「経営改革4」カテゴリーアーカイブ

「三方よし」の近江商人の流れをくむ企業の多さに驚く!

当ブログでも、「お客さま第一」の精神として、近江商人の商売10訓の一つ「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ!」を事あるごとに紹介してきた。もう一つ有名な言葉に「三方よし」の精神がある。「三方よし」とは「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」のことだ。「三方よし」の精神が、近年企業の社会的責任(CSR)が問われる時代の風潮と共にあらためて脚光を浴びているというのは、NPO法人三方よし研究所専務理事岩根順子氏だ(「致知2015.6」致知随想記事より)。

記事の中で驚いたのは、近江商人が全国各地で、江戸時代から明治、大正、昭和と日本経済の原動力として活躍してきたその流れを汲む優良企業が今でも数多く存在することだ。例えば、伊藤忠商事。ホームページ(http://www.itochu.co.jp/ja/csr/itochu/philosophy/)で調べると、その中に「三方よし」の企業文化を引き継いでいる由の記述がある(近江出身の伊藤忠兵衛が創業)。他にも西川産業(八幡出身の西川仁右衛門が創業)、高島屋(高島郡出身の商人飯田儀兵衛の婿養子である飯田新七が創業。社名は高島郡に由来)、ニチレイ、日本生命、ニチメンなどなど。

近江商人に対しては必ずしもその評判は芳しくない時期もあった。「近江商人の通った後には草も生えない」「近江泥棒」等とも言われていたと言うが、裏を返せば同業者も羨む商売上手だったのではと岩根氏は言う。さらにその商売が堅実、勤勉、質実剛健、信用第一で貫かれており、自らの利益追求ばかりでなく、無償で橋を築いたり、学校を建てたり、利益の社会還元を進んで行ってきたことなどの実態を知るようになって、近江商人の商いの心こそがこれからの日本人の良き指針になるとの確信を持ち、NPO法人三方よし研究会を立ち上げたそうだ。

以前、当ブログで「世界で一番大切にした会社コンシャスカンパニー」(ジョン・マッキー他著・翔泳社)を紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1718)。「コンシャスカンパニー」の精神も、近江商人の「三方よし」に通じるものと思われる。企業に対する社会的責任(CSR)の要求はますます強くなる中で、岩根氏への講演要請が各地経済・文化団体から続々来ていると言う。

“おもてなし”の哲学が組織を強くする(リッツカールトン)

世界最高峰のホスピタリティでお客さまを迎える「ザ・リッツ・カールトン・ホテル」元日本支社長高野登氏の講演会の内容が「PHP松下幸之助塾2015.3-4」に掲載されている。高野氏は「ものがあふれる現代社会では、“おもてなし”による人と人のつながりが企業を変革し、業績を生み出している。この言葉は今やサービス業だけのものではない。あらゆる企業にとって、社員が生きがいと働き甲斐を持ち、組織全体が成長するためのキーワードになっている」と言う。トップは社員の生きがいと働き甲斐を考え、社員は現場で成長し、組織に貢献する、こういう循環を「善の循環」と呼び、こんな理想的な会社が実在し、そんな会社をいくつも知っていると。高野氏が紹介する企業がすべて私のブログで紹介した企業であることが嬉しい。

まず、長野県の中央タクシーhttp://okinaka.jasipa.jp/archives/39)。お客様へのサービスを徹底的に差別化し、日本でもっとも「ありがとう」が飛び交う会社(お客様に対しても、お客様からも、そして社員同士でも)とも言えるそうだ。高野氏が言うには、普通はタクシーの運転手に「あなたの使命は?」と問うと、「お客さまを安全に、迅速に、目的地まで届けること」と答えるが、中央タクシーの運転手は「お客様の人生に命がけで向き合う事」と言うらしい。

次は、やはり長野県の伊那食品工業http://okinaka.jasipa.jp/archives/350)。50年近く増収増益を続けている驚異的な会社。トイレを含む職場環境の維持改善を通じて、経営者の哲学を隅々まで行きわたらせ、社員の自信や誇りを生み出している。何よりもすごいのは、採用十数名に対し8000人以上の応募があり、不採用になった人全員に手書きの手紙を送ると言う。こうして伊那食品工業ファンが増えていく。「PHP松下幸之助塾2015.1-2」にはトヨタ自動車社長と伊那食品工業社長の対談がある。お互いに尊敬しあう間柄で、経営に関する哲学について議論を交わされている。

最後はネッツトヨタ南国http://okinaka.jasipa.jp/archives/2557)。「あなただから買いたい」との人とのつながりが、幾多の危機を救い増収増益を継続している。

高野氏が言う“おもてなし”の原点は、聖徳太子の17条憲法の第一条「和を以て貴しと為す」にあると言う。”和“とは、馴れ合いではなく、一人一人が尊重し合い、相手を慈しみ、支え合うと言う精神。「何を以て何を為すか」、その原点をリッツカールトンの哲学とし、「人との出会いへの感謝を以て、その人の心に活き活きわくわくした思いを届けることを為す」と定めたそうだ。そしてドアマンや、ウェイターまで、この哲学を徹底し、行動につなげてきたと言う。組織の変革は、まずトップダウンで始まり(哲学・企業理念)、ボトムアップで完成する。トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも成し得ない。「社員が生きがいと働き甲斐を持つ会社とは何か?」真剣に考えて見たい。

弱みより強みを磨こう(コマツ坂根正弘)

今年の秋の褒章で「旭日大褒賞」を受賞された現コマツ相談役坂根正弘氏が今月の日経「私の履歴書」に登場されている。以前当ブログでも紹介したことがある(http://okinaka.jasipa.jp/archives/217)が、2001年社長に就任された年の赤字8000億円を構造改革を断行しV字回復させたその経営手腕には興味深いものが多い。今朝の日経(11月5日)にも興味深い記事があった。先日船井総研の「長所伸展法」を紹介した(http://okinaka.jasipa.jp/archives/1875)。同じ趣旨の話を坂根氏もされている。

私はコマツの経営者として“弱みより強みを磨こう”と言い続けた。自社の得意分野を伸ばすことで、ライバルに絶対的な差をつける。こうした考え方を“ダントツ商品”“ダントツサービス”“ダントツソリューション”“ダントツ経営”と名付けて経営の旗印に掲げてきた。

「この考え方は、受験勉強の時からそうだった」と振り返る。理数系が得意だった坂根氏は、徹底的に理数系の勉強に励み、逆に歴史のような暗記科目には興味が湧かずほとんど勉強しなかったそうだ。すなわち得手を伸ばして、それで行けるところに行くのが一番という考え方だ。経営者になってから、「捨てるべきは捨てて、強みを磨く」と言う私の考え方を戦略的と褒めてくれる人もいたが、自分としては高校生の頃から身に着いた自然な発想だった、と。固定費削減のために、コアではない事業からの撤退を決め110の子会社を畳んだ坂根氏の発言だから、非常な重みをもって心に響く。

今一度、自社の強み、自分の強みを整理してみてはどうだろうか。他社との差別化戦略の基本かも知れない。