」と思い続けて今があると自ら言われている。またマドリッドの音楽会で出合ったキューバの音楽家(チューチョ・バルデス)の演奏を聴いたとき雷を受けたような衝撃を覚え、いてもたってもおられず、キューバに移住しながら会いに出かけ、その思いが本人に通じ、キューバで共演を果たす。(「致知2014.2」の「第一線で活躍する女性~困難や逆境とハーモニーを奏でることで人生は花開く」インタビュー記事より)

感動プロデューサー平野氏は、「感動言葉が豊富になればなるほど、あなたの表現力は豊かになる」と言う。感動言葉の例を示している。

素晴らしい! 綺麗! 美しい! シビレル 最高! 素敵!
完璧! 虜になる ウキウキ! ワクワク! ワオ! ハッピー!
優雅 卓越 愛 ジーン ウルウル 情熱、夢がかなう
心が震える 心が躍る 心に響く 心に届く 平安 聡明 卓越
輝く 命輝く 心が浮き立つ 心が洗われる 心に沁みる 熱狂
爽やか 心がトキメク 群を抜いた 目くるめく 夢 秀でる
心奪われる 鳥肌が立つ 喚起 感謝 夢中 綺麗な
心が揺さぶられる 夢のような 大好き 無限の力 調和

日頃、こんな言葉を使えるように意識して何事にも取り組む、そして人が使う言葉に敏感に反応できるように訓練することによって、自らの感性を磨く。その努力が、いつの間にやら、いろんな人との関係が深くなり、いろんな人が近づいてくることに気付くことになるだろう。そして自分の前向きな行動力に目を見張ることになる。

今から、進んで感動言葉を使ってみませんか。

100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その3)

今回は、第三者(上司、部下、お客さま、家族、友人・・・)との間での共感、感動の作りかたのコツに関する平野氏の提案だ。

平野氏は「物語力(story)で感動を生み出せ」と言う。最近、企業戦略にしろ、経営理念にしろ、ストーリーで語れとの提案が数多く聴かれる。「ストーリーとしての競争戦略(楠木建著、東洋経済新報社、2010・5)」でも「優れた戦略とは、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」と。平野氏は「売れているものほど、“その商品が生まれるまでの思い、試行錯誤、商品化に至るまでのドラマ”といったストーリーが描かれていることが多いことに気付く」と言う。NHKのヒット番組「プロジェクトX」なども参考になる。各企業でも、プロジェクト紹介などを行うことが多いと思うが、第三者の記憶にはなかなか残らない。「プロジェクトX」とまでは行かなくとも、どんな苦労があって、それをいかに乗り越えてきたか、そしてお客様の信頼を得るための努力、結果としてお客さんからの評価をどうやって得たかなどを物語風に紹介すると、共感あるいは感動を与え、みんなの記憶にも留まり、プロジェクト管理の質向上にも役立つことになると思われる。

開発商品に関する説明に関しても、単に商品の機能、性能説明だけでは、お客さまだけではなく、同じ社内の営業とも共感を得にくい。「どんな思いでその商品のアイディアを思いついたのか?」「実現までにどんな試行錯誤があったのか?」「その商品を使うと、どんなハッピーエンドシーンが生れるのか?」、開発担当は“脚本家”、営業は“役者”、そして役者の魅力を最大化するための“演出家”、それぞれの役割を担いながら、その商品の魅力を物語風にまとめ、役者に演じ切らせる。

物語を考える際のキーワードは「二人称」。人は、自分の思いをより相手に伝えるために無意識に一人称、二人称、三人称を使い分けている。しかし、意識せずにいると一人称、三人称を使うことが多いが、「共感を持って感動的に伝わるのは“二人称”的表現が最もふさわしい場合が多い」と平野氏は言う。「大切な“あなた”へ向けて伝える何か」「大切な“あなた”のために創る何か」「大切な“あなた”をサポートするアイディア」。例えば、商品説明で「この商品の特徴は○○○です」というより、「お客さまがこの商品を使うと○○○を体験できます」と言った方が顧客にとっては聞きやすい。顧客や部下、後輩、友人、家族に対して“大切なあなた”と言う意識で発する言葉やメッセージは、人間すべてが持つ「共鳴装置」によって共振する。顧客に配る「営業レター」等でも“二人称”文言が顧客の心に刺さる。

「物語力」と「二人称」。相手との関係で感動を創りだすキーワードとして、常に意識しながら取り組む価値はありそうだ。

100万人の心を揺さぶる「感動のつくり方」(その2)

前回の記事(http://jasipa.jp/blog-entry/9271)で、「ビジネスアーティスト」と言う言葉を紹介した。P&Gの元グローバルマーケティング責任者のジム・ステンゲル氏も日本講演の際、「実績を上げているブランド企業には、必ずビジネスアーティストがいる」と言っていたそうだ。「他者へ影響を与え、感動を生み出し、技術を革新し、ビジネスを作品に昇華させるのがビジネスアーティスト」とも。具体的事例として、P&Gの主力製品であった紙オムツ「パンパース」の売り上げが低迷していた時、売上を3倍にしたというコマーシャルのエピソードが印象に残ったと言う。

吸水性、乾燥性に絶対の自信を持っていたP&Gは、その品質を前面に出した広告展開をしていた。その時、ビジネスアーティストは世界中のお母さんにインタビューした結果新しいコマーシャルを生み出した。それは、静かな讃美歌が流れる中、パンパースをつけた赤ちゃんがすやすや眠る映像がただ静かに流れる1本のCM.キャッチコピーは「赤ちゃんのアイデアに基づき、パンパースが作りました」。

このCMによって、世界中のお母さんたちは、P&Gが自分達と同じ価値観を持った企業だと共感した。吸水性や、乾燥性も大事だが、それ以上に赤ちゃんがすやすや眠れるかどうかが大切だったのだ(アップルのiPodの宣伝文句「1000曲をポケットに」(http://jasipa.jp/blog-entry/7415))も多くの人に共感を与え大ヒット)。

「人は説得されるよりは、共感したい」。そして、平野氏は「ビジネスアーティストになるために必要な才能は、人間であれば、もれなく標準装備されている」という。

純真無垢な子供のころ
笑ったり歩いたりしただけで、
まわりの人を感動させていた天然の表現力。
そこにいるというだけで、
まわりの人を幸せにしていた天然の共感力。

「感動したい人から、感動させる人へ」。そのシフトが、あなたの仕事と人生を、圧倒的な喜びと豊かさに満ちたレベルへと変えていく。あなたの中にある「標準装備を磨きだす」ことで誰にでも可能なこと。

商品を売り込むとき「こんなことも出来る、あんなことも出来る、性能はこんなに優れている」などと商品の説明に終始していませんか?「説得より、共感」を、そしてビジネスアーティストの意味を一度考えて見ませんか?